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「スタートアップ投資減税」が素晴らしいと思った件


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今回は、少しいつもと違った話題を取り上げてみたいと思います。

尚、今回の話はあくまで個人的な意見で、私自身は特に利害関係はありません。ただ、税制に関わる話なので、当然、今回私が賞賛する政策が好きな人もいれば嫌いな人がもいるかと思います。

今回は敢えてポジティブな面だけを取り上げますが、真逆の意見の方もいるかと思いますので、その辺りは割引いて読んで頂ければと思います。

スタートアップ出資、1億円以上で減税 大企業の投資促す

政府・与党は大企業が設立10年未満の非上場企業に1億円以上を出資したら、出資額の25%相当を所得金額から差し引いて税負担を軽くする優遇措置を設ける。自社にない革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップと協業し、新たな利益の源泉となるイノベーションを起こしやすくする。大企業が自社にため込んだお金を活用するよう促す狙いもある。

こちらにあるように、今度の税制改革で、企業がスタートアップに1億円以上を出資すると、出資額の25%相当を所得金額から差し引いて、税負担が軽くなるという法律がまもなく作られようとしています。

政府の狙いとしては、大企業が内部留保を厚くしていくだけではなく、稼いだお金をしっかり将来のビジネスに投資をすることを促す、というのが目的になるわけです。詳しくは後半で述べますが、これまで日本では、研究開発投資に対してとても大きな税制的な優遇がなされてきましたが、今回は自社での研究開発ではなく、外部のスタートアップの投資に対して税制的な優遇がされるという内容になっています。

大雑把に説明をすると、1億円以上の出資をすると25%分「損金計上」できるわけですから、事実上スタートアップの投資が25%オフでできるようになるという内容で、かなり大胆な政策だと個人的には思っています。


経済活性化と政府の役割

日本では長らく、デフレ、そしてマイナス金利が続いていますが、当然政府としても、経済成長を促進するために様々な手を打ってきています。

個人向けの政策の例としては皆さん馴染みが深いかもしれませんが、最近ではキャッシュレス決済を促すため、キャッシュレス決済をした場合にポイントバックキャッシュバックという形で税金が投入されています。

キャッシュレス決済に対するインセンティブが必ずしも悪いとは思いませんが、おそらく効果としてはかなり一時的なもので、キャッシュレス決済が促進されるかもしれませんが、この政策によって短期的に景気が良くなることは恐らくないのではないかと思います。

また、過去に行われたような、企業に対する補助金や子ども手当等も、福祉という意味では重要なのかもしれませんが、経済成長を促進するかと言われると恐らくそうではないのではないかと思います。

このように、政府が経済成長を促進するために何ができるのかというのは明確な答えがない課題でもありますし、日本だけではなく様々な国で、多くの研究者を巻き込んで様々な議論がなされてきています。

国の政策によって経済成長が実現できるのであれば、当然ですが全ての国でそのような政策がとられるわけで、正しい答えがない、非常に難しい問題だということは、私の読者の方であればご理解頂けているかと思います。

私が今回のこの政策が素晴らしい政策だと思ったのは、今回の政策の中に「研究開発からスタートアップ型のイノベーションにシフトしていく」という、国の大きなメッセージが込められているように思えたからです。

そしてそれを実現するための方法として、補助金のような形で等しくお金をばらまくのではなく、減税という形で、実際にスタートアップへの投資をした人だけが優遇されるような政策になっている点が、個人的にはとても良いと思いました。

私個人としては、経済成長のためには政府は何もするべきでないと考えていますが、経済成長のために政府が唯一できることがあるとすれば、それは減税だと考えてもいます。


新経連の提案が元に

そして今回、更に興味深いのが、今回の税制改革の元が、新経連の提案によるものだという点です。

新経済連盟 2020年度税制改正に関する提言

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このスライドにある通り、新経連からの提案としては「出資額の50%を損金計上可能」とする提案がなされていました。

実際には50%ではなく25%になるわけですが、ここに書かれている新経連による提案が、ほぼそのまま実現されていると言っても過言ではありません。

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新経連は他にも、プロジェクト型のオープンイノベーションを促進するための税制改革も提案していましたが、こちらは「新規プロジェクトに費やした費用を税額控除する」という、かなりアグレッシブな内容になっており、まだ実現していません。


