Q. 暗号通貨取引所比較: Coinbaseはコインチェックの何倍大きい?
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A. 2021年7-9月時点でCoinbaseの方が売上は15.6倍、営業利益(EBITDA)は12.9倍大きい。
この記事はゆべしさんとの共同制作です。
本日は、暗号通貨(仮想通貨)取引所を運営する米国大手Coinbaseと、日本大手のコインチェックの最新(2021年7-9月)の決算情報を比較します。
暗号通貨とは、特定の国家による価値の保証を持たない、電子データで取引される通貨で、ブロックチェーン技術を使用することで、理論上は誰の手に渡り、誰が所有しているか追跡が可能で、不正や改ざんが困難という特徴があります。
ちなみに、2021年11月現在で最も時価総額の高い暗号通貨であるビットコインは、2009年に誕生した当初、1BTCあたり1円以下でした。その後、ビットコインの価格は大きく乱高下し、2021年10月には1BTCあたり760万円を超えて過去最高を更新するほど注目されています。
また、両社の決算比較に加えて、記事の後半では世界最大規模の暗号通貨取引所を運営するCoinbaseのKPIをもとに、注目の暗号通貨取引のトレンドを5つ解説します。
この記事は、金融・証券ビジネスに従事する方や、暗号通貨取引に関心がある方には特におすすめの内容となっています。この記事は無料で公開しているため、ぜひ最後までご覧ください。
この記事では、1ドル=100円($1 = 100円)として、日本円も併せて記載しています。また、この記事は暗号通貨への投資を推奨するものではありません。
Coinbaseの決算
Coinbase Shareholder Letter Third Quater(2021年11月9日)
Coinbaseは、2012年に設立されたアメリカの暗号通貨取引所を運営する大手企業で、100ヶ国以上で事業展開するグローバル企業です。2021年4月には暗号通貨取引所として初めて、アメリカのNASDAQに上場しました。
Coinbaseの2021年3Q(2021年7-9月)の四半期売上は$1.2B(約1,200億円)でYoY+330.3%、調整後EBITDAは$618M(約618億円)でYoY+402.4%、EBITDAマージンは50.0%です。
※EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)とは、企業や事業の正常な収益性を図る指標です。Coinbaseの調整後EBITDAは、税引後当期純利益に法人税やストックオプション等を調整して算出しています。
また、同期間のCoinbaseの主要KPIを見ると、MTU(Monthly Transacting Users:月間取引ユーザー数)は740万人でYoY+252.4%、取扱高は$327B(約32.7兆円)でYoY+626.7%、預り資産は$255B(約25.5兆円)でYoY+608.3%です。
コインチェックの決算
マネックスグループ株式会社 2022年3月期 第2四半期 決算説明会資料(2021年10月29日)
コインチェックは、2012年に設立された日本の暗号通貨取引所を運営する企業です。皆さんの記憶にも新しい2018年のコインチェック事件を経て、現在はネット証券大手のマネックスグループの100%子会社となっています。
マネックスグループのクリプトアセット事業セグメントは、主にコインチェックで構成されているため、この記事ではクリプトアセット事業≒コインチェックとして扱います。
コインチェックの2022年3月期上半期(2021年4-9月)の半年間の売上は204億円(YoY+684.6%)で、マネックスグループ全体の売上の44%を占めています。
次に、2021年7-9月の四半期売上は77億円(YoY+334.0%)、営業利益相当額は48億円(YoY+566.3%)、営業利益率は62.8%です。
Coinbaseの2021年7-9月の四半期売上は$1.2B(約1,200億円)、EBITDAは$618M(約618億円)のため、Coinbaseの方が売上で15.6倍、営業利益(EBITDA)で12.9倍大きいことが分かります。
