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スマホの次は「AIロボット」開発で先行く米中に日本の勝機は? テクノロジーの地政学・全文公開#5

今、政治・経済で中国企業が話題に上る機会が増えています。背景にあるのは、中国のテクノロジー産業が急速に発展し、米国や日本の脅威になりつつあるという事実です。一方で、中国企業はシリコンバレーおよび米西海岸の企業群と密接に絡みながら(影響を受けて)進化を遂げてきたという側面もあります。

私シバタナオキと吉川欣也さんが出版した書籍『テクノロジーの地政学 シリコンバレーvs中国、新時代の覇者たち』は、このシリコンバレーと中国のテクノロジー動向を深掘りしてまとめた一冊です。全6章を毎週1章ずつ、小分けにしてお届けする「全文公開」をご覧いただき、面白そう、役に立ちそうと感じたら、ぜひ書籍をお買い求めください。

本エントリでは、Chapter05:ロボティクスの章を全文公開します。

この記事の目次

・書籍『テクノロジーの地政学』とは?
・全文公開Chapter05:ロボティクスの概要
・ロボティクスのマーケットトレンド

  シリコンバレー編/いずれ来る人間との共生時代に向けて研究が進む
  中国編/ロボット大国への道を決定付けた「中国製造2025」
・ロボティクスの主要プレーヤー
  シリコンバレー編/日米の大企業による買収・出資がロボットの未来を変えた
  中国編/アリババ、テンセントの影響力はロボット産業にも波及
・ロボティクス分野の注目スタートアップ
・未来展望

  シリコンバレー編/「体験」を売る時代にメーカーが行うべき4つの変化

書籍『テクノロジーの地政学』とは?

本書は、2018年6月~9月に我々が主催したオンライン講座「テクノロジーの地政学」を書籍化したものです。講座では、以下に記す6分野を中心に、シリコンバレーと中国それぞれのマーケットトレンドや主要プレーヤーを解説しました。

 Chapter01:人工知能(全文
 Chapter02:次世代モビリティ(全文
 Chapter03:フィンテック・仮想通貨(全文
 Chapter04:小売り(全文
 Chapter05:ロボティクス
 Chapter06:農業・食テック

なぜ「シリコンバレーvs中国」の比較形式にしたかというと、この2地域の企業動向が、今後の世界経済を確実に左右すると見ているからです。私たちがそう考える理由は2つあり、詳しくは以下のエントリで説明しています。

話を戻して、本書は上記した6分野ごとにシリコンバレーと中国の現地情報に精通した「ゲスト解説」をお招きして、

 ・マーケットトレンド解説(シリコンバレー編/中国編)
 ・主要プレーヤー解説(シリコンバレー編/中国編)
 ・各分野の注目スタートアップ
 ・未来展望(ゲスト解説と我々による議論)


の4つをまとめています。

今回取り上げるChapter05:ロボティクスの全文も、この構成に則って紹介しています。ここでは文章だけを抜粋していますが、書籍では「シリコンバレーvs中国で各分野の動向を見開き比較」している他、「市場調査会社が出している最新データ」や「主要プレーヤーが開発する製品の説明画像」もふんだんに盛り込んでいます(サンプルページは以下です)。ぜひお手に取ってみてください。

全文公開Chapter05:ロボティクスの概要

ここからは書籍『テクノロジーの地政学』のChapter05:ロボティクスの章を紹介していきます。

近未来のロボットは、今までのように「製造業の効率化」だけが役割ではなくなります。 特に人工知能(以下、AI)との融合は、自動運転車や家庭用IoT(モノのインターネット)、RPA(Robotic Process Automation。企業の業務を自動化させるテクノロジー)など 多くの分野でイノベーションを起こすでしょう。いずれは漫画や映画でよく描かれる「人とロボットの共生」も実現されるはずです。その準備は着々と進んでいるのです。ここでは、ドローンを含めたロボティクスの最新動向を見ていきましょう。

《この章のポイント》
■ シリコンバレー

産業用ロボット、特に「協働ロボット」の開発に注目
グーグルが起こした買収ブームをソフトバンクが引き継ぐ

■ 中国
国策「中国製造2025」が製造業全体を活性化させる
AIロボティクスやドローン分野で世界的企業が台頭

《この章のゲスト解説》
■ シリコンバレー編
TransLink Capital(トランスリンク・キャピタル)
Co-Founder and Managing Director
大谷俊哉氏

慶應義塾大学理工学部を卒業、米スタンフォード大学経営大学院でMBA修了。三菱商事で複数の米国ベンチャーとのビジネスに取り組んだ後、光通信の米国ベンチャーキャピタル(以下、VC)部門のPresidentに就任。その後、米Everypath,Inc.の上級副社長として日本支社エブリパス・ジャパン株式会社を設立、事業運営を指揮する。200年にVCのTransLink Capitalを立ち上げ、これまで6度のファンド組成に成功。シリコンバレーとアジア4都市(東京、ソウル、北京、台北)を拠点に事業開発支援を行う。

■ 中国編
匠新(ジャンシン) Founder CEO
田中年一氏

東京大学工学部・航空宇宙工学科を卒業。Hewlett-Packardで大企業向けエンタープライズシステム開発・販売に従事した後、デロイト トーマツに転職。12年間、M&Aアドバイザリーや投資コンサルティング、IPO支援、ベンチャー支援、上場企業監査などに従事。うち2005年~2009年の4年間はデロイトの上海オフィスに駐在し、中国企業の日本でのIPOプロジェクトや日系現地企業の監査、投資コンサルティング業務などを手掛ける。2013年に独立し、上海を拠点に日中でスタートアップ支援と大企業向けオープンイノベーション支援のアクセラレーター事業を展開する「匠新」を創業。米国公認会計士、中国公認会計士科目合格(会計・税務)。

ロボティクスのマーケットトレンド

■ シリコンバレー
ロボティクスは、工場のオートメーション化だけでなく幅広い業界で「次の革新を生む技術」として認識されるように。その代表格が協働ロボットとドローンだ。

【投資額】
2018年、ロボット開発への投資は年間約3288億円に


米CB Insights調べ(2018年)。この分野への投資は2015年を境に大きく増え始め、2018年は推計で年間総額32億8800万ドルになる見込み。堅調に伸びている。

【成長要因】
ロボティクスの発展を支える4つのC


ロボットやドローン開発が急速に発展したのは、「Core Technology」「Commoditization」「Connectivity」「Commercialization」の4つが同時期に絡み合った結果だ。

【注目分野】
各社が協働ロボットの研究開発を急ぐ


進化するロボティクスの中でも、「人と隣接しながら作業をするロボット」である協働ロボットの開発が加速。最終的な目標は、人の代わりに仕事をすることだ。

【ドローン】
2017年、米国の市販ドローン市場は推計約1300億円


独『Statista』調べ(2017年)。市場規模は年々大きくなっており、大手家電量販店でも普通にドローンが販売されるくらい普及が進む。サービスとしての実用化も近い?