「マテリアル大国」日本を支えてきた「研究開発税制」

少し歴史の話をしたいと思いますが、これまでの日本ではいわゆる「研究開発減税」と呼ばれる減税が長く続いてきました。

研究開発税制の概要 経済産業省産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課

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こちらは、研究開発に費やしたお金のうち、6~14%分を税額控除できるという、これもまたグローバルで見るとかなりアグレッシブな減税政策になっています。

今回発表されたスタートアップ投資減税は「所得控除」であるのに対し、研究開発減税は「税額控除」なので、いかにこの研究開発減税がアグレッシブな税制であるかをご理解頂けるのではないかと思います。

「所得控除」と「税額控除」は、言葉は似ているかもしれませんが全く違うので、違いが分からない方は是非検索してみて下さい。

・所得控除=所得が減る、結果的に「控除された分×(実効)税率」分しか減税とならない
・税額控除=税額そのものを減らせるので、「控除額全額」が減税になる

企業から見れば、研究開発に投資したお金の6%~14%が税額控除されるため、積極的に研究開発に投資をしていくインセンティブが非常に大きかったとも言えるわけです。

皆さんが利用しているスマートフォンの中に使われている部品の多くが日本製ですが、誤解を恐れずに極論を言うと、日本がこのようにマテリアル大国であり続けられた要因の一つは、この研究開発減税のおかげであるとも言えるのではないかと個人的には思っています。

グローバルに見ても、このように研究開発投資を積極的に優遇している国というのはあまりないかと思いますので、自動車や電子機器だけではなくその部品、特に精密部品において、日本が未だに世界トップであり続けられるている、という事実を語る上で、この政策を見逃すことはできません。


研究開発からスタートアップへの政策の大転換!?

一方で、時代はハードウェアからソフトウェアに転換しつつあり、GAFAと呼ばれるグローバルな巨大ネット企業が誕生していく中で、いわゆる従来型の研究開発投資だけでは、経済成長に必ずしも繋がりにくいという面も、徐々に増えてきています。

冒頭で紹介した日経新聞の記事にもこのような記載がありました。

新税制で必要となる財源は、大企業の交際費支出に適用している減税措置を大幅に縮小して捻出する。研究開発税制など既存の優遇税制については、十分な投資をしなければ優遇を受けられないよう基準を厳格化する。

今回のスタートアップ投資減税を実現するための財源は、「研究開発減税の財源の一部を減らすことで捻出する」という意味です。

これを見る限り、今回のスタートアップ投資減税は経済産業省が主導したものだと思われますが、私はこの財源移管に、政府としての明確なイノベーション政策の転換を感じました。

これまでの日本は、大企業による研究開発によって技術的な優位性を保ってきたというのが大雑把な全体感だと思いますが、今後は「スタートアップ主導のイノベーション」にギアチェンジをしていこうという、政府の意図なのではないかと思います。


今後起こりうること、我々がすべきこと

日本のスタートアップ投資環境を見ると、シリコンバレーなどに比べると、大企業はCVCによる投資が割合的に圧倒的に多いのが特徴です。

今回のスタートアップ投資減税によって、この流れはおそらくかなり加速すると言えるでしょう。スタートアップへの資金の流入を増やすという意味においては、日本の強みであるCVCからの投資をさらに加速させるという、強みにフォーカスした政策だとも言えます。

従って、今後起こりうることとしては、日本の大企業CVCからの投資がさらに加速される、と考えるのが自然でしょう。

一方で、短期的には大企業やCVC からの投資が加速しますが、大企業はこれまで自社における研究開発にフォーカスしてきた会社が多いため、必ずしもスタートアップへの投資に熟練しているとは限りません。

従って短期的に見れば、大企業CVC からの投資が失敗に終わるケースも多々出てくるかと思われます。

我々がすべきことは、そういった短期的な失敗を批判するのではなく、もう少し俯瞰的、中長期的に見て、どのように強いエコシステムを作っていけるのか、という点を議論する事だと個人的には思っています。

スタートアップ投資は、一つの巨大なEXITが全体のゲームを大きく変えてしまうほど影響があるので、小さな失敗がたくさんあっても、確率論で大きな大ヒットが出ることで、トータルとしては大きなプラスになっていくというケースが多々あります。

この記事を読んでくださった読者の方、そしてメディアの方は、短期的な失敗を批判するのではなく、是非俯瞰的に中長期的に、建設的な議論を一緒に続けていけるような役割を担って頂ければ、個人的にも嬉しいなと思っています。


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