※本来は、正常収益力の指標であるEBITDAで両社の比較を行うべきですが、コインチェックのEBITDAは開示されておらず、調整後EBITDAを算出するための詳細コストが不明なため、この記事では簡易的に、Coinbaseの調整後EBITDAとコインチェックの営業利益を比較しています。
コインチェックの主要KPIを見ると、本人確認済口座数は143万口座(YoY+44%)で国内シェアの28%を占めています。また、2021年7-9月の決算時点で、取扱い暗号通貨の種類は17通貨と、国内No.1を誇っています。
ここまで、暗号通貨取引所の米国大手Coinbaseと、日本大手のコインチェックの2021年7-9月の決算内容を比較しましたが、次章からは、CoinbaseのKPIを整理しながら、暗号通貨取引の5つのトレンドを紹介します。
【暗号通貨取引のトレンド】
●トレンド#1
収益率が圧倒的に高いのはtoC向け(Retail:個人)
●トレンド#2
暗号通貨のボラティリティは、暗号通貨取引のビジネスに大きな影響を与える
●トレンド#3
ビットコインは資産保有目的、イーサリアム等その他暗号通貨はトレーディング目的が中心
●トレンド#4
CoinbaseのMTU(個人のみ)の月間ARPUは、2019年~2020年の過去2年間で$34~$45(約3,400円~4,500円)、2021年は$50(約5,000円)台後半と予想
●トレンド#5
ステーキング等の投資以外での暗号通貨の利用用途が増加している
トレンド#1:B向け・C向けトレーディング、収益率が高いのは?
まずは、Coinbaseの利用者について、(1)C向け(Retail:個人)と、(2)B向け(Institutional:機関投資家)の2つに分類して見ていきます。
2021年7-9月のCoinbaseの取扱高の内訳を見ると、C向けが$93B(約9.3兆円)でYoY+416.7%、B向けが$234B(約23.4兆円)でYoY+766.7%です。取扱高の構成比で表すと、C向けが25%、B向けが75%となります。
次に、同期間(2021年7-9月)のCoinbaseの取引収益の内訳を見ると、C向けは$1B(約1,000億円)でYoY+289.2%、B向けは$67.7M(約67.7億円)でYoY+409.0%です。(※Coinbaseは取引収益の他に、サブスクリプション及びサービスでの売上があります。)
2021年7-9月時点のテイクレートを計算すると、C向けが1.1%、B向けが0.029%のため、B向けのほうが取扱高が大きい一方で、C向けのほうが圧倒的に高収益であることが分かります。
トレンド#2:暗号通貨取引所ビジネスに最も大きな影響を与えるのは?
上図は、Coinbaseが管理している暗号通貨のボラティリティ(≒資産価格の変化の激しさの指標)と暗号通貨の総取引量の四半期推移を表しています。図から分かるように、双方の指標は連動しており、強い相関があります。
暗号通貨取引所のビジネスモデルは、暗号通貨の取引量に応じた手数料収益が主であるため、「暗号通貨のボラティリティ」が多くの取引を生み、結果的に収益につながるというのは感覚としても分かるでしょう。
トレンド#3:ビットコインが全暗号通貨の取扱高に占めるシェアは?
ここでは、Coinbaseが取り扱う暗号通貨ごとに、取扱高と預り資産を見ていきます。2021年7-9月のCoinbaseの取扱高の構成比は、ビットコインが19%、イーサリアムが22%、その他暗号通貨が59%です。
次に、同期間(2021年7-9月)の預り資産の構成比は、ビットコインが42%、イーサリアムが22%、その他暗号通貨が36%です。
取扱高と預り資産の構成比の相対的な関係を見ると、イーサリアムやその他暗号通貨は、2021年1Q以降取扱高に占める割合が大きく増加し、直近5四半期で50%以上を保っている一方で、預り資産に占める割合はそこまで高くないことから、トレーディング目的が中心のようです。
反対に、ビットコインは取扱高の割合は低下しているものの、未だに高い預り資産の割合を保っていることから、トレーディング目的もありますが、資産保有の目的が相対的に多いと考えられます。
トレンド#4:暗号通貨取引所の1ユーザーあたりの売上(ARPU)は?
