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【web3】Q.なぜWeb3起業家たちはシンガポール・ドバイに集まるのか?

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A.シンガポールとドバイは国をあげてWeb3にコミットしてきた。ブロックチェーンの黎明期にも変わらない政策の一貫性とWeb3スタートアップに有利な税制、資金調達のしやすさとすでに構築されたWeb3コミュニティがさらなる起業家を呼び寄せるサイクルを生んでいる。

日本が置かれるWeb3の環境は依然と厳しく、Web3起業家たちの海外流出が止まりません。

岸田内閣がWeb3に関する戦略を検討する動きは出てきていますが、そうしている間にも日本のWeb3起業家達はどんどん海外へと流出し、世界規模での人材争奪戦が起こっています。

その中でも特にWeb3の起業家達が集中している国があり、それは、シンガポールとドバイの2カ国です。

数々あったWeb3やブロックチェーンに関わる事件や黎明期を乗り越え、Web3について一貫した政策を貫いてきた両国には世界中のWeb3起業家が集結しはじめています。

今回の記事では、世界中のWeb3起業家にとってなぜこの2国が魅力的なのか、その共通項を整理しながら、日本がWeb3の起業家を引き寄せるために必要な要素を明らかにしていきます。


理由1:Web3企業・スタートアップにとって有利な税制と法律

両国がWeb3企業を呼び寄せている要因として、真っ先にあがるのが「税制」です。法人税が日本に比べ安いということに加え、Web3企業に対して税制面で大きな優遇があります。

両国のWeb3に関わる税制を日本と比較すると下記のようになります。

法人税制においては、日本の場合は発行者が自己保有するトークンや発行者以外の投資家が保有するトークンも「活発な市場が存在する暗号資産」に該当してしまい、期末時点評価をして課税の対象とするルールがあります。

またトークンに対するベンチャーキャピタル(VC)の投資制限があることも大きな課題です。

VCは、投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有限責任組合(LPS)として投資を行いますが、投資可能な対象は法律で列挙されているものに制限されています。
この投資可能対象の中にトークンは含まれていないのが現状です。

こうした背景から、例えば、日本発ブロックチェーンゲーム特化型プロジェクト「オアシス」は25億円調達しておりますが、投資家に日本のVCは名前を連ねていません。

参考:Web3ビジネスのため国外移住する際の日本税務上留意点

参考:シンガポールにおけるWeb3起業

参考:アラブ首長国連邦の財務省が法人税法を公表:解説

参考:Web3.0事業環境整備の考え方


理由2:Web3・ブロックチェーンに対する政策の一貫性と政府による中長期のコミットメント

Web3・ブロックチェーンの歴史においては非常に様々な事件が発生してきました。そうした紆余曲折の中で最初はWeb3・ブロックチェーンを推進していたものの、突然方針を変えた国や急な規制強化を行う国も少なくありません。

最近では中国が2021年に民間での仮想通貨関連活動を全面禁止にしました。中国の中央銀行である「中国人民銀行」が仮想通貨に関連する活動を事実上、ほぼすべて(具体的には下記の通り)禁止にすることを発表したのです。

・仮想通貨の流通・使用
・法定通貨との両替
・仮想通貨の情報提供
・仮想通貨の金融商品及び金融関連商品の取引
・仮想通貨のマイニング(取引データを承認する作業)
・国外の取引所によるインターネットを通じた仮想通貨サービスの提供

海外の取引所による中国国内でのサービス提供までを禁止対象としており、中国国内での仮想通貨に関わる活動が完全にできなくなりました。

当然ながら中国国内のあらゆる仮想通貨関連の事業に影響が出ましたが、最も顕著に影響が現れたのがビットコインマイニング事業です。

かつて中国はビットコインマイニングの中心地であり、2019年にはビットコインマイニングの世界シェアの75%を中国が占めていました。

その後、規制により一時ゼロとなり、ビットコインマイニングのシェアはアメリカが首位となりました。2019年から復活し、2022年8月時点では世界シェアの20%前後まで回復をしていましたが、今回の規制でまたしても中国国内のマイニング事業はゼロになってしまったのです。

参考:中国で仮想通貨が全面禁止になった理由…影響や再開の可能性は?

そんな中でシンガポールとドバイのWeb3・ブロックチェーンに対する政策は一貫しています。

ドバイではハムダン皇太子がメタバース(仮想現実)やWeb3について「ドバイ・メタバース戦略(Dubai Metaverse Strategy)」を22年7月に発表しました。

​この発表の中で「ブロックチェーンとメタバースに関する企業数を5年間で5倍に増大させること」、「同期間でメタバースに関わる雇用を4万件創出し、40億ドルの経済効果を生むこと」が言及されており、ドバイがさらにWeb3企業に対して有効的な政策を行い、中長期に亘りWeb3とメタバースにコミットしていくことがわかります。

参考:Dubai Metaverse Strategy

シンガポールの中央銀行にあたる金融規制当局(MAS)もWeb3やブロックチェーンに対してバランスの良い規制を行うことに定評があります。

例えば2022年1月中に暗号資産市場が暴落を始めた際には、消費者保護法により公共スペースにおけるすべての暗号資産関連の広告とATMを禁止しました。

ブロックチェーン技術の開発と革新的なユースケースを「強く奨励」しながらも、市民を守ることを両立することを意識した政策です。

こうしたMASの取り組みは世界的に高く評価され、2021年末にはCoincubによるランキングで世界で最も暗号資産にフレンドリーな国として評価されています。

参考:Why Singapore is one of the most crypto-friendly countries

ただし大手暗号資産ヘッジファンド「Three Arrows Capital(3AC)」の破綻を受けて、個人投資家保護の観点から暗号資産(仮想通貨)規制は強化する方針が示されており、今後の動向については留意が必要となります。

