コロナウイルス拡散を食い止めるために一番有効な打ち手とは?
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今日の記事は、少し決算と離れますが、世界中で感染が拡大している新型コロナウイルス(以下、コロナウィルス)について書いてみたいと思います。
友人や読者の方から、「コロナウイルスが我々の経済や生活にもたらす影響について」いくつか質問を受けているのですが、このウイルスは色々と特殊なことがあり、公開されている情報やその公開のされ方も不明瞭な部分が多々あるように思います。このような状況ですが、なるべく科学的根拠に基づいて、現時点(3/7日時点)での私の理解というものを整理しておきたいと思います。
なお、私は医療関係者でもなければウイルスの専門家でもないので、もしこの記事の内容に事実に反することがあれば、是非コメント欄などで教えていただければと思います。
コルナウイルスは想像していたよりもヤバそう...
コロナウイルスに関して、最初のうちはそこまで真剣に心配しなくても大丈夫な類のウイルスだと私は思っていました。しかし時間が経つにつれて少しずつ状況が変わってきました。
時系列で主観的な印象を述べると以下のようになります。あくまでも私の個人的な意見です。
そんなに心配しなくても大丈夫では?
⇓
うぉ、かなりやばいウイルスだ...
⇓
しっかり手を打てば、被害を最小限に食い止めることはできそうだ
少なくとも普通のインフルエンザなどと比べれば、かなり危険度の高いウイルスだということが分かってきています。一方で、被害を最小化するための方法も徐々に見えてきているので、そのあたりを整理してみたいと思います。
かなり危険度の高いウイルスだと考えられる理由はいくつかあるわけですが、非常に拡散しやすい(感染力が高い)ウイルスであること、死に至る可能性がそれなりに高いウイルスだということが挙げられます。
アメリカでは、3月7日にBUSINESS INSIDERから以下のようなシミュレーションが公表されています。
(このスライドはAmerican Hospital Association(AHA)のマークが入っていますが、AHAが公式に発表したものではなく、エキスパートが個人の意見として発表したものである点にご注意ください。)
コロナウイルスのアメリカでの被害予想
・感染者数: 9,600万人
・入院者数: 480万人
・ICUが必要な患者数: 190万人
・死亡者数: 48万人
【参考】2019年:アメリカのインフルエンザ感染状況
・感染者数: 3,550万人
・入院者数: 49万人
・ICUが必要な患者数: 4.9万人
・死亡者数: 3.4万人
コロナウイルスが、本当にここまで大きな被害をもたらすのかどうか?という真偽はまだ確定していませんが、現在分かっている感染力や致死率などを考慮すると、単純計算でインフルエンザの10倍以上の死亡者数になってもおかしくないという危機があります。
コルナウイルス関連のファクトフルネス
注意喚起という意味では、もちろん危機感は必要なのですが、あまりにも統計的に間違えた形で危機感を煽っているパターンが多いので、少し事実関係を整理しておきたいと思います。
1) 国ごとの感染者数をそのまま比較してもあまり意味がない
例えばこの表を見て頂きたいのですが、「100万人当たりの死亡者数」という数字は全く意味がありません。
検査対象人数、強いては検査対象者の選び方までちゃんと見ないと、日本のように「極力検査しないようにしている国」は、感染者数の絶対値が(他の国と比較して相対的に)小さく出ます。一方で韓国やイタリアのように初期から検査対象人数を増やした国は当然ですが感染者数が大きくなっています。
このように統計で言うところの「サンプリング」の議論を無視した形で、ユニットエコノミクスを計算しても全く意味がないと言えます。
2) そもそも検査の精度が低い
さらに、今回のコロナウイルス問題をややこしくしているのが「検査の精度」です。
臨時休校騒動で分かった、今こそ安倍首相に「謙虚さ」が必要な理由(DIAMOND online 2020/3/3)
問題なのは、現在のPCR検査は、「偽陽性」「偽陰性」がそれぞれ8パーセントくらい出る精度の低いものだということだ
この記事にあるように、偽陽性・偽陰性(陰性なのに陽性と結果がでること・陽性なのに陰性と結果が出ること)が両方共とても高い数字になっています。他の調査では、もっと高い偽陽性・偽陰性があると指摘する専門家の声もあるくらいです。
偽陽性が8%というのは、100人のウイルスに感染していない人を検査しても、8人はウイルスを保持していると誤って検出してしまうという意味です。偽陰性が8%というのは、ウイルスに感染している100人を検査しても8人は感染していないと判定してしまうという意味です。
ダイヤモンドプリンセス号で、ウイルスがないと判定されて下船したにもかかわらず、後日、死亡に至ってしまった方がそれなりにいるのは、この検査の精度が低いからだと考えて、ほぼ間違いないでしょう。
3) 致死率の高い・低いを議論する際は...
