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Q. コロナ禍の広告事業、セプテーニとログリーの売上が急増しているのはナゼ?

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A. セプテーニは、ブランド広告領域の売上がYoY+52.6%と大幅に成長。2年前の電通との資本業務提携が徐々に数字として現れてきた。
ログリーは、コロナ禍の巣ごもり需要を捉えインプレッションが急速に増加。ただし、単価は下落しているため、売上総利益率の観点では課題も。

今回の記事では、国内のインターネット広告企業の決算を概観し、その傾向を探っていきたいと思います。

広告事業にとって、2020年はコロナによる影響を大きく受けた年となったはずです。広告主の広告予算縮小となれば、それはそのまま広告事業の減収を意味するからです。

とはいえ、今回の記事で見ていくように、これまで以上の速度で成長している企業も出てきています。一方、やはり大きく減収となっている企業もあります。

今回の記事では、インターネット広告企業各社のコロナ禍の業績について振り返っていきます。

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国内広告企業の売上高成長率

まずは、各インターネット広告関連企業の売上成長率のデータから全体像を掴んでみましょう。

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上図は、直近2年分の四半期毎の売上前年同期比成長率を示しています。色の濃い項目ほど高い成長率となっています。

全体的としては、やはり成長が鈍化傾向にある企業が多いことが分かります。特に、ユナイテッド・フリークアウト(特に20年4-6月)・Fringe81は大幅な減収となっています。

一方、サイバーエージェントやバリューコマースのように安定的な成長率を記録している企業や、ログリーやセプテーニのようにこれまで以上の成長率を記録している企業もあります。

特にログリーは爆発的な成長率となっています。

このようにインターネット関連広告企業でも、会社毎に売上成長率に大きな差があることから、以下ではその要因を深掘っていきます。

特に注目の動向として、以下の企業に着目して、詳細を解説していきたいと思います。

・サイバーエージェント/バリューコマースが成長率を維持できている理由
・ユナイテッド/フリークアウト/Fringe81が大幅に成長鈍化している(ように見える)理由
・セプテーニとログリーの成長が加速している理由

サイバーエージェントが成長率を維持できている理由

まずは、サイバーエージェントについて見ていきましょう。

サイバーエージェントの場合には、主に広告・メディア・ゲームの3つのセグメントで売上が構成されているので、各セグメント別の売上推移を図示してみます。

株式会社サイバーエージェント 2021年9月期第1四半期 決算説明資料

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インターネット広告事業に着目すると、コロナの影響が最も出ている2020年4-6月においても売上は前年同期比でトントンとなっており、その後は前年同期比でプラスに成長しています。

2020年9月期第3四半期(2020年4月〜6月)の決算説明資料を見ると、「新型コロナの影響を受けるも、巣ごもり需要のある広告主への営業強化」という記載があり、おそらくゲームや動画関連のクライアントを上手く開拓し、広告予算縮小となった分を補ったということが分かります。

株式会社サイバーエージェント 2020年9月期第3四半期 決算説明資料

この辺りの機動力はまさにサイバーエージェントらしさと言えるでしょう。

その他のセグメントについても見てみると、メディア事業の売上が2020年7月以降急激に成長しています。これは、PayPerView(AbemaTVの有料コンテンツ)の配信がヒットし始める等、AbemaTVの収益化が進んでいるためです。

ゲーム事業のブレが気になるところではありますが、引き続きインターネット広告事業は堅調に推移し、AbemaTVでは収益化されつつあるという、非常にバランスの良い決算です。

バリューコマースが成長率を維持できている理由

続いて、バリューコマースについて見てみましょう。

バリューコマース株式会社 2020年12月期 決算説明資料

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バリューコマースでは、「マーケティングソリューション事業」と「ECソリューション事業」の2つの事業がありますが、ECソリューション事業が急拡大していることが分かります。

バリューコマースと言えば、アフィリエイトサービスを提供する「マーケティングソリューション事業」の方が一般的に認知されていると思いますが、両事業の売上規模は同程度となってきています。

「ECソリューション事業」について簡単に説明をすると、EC(ヤフーショッピング)向けの広告ソリューションです。ヤフーショッピングに出店する各企業が、ヤフーショッピング内で露出を強化するために行う広告です。

ご存知の方も多いかもしれませんが、バリューコマースの株主を見ると、ヤフーが筆頭株主となっており、ヤフーショッピングと連携した広告ソリューションを開発を行っています。

