Q. Netflixの「広告付きプラン」導入は、広告業界に激震をもたらすのか?
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A. TwitterやSnapを超える年間1兆円規模の広告プラットフォームになる可能性を秘めており、広告業界の構図を変えうる。
Netflixは2022年1Q(2022年1月-3月)以降、有料会員数の減少が続いています。1Qは-20万人、2Qは-97万人と減少トレンドになっています。
この状況への対応として、Netflixは広告付きの安価なプランや、複数デバイスでアカウントを共有するユーザーの有料化を発表しています。
THE WALL STREET JOURNALは、Netflixは広告付きプランを2022年11月1日に一部地域で開始すると報道しています。
今日は、広告付きプランの導入についてまとめた後、2.2億人もの有料会員を有するNetflixが広告事業に参入する影響について解説します。
Netflixが広告付きの無料プラン導入へ
Microsoftとの提携を発表
2022年7月14日、Netflixはマイクロソフトとの提携を発表しました。これは広告付きプランを提供するにあたって、広告技術の開発と広告プランの販売を共に行うための提携です。
THE WALL STREET JOURNALは、2022年11月1日にアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツを含む複数国で広告付きプランの導入を開始すると報じています。
上記のような報道がされているものの、Netflixはまだ広告付きプランの開始時期や地域を公式には発表していません。
Netflixの抱える課題
Netflixの有料会員数は2022年1Q(2022年1月-3月)に、過去10年間で初めて-20万人の減少に転じました。2Q(2022年4月-6月)は更に-97万人と減少が続いています。3Qの有料会員数の予想は+100万人となっていますが、ユーザー数が頭打ち状態であることは否定できません。
2020年のコロナウイルスによる在宅時間の増加とともに、有料プランに加入するユーザー層の多くを獲得しきってしまったことが要因と考えられます。売上成長を続ける上で、今後は有料プラン以外での新たな収益化が求められます。
さらに、もう1つ課題があります。1億世帯以上にも及ぶ共有アカウントの存在です。
Netflixの規約では、アカウントの共有は同世帯のユーザーに限定しているものの、実態としては異なる世帯のユーザーへ共有されている事例が世界中で多発しているということです。
Netflixの現在の有料アカウント数が2.2億であることを考えると、非常に大きな割合を占めています。
We’re in the early stages of working to monetize the 100m+ households that are currently enjoying, but not directly paying for, Netflix.
引用:Netflix FORM 8-K
この事実も有料プランでお金を支払いたくない、支払えない層が存在していることを示しています。
2022年1Q(2022年1月-3月)の決算発表と当時の課題については、以下の記事で詳しく解説しています。気になる方は是非ご一読ください。
広告付きプランの導入について分かっていること
現時点ではマイクロソフトと提携し、広告技術の開発と広告プランの販売をすることのみが発表されています。広告付きプランの開始時期やプランの詳細なども、公式には発表されていません。
ただし、これは大規模な広告プラットフォームになる可能性があります。
その理由は、2.2億人もの会員数を有し、さらにユーザーの嗜好性をもとにレコメンド機能を磨いてきたNetflixだからこそ提供できる広告価値があるからです。
Netflixの広告付きプラン導入による売上へのインパクトの算出方法
広告付きプランの導入による売上へのインパクトは以下の計算式で算出します。
広告売上 = 広告表示回数 × 広告単価
=(広告プランユーザー数 × 1人当たりの視聴時間 ÷ 1時間当たりの広告表示回数)× 広告単価
このように4つの変数で大枠の算出が可能です。広告付きプランユーザー数、1人当たりの視聴時間、1時間当たりの広告表示回数、広告単価を順番に考えてみましょう。
広告付きプランユーザー数
パターンとしては、以下が考えられます。
1. 課金プランから広告付きプランに移行
2. 共有アカウントで無料閲覧から広告付きプランに移行
