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【web3】OpenAIのサム・アルトマンがワールドコイン×汎用AIで実現を目指す世界とは?

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A.ワールドコイン(WDC)はUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)を実現するために作られた暗号資産であり、The Orb(オーブ)というデバイスが虹彩検証によってユーザを実在する人間だと認証(Poroof of Personhood)されることで付与されます。

ChatGPTの登場(2022年11月)以降、世界中の投資家の関心がweb3からジェネレーティブAIにシフトしていく中で、2023年5月に大規模な調達(1億1500万ドル)を実施した暗号資産プロジェクトがあります。

ジェネレーティブAIのトレンドの生みの親とも言えるOpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が共同創業者を務めるワールドコインです。

サム・アルトマン氏はChatGPTで一躍、世界的に有名になりましたが、元々はYコンビネータ(シード期のスタートアップのアクセラレーター)の代表として活動していた投資家でもあります。現在もOpenAIの最高経営責任者を務めながら、多くの先進的なプロジェクトに投資し、役員を務めています。

サム・アルトマン氏が投資している企業(一部、抜粋)

Helion Energy
核融合発電の開発に取り組むスタートアップ。同社初の核融合発電所(2028年稼働予定)で発電した電力をマイクロソフトに供給する契約を締結(世界初の核融合発電によるエネルギー購入契約と言われる)

Retro Biosciences
「健康寿命を10年伸ばす」をミッションに細胞レベルの加齢メカニズムを研究するスタートアップ。

Oklo
次世代型マイクロ高速炉「オーロラ(Aurora)」を開発するスタートアップ。「オーロラ」は燃料交換なしで20年以上の熱電併給が可能なほか、放射性廃棄物をリサイクルしてクリーン・エネルギーに転換できるとされています。

Neuralink
人間の脳とコンピューターを繋ぐ脳(ブレイン)インターフェース技術の研究・開発を行う。イーロン・マスク氏も共同創業者に名を連ねる。

Coalition
“Active Insurance”をキーワードにサイバー保険の加入会社にサイバーセキュリティに関するソリューション提供も行う。

参考:ChatGPTを作ったOpenAIのCEO、長寿研究のスタートアップに約2億ドルを投資

参考:特報:オープンAIのCEO長寿企業に1.8億ドル投資——その狙いは?

なお、MITテクノロジーレビュー誌のインタビューで、サム・アルトマン氏は「個人の流動資産のすべてをHelion EnergyRetro Biosciencesの2社につぎ込んだ」と語っています。

人工知能から核融合、ブレインインターフェース、サイバーセキュリティまで幅広い領域で投資、起業をするアルトマン氏がweb3領域で起業しているのがワールドコイン(WLD)です。

今回は、ワールドコイン(WLD)が解決する課題や特徴について解説をします。


ワールドコインは何の課題を解決するのか?

まず前提として、サム・アルトマン氏はUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)に強い興味を持っており、近い将来、AIがAGI(汎用人工知能)に進化することによって生み出される富はUBIとして全人類に分配されるべきだと考えています。

サム・アルトマン氏は、多くの人から仕事を奪うAI(そしてAGI)を牽引すると同時に、AIが普及した後の世界の富の再分配やAIによって仕事が奪われた人々のセーフティネットの構築を本気で考えていると見られます。

参考:Moore's Law for Everything

このUBIの実現の際に大きな障壁となるのが、どうやって全人類の個々人に公平にUBIを分配するのか、つまりはデジタル上でどうやって全世界中の実在するユニークな個人を識別するのか(PoP:Proof of Personhood)という課題です。

この問題はUBIに限らず、AIによるディープフェイクの問題が今後ますます深刻化することが予測される世界において重要度を増していきます。

またweb3における集団的意思決定は、主にトークンベースのガバナンス(トークンの保有量に応じて意思決定への影響力が増す)に依存しており、これは事実上、一部の経済力のある人々の声がweb3の意思決定では強く反映されることを意味します。

web3の世界でも平等な民主主義を実現する上でもデジタル上で個人を識別する、つまり個々人にユニークIDを付与できることは重要な意味を持ちます。


ワールドコインはどうやって”実在するユニークな個人”を判断するのか?

ワールドコインでは専用デバイス”The Orb”を用いたバイオメトリクス(虹彩)の認証によって実在する個人を認識し、ワールドコインを発行します。

直感的には、世界中で広く普及しているスマートフォンを用いた認証が最も効率が良いように思われます。

しかし、主にセキュリティ上のいくつかの理由から、ワールドコインはスマートフォンでも既存の虹彩認証デバイスでもなく、独自のハードウェアを開発するに至っています。

その具体的な理由は以下の通りです。

解像度が低くノイズが発生しやすいため十分な認証精度を担保できない
まず、スマートフォンのカメラでは解像度が低く虹彩生体認証を十分な精度で行うことができません。そしてスマートフォンのカメラが通常行う可視スペクトルでの撮影では虹彩が鏡面反射を起こす可能性があり、茶色い目(人口の大部分)を持つ人たちの認証を行う際のノイズになり得ます。

