Q. SNSで酷評のBALMUDA Phoneは本当に失敗だったのか?
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今回は、バルミューダから発売された「BALMUDA Phone」が世間から言われているように、本当に失敗だったのかを、決算説明会資料を元に検証していきます。
バルミューダは、2003年に設立された日本の家電メーカーです。代表的な製品として、スチームトースター(25,850円)、扇風機(39,600円)、電気ケトル(13,200円)等があります。
いずれの製品も他社より高い価格帯ですが、既存の家電に革新的な機能を付加した点とスタイリッシュなデザインが人気となり、次々に新製品を発売し、2020年12月に上場しています。
バルミューダの製品開発者は、「最も大切なのは、その物を通して得られる気持よさや心地よさ。物より体験。」と語っており、体験を大事にするコンセプトが他社製品との差別化要因となっています。
そんな独自の思想を持ったバルミューダが携帯端末関連事業に参入した第一弾の製品が「BALMUDA Phone」です。
革新的なデザインや機能やスタイリッシュなデザインの製品を高価格帯で売るブランド戦略を取っていたバルミューダが、「性能に対しての相場がある程度固定している」スマホ市場に製品を投入したため、発売前は今までに無いスマホになるのではないかと注目を集め、期待値が高まっていました。
BALMUDA Phoneを酷評する声
ところが、BALMUDA Phoneは2021年11月の発売開始以来、「ミドルスペックにも関わらず高価格(10.4万円)」とネット界隈で酷評されています。ミドルスペックのスマートフォンの価格帯は4万〜6万円くらいが相場であり、スペックだけで見るとかなり強気な価格設定です。
ネット界隈では様々な意見がありましたが、最も大きなネックになっているのは、性能に対して価格が高すぎるという点です。ネットの声を反映してか、発売から半年を待たず、2022年3月10日にSimフリー版を10万4,800円から7万8,000円に値下げすることを発表しています。
製品の値段を下げるのはバルミューダとしては初めてです。一方で4月1日からは材料価格の高騰による他の家電製品の値上げを発表しており、BALMUDA Phoneの値下げは戦略的な決断であったことが分かります。
Yahooのリアルタイム分析によると、値下げ後もTwitter界隈ではネガティブな意見が依然多いようです。SNSでの酷評は、決算書にどう影響が出ているのでしょうか。バルミューダの最新の決算の数字を見てみましょう。
バルミューダの決算
2021年12月期 決算説明会(2022年2月10日)資料からBALUMUDA Phoneの数字を紐解いていきます。
2021年Q4
売上:72.9億円(YoY+62%)
営業利益:10.8億円(YoY+37%)
2021年Q4(2021年10-12月)は、売上・営業利益共に過去最高を記録しています。好調な理由としては2つあり、1つは携帯関連事業が立ち上がったこと。2つ目は、コーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」が計画の2倍売れたことが売上を伸ばした要因となります。
次にBALUMUDA Phoneはどれだけ売れたのか、バルミューダのブランドに対してどう影響したのか、またBALUMUDA Phoneは本当に失敗だったのかを決算数字を元に5つの観点から検証していきます。
観点#1: 実は期初予想を上回る売れ行き
BALUMUDA Phoneは、発売前の段階で策定した期初の予想売上27億円に対して、28.4億円と予想を上回っています。また、売上に占める構成比としても期初予想の14.9%に対して、15.5%と上回っており、携帯端末関連事業としての初速は成功しているように見えます。
売上台数は、売上(28.4億)を販売価格(10.4万円)で割り、2万7,000台と推測できます。発売日が11月末であることを考えると実質1ヶ月の販売台数となります。
MM総研が公表した21年度上期(21年4〜9月)のスマホ出荷台数は1,472万台で、月の平均出荷台数は245万台となります。BALUMUDA Phoneの出荷台数は全体の1.1%であり、大衆向けの製品で無いことが分かります
観点#2: 40%前後の高い売上総利益率を維持
バルミューダ全体の売上総利益率は、コロナによる世界的なサプライチェーンの混乱や半導体不足、円安の影響があり、やや悪化はしているものの、製造業としては非常に高い売上総利益を維持してます。
BALUMUDA Phoneが売上の15.5%を占めていることを考慮すると、BALUMUDA Phoneもバルミューダ社の利益の中で、大きな利益幅を(少なくとも初期では)作っていることが推測できます。
2019年の経済産業省の調査によると、国内製造業の1企業あたりの売上総利益率は、平成29年度で20.5%、平成30年度で20.6%である一方で、Appleやサムスンの競合であるHuaweiの売上総利益率は、FY2020時点で36.7%、FY2019時点で37.6%です。
観点#3: 開発費は営業利益の56%を投入
