【web3】Q.ステーブルコインは日本経済をどう変えるのか?
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2022年5月にステーブルコインのテラがドルとの連動性を失い大暴落しました。世界的にステーブルコインを規制する動きがある中で、世界に先駆けてステーブルコインを規制する初めての法律となる「改正資金決済法」が、2022年6月3日に参院本会議で成立し、今年6月1日に施行となりました。
ステーブルコインの中でも、海外では米ドルに連動するUSDCoin(USDC)やテザー(USDT)が主流となり、すでに暗号資産取引やNFTの購入時の決済手段として用いられてきました。
ステーブルコインの領域でもこれまで海外に遅れをとってきた日本ですが、改正資金決済法が2023年6月1日に施行されたことにより状況が大きく一変する可能性があります。
参考:6月1日施行の改正資金決済法で国内ステーブルコイン発行可能に、多国籍企業にメリットも
今回はステーブルコインの歴史や概要を振り返りつつ、国内のステーブルコインと動向と日本経済への影響を見ていきます。
そもそもステーブルコインとは?
ステーブルコインとは「取引価格が変動しにくい仕組みを持つ暗号資産」のことです。
ステーブルコインでない暗号資産(ビットコインやイーサリアム、リップルなど)はボラティリティー(価格変動)があまりに高く、そのままでは日常生活の中での利用に適していません。
そこで「取引価格が変動しにくい仕組み」を内包する暗号資産として誕生したのがステーブルコインです。
参考:ステーブルコインとは何か?(ステーブルコインと中央銀行デジタル通貨 #1)
また、ステーブルコインには「取引価格を安定させるための仕組み」の種類に応じて下記の4類型が存在します。
少しややこしいですが、担保の種類は異なるものの、どのステーブルコインも1コイン = 1ドルの価値(USDペッグの場合)となるように担保を用いて価値調整がなされています。
なお、現在のステーブルコイン市場全体は上位にThetherやUSDcoinが位置していることからも分かるとおり、①法定通貨担保型が主流です。
6月1日の法改正によって、ライセンスを取れば、円に戻せる暗号資産を民間団体でも発行できるようになり、日本国内でも①法定通貨担保型を中心に新たなステーブルコインが今後、登場することが予想されます。
6月1日に施行された改正資金決済法のポイント
これまでは、ステーブルコインに関する国内法的な枠組みが存在しませんでしたが、今回の法改正の施行により、世界に先駆けて、「ステーブルコイン」の発行や仲介に制度が導入されることになります。
参考:改正資金決済法内閣府令案についてのJPYCとしての考え方
改正資金決済法と、それに追従する形で公表された「改正資金決済法に係る政令・内閣府令案」によって、国内事業者の「ステーブルコイン」の発行や流通に加え、海外発行のステーブルコインの扱いも定められました。
その主なポイントは下記です。
FTX事件(暗号資産取引所FTXの経営破綻)の影響から、国内でのステーブルコインの流通に対して厳しい規制が設けられる可能性もありましたが、国家戦略であるWeb3.0とNFTの推進の為、国があえて厳しい規制を設けなかった点は大きく評価されます。
また今回の法規制は世界に先駆けた法改正であったため、日本の独自色が強く欧米とはステーブルコインに対する解釈が異なります。
今回の「改正資金決済法」では、参考にできる海外事例がなかったため、ステーブルコインの扱いを決定する際には、国内の既存の為替取引や資金移動の規制に準拠する形になりました。
結果として、世界的にはステーブルコインが主に暗号資産の一種と認識されているのとは異なり、日本ではこれを銀行や資金移動業者が発行するデジタルマネーの類似型と分類した上で、電子決済手段(送金・決済の手段)として規律することとなりました。
よって欧米のビジネスモデルをそのまま国内に持ち込むことは難しく、日本独自のイノベーションの余地のある改正であることも注目すべき点です。
参考:改正資金決済法のポイントとは。ステーブルコインの扱いや犯罪収益移転防止法への影響等について専門家がわかりやすく解説
国内のステーブルコインの動向
国内のステーブルコイン関連の動向で把握しておくべきプロジェクトは、下記の二つです。
Progmat Coin
1.Progmat Coin
「Progmat Coin」は、“1coin=1円”で価値が固定された、ブロックチェーン上で移転可能なステーブルコインの発行・管理プラットフォームです。
「Progmat Coin」自体はステーブルコインではなく、あくまで発行・管理を行うためのプラットフォームであり、「デジタルアセット領域におけるユニバーサルな資金決済手段の提供」を目指してます。