プレゼンテーション攻撃(なりすまし)を十分に検出できない
デジタル上でユニークな個人になりすますことは実はそんなに難しくありません。
PoPの場合は特定の誰かになりすます必要がなく、まだ登録されていない誰かになりすませば良いだけなので、特定の個人の情報を取得してなりすましをするハードルがありません。
よってなりすまし攻撃を高い精度で検出するために、既存デバイスが持たないマルチアングルやマルチスペクトルカメラをハードとして実装する必要があります。

実行環境を保証する(エミュレータでないことを証明する)ためのハードウェアが実装ない
正当なデバイス“The Orb”から検証結果や登録リクエストが送られてきていることを確認するためには専用のハードウェア(iPhoneのSecure EnclaveやPixelのTitan Mチップなど)を持つ必要があります。
これがないと有能な攻撃者にとって登録リクエストを偽造することは比較的容易ですが、既存の多くのスマートフォンや虹彩認証デバイスはこれに該当するハードウェアを実装していません。

プライバシーと高度ななりすまし検出を両立するためのマシン性能が足りない
プライバシーと高度ななりすまし検出の両方を実現するためには、データ通信を行わずローカルコンピューティングにてイメージキャプチャの最適化やリアルタイムでの機械学習の処理等を行う必要があります。
この処理を20億人(ワールドコインの目標)に対して実施するためには短時間でこれらの処理を完了するだけのマシン性能が必要です。

参考:ワールドコイン設立秘話:Orbの内幕【前編】──「痛みを伴うことはわかっている。お金もかかる。人々は変だと思うだろう」ブラニアCEO

参考:worldcoin whitepaper


他プロジェクトとの比較

ワールドコイン以外に、これまでにも、PoP(Proof of Personhood)に取り組むweb3プロジェクトはいくつか存在していました。

他プロジェクトでは、以下のようにPoPへのアプローチを行っています。

Proof of Humanity
新規登録リクエストの際に登録者は自身の動画(動画内にてEthereumアドレスを要表示)をアップロードします。アップロードされた動画は登録済みのユーザによって検証され、認証されることでPoPを実現します。

BrightID
ユーザ間で小さなリアルタイムのオンラインミーティングやオフラインイベントを開催し、イベント内で相互にQRコードを認証しあう(相互信頼のネットワークを構築する)ことでPoPを実現します。

Idena
定期的にオンライン上で行われる「フリップ認証セッション」と呼ばれる短いリアルタイムセッションに参加することで、ユーザー同士が相互に人間性の検証(PoP)を行います。
このセッションは複数IDの検証が行えないように設計されています。

Circles
トラストリンクという仕組みにより、他ユーザにトラストリンク(SNSの「友達申請」や「フォローリクエスト」に相当)を要請、検証をお願いすることでユーザ同士の検証によりPoPを実現します。

上記の事例からわかる通り、これまでのPoPに関係するプロジェクトはバイオメトリクスではなく、ソーシャルグラフ(ユーザ間のネットワークやユーザ同士の相互検証)を活用してPoPを行ってきました。

しかし、ワールドコインのホワイトペーパーでは明記されていませんが、ソーシャルグラフによるPoPには下記の課題があるため、ワールドコインではソーシャルグラフを採用しなかったものと考えられます。

プライバシーの問題
ソーシャルグラフの情報は、個人の関係やネットワークを明らかにしてしまう可能性があります。これにより、個人のプライバシーが侵害される恐れがあります。

悪意のある攻撃
悪意を持った参加者がソーシャルグラフを操作し、偽のアイデンティティを作成するリスクがあります。これにより、PoPの整合性が損なわれる可能性があります。

アクセス不均等
ソーシャルグラフに依存することで、特定の人々やグループがPoPのシステムにアクセスできなくなるリスクがあります。例えば、孤立した地域や社交的でない人々は、同じ利益を享受できない可能性があります。

また類似のコンセプトとしてDID(Decentralized Identity)が存在しますが、UBIの実現を前提として設計されているPoPと異なり、中央機関(政府や巨大企業)に依存しないID
管理の実現を目指すDIDでは下記の通り違いがあります。


ワールドコインの課題と今後


ワールドコインの課題についてはイーサリアムの創業者であるヴィタリク・ブテリン氏から指摘がなされています。主な指摘は下記の通りです。

プライバシー
虹彩スキャンの登録から情報が漏れる可能性がある。少なくとも、他人があなたの虹彩をスキャンした場合、それをデータベースと照合して、あなたがワールドIDを持っているかどうかを判断することができ、上に潜在的には虹彩スキャンによってさらに多くの情報が漏れる可能性がある。

アクセシビリティ
ワールドIDは、世界中の誰もが簡単に手に入れることができるほど多くのオーブがない限り、確実にアクセスできるようにはならない。

集中化
The orbはハードウェア・デバイスであり、それが正しく作られ、バックドア(システム的な裏口)を持っていないことを確認する方法がない。したがって、ソフトウェアレイヤーが完璧で完全に分散化されていたとしても、ワールドコイン財団はシステムにバックドアを挿入する能力を持ち、任意の数の偽の人間のIDを作成することができる。

セキュリティ
ユーザーのスマートフォンはハッキングされる可能性があり、ユーザーは他人のものである公開鍵を見せながら虹彩をスキャンするよう強要される可能性がある。また、虹彩スキャンをパスしてワールドIDを取得できる「偽人間」を3Dプリントする可能性もある。

参考:What do I think about biometric proof of personhood?

