Q. スマートドライブが赤字上場でも評価に値するSaaS型収益の伸びしろとは?
新着記事をTwitterでお届けします。下記URLからご登録ください。
Twitter: https://twitter.com/irnote
活況とは言えない上場株式市場ですが、12月は例年、年末に向けて新規上場が増える時期です。
そんな中、今日2022年12月15日に、スマートドライブが東証グロース市場に新規上場しました。赤字上場ではありますが、今後の伸び代と黒字化の目処について考察しました。
モビリティデータを活かした事業とは?
スマートドライブは、「移動の進化を後押しする」をビジョンに掲げている会社です。
同社は、GPSデータ(緯度経度、GPS速度、GPS精度)、加速度センサーデータ等を利活用し、業務効率化による生産性向上や既存サービスの高付加価値化、新規サービスの創出等に貢献する事業を提供しています。
事業としては主に以下の2つを展開しています。
また、マレーシアでも、上記の2事業の展開を進めています。
FO事業の「SmartDrive Fleet」は、車載デバイスで車両をIoT化し、業務目的で車両を利用する企業の各種課題を解決する、クラウド型車両管理サービスです。
クライアントには、中間流通・インフラメンテナンス・不動産・訪問介護など幅広い業界の企業がいます。2022年6月末時点において800社以上のクライアントに利用されています。
SmartDrive Fleetの提供価値は、主に3つあります。
まず1つは、各企業が取り組んでいるDXの推進です。顧客企業は、自社で利用する各営業車両や各配送車両の位置情報、訪問エリア、訪問ルート等をリアルタイムに把握し、業務を可視化することができます。
監視という意味だけではなく、そのデータを用いて、訪問効率や営業効率の最適化、生産性向上に活かすことができます。
2つ目は、安全運転管理や法令遵守等のコンプライアンス対応にしている点です。
運転日誌など道路交通法施行規則に基づく法定必要書類の自動作成機能や、アルコール検知器と連携した酒気帯び点検結果の自動記録機能が実装されているため、コンプライアンス遵守にも貢献します。
また、各ドライバーの運転挙動・運転性向の自動記録機能や独自のスコアリング機能が実装されており、事故防止の取り組みにも役立てることができます。
3つ目は、マルチデバイスに対応してる点です。他社製のドライブレコーダーや車載Wi-Fiルーターとも連携して利用可能で、SmartDrive Fleetの一部機能についてはスマートフォンのみでも
使用可能な設計となっており、利用開始ハードルの低い製品です。
AO事業は、SmartDrive FleetをOEM提供することで、パートナー企業の新規事業の早期立ち上げや既存顧客との接点強化、顧客生涯価値の拡大に寄与することを強調しています。
スマートドライブにとっては、パートナー企業自体が大口顧客となり、自社だけでは成し得ないエンドユーザーへの販売が可能となるというメリットがあります。
2021年6月には、自動車メーカーのスズキとの協業を発表し、法人向け車両管理サービス「スズキフリート」の構築を進めてきました。スズキは、スマートドライブの売上のうち15.9%を占める最大顧客でもあります。
スマートドライブのビジネスモデルは?
