Q. AI企業の決算からわかる、3つの成長ドライバーとは?
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Q. AI企業の決算からわかる、3つの成長ドライバーとは?

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A.3つの成長ドライバー
・クロスセルや大口顧客増加による、1顧客あたり単価向上(WACUL、AI inside)
・顧客基盤の拡大(PKSHA Technology、ニューラルポケット)
・対象顧客の拡大(PKSHA Technology、ALBERT)

この記事はゲストライターとの共同制作です。

2021年3月に書いた国内AI企業の分析記事は大変好評でした。

DX化の推進などを背景に、AIシステムに対するニーズや市場は引き続き拡大していると考えられますが、そのような追い風の状況下で、国内AI企業各社はどのような決算となったのでしょうか。

今回は、KPIデータベースの情報を元に、前回記事にした国内AI企業5社に1社加えた、以下の6社の業績を俯瞰、比較していき、AI企業の成長要因として考えられるポイントを探っていきます。

AI inside(エーアイ インサイド)
PKSHA Technology(パークシャ テクノロジー)
ALBERT(アルベルト)
ニューラルポケット
HEROZ(ヒーローズ)
WACUL(ワカル)

『KPIデータベース』は、日米のネット企業の業績・各種KPIをまとめて提供しているサービスです。法人向けのサービスとなりますが、興味のある方は、以下の記事をご覧ください。

AI関連市場予測

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まず、WACULの決算説明資料から国内AI関連市場規模の概観を見てみましょう。

国内AIシステム市場の市場規模は、2019年には818億円ですが、2024年には3,459億円まで成長すると見込まれ、これはCAGR(年平均成長率)33%という高い数値です。

コロナ禍で、人材不足を補うためにAIによるオペレーションの自動化、データマネジメントや高度な分析などを目的としたAIシステムの導入などが進んでおり、今後も事業プロセスをAIによって変革するための投資が堅調に推移すると考えられるため、このような成長性の高い市場予測になっています。


四半期売上推移の横比較

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(WACULは決算説明資料より作成。それ以外はKPI DBより)

次に、各社のFY19Q1(2019年1-3月期)以降の四半期売上と成長率の推移を比較してみましょう。比較表は、上部が売上推移で、直近のデータであるFY21Q1(2021年1-3月期)の売上が高い順に上から並んでおり、下部は売上成長率の推移で、同様に直近決算の前年同期比(YoY)成長率が高い順に上から並んでいます。

6社のうち、直近の成長率が高い上位3社は、AI inside(YoY+149.3%)、ニューラルポケット(YoY+76.4%)、WACUL(YoY+59.3%)となっており、非常に高い成長率となっています。

AI insideとニューラルポケットは成長率が鈍化している傾向にありますが、それでも高水準の成長率であることには変わりありません。2021年2月にIPOしたWACULは、毎期順調に成長率を上げています。

一方、直近の成長率で下位に位置する3社は、HEROZ(YoY+1.6%)、PKSHA Technology(YoY+7.7%)、ALBERT(YoY+25.9%)と、上位3社の成長率との差が目立ちます。
PKSHA Technologyは、FY21Q1(2021年1-3月期)四半期売上が20.6億円と、6社の中で最も大きな規模になっていますが、成長率は前四半期比(QoQ)でも-3.3%と鈍化しています。

市場全体では高い成長性が見込まれていますが、各社を横比較すると、成長率にかなりのばらつきがあることがわかります。


通期YoY売上比較

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次に、国内AIシステム市場のCAGRは+33%と予測されていることを念頭に置きつつ、通期の業績予想でも各社を比較してみましょう。
なお、AI insideは一時的に大きく変動したNTT西日本向けOEMを除いた売上を反映させています。

各社の通期のYoY売上成長率の平均は+34.5%であり、国内AIシステム市場のCAGR予測の+33%とほぼ同じ成長率になっています。しかし、最も成長率を高く予測しているニューラルポケットはYoY+64.8%、最も成長率が低い予測となっているHEROZはYoY+9.3%となっており、その差は55.5ポイントもあります。

四半期決算の売上成長率同様に、企業によって成長率にばらつきがあることがわかります。

ここからは、各社の決算の内容から、ばらつきのある成長率の要因を探っていきたいと思いますが、その前に、2021年2月にIPOしたばかりのWACULのビジネスモデルを解説していきます。

