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Q. Airbnbの予約総額は、コロナ前の水準に戻ったのか?

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A.
Airbnbの2021年7-9月の予約総額は、予約単価の向上がドライバーとなり、$11.9B(約1.19兆円、前年同期比+48%、前々年同期比+23%)と、コロナ前よりも大きく増加した。

この記事はゆべしさんとの共同制作です。

Airbnb(エアビーアンドビー)は宿泊先を提供するホストと、宿泊先を探す利用者をマッチングするマーケットプレイスを運営する企業で、シェアリングエコノミー(個人と個人・企業等の間でモノ・場所・技能などを売買・貸し借りする経済モデル)の先駆者的企業です。

Airbnbは、設立から3年で時価総額が1,000億円を超えるユニコーン企業となり、急成長を遂げていましたが、2020年以降はコロナの影響で大きな打撃を受けることになりました。

一方で、コロナウイルスの感染拡大から約2年が経過した2021年11月現在、ワクチン接種が進む欧米を中心に、経済活動の再開が進んでいます。

本日はAirbnbの決算情報について、コロナ前と比較しながら、経済活動の再開がどのような影響を与えているのかを深掘りして解説していきます。また、Airbnbの決算情報をもとに、今後の旅行業界のトレンドのヒントとなる3つの情報も紹介します。

この記事では、1ドル=100円($1 = 100円)として、日本円も併せて記載しています。


Airbnbの2021年3Q(2021年7-9月)決算

Airbnb Shareholder Letter Q3 2021(2021年11月4日)

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Airbnbの2021年3Q(2021年7-9月)の四半期売上は$2.2B(約2,200億円)、YoY+67%です。これは、コロナ前の2019年3Qの水準を大きく上回り、四半期売上としては過去最高売上を達成しました。

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2021年7-9月の四半期調整後EBITDAは$1.1B(約1,100億円)でYoY+119.8%、EBITDAマージン(EBITDA÷売上)は49%(前年同期比+12%)です。前述した売上の成長と利益率の大幅な改善により、EBITDAはコロナ禍の2020年7-9月と比較して急増しています。

※EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)とは、企業や事業の正常な収益性を図る指標です。Airbnbの調整後EBITDAは、税引後当期純利益に法人税やストックオプション、減価償却費等を調整して算出しています。


Airbnbの主要KPIのトレンド

Airbnbのビジネスモデルは、Airbnbのプラットフォームを利用して宿泊先を予約した際に手数料を徴収する「手数料ビジネス」のため、売上は以下のように分解することができます。

Airbnbの売上 = 予約総額(予約件数 × 予約単価) × テイクレート

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上記をもとに、Airbnbの予約総額と予約件数、予約単価の四半期推移を、以下のようにグラフ化したので、順番に各指標のトレンドを整理しましょう。

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まず、上図は「予約総額」の推移を表しています。

2021年7-9月の予約総額は$11.9B(約1.19兆円)で、2020年7-9月の$8.0B(約8,000億円円)比較して+48%、2019年7-9月の$9.7(約9,700億円)と比較して+23%と、コロナ前を超える水準まで回復しています。

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次に、上図は「予約件数」の推移を表しています。

2021年7-9月の予約件数は7,970万件で、2020年7-9月の6,180万件と比較して+29%、2019年7-9月の8,590万件と比較して▲7%となっています。

コロナによる外出自粛を受けて、2020年の予約件数は大きく減少したものの、その後は経済活動の再開が進んだことで2021年7-9月の予約件数は、コロナ前と同水準まで回復しています。

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最後に、上図は「予約単価」の推移を示しています。

2021年7-9月の予約単価は$149(約14,900円)で、2020年7-9月の$130(約1.3万円)と比較して+15%、2019年7-9月の$112(約1.1万円)と比較して+33%成長しています。

予約単価は予約件数とは異なり、コロナ禍(2020年)においても、コロナ前の水準を上回っており、直近の2021年7-9月の予約単価は、コロナ前の2019年7-9月より+33%も増加してます。

Airbnbの主要KPIをまとめると、「コロナ前と比較して、予約件数はコロナ前の水準にまで回復し、予約単価が大きく成長したことで、予約総額が増加した」ということが分かります。


次章からは、Airbnbの2021年7-9月の決算内容をもとに、予約単価が増加した背景と併せて、今後の旅行業界のトレンドのヒントとなる情報を3つご紹介します。


トレンドのヒント#1:コロナ禍で予約単価が上がったのはなぜ?

The trend that we saw in ADR late last year, the increase in ADR was almost exclusively driven by mix. And so that was the regional mix, urban, nonurban mix, size of home.

引用:Airbnb, Inc. (ABNB) Q3 2021 Earnings Call Transcript(2021年11月5日)

AirbnbのCFOは、ADR(予約単価:Averege Daily Rates)増加の主な要因は、「ミックスシフト」であると言及しています。ミックスシフトとは、利用地域や、都市部か郊外か、住宅のサイズ、滞在期間等のユーザーの利用形態の多様化のことです。

地域別に見ると、各国のコロナの感染状況と、それに伴う規制に大きく影響を受けており、以下のようなトレンドとなっています。

・ADRが高い北米とEMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)は力強く回復
・南米はコロナ前と比較して成長が加速
・アジア圏はもともと近隣諸国に渡航した際にAirbnbを利用することが多かったために、コロナによる渡航規制の影響を受けて低迷
We continued to see significant mix shift towards bookings in North America, entire homes, and non-urban destinations, all of which tend to have higher ADR

引用:Airbnb Shareholder Letter Q3 2021(2021年11月4日)

また、都市部か郊外か、住宅のサイズという視点で見ると、郊外の一軒家の予約件数が増加しているとのことです。

このように、ADRが高い北米やEMEAの回復が進んだ一方で、ADRが低いアジア地域(特に中国)の回復が遅れていることに加え、郊外の一軒家の予約件数の割合が相対的に増加したことで、Airbnbの全体のADRが増加しています。


トレンドのヒント#2:都市部での予約件数はコロナ前の水準に戻ってきている?