■ 中国
AI開発など、国策を後ろ盾に急成長する分野が多い中国。ロボティクス分野にも、政府発表の「製造強国入り」に向けた国策が大きな影響を及ぼす。

【市場規模】
2017年は産業用ロボットの販売台数で世界の1/3を独占


国際ロボット連盟調べ(2018年)。中国国内での販売数は、2013年~2017年の5年間で約6倍のペースで伸びており、着々とロボット大国の地位を固めつつある。

【国家戦略】
政府主導の「中国製造2025」で製造強国に


2015年5月に中国政府(国務院)が発表した「中国製造2025」(メイド・イン・チャイナ2025)によって、段階的に世界の製造強国入りを狙う。

【国家戦略】
第一弾は「ロボット産業発展」5カ年計画


「中国製造2025」の具体策として2016年に出されたのが、「労働者人口1万人あたりのロボット設置台数」を増やすというこの計画だ。これで国内メーカーも活況に。

【ドローン】
ドローン企業の資金調達額TOP5中3社が中国企業


独Drone Industry Insights調べ、2014年~2016年のデータ。中でも世界一の資金調達額を誇るDJIのようなハードウェアメーカーの躍進が目立つ。

いずれ来る人間との共生時代に向けて研究が進む

~マーケットトレンドの詳細解説 シリコンバレー編 大谷俊哉氏に聞く~

ソフトバンクのヒューマノイドロボット・ペッパー(Pepper)と店頭で話す、SNSで2足歩行ロボットの動画が出回るなど、日本でもロボットが少しずつ人々の日常に入り込みつつある昨今。ただ、世界最先端のロボティクスは、主に「産業用ロボット」と「ドローン」の2分野で進歩を遂げています。

そこでこれらの進化と普及の歴史について、シリコンバレーのVC業界で20年以上の経験を持つ米トランスリンク・キャピタルの大谷俊哉氏に伺いました。

《投資額は年々増加、特に産業用ロボットへの投資が進む》

最初にロボティクス分野の投資トレンドを数字で見てみましょう。

CB Insightsが2018年に発表したレポート「The Rise Of Robots」によると、この分野への世界の投資額は2014年を境に大きく増え始め、2018年には推計で年間総額32億8800万ドル(約3288億円)になるそうです。関連企業への投資案件数も、順調に伸びている。これが示しているのは、今まで企業や工場内で人間がやっていた業務を、ロボットが代替えしていく未来です。

CB Insightsは別のレポートで「ジャンル別の資金調達総額」も示していますが、調達総額の半分近くを産業用向けが占めていました。その中でも重工業向けロボットとドローン開発の2つが大きな割合を占め、他に小売業向け・倉庫向け・配送サービス向けのロボット開発にも投資が進んでいるようです。

《投資の背景に「4つのC」》

この背景に、私は「4つのC」があると考えています。2010年代は

 ・Core Technology
 ・Commoditization
 ・Connectivity
 ・Commercialization


が同時進行的に進化し、今になってこの4つがうまく重なり合うタイミングが来たのです。

まずはCore Technology(コア・テクノロジー)の部分で、モーターやバッテリー、ライダー(短い波長のレーザーを照射することで物体までの距離を検知するセンサーデバイス)など、ロボットやドローン開発に必要な部品が安く大量に提供されるようになっていきました。

それと同時に、Commoditization(コモディタイゼーション。汎用化のこと)が進んでいきます。ロボティクス専用OSである「ROS」やAIの研究開発でオープンソース化が進み、必要なソフトウェア開発を多くの人々が素早く効率的にできる環境が整いました。

それに歩調を合わせるように、3つ目のConnectivity(コネクティビティ)、要するにIoTのようなビジネスモデルが一般化していきます。この傾向は2010年前後からありましたが、クラウドサービスの進化によって、ロボットもドローンもインターネットと常時接続させて大量に動かすことができるようになりました。

最後のCommercialization(コマーシャライゼーション)は、製造業の変化についてです。アジャイル開発やラピッドプロトタイピングといったソフトウェア開発でよく使われる手法が、ハードウェアの開発にも広まり出して、少量多品種を素早く製造する方法論が確立されました。その過程の中でiPhoneに代表される「部品は第三者に委託して作るモデル」も広まり、積極的にスタートアップと連携するメーカーが増えていきます。これらが絡み合うことで、技術革新が急ピッチで進んでいったのです。

投資をしている人間として付け加えると、2010年代半ばはVCの目がロボティクス分野に向き始める絶好のタイミングでもありました。2010年代前半でゲームを含めたスマートフォンアプリ開発のブームが終わり、VCは「次にどのジャンルへ投資しよう」となっていたからです。そんな中でAIやロボット、ドローン開発が盛り上がり始め、ブームがある種意図的に作られた。

特に産業用ロボットのジャンルは市場規模が大きいため、ちょうどいい投資先だったのだと考えられます。

《普及のカギは「協働ロボット」の進化》

では、これからロボットやドローンはどのような形で普及していくのでしょう。私は主に3つの進化がカギを握ると考えています。

一つ目は、「コボット」(Cobot)、日本語で言う「協働ロボット」の進化です。従来のロボットと言えば、工場で稼働する産業用ロボットのイメージが強かったと思います。ロボットアームやドリル、研磨機など、大抵の場合は安全面を考慮して柵の中に入れてあり、特定の場所でだけ作業をするものでした。ただ、近年はそこから進化して、人間と接しながら「協働」するロボットの研究開発が進んでいます。

人がいる場所を移動しながら、各種作業を手助けし、場合によっては人間の代わりに作業する。すでに産業用ロボットの世界では、徐々にですが協働ロボットの開発と導入が行われています。消費者向けに広まっていくには、性能や安全面でさらに進化する必要があるでしょう。

そのために、2つ目のカギとなる「AIによる自動化技術」の進化が問われます。そして、3つ目として「Robot-as-a-Service」という新たなビジネスモデルも確立しなければなりません。これは、Chapter02:次世代モビリティの章で何度も取り上げられていた「MaaS」(Mobility-as-a-Service)と似ていて、ユーザーはロボットを所有せず、必要に応じて都度課金しながら利用するビジネスモデルです。

Robot-as-a-Serviceは、今で言うオフィス機器のリースとは全く違います。MaaSと同様に、あくまでもサービスとしてロボット活用を促すの狙い。必要な時だけ使えて、機能も自動的に進化していく(つまり内蔵されているソフトウェアが更新される)仕組みづくりが必要になります。少なくともシリコンバレーにあるロボティクス企業は、ほとんどがこのビジネスモデルを志向して開発を行っています。