Progmat上で発行されるセキュリティトークンのほか、その他の基盤上で発行されるセキュリティトークンや、NFTや暗号資産についても、ブロックチェーン上での即時クロス決済(= 別のブロックチェーン上のアセットとの即時決済)を実現します。
これまではセキュリティトークンやNFTなどの暗号資産の決済手段が法定通貨のみであったため、取引から決済完了まで日数がかかる上に様々な事務コストや手数料がかかっていた。
Progmat Coinで発行予定のステーブルコインを決済手段として用いることで、決済日数が最小化され、事務コストや手数料が削減できます。
2.JPYC
JPYCは「自家型前払式支払手段」として発行されるデジタルコインであり、一般的にはプリペイド式と呼ばれます。JPYCはブロックチェーン技術を利用していますが、法的には暗号資産ではなく通貨建資産と分類されます。
またVisa加盟店で利用できるインターネット上のプリペイドカードである「Vプリカギフト」に入金することができます。これにより、Amazonや楽天などのオンラインショッピングで使用することができます。
JPYCは厳密には改正資金決済法上のステーブルコインではないものの、1Coin = 1円であり、ブロックチェーン上で実現されるなどのステーブルコインに近い機能と特徴を持っており、広義のステーブルコインとも言えるでしょう。
よって、改正法以前から一定の普及をしているJPYCは現状、国内で最も普及しているステーブルコイン(法律上の定義ではステーブルコインではないが、利用者視点からは近い特徴を持つ)の一つであると言えます。
参考:JPYC株式会社の事業内容と特徴【プリペイド型日本円ステーブルコイン】
上記の2プロジェクト以外にもG.U.Technologies社がEthereumと完全互換を持つパブリック・ブロックチェーン「Japan Open Chain」上でステーブルコインを発行できる金融機関向けステーブルコイン発行システムの実証実験を行っています。
こちらも実証実験の実施(23年3月)以降、新たな情報がありませんが国内で注目すべきステーブルコイン関連の動向の一つです。
参考:ステーブルコイン実証実験開始のお知らせ 〜国内銀行各行が日本法に準拠するステーブルコインを「Japan Open Chain」上で発行へ〜
ステーブルコインの普及による日本経済の変化
国内でステーブルコインの発行が合法になり、さらに海外発行のステーブルコインの国内流通が解禁されたことで、国内でステーブルコインが今後普及していくことが見込まれます。
また、国内でのデジタルアセット(セキュリティトークンやNFTなど)の売買は新しく登場する円ベースのステーブルコインによって行われることになると考えられます。
これはデジタルアセットを法定通貨に変換するのに対して、同じ価値を持つステーブルコインに変換する方がリードタイムも手数料もかからないためです。
また企業側にとっても、ステーブルコインであれば為替リスクを考慮する必要がないため決済方法として導入しやすいというメリットがあります。
こういった観点から暗号資産(Bitcoinなど)よりも、ステーブルコインが先行して国内での普及が進む可能性を秘めています。
貨幣の歴史は、兌換紙幣(同額の金貨や銀貨との交換が担保された紙幣)から不換紙幣(金貨との交換を保証しない紙幣)へと進化してきました。
最新の新しい概念の通貨が広く普及するためには、まず広く価値が認められている資産や権威による担保(または後ろ盾)が必要であり、兌換紙幣が普及することで通貨という概念への信頼という下地があったからこそ不換紙幣が成立し得たと考えられます。
この歴史を考慮すると、暗号資産の先駆けであるBitcoinのような通貨(既存資産による担保も国家による後ろ盾もない)が普及するためには、まずより信頼性の高い以下の暗号資産の普及による下地が必要になると言えます。
補足:コモディティ型のステーブルコインの方が国家の権威に依存しない(法定通貨型は間接的に影響を受けてしまう)という点でより非中央集権的で先進的であると考えられる。
以上のことを考慮すると、ステーブルコインの利用・発行が世界に先駆けて合法化された日本国内の今後の動向は、世界もモデルケースとなる可能性が高く、今回の改正法を機に国内でのステーブルコインの活用が進めば、世界で最も暗号資産が普及した国になる可能性もあります。
こうした文脈でも今後の国内でのステーブルコインの普及に注目しましょう。
以上、今回の記事では、今年6月1日に施行された改正資金決済法を元に、国内のステーブルコインの動向を解説しました。
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