コロナ禍のEC急成長のトレンドにより、ヤフーショッピング内の広告ソリューションも同様に需要が高まり、今回の売上増に繋がっています。

ECソリューション事業は、ヤフーショッピングというメディア固定のソリューションとなるため、ヤフーショッピングが不振に陥ればその影響を受けるというリスクもありますが、今回のコロナ禍においてはプラスに働きました。

ユナイテッドの成長鈍化要因

続いて、ユナイテッドの売上成長の鈍化要因について見ていきましょう。

ユナイテッド株式会社 2021年3月期 第3四半期 決算説明資料

ユナイテッドの売上は、「アドテクノロジー事業」「コンテンツ事業」「DXプラットフォーム事業」「インベストメント事業」の4事業から構成されています。

この中で、減収となっているのが「アドテクノロジー事業」と「コンテンツ事業」の2つの事業です。では、両事業の中身を見てみましょう。

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「アドテクノロジー事業」のセグメント別売上高推移を見てみると、アプリ広告領域が縮小している一方で、ウェブ広告領域は拡大していることが分かります。

「アプリ広告領域」は、既に年度内の撤退を公表しているため、計画的な減収と捉えることができます。

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同様に、コンテンツ事業についてもセグメント別売上高推移を見てみると、「非継続事業」の売上がなくなり、「継続事業」については横ばいの状況です。

売上高は減少しているにも関わらず、営業利益はプラスに転じ、前年四半期は4.2億円の赤字だったのに対して、今期は7,800万円の黒字となりました。

つまり、「アドテクノロジー事業」と「コンテンツ事業」については、事業内容にメスを入れ、注力領域と撤退領域を明確にする、すなわち意思のある減収ということが分かります。

実際に、ユナイテッドでは、自社の事業を「成長期待事業」と「収益期待事業」に分別しています。そして、「アドテクノロジー事業」と「コンテンツ事業」は「収益期待事業」に分類されています。

既存事業できちんと収益(利益)を稼ぎつつ、成長が期待出来る事業でトップラインを伸ばしにいくという戦略です。今後は、「収益期待事業」の営業利益の推移、「成長期待事業」の売上の推移に注目です。

フリークアウトの成長が鈍化して見える理由

続いて、フリークアウトについて見ていきましょう。

フリークアウトは、前年の売上成長率が30~70%程と高い水準であるのに対して、コロナの影響のある直近3四半期は売上成長率がマイナスから若干プラスの水準に留まっています。

株式会社フリークアウト・ホールディングス 2021年9月期 第1四半期 決算説明資料

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まず、フリークアウトの売上を見ると、実は海外売上比率が国内を超えています。「広告・マーケティング(海外)」が全体の6~7割を占めています。

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海外事業の売上内訳を見ると、Playwireが半数近くを占める形になっています。Playwireは北米を中心にメディア向けの収益化ソリューションを提供している会社で、2018年末にフリークアウトにより子会社化されています。

上図左側のグラフを見ると明らかなように、2019年4月(FY19 3Q)〜2020年3月(FY20 2Q)までの売上成長率が大幅に伸びていたのは、Playwireの子会社化による売上増の影響です。言い換えれば、2020年4月(FY20 3Q)以降の数字が純粋な成長率ということです。

Playwireは、子会社化後も売上が大きく成長しており、今後のフリークアウトの成長をどこまで牽引していけるのか、注目です。

Fringe81の成長鈍化要因

続いて、Fringe81です。

Fringe81株式会社 2021年3月期 第3四半期 決算説明資料

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こちらのセグメント別売上高推移を見ると明らかなように、Unipos事業は伸びていますが、広告事業がなかなか厳しい状況です。

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さらに、広告事業のサービス別内訳を見ると、その中でもメディアグロース事業(docomo Ad Network)が厳しい状況であることが分かります。

docomo Ad Networkは、dmenu等のdocomoのメディアへの広告配信、docomoユーザーのデモグラデータを用いた広告配信ができることから、他社アドネットワークとの差別化が図れている広告商品です。他社のアドネットワーク事業と比較しても売上が縮小していることから、メディア側の広告枠や主要顧客に何かしらの問題が生じている可能性もあるかもしれません。

こちらについては、引き続き注視していきたいと思います。

セプテーニの売上成長が加速している理由

ここからは、売上成長が加速している企業について見ていきます。

まずは、セプテーニから見ていきましょう。

株式会社セプテーニ・ホールディングス 2021年9月期 第1四半期

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上図のように、セプテーニの売上の約9割を占める「デジタルマーケティング事業」が大幅に増収しています。営業利益率も41.9%とこれまでに比べると高い水準にあります。