スマートドライブはビジネスモデルが特徴的で、イニシャル売上に加えてリカーリング売上(継続型収益)も上がるように設計されています。
FO事業のビジネスモデル構成は以下です。
AO事業のビジネスモデルは以下から構成されています。
つまり、顧客が増えれば増えるほど、積み上がりで売上が上がる設計になっています。
スマートドライブの売上は前年比2倍以上
上図はスマートドライブの売上高と経常損失の推移です。FY2021(2020/10~2021/9)には、売上高が8.24億円(YoY+106.6%)と大躍進しています。
経常損失についてもFY2020(2019/10~2020/9)の売上以上の経常損失が出ていた状態と比較すると、大幅に改善しています。
FY2022はQ3の6月末時点までの実績ですが、売上高は前年より成長しており、経常損失もわずかに改善しています。
上図はスマートドライブの損益計算書です。
売上高、経常損失は先ほど記載した通りです。注目すべきは売上総利益率の高さです。66.8%と高い水準にあり、これまでの流れから見ると、売上上昇により経常損失の解消(黒字化)が近い将来実現出来る事が容易に想像できます。
前述のように、サードパーティーのデバイスを活用したり、マルチデバイス対応で自社デバイス開発を最小限にとどめていることは、売上総利益の改善に関連していると考えられます。
コスト構造から分かること
続いて、損益計算書の販管費以下を見てみましょう。
FY2021(2020/10~2021/9)の販管費のうち主要費目は以下の通りです。
人件費が5.01億円で、販管費のうち54.7%と大きな割合を占めています。
前年と人件費は大きく変わらずに成長を遂げていることは非常にポジティブではないでしょうか。
また、人への投資は必要である一方、広告宣伝費や販売促進費に大きく投資している訳ではありません。リカーリング売上が発生するビジネスモデルなので、人への先行投資は健全でしょう。
注目の指標はリカーリング売上比率
スマートドライブの2事業のビジネスモデルは、イニシャル売上とリカーリング売上の両方があります。ビジネスを成長させる上で、リカーリング売上が大きいと強いです。
スマートドライブの売上高に占めるリカーリング売上比率はここ2年で大幅に伸びています。Iの部で以下のように開示されています。
FY2020(2019/10~2020/9)からFY2021(2020/10~2021/9)にかけてで売上高は倍増している中で、リカーリング売上比率もほぼ倍になっています。
これはリカーリング売上が約4倍に成長したということで、恐るべき成長率です。リカーリング比率がここまで高いとなると、SaaSのビジネスモデルと同等と捉えて評価することができると考えられます。
また、リカーリング売上の契約期間は複数年が主体で、契約金額を一括前払いにて回収しているためキャッシュフローの観点でも安定性があります。
SaaSビジネスとしてスマートドライブを評価してみる
FY2021(2021/10~2022/9)の売上高が3Qまでで8.91億円で、単純に試算して4Qは2.97億円の売上高が上がるとすると、年間の売上高は11.88億円です。
リカーリング売上比率が56%だとすると、6.65億円程度をSaaSでいうARRと仮定することができます。
前述の通り、リカーリング売上の契約期間は複数年が主体であることから、解約率は一般的な法人向けSaaSに比べても低くなるかもしれません。
またFO事業では、既存サービスのクロスセルや提供サービスの拡充によって、新規顧客の獲得、及び既存顧客企業内における同社のサービスの導入を部分的なものから本格導入へと移行し、顧客単価の向上を目指しています。
現在のARRはまだ小さな規模ではありますが、クロスセルやサービス拡充が実現できれば、解約率が低く、顧客単価の引き上げ余地は大きいという状態になります。自ずと、高いNRR(Net Revenue Retention:売上維持率)を実現できるでしょう。
まとめ
今日は、東証グロース市場への上場を果たしたスマートドライブについて取り上げました。内容を簡単にまとめてみます。
以上のように、スマートドライブは、モビリティという非常に市場の大きな領域で幅広い事業運営をする会社です。
上場で調達した資金をもとに、法人顧客を中心に更なる拡大はもちろんですが、新たなモビリティデータの活用も期待されます。
事業間のシナジー効果が産まれやすいという特性を活かしつつ、既にリカーリング収益を獲得している状態で資金調達をした同社に、今後も注目したいと思います。
▼新着記事をTwitterでお届けします。下記URLからご登録ください。
・Twitter: https://twitter.com/irnote
▼その他SNS
・Instagram:決算をグラフで分かりやすく発信しています。
▼お得なマガジン
1ヶ月あたり4〜8本の有料ノートが追加される「有料マガジン」もあります。月に2本以上の有料noteを読むならこちらがお得です。是非ご覧ください。
気に入ってくださった方は、↓から「スキ」「フォロー」してください!
ここから先は
決算が読めるようになるマガジン
初月無料!日米のネット企業(上場企業)を中心に、決算を読み解き、明日から役立つ知識をお届けします。
【法人用・転送可】決算が読めるようになるマガジン
「決算が読めるようになるマガジン」と同内容の法人用です。転送・回し読みしたい方向けです(社内限定)。