参考:シンガポール金融管理局(MAS)、仮想通貨の個人投資家に対する規制強化方針を示す


理由3:多くのVCが拠点を構えており、資金調達環境が良い

シンガポールとドバイの両国はそれぞれ東南アジア地域への投資とMENA(中東および北アフリカ地域)への投資のハブとして、多くのVCが拠点をおいているため、資金調達が比較的容易である点も重要な観点です。

シンガポールはその立地(東南アジアに位置する)や海外人材が集まりやすい環境(英語レベルの高さやビザ取得の容易さ)などから、Web3やブロックチェーン以前から多くのVCが拠点をおき、投資活動を行ってきました。

結果、シンガポールはGDP比で2.61%(日本:0.08%)ものお金をベンチャーに投資する投資大国となっています。

参考:東南アジアVCインサイト シンガポールVC約60社の分析(概要版)

参考:スタートアップエコシステムの現状と課題

MENA地域も東南アジアと同様に急速に成長しているマーケットであり、2015年から2020年まで投資登録件数が平均15%/年で成長し続けています。

その中でもドバイのあるアラブ首長国連邦(UAE)では断トツの資金調達額を誇り、日々新たなアクセラレータプログラムが実施されていることから相当に資金調達環境に恵まれていることがわかります。

参考:中東・北アフリカ地域(MENA)における ベンチャーキャピタルの投資動向


理由4:大手Web3企業・団体を中心としたエコシステムの形成


Web3人材(ヒト)を引き寄せる重要な要因として、他にも人材(ヒト)が挙げられ、ヒトが集まるとこにはカネがあつまり、カネがあるところにはまたヒトが集まるというサイクルが生まれます。

シンガポールとドバイにWeb3の起業家達が集まるもう一つの大きな理由は、Web3領域の先進国としてすでに世界中に認知されWeb3・ブロックチェーンのキープレイヤー達が集まってエコシステムを形成していることにあります。

ドバイには下記の企業を筆頭に1,400社以上のWeb3企業と7,000人以上の人材が集結をしています。

Crypto Oasis
Binance
Phoenix Technology
Blockchain.com
BitOasis

特に、世界最大級の暗号資産取引所であるBinanceが、シンガポールからドバイに拠点を移したことは、ドバイのWeb3企業誘致成功の代表例で、シンガポールの規制強化の影響からドバイに拠点を移しつつある企業が増えていることを象徴しています。

参考:CRYPTO OASIS ECOSYSTEM REPORT UNITED ARAB EMIRATES

シンガポールのWeb3・ブロックチェーンエコシステムはシンガポール政府が支援するブロックチェーン計画「OpenNodes」を中心に形成されています。


シンガポールのブロックチェーン・エコシステムに参加する企業数は、2020年時点で234社を数え、昨年の91社から大幅な成長を遂げました。

参加企業にはマスターカードやVisaをはじめ、アリババ傘下のAlipay、テンセント傘下のWeBank、またMeta社が後援するLibraなど、各業界をリードする企業・団体が名を連ねています。

こうした企業または企業から流出した人材が、シンガポールのWeb3エコシステムを支えていると考えられます。

参考:Singapore Blockchain Landscape Map 2020 Shows Strong Ecosystem Growth


シンガポール・ドバイとの比較から日本がWeb3先進国となるためにとるべき施策とは?

以上、シンガポール・ドバイにWeb3起業家が集まる理由について見ていきましたが、これらを踏まえて、日本がWeb3先進国となるために重要なポイントを解説します。

シンガポール・ドバイと日本の環境を比較すると、まず目がいくのが税制の課題です。法人税率やキャピタルゲイン課税の面で両国と比較して大きな差があります。

また投資事業有限責任組合(LPS)の投資可能対象にトークンが含まれていないという点も大きな課題です。本来であれば日本の資金調達の規模は一定のサイズがあり、成長し続けていることから諸外国にも遜色ない規模ですが、LPSの課題によってWeb3においてはそのポテンシャルを発揮しきれていません。

日本政府としてまず最初に梃入れすべきは、この2点であると考えられ、実際に、政府の検討資料(Web3.0事業環境整備の考え方)においても、これらの課題は政府も認識しているようで、今後、なんらかの是正がなされることが期待できます。

参考:Web3.0事業環境整備の考え方(再掲)

ただし、上記の2つの課題を解決し、他国と同等の競争環境を整えたとしてもシンガポールとドバイの両国に追いつくことは難しい可能性があります。

前述の通り、Web3先進国として認識されているシンガポールとドバイの両国では、早期からWeb3・ブロックチェーンを国家戦略に組み入れて企業・団体の誘致を行い続けてきた結果、大手Web3企業・団体を中心としたエコシステム、ヒトがヒトをそしてカネを呼ぶサイクルがすでに出来上がっています。

この先行者優位を覆すためには単に競争環境面をシンガポール・ドバイと同等にする以上の施策が必要となります。

先ほどの政府資料を読む限り、諸外国と同等の事業環境を揃えるという観点での議論や提言は含まれているものの、Web3の世界企業を強力に誘致できるようなアイディアは不足しているように感じます(グローバルイベントの開催や人材交流等の一般論に終始している印象)。

そんな中でデジタル庁が23年度予算で、国内のWeb3環境整備などを名目に、4,950億円を計上するという動きも出てきています。

参考:デジタル庁が来年度予算案4950億円計上、Web3環境整備など組み込む

政府がWeb3の事業環境を諸外国と同等に整えることに加え、どのような施策を打つかが注目されます。

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