住宅版テスラ・HOMMAの作る「夢のスマートホーム」を実際に見せてもらったよ(第1回)
今日は住宅スタートアップのHOMMA Inc.を立ち上げた本間毅さんにお時間をいただき、2019年1月に完成した実験住宅のHOMMA ZEROにお邪魔しました。
実はアメリカの家のクオリティは低いという現実
シバタ: お忙しいところありがとうございます。私の読者の方はほとんど本間さんのことを知っていると思いますが、一応簡単に自己紹介をしていただけますか。
本間: はい。ビットバレー(*1990年代後半から2000年代初頭に渋谷にIT系ベンチャー企業が続々開業、上場した時期)が盛り上がっていた学生時代にウェブ制作の会社を起業し、その後、ソニーや楽天を経て、HOMMA Inc.というアメリカの住宅をターゲットにしたスタートアップを立ち上げて4年目になります。
シバタ: ありがとうございます。本間さんは今までずっと学生時代のベンチャーからソニーの中でも、割とソフトウェア系のお仕事をされていて、その後は楽天でインターネット関連のビジネスに関わっていましたが、なぜ今回は住宅のスタートアップを立ち上げようと思われたんですか?
本間: 僕はアメリカに住んで11年になりますが、住んでいる地域としてはシリコンバレーが長いんですね。シリコンバレーといえばスマホを作ったApple、Googleがあったり、車もTeslaが電気自動車で自動運転を開発したり、イノベーションがあちこちで起きています。しかし、実は住宅は建て方も100年前から変わっていなくて、しかも古い家がいっぱいあって、家のクオリティが低いんですよ。
これだけスマートホーム(IoTやAIなどを利用して快適な住環境を目指した住宅)と言われているのに、アメリカの住宅はそれ以前の問題で、家そのものは何も変わっていないじゃないかと思ったんです。イノベーションにあふれたシリコンバレーでも、「家にイノベーションを起こす」ということは誰もしていない。
人間って人生の40%くらいは家の中で過ごすのに、これじゃあダメだろうと。なので、僕としては家にイノベーションを起こすために住宅のビジネスをやりたかったんです。
もともと僕の父方の祖父が建築家で設計士で、母方の祖父は建築資材の販売会社をやってたということも影響しているかもしれません。
シバタ: 建築一家なんですね。
本間: そうなんです。父は設備系の技術営業をやっていたので、建築一家なんです。たまたま僕がITの道に進んでアメリカに来ちゃったんですけど。
シバタ: なるほど。本間家のルーツに戻る感じですね。
本間: 本間家のルーツは京都の宮大工なので、本当に「家」がルーツなんですよ。
シバタ: 面白いですね。先ほど「アメリカの住宅がいかにクオリティが低いか」という話があったと思うんですが、ちょっと補足をすると、シリコンバレーの住宅の価格や家賃が高くなっているという話はよく聞きますよね。地震がないということもありますが、古い家が多くて、築50年や100年の家って当たり前にありますよね。
アメリカの戸建て建築、販売事情
本間: そうなんです。アメリカの市場でいうと1年間の戸建て住宅の取引のうち約90%が中古で新築は10%程度しかないんです。古い家を買って、自分で改装して住む、というのが当たり前になっています。
シバタ: なるほど。古い家を買って直すのはもちろん全然アリだと思うんですけど、とにかく直すのにえらい時間とお金がかかるっていう問題がすごく大きいくないですか?家が古いだけじゃなくて、そこにものすごい、いわゆるアメリカの悪い意味での非効率性がすごくある気がしていて、なんとかならないのかな?っていうのは住んでいる人間としては思っています。
本間: そもそも僕がこの会社を立ち上げた問題意識はそこにあるんです。直接的なきっかけは、自分が家を買うと時に古い家しかなくて、ボロいのに高いんですよね。だったらゼロから家を建てればいいじゃないか?と思ったんです。
でも、実はシリコンバレーで土地を買って家を建てるのに、ゼロから注文建築してどのくらいかかるか知っていますか?
シバタ: 1年とかですか?
本間: 3年です。
シバタ: ええっ!
本間: よくて2年です。建築許可を取るのにエリアによっては1年くらいかかるんです。それに、在来工法でしか家が建てられないので、建設に2年とか平気でかかるんですよね。
シバタ: 今の話は面白いですね。建築許可を取るのに1年くらいかかって、その後に特定の工法があるんですか?
本間: 高度な技術が求められるわけではないのですが、在来工法と言って、日本では、2×4(ツーバイフォー)、2×6(ツーバイシックス)と知られていますけど、そういう建て方しかないんですよ。柱や梁などの木材の軸を組み立てて建物を支える昔ながらの建築方法です。
日本の場合は、住宅メーカーが工場でモジュールを作ったり部材をある程度加工して持っていって、すぐ作るプレハブ工法なんかもあるんですが、 アメリカは、2×4(ツーバイフォー)などのサイズに木を切って現場に持っていくのですが、職人さんが現場でトントン作っていくんです。
シバタ: 2×4(ツーバイフォー)の木材を現場に持って行って、現場であの木材から組み立てているんですか?
本間: そうですよ。
シバタ: こういう家をですか?
