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Q.自民党が考える日本のWeb3復権に向けた国家戦略とは?

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A. 自民党の「Web3ホワイトペーパー」は、日本のWeb3先進国復権のための計画書で、税制や資金調達環境など包括的な提言を行います。本ホワイトペーパーの提言内容は6月に発表される骨太方針に反映される見込みであり、特に難易度が高いと思われる税制改革に注目が集まります。

2022年から、岸田内閣がweb3に関する政策活動を本格化しています。きっかけは、自民党が発行した「NFTホワイトペーパー」であり、web3を「デジタル経済圏の新たなフロンティア」と定義し、NFTを含む経済圏の育成を国家戦略として推進すべきだと提言しています。

2023年4月には、「NFTホワイトペーパー」の続編となる「web3ホワイトペーパー」が発行され、前年の議論を踏まえた新たな提言や進捗状況が発表されました。

以前の記事で、web3起業家たちが日本から流出し、web3大国であるシンガポール・ドバイに集中する理由として、大きく以下の3つを上げました。

理由1:web3企業・スタートアップにとって有利な税制と法律
理由2:web3・ブロックチェーンに対する政策の一貫性と政府による中長期のコミットメント
理由3:多くのVCが拠点を構えており、資金調達環境が良い

今回の記事では、上記の3つの観点(税制、政府の中長期のコミットメント、資金調達環境)を中心に、自民党が考える日本のweb3未来像を読み解きます。

参考:NFTホワイトペーパー

参考:web3ホワイトペーパー


そもそも「NFTホワイトペーパー」と「web3ホワイトペーパー」とは?

「NFTホワイトペーパー」と「Web3ホワイトペーパー」は、自民党の「NFT政策検討プロジェクトチーム」が作成した計画書です。

このチームは、自民党のデジタル社会推進本部がNFT市場に注目して設立したもので、NFT分野に特化したチームであり、平将明議員が座長を務めています。

参考:デジタル社会推進本部 web3PTのメンバー

平将明議員は、元内閣府副大臣としてIT政策やクールジャパン戦略を担当し、また、2021年5月には「ブロックチェーン推進議員連盟」の立ち上げにも関与し、日本のデジタル分野の発展に大きく貢献してきた人物です。

「NFTホワイトペーパー」は発表後、岸田総理によって米国や英国のweb3に関する取り組みとともに紹介され、昨年度の岸田政権の「スタートアップ育成5か年計画」内のweb3に関わる政策のベースになったとされています。

今回発表された「web3ホワイトペーパー」も、岸田内閣が23年6月に発表予定の「骨太方針2023」がまとまるというタイミングを踏まえて発表されました。このため、岸田内閣のweb3戦略を先読みする上で、本ホワイトペーパーは重要な意味を持っています。

ちなみに、ホワイトペーパーの書き出しにて”疾風に勁草を知る”という後漢の光武帝の言葉を引用し、現在のクリプト・ウィンター(暗号資産の冬)をかなりポジティブに捉えている点も「web3ホワイトペーパー」の特徴であり、岸田政権のweb3戦略の姿勢を測る上で重要なポイントです。


web3・暗号資産(トークン)を取り巻く税制について

まずはweb3起業家が海外流出する主要因の一つである税制の観点から「web3ホワイトペーパー」を読み解きます。

税制について「Web3ホワイトペーパー」に書かれている論点は下記の2点です。

1. 保有する他社トークンを期末時価評価課税の対象外にする
2. 暗号資産取引から生じた所得への課税(最高税率55%)が高すぎる

1点目については、令和5年度税制改正(2023年3月)前までは「自社発行のトークン」も期末時価評価課税の対象となっていましたが、今回の改正で課税の対象外となりました。

しかし、相変わらず保有する「他社トークン」は期末時価評価課税の対象のままとなっており、これを是正することが論点として挙げられています。

今年度、確実に実現すべき論点として挙げられているため、高い確率で今年度中に他社トークンについても期末時価評価課税の対象から外れることが期待されます。

参考:日本におけるトークンによる資金調達(ICO・IEO・IDO)

2点目については、暗号資産取引から生じた所得は雑所得(最高税率 55%)で課税される現状は諸外国に比べて非常に厳しいことから、暗号資産の取引に係る損益を申告分離課税の対象とすることを提言しています。

暗号資産の取引に係る損益が申告分離課税の対象となることで、最高税率は20%(所得税15%と住民税5%)となり、現状が大きく改善されます。

ただし、下記の図の通り、最高税率が20%になったとしても、シンガポールとドバイと比較すると、引き続き厳しい状況にあるため、さらなる改善が必要になると予想されます。

国内の現状の税制からの現実的な実現可能ラインでなく、先進諸外国(シンガポールやドバイ)との比較からより攻めた提言が必要になるのではないでしょうか?