致死率の高い・低いを議論する際は、同じく検査対象人数とその検査対象の選び方まで含めて比較する必要あります。
あとは、感染者数が右肩上がりで増えていて、感染から発症・死亡までの時間が短くないので「致死率」の分母が大きくなりやすく、ちゃんとコホート(この場合は、同時期に感染した集団の時系列での病状の変化)で見ないと、意味がない可能性が高いです。
(他方、既にシーズンが終わっているインフルエンザの致死率は割と正確かと思います。)
何が言いたいかというと、そもそも検索の精度がザルであるのに加えて、国ごとにタイミングも検査に対する考え方も違うので、単純に数字を横比較してもあまり意味ないかなぁと思います。
数字だけ見れば、検査をすればするほど感染者数が増えるので怖いようにも見えますが、積極的に検査をする韓国と、そもそも検査に消極的な日本で感染者数や致死率を比較しても、その数字が本当に信頼できるのか判断できないので、あまり数字に踊らせられないようにした方が良いなぁと思いました。
コルナウイルス関連の数字で最も信用すべき2つの数字
感染者数や致死率の数字は、単純に鵜呑みにして信頼できないことがご理解いただけたかと思います。もし、本当に横比較をするのであれば、サンプリングの問題、そして時系列の問題をきちんと統計的に正しく処理した後に比較をしないといけません。
一方で今回のコロナウイルス関連で信頼できる数字が二つだけあると個人的には考えています。
それは、「重篤者数」と「死亡者数」です。
(健康保険が広く国民に行き渡っていて、重病になれば多くの人が病院に駆けつけるという前提で考えれば)この時期に重度の肺炎で、コロナウィルスの検査をしないということはあり得ないので、上記の数字が一番正確だと考えます。
生データを見たい方はこちらに詳しいデータがあるのでご覧ください。
Coronavirus disease (COVID-2019) situation reports(WHO:日々更新)
Coronavirus disease 2019 (COVID-19) Situation Report – 47
さて次は、これまでコロナウイルスに対抗していく中で、いくつかの国が興味深い施策を打って成功したり、失敗したりしているので、ケーススタディ的におさらいしておきたいと思います。
国ごとの施策: マカオ
新型コロナの新規感染が約1カ月間ゼロのマカオ(WEDGE Infinity 2020/3/5)
ここでマカオ政府は2月5日から15日間、41ある全カジノの営業中止を決定。映画館、インターネットカフェ、ナイトクラブ、美容院といった人が集まる施設も含まれた。それに伴い、カジノ側には勤務できなくなったスタッフの賃金保証を確約させた。政府の業務も緊急性のあるもの以外に限定するとした。
詳しくはこの記事を読んで頂きたいのですが、マカオがとった政策は「カジノなど人が集まる施設を全て強制的に営業中止にした」という内容です。
マカオでは3月3日までの28日間、新規の感染はゼロだ。新型肺炎は終息したわけではないので、今後、再び感染者が出る可能性はあるほか、中国人のマカオへの渡航は依然として制限されており、経済的には厳しい局面ではある。しかし、ウイルスの恐怖感が減ったことは、どれだけ市民に勇気を与えることか。
その結果として、3月3日までの28日間、新規の感染者がゼロに抑えられていると言われています。
ご存知の方も多いかもしれませんが、マカオはカジノに依存する国ですから、経済的にはとても大きなダメージがあることは間違いありません。しかしウイルスの感染を防ぐという意味では、政府の思い切った対応が大きな成功を収めたと言えるでしょう。
国ごとの施策: 韓国
続いて韓国を見てみましょう。
新型コロナへの過剰反応は「韓国の失敗」への道(JB Press 2020/3/6)
すべての患者にPCR検査を受けさせるべきだという医師はいくらでもいるので、これは歯止めにならない。患者はそういう病院に押しかけ、「安心」を求めて検査を受ける。新型コロナは感染症法に定める「指定感染症」なので、検査で陽性になると、症状がなくても入院させなければならない。
こうして「PCR検査ラッシュ」が起こり、病院のベッドが軽症の新型コロナ患者で埋め尽くされ、それ以外の病気の患者が死亡する――という医療崩壊が起こり、感染者5766人、死者35人という中国以外では最悪の被害を出したのが韓国である。
