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Q. ヤフーのZOZO買収で本当に本当に欲しかったものは何か?

A. (たくさんありますが、一つ上げるとすれば)ZOZOの物流の仕組み。

先日衝撃的なニュースが飛び込んできました。ヤフーがZOZOを買収して連結子会社化するというニュースです。

ヤフー株式会社による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する意見表明及び同社との資本業務提携契約締結に関するお知らせ

ヤフー株式会社と株式会社ZOZO 共同記者会見 プレゼンテーション資料

個人的な直感ですが、これはとても戦略的に理に適った買収だと思います。具体的にはTOB(公開買付)という形で買収を行うわけですが、まずはTOBの詳細を見ていきましょう。


本TOBの概要

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買収の大まかなストラクチャーとしては、ヤフーが公開買付でZOZOの株式の50.1%を約4,000億円で買収するというものです。

創業者である前澤氏が保有する37%の内、今回のTOBにおいては30.37%を売却して残りの約20%をマーケットから買い取るという形になっています。前澤氏が保有する残りの約6%に関しては、最終的には0%にする方向になっています。

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TOBとしては、買付予定の下限株式数が約1億196万株、が約1億5,295万株となっていますが、最大分を買い付けた場合のヤフーの持分が50.1%になる計算です。

前澤氏が約9,272万株分を売却する事に応じているので、このTOBが成立しないという可能性は非常に低いと言えるでしょう。


本TOBで支払われるプレミアム

今回のTOBにおいて支払われるプレミアムについて少し見ておきましょう。

通常、上場企業の公開買付けが行われる場合は、その時点での株価に対して何らかのプレミアムを乗せて、少し高い値段で買い付けるという方法をとります。そうすることで既存の一般株主がTOBに応じるインセンティブを出しているわけです。

TOB価格は2,620円。
 前営業日の株価終値2,166 円に対して20.96%のプレミアム。
 過去1ヶ月間の終値単純平均値2,111円に対して24.11%のプレミアム。
 過去3ヶ月間の終値単純平均値2,011円に対して30.28%のプレミアム。
 過去6ヶ月間の終値単純平均値1,993円に対して31.46%のプレミアム。

こちらが実際に買収されるTOB価格と、過去の株価に対してのプレミアムの一覧です。

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第三者機関に依頼して算出された株式会社はこちらにある通りですが、今回のTOB価格はこの株価のレンジに収まっているので、妥当だと言えるのではないでしょうか。

プレミアムが20%というのは、利用日においてはそこまで高い方ではないかと思いますが、今回の場合、買い取る株式の大半は前澤氏の保有する株式になるので、前澤氏が株式を売却したがっていたことも踏まえると、Yahooとしてはそこまで大きなプレミアムを払わなくてもTOB が成立すると踏んで、この程度のプレミアムにしたのではないでしょうか。


アスクルの二の舞にはならない?買収後のガバナンス

アスクルの件でひと悶着あったので、ガバナンス面も見ておきましょう。

*ヤフーは本当にLOHACOを強奪しようとしたのか検証してみる(2019/8/13)

・買収完了後、直ちに「指名報酬委員会」を設置する
・取締役9名のうち、ヤフーが2名を指名
・社外取締役が1/3以上である必要あり
・ボードオブザーバーを2名ヤフーが指名できる

取締役会の構成を見ると、取締役9名のうちは2名しか指名しないことになっており、かつ社外取締役が1/3以上という条件が入っていますので、ガバナンスの構造としてはヤフーが強く締め付けることができない構造になっています。

アスクルの件で、取締役会での内部氾濫があったのでらZOZO側からのプッシュバックが大きかったのかもしれません。

取締役会レベルでは、上で書いたようにZOZO側に大きなコントロール権があるようにあるようなストラクチャーになっていますが、一方で株式はきっちり過半数を超える割合を取ろうとしているという点は、アスクルのケースとは大きく違うのではないでしょうか。

ヤフーが過半数を保有しているので、株主総会マターに関してはヤフーが完全にコントロールできるという構造になっています。


それ以外にヤフーの承認が必要な事項

今回ZOZOはヤフーの連結子会社になるだけではなく、Yahooが株式の過半数以上を保有することになるので 以下の点に関しては必ず Yヤフーの合意がないと実行できないようになっています。

・定款の変更
・30%以上利益が減る事業計画変更
・売上が+-10%以上増減するあるいは、利益が+-10%以上増減する買収など
・解散・清算・倒産

これらの項目もそれなりにリーズナブルに見えますが、会社の事業計画や構造を大きく変更する場合は当然ですが親会社の承認が必要だという情報が明確に入っています


4,000億円の買収資金はどこから捻出?