続けてヴィタリク・ブテリン氏は、PoPの実現にはそもそも大きく下記の3つの方針があるとしています。将来的にはこれらのソリューションを補完的に用いることで強固なPoPのスキームを実現できるものの、有効なスキームを確立するまで恐らく数年を要する見込みとしています。
(なお、ヴィタリク・ブテリン氏のこの結論はワールドコインのチームとも議論した結果です。)

Social-graph-based
既存のPoPプロジェクトが実施しているソーシャルグラフ(ユーザ間のネットワークやユーザ同士の相互検証)を用いた検証。

General-hardware biometric
既存のバイオメトリクス(虹彩や指紋など)認証デバイスを用いた検証。

Specialized-hardware biometric
ワールドコインのオーブのような専用デバイスを用いた検証。

一方のワールドコインのチームもホワイトペーパーの”Limitations(制約)”で高いセキュリティを実現しているが決して完全でないことを認め、特定のThe Orbによって発行されたワールドIDは、ワールドコイン・プロトコルのガバナンスによって後で取り消すことができる仕様であることを説明しています。

また今後も継続的に堅牢性を高める取り組みとして、リアルタイムアルゴリズムの精度向上やバグバウンティプログラム(バグの発見・報告に対して報奨金を支払う制度)なども今後実施される予定です。

ワールドコインのユーザ数は、現状(8/28時点)226万人超ですが、最終的に20億ユーザを目指しているため、まだまだ発展途中です。初期の200万ユーザと共に実証実験を経てセキュリティやその他の面で様々なアップデートがなされるかと思われます。

また、サム・アルトマン氏がCEOを務めていることからOpenAIのAIが生み出した富がワールドコインの仕組みを通じてUBIとして再分配されるタイミングが訪れます。

この点についてはまだ明らかになっている情報はありませんが、UBIの配布を期待して今のうちのThe Orbに人間であることを検証してもらい、ワールドコインを付与してもらっても面白いかもしれません。


ワールドコインの取得方法

現在(2023/8/28)、日本国内では下記の3箇所でThe Orbによる認証が可能です。
認証を行うにはWorld appからの事前予約が必須ですのでご注意ください。

・NOX Gallery Tomigaya(東京都渋谷区)
・Singularity Tokyo(東京都渋谷区)
・EDGEoff(東京都渋谷区)

補足:
現在、適宜予約可能な日程がX(旧:Twitter)アカウントから発信されているようです。
予約日程が解放されたことをXで確認した後にWorld app上で認証の事前予約をすることを推奨します。

Orbs information in Japan

こちらの写真はWeb3カンファレンスであるWebXにて展示された”The Orb”(現在、利用不可)です。

また、こちらは、World app の実際の画面です。


まとめ

ワールドコインはセキュリティやスケーラビリティの面で、いくつかの課題がありながらも、7月24日にローンチされてから約1ヶ月で全世界で200万人超のユーザを獲得しました。

この成長速度を考えれば、後発ながらUBIのベースとなるPoPのプロジェクトとしては最有力のプロジェクトであると言えます。

また、2022年末に発表されたChatGPTによって勃興したジェネレーティブAIも登場からわずか1年でガートナーのハイプサイクルで「過度な期待のピーク」に到達しました。

※ガートナーのハイプサイクル
ガートナーのハイプサイクルは、新しい技術が一般的に公開されてから社会実装されるまでの進行を示すモデルです。このモデルによれば新しい技術は5つのフェイズ(「黎明期」「流行期」「反動期(幻滅期)」「回復期(啓蒙活動期)」「安定期」を経て一般に定着します。「流行期」のピーク地点を特に「過度な期待のピーク」といいます。

サム・アルトマンが夢想している世界、AI(そしてAGI)が多くの人から仕事を奪うと同時に、AIが生み出した富が全人類に再分配される世界が我々が想像しているよりも凄い速さで現実になっているのかもしれません。

そう考えると2022年は、未来の教科書において歴史の転換点、シンギュラリティポイントとして書かれている可能性すらあります。

ワールドコインがChatGPTなどのAIサービスと共に世界的な広がりを見せることは予想されますが、サム・アルトマン氏やヴィタリク・ブテリン氏などの天才達が夢想する世界がどう結実するのか、新しい歴史の始まりを見守りましょう。

最後までお読みいただきありがとうございます。
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