ちなみに、ここでいう「営業利益率」は、「売上(広告主からの受注額を含む)に対する営業利益の割合」ではなく、「収益(マージンのみ)に対する営業利益の割合」なので、他社との比較をする際には注意が必要です。

2021年9月期第1四半期の売上高は226億円なので、売上ベースの営業利益率は8.7%となります。この数字はサイバーエージェントの広告事業とほぼ同水準となっており、業界内で特別高いというわけではありません。

話を戻すと、セプテーニのデジタルマーケティング事業の収益は伸びており、利益率についても同社の過去比較で非常に高い水準となっています。

その要因はどこにあるのでしょうか?

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セプテーニの収益増加の一因として挙げられるのが「ブランド広告取扱高の急増」です。

デジタルマーケティング事業全体の収益がYoY+22.5%で伸びている中、ブランド広告の取扱高はYoY+52.6%と比較しても大きく成長しており、その結果、デジタルマーケティング事業における構成比はついに10%を超えました。

これは、2018年10月の電通との資本業務提携が、2年間の月日を経て数字として現れてきた結果です。

セプテーニ・ホールディングスとの資本業務提携契約の締結、同社株式に対する公開買付けの開始等に関するお知らせ

電通という日本で最もブランド予算を抑えている企業と連携することで、ブランド広告のデジタルシフトという波にうまく乗ることができたのが、セプテーニの勝因と言えるでしょう。

ログリーの売上が爆増している理由

最後に、ログリーの売上が爆増している理由について見ていきましょう。

ログリー株式会社 2021年3月期 第3四半期決算説明資料

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まず、売上推移を見てみると、2021年3月期の1Qに桁違いに伸びており、そこから四半期毎に成長は緩やかになっている様子が分かります。

これは予想できる方も多いかもしれませんが、コロナによる巣ごもり需要でログリーを導入しているメディアのインプレッション数が急増したためです。

実際に、インプレッション数の推移を見てみると、下図のようになります。

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こちらは1つ前の図とは異なり、月別のグラフとなっているので、その点に注意して見てみましょう。

2021年3月期1Qの初月にあたる4月に最高水準のインプレションを記録し、そこから少しずつ減少しています。

インプレッション数も売上高も成長しており素晴らしい決算ですが、注目しておきたいのは「インプレッション当たりの単価」です。

インプレッション数の増加(2020年3月期1Q比で+200%。成長率でいうと+100%)に対して、売上は同期間で+47.9%(624百万円→923百万円)の成長となっていることから、単価は20-25%程減少していることが分かります。

単価が下がるということは、メディアのインプレッション当たりの収益も減少しているということで、メディアとしては美味しい話ではありません。

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また、ログリーの売上総利益率は低下していることから、単価が下落する中でメディアへの支払い単価は何とか維持してログリー離れが起きないようにしている様子が伺えます。

本質的には、広告主の拡充や配信コンテンツのアルゴリズムの改善等により、インプレッション単価を引き上げ、売上総利益率を維持したままメディアが満足する収益を返せる様になっていく必要があります。

今後の、インプレッション単価と売上総利益率の推移に注目していきたいと思います。

まとめ

今回の記事では、インターネット広告関連企業の決算を概観した上で、売上成長率を維持できている企業、成長率が鈍化している企業、成長率が加速している企業をそれぞれ深堀りしてみました。

タイトルの「セプテーニとログリーの売上が急増しているのはナゼ?」という質問については、共通の解があるわけではなく、それぞれセプテーニはブランド広告取扱高の上昇、ログリーはコロナによる巣ごもりによるメディアインプレッションの増加が要因でした。

中でも、セプテーニについては、以前から来ると言われていたブランド広告のデジタルシフトの波にうまく乗ることができており、戦略的な成長加速と言えるでしょう。

ログリーについては、コロナによる巣ごもりという突発的なイベントにより、良い意味で「想定外」の売上増になったわけですが、インプレッション単価は減少しており、売上総利益率を下げながら対応しているという、なかなかお腹が痛い状況ではないでしょうか。

売上成長が加速している両社ですが、戦略的な一手によるものなのかという視点では、見え方も変わってきます。今後の両社のKPIには注視していきたいと思います。

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