本間: そうです。 2×4(ツーバイフォー)の木材を現場で切ったり、トントンしながらフレームを現場で組み立てて作っていくんです。そのやり方が100年前と変わっていないという話なんです。
シバタ: 建築許可を取得するのに時間がかかるし、古い方法で建築するので、土地を買って家を建てようと思ったら2年から3年かかるんですね。日本と比較するとすごい時間が掛かりますね。
日本方式でアメリカの家にイノベーションを起こす
本間: 日本には住宅メーカーがたくさんあって、上場企業もいっぱいあります。しかし、日本は少子高齢化が進み、家を作るニーズが減少しています。一方アメリカはこれだけ人が増え続けて家も足りないのに、スマートホームとかテクノロジー以前に、「家を建てること」そのものの工業化が全く進歩しておらず、多くの人が不自由を感じています。
例えば、日本のシステムキッチンは工場でキッチンを作って、現場に持ってきてセットすれば終わりじゃないですか。
シバタ: そうですね。
本間: アメリカってキャビネット屋さんに台所の台の部分のサイズを指定して発注をすると、現場で組み立てるんです。その上にカウンタートップ(天板)を乗せるんですけど、それも測って作ります。だから、キッチンが完成するのに3ヶ月もかかるんです。
シバタ: すごい話ですね。
本間: 工場でやればいいじゃんと思うんですが、アメリカにはその仕組みはないんです。だからイノベーションできるところが満載なんです。
シバタ: なるほど。しかし、特にシリコンバレーは人材の問題がありますよね。この間、うちのオフィスの隣の部屋が内装をちょっと変えたいということで内装業者を探したんですが、とにかく内装業者は人手が足りなくて仕事が埋まっているので探すのに一苦労だったようです。ちなみに、内装業者をいくらで雇っているのかと聞いたら、時給100ドル超と言うんですよ!内装をやっている工事のおじさんが時給1万円を超えているんですよ。
本間: 日給じゃないですよね?
シバタ: 時給です。しかもこの辺りだと、工事の人が時間通りに来ないとか、工事が期限内に終わらないとか、当たり前のように起こるんですよ。シリコンバレーは建築系の人が足りないので、テキサスから人を連れて来ていると言っていました。テキサスってここから約2,500キロ離れていますが、そんなに遠くから人を連れてきても、そのほうが安いそうです。シリコンバレーではそのくらい人件費の高騰とか人材不足というのが起こっていて、いろんな意味で住宅業界というか、建設業界が壊れているというか、昔ながらのまま変わっていないという問題がありますよね。
本間: そうなんです。だったら、テキサスに工場を作って、工場で家の部品を作って、シリコンバレーでは設置するだけにすれば良いじゃないかという話ですよね。
アメリカの住宅業界で成功する勝算
シバタ: 少し話を変えたいと思うんですけど、本間さんは今まで住宅ビジネスをずっとやられてきたわけではないですが、アメリカの住宅業界のどういうところに勝算を見出しているんでしょうか?率直に教えていただけたら嬉しいです。言いにくいかもしれませんが。
本間: いえいえ。お答えしますよ笑。繰り返しになりますが、アメリカは家そのもののクオリティが低いんです。
新築の販売戸数はマーケットの約10%と言いましたが、それでも70万戸くらいあるので相当な規模です。
日本はアメリカとは逆に新築がマーケットの80%以上を占めていて、2018年の新築着工戸数が約94万戸なので、住宅販売全体の規模というと相当な違いがありますよね。
本間: アメリカの場合は着工から完成するまで時間がかかるんですが、新築着工戸数がどんどん増えています。そして新築で着工した70万戸のうち、約8割が建売住宅(顧客の注文を受けて建てるのではなく、業者が設計して建てた住宅)なんです。
シバタ: なるほど。
本間: 注文建築に手を出そうとしている人は新築住宅を購入するうち20%くらいしかいません。残り80%の新築を買っている人は建売住宅、すでに建っている家を買います。
アメリカでは、「ホームビルダー」という業種があって、デベロッパーから大きな土地を買って、Aタイプ、Bタイプ、Cタイプといくつかのタイプを決めて、一定の地域にコピペみたいに同じような家を何百軒かまとめて作って、それを売るんですよね。
何百軒も一気に建てるので業者の確保もしやすいですし、規模が大きいので100年変わっていない古い工法でも効率はそこそこよくなります。小さなリモデルビジネスをやるよりも労働力を効率的に確保できるので、ビジネスとして成り立ってきていたんですよ。
シバタ: バッチで建ててバッチで売るわけですね?
本間: そうです。でもそういう風に100年前の建て方をしている会社は、テクノロジーはお客さん任せなんです。
僕は家を建てる時に最初からスマートホーム仕様で建てたら良いと思うんです。スマホで開け閉めができるスマートロックを入れたり、部屋に入ったら自動的に電気が点灯する仕組みを入れたり、スマートスピーカーとセキュリティシステムを連動したり最初からしておけばお客さんは楽だよね。と思うんですが、既存のホームビルダーは、そんなことをやったら面倒くさいじゃないかと。俺たちにはテクノロジーがないんだからやめておこうよ、と最初からやる気がないようです。
さらに家のデザインに関しても変える気がないようです。クラシックに作ろうよと。みんなそれが好きだよ。と既存のホームビルダーたちは思っているんです。でも、世の中のミレニアル世代がみんなクラシックが好きなわけはないと思うんですよ。
シバタ: なるほど。
本間: 2019年に、「みんなが好きなはず」という理由で1960年代のデザインで車を作るのと同じなんです。そんなわけがないですよね。建てるやり方も100年変わっていない。キッチンもお風呂も全部現場で作っている。見た目はちょっとかっこよくなっているけど、技術は古いままなので結局中はスカスカ。こんな状況で勝てない理由はあんまりないですよね。
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次回は、HOMMA Inc.のビジネスモデルやアメリカ市場での勝算について詳しくお話いただきます。
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