《ロボットに期待することは国によって違う》

この3つをクリアすれば、将来は例えば「ロボット家政婦さん」が定期的に自宅へ来てくれるようなサービスが普及するかもしれません。すでにお掃除ロボットのルンバ(Roomba)が一般家庭に広まっていますし、Robot-as-a-Serviceの延長線上に家政婦ロボットが生まれても違和感はないでしょう。

ただし、こういった未来を形にする際、もう一つ考慮しておくべき事柄があります。国による「ロボットに対するイメージ」の違いです。

例えば、日本ではアニメの『鉄腕アトム』が人気だったせいか、ロボット=人に寄り添う、人を助けてくれる存在というイメージが根付いています。ドラえもんもそうでしょう。

一方で米国は、映画『ターミネーター』シリーズや『アイ,ロボット』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の敵役ウルトロンなど、ロボット=人類を脅かす存在として描かれることが多い。何の影響かは分かりませんが、米国人がロボットに求めることの根本がユーティリティ(有用性)にあるからでしょう。だから、ユーティリティを突き詰めた先に「ロボットに反旗を翻されるかもしれない」という発想が生まれるのではないかと考えています。

また、米国人の描くロボットには、ある共通項があります。中央に全体を制御する大きな頭脳があって、ロボットはその手足として動くというものです。これもユーティリティを前提にロボットを捉えている証拠の一つで、自律的に動いて人助けをする鉄腕アトムのようなロボット像とは異なります。

この文脈で考えると、米国では普及期に入ったスマートスピーカーが、日本でなかなか根付かない理由も説明できます。アマゾン・エコー(Amazon Echo)のような音声アシスタントは、まさにユーティリティ重視のコミュニケーション機器で、料理や掃除で手がふさがっていても命令すれば他のことをやってくれます。ルンバしかり、米国では確実に人間を手助けしてくれるものが支持される好例です。

他方の日本は、やはりロボットに対してコンパニオン的な要素を求める傾向が強いように思います。

ソフトバンクのペッパーもそうですし、そのペッパーの開発を経て起業したグルーブX(GROOVE X)の林要氏も「LOVE×ROBOT=LOVOT」(ラボット)というコンセプトを掲げてロボット開発を行っています。消費者向けロボットの開発に取り組むロボティクス関連企業は、このようなお国柄も考慮しなければならないでしょう。

《ドローン開発は勢いを失うも販売売り上げは増加》

続いて、ロボティクス分野の主要マーケットの一つであるドローンの市場動向を紹介しましょう。

シリコンバレーではドローン開発のスタートアップも非常に盛り上がっていました。2009年設立のドローンメーカーである米3Dロボティクス(3D Robotics)を筆頭に、何社かは世界にその名を知られるようになっています。

ただ、2010年代後半になって中国メーカーのDJIが急成長し、商用ドローンの世界シェアの大半を占めるようになります。そのため、シリコンバレーのドローン関連企業は伸び悩んでいるのです。

中には制御用ソフトウェアの開発にフォーカスし直すなど、方向転換する企業も出ています。これらの企業は引き続き米国内で資金調達をしているものの、一時の勢いは失っていると言っていいでしょう。

とはいえ、米国内の消費者向けドローンの売り上げ総額は年々増えています。独の調査メディア『Statista』が出した「Drones:A Tech Growth Market in the United States」(2017年5月23日)という記事によると、米国の市販ドローン市場は2017年、年間推計で12億9600万ドル(約1300億円)規模になるという予測も出ていました。

実際に、最近は米ベスト・バイ(Best Buy)のような大手家電量販店でも普通にドローンが売られるようになっており、オモチャとしてかサービス利用かはさておき、一般に普及し始めた感があります。投資の世界では「終わったジャンル」と見られがちではあるものの、ドローンの実用化も産業用ロボットと同様にここからが勝負。引き続きウォッチしておきたいところです。

ロボット大国への道を決定付けた「中国製造2025」

~マーケットトレンドの詳細解説 中国編 田中年一氏に聞く~

2018年10月に国際ロボット連盟(以下、IFR)が発表した「WR 2018 Presentation Industrial and Service Robot」というレポートによると、2017年は産業用ロボットの販売台数で中国が世界の約3分の1を占めたそうです。これは何がトリガーとなっているのでしょうか。数字の背景にある動きを、Chapter02:次世代モビリティのゲスト解説も務めてくれた「匠新」(ジャンシン)の田中年一氏に聞きました。

《産業用ロボットの販売台数は5年で6倍に》

前述したIFRのレポートが「産業用ロボットの販売台数世界トップ5カ国」に挙げているのは、上から順に中国、日本、韓国、米国、ドイツです。順位だけ見ると日本も負けていないと感じるかもしれませんが、中国の販売台数の伸びは図5‐4(グラフは書籍にて)を見ても分かるように驚異的と言っていいレベル。同レポートにある別の調査結果を見ても、2013年~2017年の5年間で販売台数が約6倍のペースで伸びており、主に自動車関係やIT関係でのニーズが爆発的に増えている状況です。

今後についても、2018年7月に中国ロボット産業連盟が「2018年の産業用ロボットの販売台数は18万台規模になるだろう」と声明を出していました。2017年時点の推定ではおおよそ16万台くらいだったので、予想を上回る伸び方をしています。

《「中国製造2025」の概要》  

短期間でこれだけ販売台数が伸びた背景には、AI産業などと同様に国策があります。2015年5月に中国政府(国務院)が発表した「中国製造2025」(メイド・イン・チャイナ2025)です。

中国政府は、前年の2014年を「中国ロボット発展元年」として、製造業における産業用ロボットの普及を国として支援し始めました。そして2015年、3つの段階を経て国内の製造業を世界トップにする計画を打ち出します。

第1段階は2025年までに世界の製造強国入りを果たすのが目標で、「中国製造2025」はそのためのロードマップとなっています。そして、2段階目となる2035年までに中国の製造業を世界の中位に位置させ、最後の第3段階目となる2049年までに名実共に製造業の世界トップになるというものです。

実はこの計画は、中国の重要な転機に合わせて設計されています。まず、2021年に中国共産党が発足100周年を迎えます。ですから、その直後の2025年までに国内の製造業を世界で戦えるレベルにするのが当面の目標です。そして、2049年は中華人民共和国の建国100周年となる年。ここまでに中国の製造業を世界トップに押し上げようとしているのです。

《「ロボット産業発展」5カ年計画がロボット導入を後押し》

計画を遂行するための具体的な施策としては、2016年に「ロボット産業発展」の5カ年計画が発表されました。それでロボットによる自動化が一気に注目されるようになり、国内の販売台数が爆発的に伸びたというわけです。

この5カ年計画には、2020年までに「設置密度で150台以上」「うち国産メーカーで10万台以上を実現する」という数字目標も織り込まれています。設置密度とは、労働者人口1万人あたりのロボット設置台数のこと。IFRの調査だと、中国は2016年時点で68台、2018年は100台以上になるとされています。