政府の中長期のコミットメントについて

続いて、web3起業家がweb3大国のシンガポール・ドバイに集まる理由の2点目に、「web3・ブロックチェーンに対する政策の一貫性と政府による中長期のコミットメント」を挙げましたが、日本政府にはどのようなコミットメントが見られるのでしょうか。

こちらも、web3 や NFT を新しい資本主義の成長の柱に位置付け、web3担当大臣を置き、経済政策の推進を行うことが「NFTホワイトペーパー」で提言されています。

この提言は2022年に岸田総理が同年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、官民を挙げてのスタートアップ支援強化を実現するための「スタートアップ5か年計画」を掲げると共に、スタートアップ担当大臣が新たに設立されたことを受けたものと考えられます。

参考:スタートアップ5か年計画とは?後藤スタートアップ担当相に聞く(前編)

「スタートアップ5か年計画」は事業規模1.5兆円という大きな規模とスタートアップ界隈のキーマンを巻き込んだ計画として、結果の評価はこれからであるものの、少なくとも取り組み自体を開始できたことは国内外から大きな評価が得られています。

参考:「スタートアップ育成5か年計画」、VCや投資家はどう見たか(前編)

前述の通り、例年通りであれば6月に今年度の成長戦略が発表される予定ですが、「スタートアップ育成5か年計画」と比較してどの程度の事業を岸田内閣として打ち出すのか、そしてweb3担当大臣を本当に設置するのであれば誰が担当をするのが注目されます。


Web3スタートアップの資金調達環境

web3起業家が集まる理由の最後3点目に「多くのVCが拠点を設け、資金調達環境が良いこと」を挙げましたが、日本においてホワイトペーパーに記載されている重要な論点は下記の通りです。

1. 投資事業有限責任組合(LPS)による暗号資産やトークンを取得・保有する事業への投資を可能にする
2. 各種トークンの審査・発行・流通
3. セキュリティトークンのセカンダリーマーケット

1点目は、前提として、日本の国内資金調達マーケットは一定のサイズ(2021年には8,000億円超え)があるにも関わらず、既存の投資ビークル(LPS)ではトークンを取得・保有する事業への投資ができないことが資金調達の観点から大きな問題でした。

参考:国内スタートアップの調達額は8000億円超え、投資家と振り返る2021年投資トレンド

ホワイトペーパーでは、LPSが暗号資産やトークンを取得・保有する事業への投資ができるようする提言が含まれており、単なる検討だけではなく一歩踏み込んだ提言がなされています。

LPSによる暗号資産やトークンへの投資が、近い未来に可能になることが期待されます。

2点目は、NFTトークンやIEOのトークンの審査・発行・流通に関するプロセス整備に関する論点です。トークンの発行プロセスが明確になり、迅速にトークン発行による資金調達が行えるようになることで世界に先立ってトークン発行による円滑で安全な資金調達が可能な国となることができます。

こちらは既存のフローを基本的には整理するという提言内容になっており、比較的早期の実現が期待できそうです。

3点目のセキュリティトークンのセカンダリーマーケットについては、NFTやIEOのトークンに比べても新しい概念であることから日本証券業協会及びSTO協会と取り組みを進め、税制についても予め検討を進めるべきという提言にとどまっています。

既存フローが存在するNFTトークンやIEOに比べて、多くのステークホルダーとの調整と別途、税制の議論が必要なことから実現には時間を要するように読み取れます。

総じて、近い将来、セキュリティートークンの取り組みには時間が要するものの、LPSがweb3スタートアップに投資できるようになり、NFTトークンの発行やIEOによる円滑な資金調達ができる環境が整えば、資金調達環境は大きく改善が期待できます。


今後の日本のWeb3戦略の動向

自由民主党の成長戦略は、例年ゴールデンウイーク明け頃(当記事を執筆している正に今)に取りまとめが行われ、その後、政府に提出される流れです。政府はこれを受けて、その後発表する成長戦略や骨太方針に内容を反映します。

別記事でも記載しましたが、シンガポールやドバイに対して現状、日本はweb3のエコシステムの面で大きな差をつけられています。

”Japan is back, Again”を実現するため、成長戦略や骨太方針2023年にて、ホワイトペーパーに記載されいている提言の実現時期などや具体的な施策、また本当にweb3担当大臣が設置されるのか、誰が担当するのかが注目されます。

また特に税制については自民党の税制調査会が最終的な決定権を持っていますが、web3推進派の「分離課税(20%)にするべき」という意見と真っ向から対立しており、実現には高い壁があることが予想されます。

参考:「NFTを国の成長戦略に」自民党デジタル社会推進本部・平将明議員インタビュー

web3分野について、岸田総理を中心にこうした壁をどう乗り越えていくのか注目です。

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2022年4月より、「web3事例データベース」を開始しています。web3プロジェクトの調達情報、カオスマップ、事例集を週次更新で提供しています。web3の最新トレンドをいち早くキャッチしたい方は、以下のnoteより詳細をご確認ください。


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