さて今回の買収は約4,000億円の現金で買収することになるわけですが、この現金をヤフーはどこから捻出するのでしょうか。ヤフーの貸借対照表を見てみましょう。

ヤフー株式会社 2019年度 第1四半期決算 プレゼンテーション資料

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ヤフーは楽天のように銀行とクレジットカード会社を連結しているため、連結で見ると貸借対照表が若干複雑ですが、大雑把に見ると以下のようになっていると言えるでしょう。

1.77兆円の負債
2.28兆円の現金相当資産
 => 現金相当は約5,000億円

現時点でヤフーの貸借対照表には、約5,000億円相当の現金しかないという風に見えますので、今回の買収資金の4,000億円は、ヤフーとしてもかなり大きな賭けだったということがご理解頂けるのではないでしょうか。

恐らくヤフーとしては、この買収の前後で銀行からの借入を増やして、もう少し資金を厚めに持つことになるのではないかと推測されます。ヤフーは黒字会社で、毎年非常に大きな利益を生み出している会社なので、銀行からの借り入れは問題なくできるのではないかと思います。


ヤフーが本当にほしかったものは何か?

さて今回の買収でヤフーが本当に手に入れたかったものは何か?というのも少し考えてみたいと思います。

一つ目はヤフーの成長戦略にもある、eコマース事業における取扱高と営業利益の足し算ということになるのではないでしょうか。

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このスライドにある通り、ヤフーのeコマース事業は年間の取扱高が1.87兆円まで増えてきています。そこにZOZOの3,231億円が足されるという計算になります。

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営業利益ベースで見ると、ヤフーのコマーシャル事業の営業利益は年間558億円ですが、zozoの営業利益を追加することで1.8倍の規模感になるという事で、利益面での貢献が非常にに大きいというのが今回の買収の最大のポイントではないかと思います。

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最近はアスクルとのトラブルがあったので、ヤフーのM&A戦略に疑問を持つ人も多いかもしれませんが、買収に関しては実はとても成功しており、トラベル事業の取扱高は買収前後で1.9倍という風に、大きく伸びています。

二つ目にヤフーが欲しかったものというのは、ファッションカタログ(とその作り方)なのではないでしょうか。

eコマース事業を担当された方であれば、ファッションカテゴリーというのは他のカテゴリーと違う点がとても多いということに気づかれる方が多いかと思います。

同じ商品でも異なる色サイズなどなど、カタログの管理がとても複雑なのがファッションカテゴリーです。

2010年にヤフーとZOZOは以下のような提携をしていました。

Yahoo! JAPAN と スタートトゥデイの業務提携、4つの事業からスタート [2010年11月24日]

1) ファッション製品データベース(Fashion Data Base)に関する事業
スタートトゥデイは、ZOZOTOWNで取り扱う製品情報をはじめ、それ以外の国内で流通するファッションブランドの製品情報をも集めた日本最大級のファッションデータベース(Fashion Data Base 以下、FDB)の構築を目指します。このFDBを利用し、本日よりYahoo! JAPANは、Yahoo! JAPAN内のショッピングサイト「Yahoo!ショッピング」にてFDBに登録されている商品の情報を検索結果などに表示します。また今後は「Yahoo! FASHION」をはじめ、Yahoo! JAPAN内のファッション領域にて、このFDB製品情報を表示予定です。表示された製品のリンク先はZOZOTOWNをはじめとしたそれぞれの正規取り扱いオンラインショップとなります。

今回の買収で、ここにあるようなファッションデータベースの構築がさらに進んでいくと、ZOZOの取扱だけだけではなく、ヤフーショッピングや今後ローンチされるpaypayモールなどでもファッション関連の取扱高が増えていくのではないでしょうか。

ファッション関連のカタログデータベースがしっかり整備されれば、対メルカリという文脈でも非常に大きな競争優位性を作れるのではないかと考えられます。


ヤフーが本当に本当に欲しかったものは何か?

以上、二つほどヤフーが欲しかったものというのは想像して書いてみましたが、実は本当にヤフーが欲しいものというのは、ZOZOの物流の仕組みなのではないかと思います。

ZOZOのサービスそのものが、ブランドから在庫を預かって在庫管理や配送まで行うという、楽天市場やヤフーショッピングから見ると一歩進んだ物流サービスまで提供しているものになっています。

これはまさ、Amazonがフルフィルメントサービスとして提供しているサービスそのものですが、このサービスは今後のECプラットフォームに必ず必要になってくるサービスだと言えます。

更に、ZOZOは現在、物流センター「ZOZOBASE」というものを拡張中です。

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株式会社ZOZO、2020年秋に物流センター「ZOZOBASE」を拡張

楽天市場のこれから 三木谷 浩史氏が語る「物流へ2000億円投資」「送料無料ライン」「ZOZO追撃」

実際楽天は2,000億円を投資して物流インフラを作ろうとしています。

そう考えると、今回4,000億円で ZOZOの売上利益を取り込めるだけではなく、その物流インフラをそのまま手に入れられると考えれば、実は今回の買収はあまり高い買い物ではないのかもしれないと言うことも出来ますね。

Shopify buys warehouse automation tech developer 6 River Systems for $450 million

海外では、ヤフーショッピングや楽天のようなECプラットフォームであるShopifyが、つい最近物流サービスを手掛けるスタートアップを$450M(約450億円)で買収したばかりです。

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6 River Systems

Shopifyも対アマゾンという文脈において、ZOZOが提供しているような、あるいはAmazonがフルフィルメントサービスとして提供しているような物流サービスが必要になるということが明確に分かっているため、このような買収を行っているわけです。

そういった意味で、今回の買収はヤフーのeコマース事業における物流戦略としても、非常に大きな意味を持つ買収になる可能性があると個人的には考えています。


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