ちなみに他の先進国では韓国が631、シンガポールが488、日本は303となっています。これらの国が図抜けているのは、人口に対して自動車をはじめとした製造業が多いことと、国内に強いグローバルメーカーがあるからでしょう。現状、中国の設置密度は年間でだいたい15~20台増のスピードで高まっているので、2020年までに「設置密度で150台以上」という目標は非常に高いものになります。ただ、それに近いレベルまでは伸びそうな勢いがあります。

今後、中国では「1人っ子政策」による少子化問題が出てくるはずで、労働人口が減っていく一方、工場で働く人々の人件費は年々高まっています。こうした事情もあって、ロボットによる自動化が急務なのです。

なお、この5カ年計画に入っている「国産メーカーで10万台以上を実現する」というもう一つの数字目標に向け、すでに多くのメーカーが新たな動きを見せています。2018年7月に上海で開催された「中国国際ロボット展」では、国産メーカーによる協働ロボットの出展が目立っていました。また、ロボットアームと生産管理システムを一体化させたような機器の展示も多く、情報化時代に対応するソフトウェアのインテグレーション能力をアピールする企業が増えているという印象でした。これらは間違いなく5カ年計画の影響でしょう。

《ドローン企業の資金調達額ではトップ5中3社が中国》

ロボティクス分野の動向を見ていく上で昨今欠かせない分野となっているのがドローンです。シリコンバレーでは関連企業への投資に一服感があるという説明がありましたが、中国のドローン・スタートアップは今でも勢いを保っています。むしろ、企業によっては大きく成長曲線を描いている。

事実、ドローン産業のリサーチを専門に行う独Drone Industry Insightsの調査では、2014年~2016年の関連スタートアップの資金調達合計額ランキングでトップ5のうち3社が中国企業となっています。深セン生まれのドローンメーカーであるDJIと、Chapter02:次世代モビリティで注目スタートアップの一つに取り上げたイーハン(EHANG/億航)、そして上海のドローンメーカーで半導体メーカーのインテルも出資するユニーク(Yuneec)です。

中でも2016年までの資金調達総額が1億500万ドル(約105億円)で世界1位となったDJIは、ゴールドマン・サックスのアナリストによる調査で「2016年時点で世界の商用ドローン市場の約70%のシェアを確保している」と発表されています。同社が世界で重要な地位を占めるようになった理由については、この後の主要プレーヤー解説で詳しく説明しましょう。

ロボティクスの主要プレーヤー

■ シリコンバレー
IT企業が多いシリコンバレーで、ロボティクス関連企業への注目度が一気に高まったのが2013年ごろ。その背景には「アンディのロボット愛」があった。

・ロボット開発への投資ブームを生み出したGoogle

大企業によるロボット関連企業の投資・買収の歴史をひも解くと、2013年を皮切りにGoogleが関連スタートアップを続々と買収したことが、現在のブームにつながった。

・Android OSを生んだアンディ・ルービン氏が寄与

上記の流れを生んだのはAndroid OSを生んだ元Googleのアンディ・ルービン氏だと言わ れており、現在はPlayground Globalという自身の投資会社で関連企業を支援する。

・物流にスピード革命を起こすAmazon Robotics

同社は2012年、米Kiva Systems(キバ・システムズ)を買収し、ロボットを使った物流システムの自動化を一気に進める。この先行事例が、関連企業増加の引き金に。

・SCHAFT(シャフト)やBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)を買収したソフトバンクの狙い

2013年~2014年にGoogleが買収した有名ロボット企業を引き受ける形でグループに組み込んだソフトバンク。「AI×ロボット」時代の到来を予見しての動きか!?

※著者注:上記は書籍を出版した2018年11月時点の情報。その後の報道によると、2017年、Googleの持ち株会社であるAlphabet(アルファベット)はソフトバンクにSCHAFTの買収を許可したが、契約条件を満たすことができずに買収は成立していなかったとのこと。さらに、SCHAFTは解散を発表している。

■ 中国
「中国製造2025」に向けて着々と歩を進める中、国産メーカーやBATの動きも活発になっている。特にドローン活用に向けた動きは世界的に先を行く。

・産業用ロボットの「4大家族」を追う5つの国産メーカー

2018年時点で、国内の産業用ロボットの7~8割を供給しているのが、日本企業を含む「4大家族」と呼ばれる海外勢だ。これに追い付き追い越せと、国内メーカーも台頭する。

・「AI×ロボット」分野への投資を進めるTencent

中国IT御三家の一つTencentは、2018年にRobotics X(ロボティクス・エックス)という ロボット・ラボを設立。その他、関連スタートアップへの投資も積極的に行う。

・Alibabaは物流改革に1兆6000億円以上を用意

同じくIT御三家のAlibabaは、物流子会社のCaiNiao(菜鳥)による倉庫内作業の自動化や、配送用ドローンの実現に向けて巨額の投資を行っている。

・自社製ドローンが市場シェアNo.1となったDJIの成長戦略

2006年の創業で、2016年には商用ドローンの市場シェア約70%を有する世界トップ企業 となったDJI。その背景には積極的な企業提携があった。

日米の大企業による買収・出資がロボットの未来を変えた

~主要プレーヤーの詳細解説 シリコンバレー編 大谷俊哉氏に聞く~

他の産業と同様に、テクノロジーが一般に普及していく過程では大企業の役割が見逃せません。彼らが有望なスタートアップを買収したり投資をすることで、テクノロジーの実用化に拍車がかかるからです。

ここでは、ロボティクス分野の発展にシリコンバレー周辺の大企業がどのようにかかわってきたのかを見ていきましょう。

《大企業による投資の転機を作ったグーグル》

近年のシリコンバレーでロボット関連企業の買収・投資について説明する上で、グーグルの取り組みを抜いては語れません。同社は2013年にロボティクス・スタートアップ数社を立て続けに買収して注目を集めました。翌2014年には、自律歩行ロボットの開発で知られる米ボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)も買収しています。

東京大学発のロボット企業であるシャフト(SCHAFT)が買収されたのもこの時で、「グーグルがなぜロボット分野に進出を?」と感じた方は多いと思います。今となってはグーグルも開発に力を入れるAIがロボットの進化を促すというのは周知の事実ですが、当時はシリコンバレーでも衝撃をもって受け止められました。

ただ、その後は米クアルコム(Qualcomm)やインテルのような半導体メーカーや、IoTを事業の中軸に育てようとしている米GE、スイスのグローバル重電メーカーであるエービービー(ABB)など、国内外の製造業大手によるロボティクス・スタートアップの買収が増えたものの、グーグルの動きはひと段落しています。