韓国はコロナウイルスの対策に大きく失敗しました。特に初期の時点で国民を安心させるために、希望する人全員に検査を受けさせるという政策をとったことが失敗の要因だと考えます。
上でも述べましたが、検査の精度が高くない上に、ウイルスを保有している人はそれなりに多いため、まだ発症していない感染者が病院のベッドを埋めてしまい、医療崩壊が起こったと言われています。
国ごとの施策: 中国
ご存知の方も多いかと思いますが、震源地である中国がとった施策は「封鎖と隔離」です。
【時視各角】今のコロナ対策ではダメだ=韓国(中央日報2020/3/3)
昔から感染病が広がれば対策は大きく2つだった。1つ目は封鎖・隔離だ。汚染地域は外部から孤立させて、感染も医療スタッフ以外は誰とも接触できないようにするか、いっそ閉じ込めてしまうやり方だ。今回中国政府が取ったのが強力な封鎖・隔離措置だった。2つ目は感染病の流行を既成事実として受け止めた後、重症者だけを治療するやり方だ。症状が概して致命的ではない風邪などに対応するやり方で、日本がこのやり方を選んだようだ。
「封鎖」と「隔離」というのは、感染症対策としては極めて王道ではありますが、かなり強烈な政治的パワーが必要です。中国はそれを実行し、現時点では感染者数が減少するところまで来ているので、かなり強引なやり方ではありますが、大きく成功しているといえるでしょう。
国ごとの施策と結果
New York Timesが、これらのデータをかなり分かりやすく可視化しているので、詳しく見てみたいと思います。この記事のデータは随時更新されているようです。本文では3月8日時点で発表されているデータを使って説明していきます。日本のデータにはダイヤモンドプリンセス号の感染者死亡者もすべて含まれています。
Coronavirus Map: Tracking the Spread of the Outbreak(The New York Times)
アメリカから見た場合の危険地域は、この地図のようになります。中国・韓国・イラン・イタリアが、レベル3と呼ばれる危険地域に指定されており、日本はレベル2に指定されています。
国別の感染者数と死亡者数の表がこちらになります。皆さんご存知の通り、中国・韓国・イタリア・イランの順で感染者数が多いことはお分かりいただけるかと思います。
前述の通り、感染者数は積極的に検査を実施するかどうかに左右される部分ではあるのですが、ここで注目していただきたいのは、右側の「新感染者数の増減」です。
中国は2月に濃い青色が多かった(新規の感染者がとても増えていた)わけですが、封鎖・隔離を行った結果、現在では新規の感染者数が減ってきています。
韓国とイタリア・イランは、右側に行くにつれて濃い青が多くなっている。つまり新規の感染者がとても増えてきている傾向にあります。
日本に関しては、ダイヤモンドプリンセス号のデータが含まれてしまっているわけですが、それであっても新規の感染者数が増加しているようには見えないというのが現時点でのデータです。
このデータから、これから感染が拡大する可能性が非常に高い国は、フランス・ドイツ・スペイン・アメリカの4ヶ国だと言えるでしょう。これらの4か国に関しては早急に施策を打たない限り、韓国・イタリア・イランのようなケースになりかねません。
被害を最小化するために我々ができること
私は専門家ではありませんが、素人なりに感染症の被害を最小化するという点で考えると、以下のような打ち手を考えるのが普通ではないでしょうか。
1) 重症患者のための治療キャパシティを確保する
2) 軽度感染者への治療を行う
3) 検査数を増やす
4) 感染防止ワクチンを打つ
5) 感染者との接触を避ける
「死亡者を減らす」ということを第一に考えると、1)重症患者のための治療キャパシティをしっかり確保する、ということが最も大事だと言えるでしょう。医療崩壊が起こってしまっては、本来救える患者を救えなくなってしまう可能性が高くなるからです。
重症患者への治療キャパシティが確保できているという前提であれば、2)軽症感染者への治療を行うというのも悪い施策ではありません。ただ今回のコロナウイルスの場合、ウイルスそのものを駆逐する治療方法がまだ見つかっていないので、この2番目の打ち手は事実上取れません。