なお、その他の企業のビジネスモデルについては、以前の記事で簡単に解説しているので、気になる方は、こちらをご覧ください。


WACULのビジネスモデル

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WACULは、企業ウェブマーケティング活動を支援するサービスを展開している会社で、「AIアナリスト」という自社開発のSaaSサービスや、DXのコンサルティングサービスを提供しています。

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直近の2021年2月第4四半期の決算を見てみると、四半期売上は2.14億円でYoY+57.8%となっており、コロナ禍でマーケティングDX市場が拡大したことが背景に、高い成長率を実現しています。

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SaaS企業として見た場合の、KPIも見てみましょう。
おさらいですが、SaaS事業の健全性を示す主要なKPIとその基準は、以下のものがあります。

・40%ルール:売上成長率+営業利益率≧40%
・CAC回収期間:(顧客獲得費用÷顧客増加数)÷ARPU≦12ヶ月
・LTV / CAC Ratio:LTV÷CAC≧3倍

補足
・CAC:顧客当たりの顧客獲得費用
・ARPU:顧客当たりの収益
・LTV:顧客生涯価値(ARPU×(1/解約率)×売上総利益率)

WACULの決算からこのKPIを計算すると、それぞれ以下のようになります。

・40%ルール:70.8%
・CAC回収期間:4.9ヶ月
・LTV/CAC Ratio:2.4倍

LTV/CAC Ratioのみ基準値に満たない数値になっていますが、40%ルール、CAC回収期間は大幅に基準値を上回っており、WACULは、SaaS企業として優れた企業であることがわかります。

ここまで、AI市場の成長性が高いことを踏まえてAI企業各社の決算を概観し、各社の成長率の平均値は市場の成長予測に近い水準にあることがわかりました。
しかし、個社別に見ると成長率にはばらつきがあり、成長率を左右する要因があると考えられます。

そこでここからは、「3つの成長ドライバー」という軸で決算内容をさらに深掘り、AI企業が今後さらに成長するために必要な要素を読み解いていきます。


#1クロスセルや大口顧客増加による1顧客あたり単価向上(AI inside、WACUL)

1つ目の成長ドライバーは、クロスセルや大口顧客増加による1顧客あたり単価向上です。

これは、AI insideとWACULに当てはまるポイントです。

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AI insideは、手書きや写真の文字をデジタルデータ化するAI-OCRソリューション「DX Suite」を主力製品としたサービスを展開しています。

上図にあるように、AI insideでは、ACV(年間発注額)の高い大口顧客(Large Customer)を2021年3月末時点で1,034社に昇り、YoY+47.7%と大幅に成長させています。

2022年3月期も同レベルの成長率で1,523社まで増加する予想になっており、大口顧客獲得による単価上昇で売上を伸ばす計画になっています。

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WACULは、マーケティングDXにおけるPDCAサイクルにおいて、主要サービスである「AIアナリスト」による改善提案に沿った実行・実装を行うサービスとして、「AIアナリストSEO」と「AIアナリストAD」というクロスセル商材を用意しています。

これらのサービス群によって、効率的にクロスセルを生み出す仕組みを構築しているわけです。なお、AIアナリストSEOおよびAIアナリストADの収益構造は、広告運用本数に応じた従量課金制になっているため、顧客がAIアナリストを利用すればするほど、WACULの売上は積み上がっていくモデルです。

2021年2月期の通期でクロスセル率は15%となっており、前年の8.5%、前々年の4.9%から大きく成長しており、クロスセル戦略に成功していると言えるでしょう。


#2 顧客基盤の拡大(PKSHA Technology、ニューラルポケット)

2つ目の成長ドライバーは、顧客基盤の拡大です。

これは、PKSHA Technologyとニューラルポケットが目指している方向性です。

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PKSHA Technologyは、機械学習技術など複数のアルゴリズムをコアテクノロジーとする企業で、顧客情報やFAQなどのデジタル情報を分析しながら知能化させていく「Cloud Intelligence」セグメントと、スマートシティ化に向けたリアル空間のオペレーションを知能化させていく「Mobility&MaaS」セグメントの2つの領域を軸に事業を展開しています。

PKSHA Technologyの成長ポイントは、M&Aによる顧客基盤の拡充にあります。2021年5月13日に発表したOKbiz(オウケイウェイブ)社とアシリレラ社の買収によって、それぞれ600社と1,000社の顧客基盤拡大に成功しており、プロダクトの相互送客によって売上を成長させる基盤ができています。