2017年にはボストン・ダイナミクスとシャフトをソフトバンクグループに売却しており(シャフトについての補足情報は上記の「※著者注」を参照)、むしろ手を引いたという印象すらある。これには、スマートフォンOSの世界標準になったアンドロイドの生みの親、アンディ・ルービン氏の去就が影響していたと思われます。

《アンディ・ルービン氏がロボット産業を発展させた?》

アンディ・ルービン氏は2013年12月にグーグルのロボット部門の責任者に就任しましたが、2014年に同社を退職しています。その翌年の2015年には、グーグルおよびグループ企業の持ち株会社として米アルファベット(Alphabet)が設立されます。この経営改革の過程で、同社のロボット開発に対する姿勢が変わったのは明らかです。

私の憶測ですが、グーグルはあの時期、ルービン氏を他社に引き抜かれると困るのでロボット事業へ傾倒していったのではないかと思っています。ルービン氏はロボットが大好きで、アンドロイドの次に手掛けるプロジェクトとしても非常に相性が良かった。ですから、見方によってはグーグルの“ロボットシフト”は属人的かつ一過性のものだったとなります。

ただ、あの時期にロボット開発に陽の目が当たったことは、その後の産業発展に大きなインパクトを残しました。マーケットトレンドの解説でも述べたように、2014年以降、産業用ロボット開発を中心に投資総額は大きく増えているからです。

そしてルービン氏自身も、グーグル退職後に立ち上げたVC兼インキュベーターの米プレイグラウンド・グローバル(Playground Global)を通じて、ロボットを含めたハードウェア系スタートアップにたくさん投資をしています。その延長線上で、米カーネギーメロン大学などさまざまな大学とのコラボレーションも生まれ、ロボットの進化に今も貢献しています。

語弊を恐れずに言うならば、シリコンバレーのロボティクス産業の発展はグーグルとルービン氏が生み出したといっても過言ではないのです。

《物流×ロボット活用で先行くアマゾン》

続いて紹介するのは、ECサービスの物流にスピ ード革命を起こしたアマゾンの取り組みです。同社は2012年、倉庫内で物を運ぶ自律型ロボットを開発していた米キバ・システムズ(Kiva Systems)を7億7500万ドル(約775億円)で買収し、物流システムを担っていたアマゾン・ロボティクス(Amazon Robotics)に取り込みました。

この買収後、アマゾンはロボットを使った物流システムの自動化を一気に進めていきます。アマゾンが膨大な量の注文を即日配送や時間指定配送でさばくことができるようになった背景には、キバ・システムズの技術力が少なからず貢献しているのです。

この事例は、グーグルのアプローチに比べると非常に対照的だったという点でも注目に値します。ロボットを使って巨大な物流網を支えるシステムを進化させたアマゾンと、実用化にはほど遠いけれどユニークな技術力を持つロボット企業を買収していたグーグル。ロボット産業の発展にどちらがより寄与したかは、後になってみないと分かりません。

ただ、アマゾンは米国流のユーティリティ重視なロボット活用で物流システムにイノベーションを起こし、同社のシステムに追い付き追い越せと世界中の同業他社が研究開発を進めています。その意味で、アマゾンの取り組みは産業を進化させ、関連技術を開発するスタートアップを増やす引き金になったと言えるでしょう。

《着々と「技術に張る」ソフトバンク》

ここまでシリコンバレーを中心とした米国企業の動きを取り上げてきましたが、日本のソフトバンクが奮闘していることも紹介しておきましょう。

2017年にグーグルから引き受ける形でボストン・ダイナミクスとシャフトをグループ傘下にしたことはすでに触れました(シャフトについての補足情報は上記の「※著者注」を参照)。この買収の意図は、ソフトバンクが買収・出資した他企業のラインアップと並べて見ると鮮明に浮かんできます。

例えば2016年には半導体設計大手の英アーム・ホールディングス(ARM)を約3兆3000億円で買収しており、2017年には孫正義氏が立ち上げたソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じてAIチップ開発で知られる米エヌビディア(NVIDIA)の株式を大量に保有しました。

これら一連の動きから、AIが本格普及する時に各種ハードウェア開発の世界で大きな影響力を持つこと、特にロボティクス分野で主導権を握ろうとしていることが読み取れます。ボストン・ダイナミクスは近々、自律歩行ロボットの市販を開始すると発表しており、ここにもソフトバンクが買収した一つの功績が表れています。

その他、Chapter02:次世代モビリティのところではMaaS分野でトヨタ自動車と協業していくこ とも紹介されていました。ロボティクスに関連するテクノロジー分野に、これからも積極的に投資をしていくと思われます。シリコンバレーでもソフトバンクグループやビジョン・ファンドの存在感が年々高まっているので、同社の「技術に張る」動きには今後も要注目です。

アリババ、テンセントの影響力はロボット産業にも波及

~主要プレーヤーの詳細解説 中国編 田中年一氏に聞く~

マーケットトレンドの解説で、中国では「中国製造2025」という国家戦略でロボット活用が進んでいると説明しました。国家の後ろ盾を得て産業が急速に発展していくのは、AIや電気自動車と同じ状況です。

そしてこれらの産業では、IT御三家と呼ばれるBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)の影響力が非常に大きいという共通項もありました。ロボット産業では果たしてどうなのか、国内主要プレーヤーの動向を見ていきましょう。

《産業用ロボットの「四大家族」vs国産メーカー》

これまでは海外の産業機器メーカーから多くの産業用ロボットを購入してきた中国ですが、今は政府の旗振りによって国産メーカーが増えていく過程にあります。そこでまずは、本書発刊時点での産業機器メーカーの力関係をまとめておきます。

米の経済メディア『ブルームバーグ』が2018年5月8日に報じた内容(動画「中国でのロボット生産、スイスABBが倍増へ」)によると、中国国内で販売されている産業用ロボットのシェアは、ざっくり海外メーカー製が7~8割、国産メーカー製が2~3割というバランスになっているそうです。主な海外メーカーは

 ・ファナック(FANUC/日本)
 ・エービービー(ABB/スイス)
 ・クーカ(KUKA/ドイツ)
 ・安川電機(YASKAWA/日本)


となっており、中国では「四大家族」と呼ばれています。この4社に続くのが日本のエプソンや川崎重工業、OTCダイヘン、デンマークのユニバーサルロボット(UNIVERSAL ROBOTS)などです。

ただ、四大家族の一つであるクーカは2016年に中国の家電大手ミデア・グループ(Midea Group/美的集団)に買収され、業界の競争環境が変わりつつあります。他にも、国産メーカーとして

 ・瀋陽新松(SIASUN Robot & Automation)
 ・広州数控(GSK)
 ・安徽埃夫特(EFORT)
 ・南京埃斯頓(ESTUN)
 ・AUBO Robotics