3)検査数を増やすという打ち手は、感染者への治療方法が確立されているのであれば有効ですが、今回はまだ治療方法がありませんので、検査だけしても全く意味がありませんし、上で述べたように検査の精度も非常に低いので、ますます不必要な検査をする意味はありません。
4)感染防止のワクチンという打ち手は、インフルエンザの予防接種のような防止策を指していますが、まだコロナウィルスに対するワクチンが開発されていないので、現状はこの施策は使えません。
5)感染者との接触を避ける。これに関しては、手洗い・うがいを積極的に行い、ウイルスそのものを取り込むリスクを減らすということだけではなく、学校を閉鎖するというのも含まれるでしょうし、日本で行われたようにイベントの中止を要請するということも含まれます。
こうして見てみると、一般的に感染症の被害を最小化する打ち手として考えられる5つの項目のうち、現在の状況下で意味があるのは、1と)5)の二つだけだと考えられます。2)、3)、4)は残念ながら現時点では有効な打ち手とは言えません。
あまり有効な施策がないので、とても不安になる方も多いかもしれませんが、5)感染者との接触を避けるということを徹底的に行った結果、中国ではこのグラフの黄色の部分にある通り、累計での感染者数が、かなりフラットになってきています。
つまり、新規の感染者数が相当減ってきているという意味です。
従って、現時点で最も確度の高い打ち手というのは、混雑した場所に行かないようにすること。人と人との接触を限りなく減らすこと。と言う無残なほどに原始的な方法だと言えるのではないでしょうか。
日本政府の対応策はどの程度正しいのか?
私も最初は「もっと検査をたくさんできるようにすべし」と勘違いしていましたが、
・検査の精度がめちゃくちゃ悪い
・感染が確認されても治療できない
ということから、日本政府のやり方、つまり、「とにかく軽症なら病院に来るな」と言い続けるのは、悪くない戦略だと思いました。少なくとも韓国やイタリアよりは遥かに良い戦略です。
現時点で新規の感染者数が大きく増えていないという事実を考えれば、日本政府の初動はそこまで大きく間違えていたとは言えないでしょう。
ただ一方で、今の方針を続けるだけだと感染スピードが大きく下がることもないかもしれないので、中国やマカオほどではないにしても、もう少し思い切った封鎖をした方が良いのかもしれません。
私案「年内祝日前倒し案」
須藤さんの新著「ハック思考」的にコロナウイルス問題の解決策を僕なりに考えて見ました。
もし内閣府にいたら、官房長官・総理にこう提言します。
■提言: 明日から2週間、祝日にしましょう。企業も学校も祝日です。
その代わり、今年の残りの祝日を全てナシにしましょう。
国が定めた祝日・振替休日数は3月20日の春分の日から12月末までに13日間あります。(参照:https://jpnculture.net/nenkankyuujitu3/)
祝日を移動させることで、企業的には年間の労働時間は確保できるはず。会社も学校も一緒に休みになるので、子育て等の問題も軽減されます。あくまでも祝日を移動させるだけなので、フルタイムで働いている方の週休2日制や夏季休暇・有給などは通常通り確保され、休暇がなくなるということではありません。
会社もコロナ騒動の中でドタバタ仕事するよりも、全員で2週間休んで、その後に少しでも安心した状態で仕事した方が良いのではないでしょうか。
もちろん、日本中の企業活動が2週間止まることのダメージもあると思いますが、みんなが不安で慣れないリモートワークであたふたするより、よっぽど良いのではないでしょうか?
以上、ウィルスに関するデータの考え方や、一般的な打ち手をまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?
コロナウィルスの解明とワクチンや治療法が確立するまでの間で、現状一番効果的と考えられるのは人の移動を制限する隔離政策です。
そして、意外に感じられた方も多いかもしれませんが、色々な国の政策を比較したところ、個人的には日本政府の初動は悪い手ではなかったと思います。ただ説明の仕方や意図が十分に伝わっていなかったことは、これからも改善が必要だと思います。
世界中で感染がこれ以上大きくならずに、世界中の方々が早く通常の生活が送れるようになることを願っています。
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