3. 現在会員ではない人が広告付きプランに新規加入
それぞれ以下のように仮定します。
1. 課金プランから広告付きプランに移行
課金ユーザー数は、2022年2Q(2022年4月-6月)末時点で2.2億人です。そのうち、約10%にあたる2,000万人が移行すると仮定します。
2. 共有アカウントで無料閲覧から広告付きプランに移行
アカウントシェアをしているユーザーは1億世帯と発表されています。取り締まりを厳しくして広告プランへの移行を進めることで、30%の3,000万人が移行すると仮定します。
3. 現在会員ではない人が広告付きプランに新規加入
現在視聴はしていない潜在層から、5,000万人が新規加入すると仮定します。
上記1〜3の合計で、広告付きプランに1億人が加入するとします。
1人当たりの視聴時間
Netflixの1人当たりの視聴時間は、コロナ以前は約2時間/日、コロナ禍には3.2時間/日というデータがあります。
Mind Blowing Netflix Statistics: How Americans Stay Entertained During Quarantine
全世界的にすでに外出は許容されていることから、コロナ以前の2時間/日を採用します。
1時間当たりの広告表示回数
Netflixが広告表示の頻度をどのように設定するか明らかになっていませんが、視聴体験を損なわないよう注意すると思われます。
ここでは15分に1度(1時間に4回)の頻度で広告が入ると仮定してみます。
広告単価
広告単価についても、様々な広告形態が考えられます。
ここではABEMA Premium Adsのパッケージより、15秒のターゲティング広告の視聴単価4.0円($1=100円換算で$0.04)を参考値として、仮定に使用します。
Netflixは全世界にユーザーを抱えています。日本と比べてラテンアメリカ・カリブ海、アジア地域などは広告単価の低い地域も含まれているため、広告単価が下がる可能性も大いにありえます。
Netflixの広告付きプラン導入による売上へのインパクトを算出
実際に上記で仮定した数字を計算式にあてはめて計算してみましょう。
広告売上 =(1億人 × 2時間 × 4回)× $0.04 = $32M
1日当たり$32M(約32億円)となるので、1Q(3か月間)に換算すると、$2.88B(約2,880億円)の広告売上という試算になります。
Netflixの2022年度2Q(2022年4月-6月)の売上は$7.97B(約7,970億円)でした。
課金プランから広告付きプランに移行した2,000万人の売上減を考慮すると、売上の上昇率は以下のようになります。
ARPU(1ユーザー当たり売上) = $7.97B / 2.2億人 = $36/Q
広告付きプランの純増売上 = $2.88B - ($36/Q × 2,000万人) = $2.16B
売上上昇率 = $2.16B / ($7.97B + $2.16B) = +21.3%
よって、広告付きプランは、1Q当たり$2.16B(約2,160億円)の売上への貢献可能性があります。その場合に、売上全体の約20%を広告売上が占めることになり、非常に大きなポテンシャルがあるといえます。
上図は、Meta、YouTube、Snap、Twitterと広告売上を比較したものです。
Netflixの広告付きプランによる試算売上は、Snap、Twitterを上回る水準で、かなりの大規模な広告プラットフォームが誕生する可能性があります。今後の公式発表から目が離せません。
まとめ
今日はNetflixの広告付きプランについて、広告売上の試算と、それを他メディアの広告売上と比較してみました。ここまでの内容を簡単にまとめてみます。
・ユーザー数の減少が続くNetflixは、マイクロソフトと広告技術の開発と広告プランの販売を行うための提携を発表した
・広告付きプランの開始開始やプランの詳細の公式発表はされていないが、早ければ2022年11月と噂されている
・Netflixの広告付きプラン導入による売上へのインパクトを試算すると、1Q当たり$2.16B(約2,160億円)の売上への貢献可能性がある
・SnapやTwitterを超える広告プラットフォームになる可能性がある
広告プラットフォームとしてのNeteflixへの期待も去ることながら、レッドオーシャンとなっている動画配信サービス市場でNetflixが広告付きプランをフックとして、どれだけのユーザーを獲得するかも注目です。
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