などの中堅・新興メーカーが力を付けている状況です。国産メーカーの産業用ロボット販売台数は、2018年時点だと大手クラスでも年間1000~3000台規模。一方の四大家族は、年間の販売台数が1~2万台規模ということで、まだまだ差が大きいと言えます。とはいえ、大きな投資を獲得している国産メーカーも多く、今後のさらなる成長が期待されています。

《AI×ロボット分野を開拓するテンセント》

この投資の観点で見逃せない企業の一つが、BATの一角であるテンセントです。同社は「AI×ロボット」の切り口で多方面に資金を投じており、国内外で影響力を強めようとしています。

代表的な動きとしては、2018年3月に設立したロボット・ラボの「ロボティクス X」(Robotics X)があります。BATの3社がAIの研究開発に本腰を入れているということは、Chapter01:人工知能のところで説明があったかと思います。テンセントはその一環で、2017年に「テンセントAIラボ」(Tencent AI Lab)という研究機関を設立しました。

このラボのスローガンは「Meke AI Everywhere」、あらゆるモノにAIを搭載すること。このスローガンの下に設立されたのが、ロボティクス Xなのです。ですから、即座に産業用や医療用ロボットの分野に進出するのではなく、まず「AI×ロボット」の分野で戦えそうな分野を探していく意向だと考えられます。

実際、同社の直近の投資先を見ると、ユービーテック・ロボティクス(UBTECH Robotics)やユンジ・テクノロジー(Yunji Technology)といった国産の対人ロボットメーカーや、米ワンダーワークショップ(Wonder Workshop)のような知育ロボットの開発会社が目立ちます。IT企業のテンセントとしては、消費者に身近なロボット開発のほうが、AI×ロボット分野の知見を蓄えやすいということでしょう。

中国では教育向け・プログラミング学習用にロボットが使われることも多いため、理に適った戦略と言えます。

《米国企業に積極投資するVCも》

ちなみに、テンセントが米ワンダーワークショップに投資しているように、中国では米国のロボティクス・スタートアップに投資をする流れも強まっています。象徴的な例が、李開復(Kai-Fu-Lee)氏が立ち上げたVCのシノベーション・ベンチャーズ(Sinovation Ventures)です。
 
李氏は米国でアップルやマイクロソフト、グーグルなどを渡り歩いたエグゼクティブで、以前はグーグル中国オフィスの代表もやっていた人物です。シリコンバレーにおけるロボット産業発展のキーパーソンとして名前が挙がっていたアンディ・ルービン氏とも仲がいい。そんな経歴を持つ李氏が率いるシノベーション・ベンチャーズは、ロボティクス分野では米国のスタートアップに多く投資していて、国内ではAI関連のスタートアップに張っています。このお金の使い方は非常に面白いと思います。

《アリババは1兆円以上を投じて物流改革を進める》

続いて紹介するのは、BATの一つアリババの動きです。EC企業である同社は、アマゾンのようにロボットを物流拠点の革新に活用するべく、積極的な投資を行っています。
 
中国のEC各社はここ数年で商品の配送時間を大幅に短縮していますが、アリババ創業者のジャック・マー氏は「グループ内の物流子会社が世界に配達する時間を72時間に短縮する」と発表し、そのために1000億元(約1兆6000億円)以上の資金を用意しました。

この巨額の使い道として、すでに配送用ドローンへの投資計画などを打ち出しています。配送用ドローンの研究開発は、中国EC2位のJDも進めているので、いずれは無人のドローンが商品配送の一翼を担うようになるかもしれません。

また、アリババ・グループの物流システムを担うツァイニャオ(CaiNiao/菜鳥)は、倉庫における貨物の入庫・出庫から倉庫内の移動、箱詰め、ラベリングまで、あらゆる業務でロボットによる自動化を進めています。現時点で、倉庫業務の約70%をロボットが担っているそうです。私が倉庫内の様子を動画で観た時は、もはやアマゾンの物流拠点と同じレベルで自動化できているという印象を受けました。

物流システムがここまで整備されれば、後は大きなトラックで運んで、最後はドローンでも搬送するという前述の未来像が夢物語ではなくなるでしょう。中国は国土が広く、地方都市にどうデリバリーするか? という問題はありますが、課題が大きければ大きいほどテクノロジーの進化も早まるというのが世の常です。アリババはこの分野のリーディング・カンパニーになっていくかもしれません。

《商用ドローン世界一となったDJIの成長戦略》

次は、ドローン産業で世界のリーディング・カンパニーとなったDJIの動向を紹介しましょう。

2006年に生まれたスタートアップが、商用ドローンのシェア世界一を誇るまでに成長した背景には、2014年から急激に件数が増えた他企業との提携戦略があります。特に2015年末~2016年には、米フォード・モーターのような大手自動車メーカーからセンシング企業、地図作成会社など、幅広い業種の企業と提携しました。2018年にはマイクロソフトとの提携も結んでいます。

日本企業ではエプソンが提携しており、同社製のARスマートグラスを通じてドローンの空撮動画をリアルタイムに確認できるようになっています。
 
この例しかり、DJIが優れていたのは、さまざまな企業と提携しながらドローンの用途と楽しみ方を広めていった点にあったと言えます。また、DJIは拠点が深センにあるため、競合の米3Dロボティクスなどに比べて部品を安く手に入れられるというコスト面でのアドバンテージがあったのも大きいでしょう。

業界関係者からは2019年にもIPO(株式公開)するのではないかと言われており、さらなる成長が見込まれます。ただ、IPOした後は、今までと違った戦略が必要になるはずです。これまでの強みだった消費者向けドローンの販売だけでは、四半期ごとに業績が上下動するリスクがあり、株主から不安の声が出てくることも想定されるからです。産業用ドローン市場を開拓していくのか、新たなビジネスモデルを構築するのか。方向性はいくつか考えられます。

例えば、一度ドローンを売って終わりではなく、サブスクリプションモデルを構築していくのもアリでしょう。また、建機メーカーのコマツが採用する「スマートコンストラクション」のように、施工前の測量から設計、施工後の検査結果まで詳細にデータを取りながら、適切なタイミングでドローンを従量課金で貸すようなモデルもハマりそうです。

いずれにせよ、今後の成長にはシリコンバレー編のゲスト解説の大谷さんが言うRobot-as-a-Serviceのようなモデル構築が求められると思います。

ロボティクス分野の注目スタートアップ

この分野は、軍事用を除くと、大きく【産業用ロボット】【消費者向けロボット】【医療用ロボット】の3つに分類することができます。

それぞれのジャンルで、ハードウェア開発のみならずソフトウェア開発も盛り上がっているのが特徴です。そこで、この3ジャンルの中で我々が注目するスタートアップをピックアップしてみました。

《シリコンバレー/産業用ロボット》

■ Bossa Nova Robotics(ボサノバ・ロボティクス)
2005年に設立されたサンフランシスコのロボットメーカーで、小売り店向けの商品管理ロボット開発を進めています。在庫データの収集と分析を自動化することで、大規模な小売りチェーンの運営を効率化することをミッションに掲げており、米国ではWalmartの50店舗でテストを行っていたことで有名になりました。