So the percentage of nights in the urban area has started to increase, are now maybe 46% of our nights, which is still down from maybe 60% of our nights kind of pre-COVID.

引用:Airbnb, Inc. (ABNB) Q3 2021 Earnings Call Transcript(2021年11月5日)

AirbnbのCFOは決算発表で、「2021年7-9月の都市部の予約件数の割合は約46%と回復傾向であるものの、コロナ前の都市部の予約件数の割合は60%であることから、まだコロナ前の水準に回復していない」という趣旨の発言をしています。

ここまでのミックスシフトをまとめると、コロナ禍でもADRが成長したのは、コロナの感染を避けて、ADRが高い郊外の一軒家の利用が増加したからで、コロナ後に更にADRが成長したのは、上記の要因に加えて、ADRが高い北米や欧州の経済再開と、都市部の予約件数が回復したためと言えるでしょう。


トレンドのヒント#3:今後の予約単価の予測

So in terms of -- and then what we did say also in our shareholder letter is that we anticipate that the ADRs in Q4 should be relatively consistent with the ADRs we had here in Q3.

引用:Airbnb, Inc. (ABNB) Q3 2021 Earnings Call Transcript(2021年11月5日)

前述のようなトレンドが継続することを踏まえて、Airbnbの2021年10-12月のADRは、2021年7-9月のADRと同水準、つまりコロナ前より予約単価は高い水準で推移することが見込まれています。


CEO:「コロナ禍で旅行業界に大きなパラダイムシフトが起きている」

And I'll just share a few more thoughts, Mario. We've just seen a major paradigm shift in travel. Before the pandemic, short-term stays is really the primary business that we were in. What we actually saw was that long-term stays was our fastest-growing segment of business even before the pandemic.

引用:Airbnb, Inc. (ABNB) Q3 2021 Earnings Call Transcript(2021年11月5日)

決算発表の際にAirbnbのCEOは、「現在旅行業界では大きなパラダイムシフトが起きている」と述べ、コロナ以前は”短期滞在”の利用が中心でしたが、成長率で見ると、実はコロナ前から”28日以上の長期期滞在”の利用が最も成長していることを明かしました。

So I think what the pandemic did is it accelerated an inevitable trend. There was already this emerging category between classic traveling and really kind of permanent housing which was people seeking stays of weeks at a time or even months at a time. And I think what the pandemic has done has just accelerated this. We're going to see a lot more people going away as they have newfound flexibility.

引用:Airbnb, Inc. (ABNB) Q3 2021 Earnings Call Transcript(2021年11月5日)

コロナの影響でリモートワーク等が普及したことにより、人々の生活の柔軟性が高くなったことで、短期滞在から長期滞在の利用が促進されることになりました。

ただ、それは新しいトレンドを創ったわけではなく、あくまでも長期滞在という「避けられないトレンド」を加速させたという見方をしているようです。

Even people with families who can't go away during the year, they may be able to travel a little bit longer during summers as well. So this is really exciting. And the only other thing I'd just add is nearly half of our business is for more than a week as well. So these are really exciting categories.

引用:Airbnb, Inc. (ABNB) Q3 2021 Earnings Call Transcript(2021年11月5日)

Airbnbの売上の約半数は「1週間以上の滞在」であり、前述した28日以上の長期利用者の増加でさらなる成長が期待されます。


まとめ

本日は、2021年7-9月のAirbnbの予約総額や予約件数、予約単価について、コロナ前と比較し、その背景にある要因と、今後の旅行業界のトレンドのヒントとなる情報をピックアップしました。

●2021年7-9月のAirbnbの決算内容のポイント
・2021年7-9月の売上は$2.2B(約2,200億円)でYoY+67%、EBITDAは$1.1B(約1,100億円)でYoY+119.8%
・予約件数は2020年はコロナの影響で減少したものの、2021年7-9月にはコロナ前と同水準にまで回復
・予約単価はコロナ禍でもコロナ前より増加し、2021年7-9月には更に成長

●Airbnbの決算内容から分かる、今後の旅行業界のトレンドのポイント
・北米や欧州等の予約単価(ADR)の高い地域の経済活動の再開
・コロナの影響で予約単価の高い郊外の一軒家の利用が増加
・都市部の利用は回復傾向ではあるものの、コロナ前の水準には未達
・コロナにより、短期滞在から長期滞在へのトレンドの変化が加速

2021年11月現在、先進国を中心に経済活動の再開が進んでいることから、人々の旅行需要の回復が進み、Airbnbだけではなく旅行業界全体に対して追い風が期待されます。

一方で、11月末には南アフリカで新たな変異株が発見されるなど、今後のコロナウイルスの感染状況次第では、再び需要が落ち込んでしまうということも考えられます。

日本では来年1月中旬〜2月を目処に、2度目のGo To Travelキャンペーンの開始が見込まれていることも踏まえて、各社がどのような戦略を展開するのか、引き続き注目していきたいと思います。


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