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ニューラルポケットは、AIカメラによる物体検知、種類分別、空間認識などのAI技術を開発、提供している企業で、その特性を活かし、スマートシティ推進に広く参画しています。

顧客シェアは、ソフトバンク向け売上が全社のうち47.3%と半分近くを占めています。特定取引先への売上依存は業績変動リスクが大きくなるため、新たな事業パートナーを推進する必要があると考えられます。

その点では、

・駐車場・モビリティを大手商業施設や物流施設への提供
・3D都市マップを自動車会社・タクシー会社・保険会社への提供
・サイネージ広告を大手広告代理店へ提供

など、様々なサービス提供のポテンシャルがあるため、事業パートナーの推進は今後も進めやすい状況にあると考えられます。

参考比較として、AI insideの顧客シェアを見てみると、NTT西日本向けが46.8%と半分近いシェアを占めています。しかし、今期(2022年3月期)はNTT西日本向けの売上が80%以上減少する見込みであり、さらに前述した通り、大口顧客の獲得が順調に進んでいるため、NTT西日本への依存度は大幅に改善する見通しです。

HEROZの顧客シェアも見てみると、Appleと Googleの割合が高いですが、その売上は個人向けゲーム課金であるため、事実上特定先に依存していないと言えます。


#3 対象顧客の拡大(PKSHA Technology、ALBERT)

3つ目の成長ドライバーは、対象顧客の拡大です。

これは、PKSHA TechnologyとALBERTに当てはまります。

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上図の「Y軸」で示されているように、PKSHA Technologyは、現在、広告、小売、コールセンター、イメージング、モビリティを対象顧客としており、提供例としては、自然言語処理技術をコアとしたサービスをコールセンターに提供しています。

今後は、自然言語処理技術を応用して大企業向けリーガルテック領域への参入、画像処理技術をコアとしてアパレル分野への参入を手掛ける予定です。

さらに、顧客ターゲットもナショナルクライアントに加えてミッドマーケットへの提供で、顧客のすそ野を拡大することも狙っています。

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ALBERTは、ビックデータ集積からシステム実装まで一気通貫した受託開発を行うプロジェクト型サービスを中心に、チャットボットの「スグレス」や画像認識サービスの「タクミノメ」などの自社プロダクトサービスも提供しています。

ALBERTは、自社が「カタリスト(触媒)」となる戦略で業務提携の幅を拡大させています。例えば、自動運転のプロジェクトで、トヨタと東京日動海上と業務提携していることに加えて、ALBERTがプロジェクトを推進することで、金融、人材、通信など関連企業を巻き込んで、プロジェクト全体を大きくして、取引規模を拡大を図っています。


まとめ

AI市場全体が成長する中、各社の成長率は大きなばらつきがあることがわかりました。

今回のタイトルであったAI企業の3つの成長ドライバーの答えを元に、内容をまとめます。

Q. AI企業の決算からわかる、3つの成長ドライバーとは?の答え
・クロスセルや大口顧客増加による、1顧客あたり単価向上(AI inside、WACUL)
・顧客基盤の拡大(PKSHA Technology、ニューラルポケット)
・対象顧客の拡大(PKSHA Technology、ALBERT)

AI insideはACV(年間発注額)の高い大口顧客を年間で1.5倍近く増加させ、WACULは従量課金制の商材をクロスセルすることで、顧客の利用頻度に応じて売上が上がる仕組みを構築し、それぞれの方法で1顧客当たりの単価を向上を図っています。

ニューラルポケットは、ソフトバンクに対する売上比率が47.3%と高いですが、サービスパイプラインは充実しており、複数企業に新規販売することにより、ソフトバンクへの依存度を下げながら顧客基盤も拡大させることができる可能性があります。

ALBERTは、カタリスト(触媒)戦略によって、プロジェクトを推進する中で様々な業界企業を巻き込みながらプロジェクトの規模を拡大することで、対象顧客の拡大を図っています。

PKSHA Technologyは、M&Aによる顧客基盤の拡充を推進しており、自然言語処理技術、画像処理技術を活かすことでリーガルテック、アパレル、海外などの新たな業界、地域への顧客拡大も狙っています。

企業のDX推進においてAIシステムの導入ニーズは引き続き高いと想定されるので、AI企業が高い成長を維持できるのか、成長ドライバーとなるKPIに注目していきたいと思います。


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