本書発刊時点の合計調達額は約6000万ドル(約60億円)に上っており、類似企業のFetch Robotics(フェッチ・ロボティクス)にはソフトバンクが28億円を出資するなど、お店や倉庫の在庫管理ロボット開発は全体的に盛り上がりを見せています(吉川)。

■ Canvas Technology(キャンバス・テクノロジー)
2015年に設立されたロボットメーカーで、ロボットビジョン(ロボットのための視覚機能)のみを使用してレベル5=完全自動運転の自律走行型ロボットを開発しています。GPSの届かない倉庫や工場の中のように雑然とした環境でも自律走行が可能なため、建物内で荷物を運ぶ際などに重宝されるロボットです。

Googleやトヨタ、Qualcomm(クアルコム)、Kiva Systems(現・Amazon Robotics)などの出身者が集結して開発を進めており、出資しているのはアンディ・ルービン氏のPlayground Globalの他、米Yahoo!の創業者であるジェリー・ヤン氏が共同創業したVCのAME Cloud Venturesなど、錚々たる面々になっています(大谷氏)。

■ Saildrone(セイルドローン)
無人の水上艇船団を通じて収集した高解像度海洋データのプロバイダーであるSaildroneは、2013年に「海洋ドローン」をサンフランシスコからハワイまで航海させる実証実験に成功。現在はアメリカ海洋大気庁(NOAA)と提携しており、同社の海洋ドローンは海洋・大気測定装置として期待を受けています。2018年5月には、地球の状態をリアルタイムでモニタリングする海洋ドローン船団を開発するために6000万ドル(約60億円)を資金調達しており、非常に夢のある構想ということでピックアップしてみました(吉川)。

《シリコンバレー/消費者向けロボット》

■ Top Flight Technologies(トップフライト・テクノロジーズ)
ガソリン・電気併用のハイブリッド・ドローンを開発するスタートアップで、私が共同創業したTransLink Capitalの他、米ff Venture CapitalやScrum Ventures、個人だとマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ 所長の伊藤穰一氏などが出資しています。

ハイブリッドなので電動のドローンよりも積載重量と長時間飛行に優れており、2018年時点では10キロの荷物を積んで5時間くらい飛ぶことができます。いわばドローンとヘリコプターの中間的な役割が果たせるため、物資の長距離デリバリーにも応用できると見ています。

また、この長時間飛行の特徴を生かして、宇宙空間での調査飛行にドローンを応用する「Agile Aerospace 2.0」というプロジェクトも進めており、海運や農業分野でのデータ収集と課題解決にも乗り出しています(大谷氏)。

■ Savioke(サヴィオーク)
自律走行型のデリバリーロボットを開発している2013年創業のスタートアップです。同社のデリバリーロボット「Relay」は、仕事場や商業施設でオフィス用品や飲食物を運ぶことができる他、エレベーターに搭乗して客室のドア前まで移動することも可能なので、ホテルや高層ビル内でのルームサービス用途で注目を集めています。日本では、品川プリンスホテルが導入しています。  

SaviokeのCEOはRobot Operating Systemの「ROS」を開発したWillow Garageの出身で、同社のロボットはスターウォーズのR2-D2みたいな動きをしながら人や障害物を避けて動きます。これは、前述したユーティリティを追求したフォルムの一つという意味でも、個人的に注目しています(大谷氏)。

《シリコンバレー/医療用ロボット》

■ InTouch Health(インタッチ・ヘルス)
創業は2002年と少々古い会社ですが、近年は患者と医師が違う場所にいてもリアルタイムでコミュニケーションが取れる遠隔診療用ロボットを開発・提供しています。カメラ・マイク・ディスプレー・スピーカーを備えたロボット「テレプレゼンス・ロボット」は、あのルンバの開発で知られる米iRobotと共同開発をしており、2018年5月には2100万ドル(約21億円)を追加調達しています(吉川)。

■ Roam Robotics(ローム・ロボティクス)
空気圧を利用したアクチュエータ(電気信号を物理的な運動に変換する機械要素)で、関節機能に障害を持つ人の挙動をサポートする「エクソ・スケルトン」を開発している会社です。従来は医療用に使われた技術を一般消費者用に展開しようとしており、最初の製品はスキーヤー向け製品を発売予定とのことです。

特徴的なのは、金属で作られたアクチュエータではなく、柔らかい素材を使って人間の動きを柔軟にサポートしている点。こういうのを「ソフトロボティクス」と言って、ロボット産業でも注目され始めています(大谷氏)。

《中国/産業用ロボット》

■ Krund(クランド/克路德)
2015年6月に設立された、家電メーカー大手のHaier(ハイアール/海尔)グループ傘下のロボット会社です。「AI Born for Love」をスローガンに掲げ ており、2015年8月に発表した家庭用知能ロボット「哇欧」(ワオー)で有名になりました。その他、BtoB向けとしてセキュリティロボットや消防用ロボットなども開発しています。

2018年6月に上海で行われた「CES Asia」では、ハイアールがすごく大きなブースを出していて、スマートホームやスマートハウスのモデルを披露していました。その中にロボットはありませんでしたが、今後は同社のロボットも「コネクテッド・デバイス」の一つとして入ってくるかもしれません(田中氏)。

《中国/消費者向けロボット》

■ Dobot Magician(ドボット・マジシャン)
これは2015年に設立されたShenzhen Yuejiang Technologyという会社が開発したSTEM教育用のロボットアームです。Googleの開発者向け会議「Google I/O 2017」で取り上げられて注目が集まり、2018年6月には1500万ドル(約15億円)の資金調達にも成功しています。

Dobot Magicianは家庭用Wi-Fiで動くロボットアームとして、3Dプリンターやレーザーカッター、レーザープリンターなどの機能を一般家庭でも使えるようにしています。一般家庭で使うにはまだまだ安全面で課題がありますが、使い勝手と安全性をどう両立させるのか、今後の展開が見ものです(吉川)。

■ UBTECH Robotics(ユービーテック・ロボティクス)
Tencentが投資している中の1社として前述したUBTECHは、2018年5月にシリーズCラウンドで8億2000万ドル(約820億円)を調達し、AIロボティクス企業による単一ラウンド調達額で最高額を記録しました。

2012年に設立された同社は、ヒューマノイドロボットの「Alpha1 Pro」の開発・販売から始まり、その後に業務用ロボット「Cruzr」や子ども向けSTEM学習用ロボット「Jimu Robot」などを開発。これらの製品は日本をはじめ世界40カ国以上で販売されており、近年はAmazonのAIアシスタ ントAlexa(アレクサ)によって動作するロボット「Lynx」も発表しています。これはスマートホームデバイスとしても活用できるので、いろんな展開が期待できます(田中氏)。