バルミューダは工場を持たないファブレスメーカーであるため、スマホの開発はデザインとUI、独自アプリの開発、また広告宣伝費に投資したと考えられます。通期営業利益15億円に対して、R&D費用11.4億円であり、そのうち、8.4億円(営業利益の56%)を携帯端末関連事業に使ってます。
営業利益率は、2021Q3(2021年7月-9月)は一時的に赤字となっていますが、2021Q4(2021年10月-12月)には大きく回復しています。Q3で一時的に赤字になった原因は、携帯端末事業関連の試験研究費をはじめ販管費が増加した為です。
携帯端末関連事業は他の家電事業と異なり、ソフトウエアの継続的なバージョンアップや次期モデルの開発のために多額の費用が必要となります。一定以上の数を継続的に売り切らないと、携帯端末関連事業はビジネスとして厳しくなります。
観点#4: BALMUDA Phoneの販売を支えた存在
BALMUDA Phoneの販売パートナーとして、ソフトバンクが独占販売をしています。ソフトバンク以外では、バルミューダ直営店からも購入でき、ソフトバンクの「キャリア市場」とバルミューダ直営店等から購入する「SIMフリー市場」の2つが市場として存在します。
MM総研の調べによると、2021年上半期に発売されたスマートフォン全体の83%がキャリア市場で販売されています。BALMUDA Phoneの販売台数をこの比率に当てはめると、
販売推定数:2万7,000台
ソフトバンクの販売台数 :2万2,410台
バルミューダでの販売台数: 4,590台
と推測されます。この数字は、決算書の売掛金の項目からも推測されます。
2021年の売掛金は53億2,100万円でした。前年度の売上高との比較からソフトバンクへのBALMUDA Phoneの売掛金を以下のように推測しました。
・2020年Q4の売上:44億8,900万円
・2021年Q4の売上:72億9,300万円
売上として前年比62%アップしています。この数字から
①2021年末の携帯端末以外の売掛金 :36億9,000万円<22.78億(前年度売掛金)*1.62>
②携帯端末の売掛金(ソフトバンク):16億3,000万円(定価の6割の仕入れ値として約2.6万台分)<今年度売掛金 - ①>
売掛金の推定値も推定販売台数から妥当であり、ソフトバンクが販売を支えていたことが推測できます。バルミューダの決算上の売上は、ソフトバンクに出荷した時点で計上されており、実際にユーザーに販売された数字ではない点に注意が必要です。
これらの数字から、BALMUDA Phoneの後継機が成功するか否かは、ソフトバンク次第ということも読み取れます。
観点#5: バルミューダの高価格化戦略
バルミューダの商品戦略として、マーケットの市場シェアを高めるのではなく、高付加価値で利益率の高い商品を、ブランド価値を理解してくれている層に届けています。バルミューダの代表的な製品でもマーケットシェアは1%〜5%ほどで、平均価格に対して2〜10倍の価格帯を設定しています。
この商品戦略から考えると、BALMUDA Phoneが他のスマホよりも高価格帯で差別化を測っているのは、差別化戦略の結果と考えられます。
戦略の転換は必要
2021年12月期は、期初予想を上回る28.4億円の売上を記録したBALUMUDA Phoneですが、来期の通期売上予想は対前年比61.9%マイナスの10.8億円と非常に弱気な数字となっています。
これは、販売パートナーのソフトバンクが大幅に販売価格を下げてまで販売するなど、顧客に対するリーチが弱かったために戦略を大きく変更していることを示唆しています。
バルミューダの株価は、BALMUDA Phone発表以降下落が続いており、2022年2月10日に2021年度の通期売上・営業利益共に過去最高という発表をしても、株価が低迷しています。
まとめ
この記事では、ネット界隈で言われるように「BALMUDA Phoneは本当に失敗だったのか?」を決算説明会資料の数字を元に整理してきました。ポイントをまとめます。
・BALMUDA Phoneは当初予想を上回る売上となっており、バルミューダの携帯端末関連事業は初速では成功している
・販売台数の8割をソフトバンクが販売していると推測される
・ソフトバンクの販売数が伸び悩んでおり、来期の売上予想は初年度から61.9%下回った数字で設定している
ソフトバンクの決算説明会の席上でソフトバンクの宮川社長から「BALMUDA Phoneを取り扱ってよかった。日本メーカーのチャレンジは支援したい」という発言があり、今後もソフトバンクとのパートナーシップが続くことが予想されます。
BALMUDA Phoneの初速の売上は予想を上回ったことは確かです。しかし、他のバルミューダ製品は原材料高騰の影響で初の値上げを行うことを決定しているにも関わらず、BALMUDA Phoneは発売後半年を待たずに値下げを決行。
来期の売上は今期の4分の1程度になる予想を出しているなど、赤字こそ出してはいないのかもしれませんが、成功か失敗かを現時点で判断するのは難しいと言わざるを得ません。この結論がどうなるか、引き続き追っていきたいと思います。
国産のスマートフォンのシェアが縮小する中で、性能や価格ではない、独自の切り口で市場を開拓するバルミューダのスマホ戦略に期待します。
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