■ Rokid(ロキド/芋頭科技)
2014年12月に設立されたRokidは、「Robot+Kid」の造語からできており、AI搭載の家庭用サービスロボットを主力製品としています。

現在は、付き添い型家庭用ロボットの「Rokid Alien」(若琪)や、家庭用知能娯楽アシスタントの「Rokid Pebble」(月石)など数種類の製品を販売。Alien(若琪)は音声認識を搭載し、各種家電をコントロールしながらニュース、天気、カレンダー、百科、音楽などのクラウドサービスと連動して情報提供を行うロボットになっています。一方のPebble(月石)は、いわゆるスマートスピーカーとして音楽再生や家電制御などができる他、タクシーの呼び出しや宅急便などのオンラインサービスも利用可能。2018年1月に1億ドル(約100億円)を資金調達して話題になりました(吉川)。

「体験」を売る時代にメーカーが行うべき4つの変化

~未来展望 シリコンバレー編 大谷俊哉氏に聞く~

この章の最後に、かつてのロボット産業で強さを見せていた日本企業が今後チャレンジするべきこととして、「メンタリティ」「ソフト」「マーケット」「ビジネスモデル」の4つで求められる変化を大谷氏が説明してくれました。

シバタ 大谷さん、順番に解説をお願いします。

大谷 まずは「メンタリティ」から。我々トランスリンク・キャピタルがシリコンバレーとアジア4都市(東京、ソウル、北京、台北)を拠点に事業開発支援を行ってきた中で常々感じていたことの一つとして、日本の製造業の会社はNIH(Not Invented Here)という発想がすごく強いんですね。要は自前主義というか、他国や他社で生まれた技術は採用するに値しないと考えている節がある。

それに加えて、高度成長期の名残なのか、「良いモノを作れば売れる」という考え方も非常に根強い。今の時代のモノづくりでは、このメンタリティが変わらないと、国際競争力がどんどん落ちていってしまいます。

例えば、EVの開発では米テスラが日本の自動車メーカーを先行しています。では、テスラのモノづくりが100%完璧で素晴らしいか? と問われると、そうでもないと答えるしかない。実際、かつてのテスラ車にはボディにわずかな隙間があって、「雨の日には雨漏りするから乗ってはダメだ」などと言われていました。

その他にもさまざまな問題を抱えながらも、テスラが世界のEV市場を開拓できたのは、マーケットの動向をつぶさに見ながら「欲しい」と思われるモノを素早く作り、提供し続けてきたからです。

以前、私は独メルセデス・ベンツの方が「テスラは体験を売っている」と話しているのを聞き、まさにその通りだと思いました。こういう発想の転換が必要な時期に差し掛かっているという意味で、メンタリティを変えなければならないでしょう。

そして、2つ目は「ソフト」開発の変化。メーカーにとって、ハードウェアを開発するだけで仕事が終わっていた時代は、もう過去のものとなっています。ロボットも同じで、クラウドサービスのプロセッシングパワーをうまく利用しながら、ハードウェアとどう連携させるか? を考えるのが不可欠になっています。

そうすると、当然ながらソフトウェア側の技術に詳しい人が必要になっていきます。日本のメーカーも、最近はソフトウェアエンジニアを積極採用しているようですが、たくさん囲い込んで組み込みソフトの開発をやればいいかというと、そういうことでもないわけです。

今求められているのは、例えばPython(プログラミング言語の一つで、機械学習のためにデータを処理するライブラリが豊富にそろっていると評されている)でコードを書きながら、リアルタイムにデータ分析をしたり、数々のAI機能を実装できるような人材です。

こういう人材を大量に採用するには、日本人だけを採用対象にしていては間に合わない。よりグローバルな視点で人材を探しながらソフトウェア開発を推進していく必要があると思っています。

続く3つ目は「マーケットの見方」についてです。今はやはり中国を見逃すわけにはいきません。中国の企業は、想定ユーザーの数が日本とはゼロが2桁くらい違います。そうすると、作り方やマーケティングのやり方も全く異なるわけです。日本企業は、このマーケットにどう入っていくか、真剣に考えなければならない時期になったと言えるでしょう。
 
最後の4つ目は、冒頭でRobot-as-a-Serviceというキーワードを挙げたように、「ビジネスモデル」を変化させなければならないということです。サービス化が進むと、ハードウェアを作っている人よりもサービスを提供している人のほうが消費者に近くなります。極端なことを言うと、グーグルが開発する自動運転車に乗る人は、クルマがどのメーカー製かなんて気にもしなくなるでしょう。

いざそうなった時、自分たちが前面に出るのか、それとも後方支援に徹するのかという戦略も含めて、日本のメーカーは立ち位置をはっきりさせる必要があります。

吉川 事業のスタートラインから見直す必要があるのでしょうね。経営では「選択と集中」が大事と言いますが、 Robot-as-a-Serviceが台頭してきた時に「集中」するべき事柄が「今ないもの」で構成されるなら、既存の強みはある程度捨てなければなりません。

日本のメーカーの場合、その「捨てなければならないもの」は自前で築き上げたテクノロジーになってしまうかもしれない。それでも、変化に適応するためには必要なことです。

大谷 同感です。もちろん、自社が強みにしているテクノロジーについては自前で作り続けるべきですが、それだけでなく他社に頼るという選択もより大事になってくる。まずはここを明確にしていくのが、非常に重要だと思います。

例えば2016年、シャープが台湾のグローバル電子機器メーカーであるフォックスコン(Foxconn)グループに買収されましたが、もしもあの買収が「シャープの経営状態がもっと良い状態で」「自分たちの強みを認識した上でフォックスコンと組む」というものだったら、今よりもっと良い関係が築けたのではないかと思います。

フォックスコンはシャープの製品開発力に魅力を感じていたと公言していますし、シャープからすればフォックスコンの持つ資金力とグローバルマーケットへの展開力を手にすることができる。このような国境と越えた提携は、これからもっと増えていくべきだと思うのです。

ロボット産業でも、自社の持っているロボット技術を求める誰かと組んで、新しいことを始めることができます。その相手はグーグルかもしれないし、フォックスコンかもしれない。うまくそういう企業と組みながら、外のマーケットを見る視座を得るという戦略は、「ゆでガエル」になる前に必ず必要になるはずです。

これでChapter05:ロボティクスの章は終わりです。この分野は特に、AIなど異なる産業の発展と密に絡み合って進化を遂げていることがお分かりになったでしょう。自動車や小売り、飲食業など他の産業でも同じく「AIシフト」が進んでおり、現時点でそれをリードするのはシリコンバレーや中国の先進企業となっています。具体的にどんな取り組みが行われているのか? ぜひ本書で詳細をチェックしてみてください!

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