Over the last two years, we have seen average annual net transaction revenue per retail MTU range between $34-$45 per month, with the low end of this range occurring in 2019, a period of low Bitcoin price and low crypto asset price volatility, and the high end of the range occurring in 2020, a period of rising Bitcoin price. Given our performance year-to-date, we anticipate 2021 annual average net transaction revenue per user will be in the high $50’s per month.
引用:Coinbase Shareholder Letter Third Quater(2021年11月9日)
2019年から2020年の過去2年間で、CoinbaseのMTU(個人のみ)の月間ARPUは、$34〜45(約3,400円〜4,500円)です。前述したとおり、ビットコインの価格変動に応じて、月間ARPUが変動しています。
Coinbaseはこれまでの業績を踏まえて、2021年のMTUあたりの月間ARPUは、$50(約5,000円)台後半になると予想しています。
トレンド#5:ユーザーが暗号通貨を保有する投資以外の目的とは?
上図はCoinbaseのユーザー別の利用用途の推移を表しており、徐々に緑(投資目的のみ)の割合が減少し、赤(投資以外の目的のみ)と青(投資と投資以外の目的の両方)の割合が増加しています。
では、「投資以外の目的」とは具体的に何を表すのでしょうか?
We are pleased to see a growing percentage of our users deepening their engagement with our product portfolio. Approximately 2.8 million users were earning yield on their crypto assets — predominantly through staking — at the end of the quarter. Our ETH2 staking waitlist is now open to users in 60+ countries, and we look forward to enabling more users to earn yields over time. In addition, we had 2.1 million retail MTUs engaging in Earn campaigns in Q3.
引用:Coinbase Shareholder Letter Third Quater(2021年11月9日)
上記の文章は決算資料からの引用で、ステーキング呼ばれる、対象の暗号通貨を保有し、ブロックチェーンネットワークに参加する(ステークする)ことで、利益を得ることができる仕組みを活用するユーザーの増加が寄与しているようです。
ステーキングとは?
所有している暗号通貨をネットワーク上で管理することで、該当のブロックチェーンネットワークより報酬を得ることができる仕組み。単純化すると、株式投資の配当所得(インカムゲイン)のようなもの。
2021年9月末時点で約280万人のユーザーが、Coinbaseでステーキングによる収益を得ており、今後もステーキングを利用するユーザーの増加が予想されます。
まとめ
ここまで、暗号通貨取引所の米国大手Coinbaseと、日本大手のコインチェックの決算情報の比較を行い、2021年7-9月時点では、Coinbaseの方が売上は15.6倍、営業利益(EBITDA)は12.9倍大きいことが分かりました。
また、記事の後半で解説した、暗号通貨取引のトレンドを改めて以下にまとめます。
●トレンド#1
収益率が圧倒的に高いのはtoC向け(Retail:個人)
●トレンド#2
暗号通貨のボラティリティは、暗号通貨取引のビジネスに大きな影響を与える
●トレンド#3
ビットコインは資産保有目的、イーサリアム等その他暗号通貨はトレーディング目的が中心
●トレンド#4
CoinbaseのMTU(個人のみ)の月間ARPUは、2019年~2020年の過去2年間で$34~$45(約3,400円~4,500円)、2021年は$50(約5,000円)台後半と予想
●トレンド#5
ステーキング等の投資以外での暗号通貨の利用用途が増加している
日本国内では、ビットコインの価格上昇に伴い、コインチェックだけでなく、bitFlyerやDMMグループ、GMOグループ等、様々な競合が注力しており、熾烈な争いが続いています。
また、ご存知の通りビットコイン等の暗号通貨はボラティリティが非常に高いため、この記事で見てきたトレンドや競合環境が短期間で大きく変化する可能性があります。変化の激しい暗号通貨ビジネスについて、今後も定期的に注視していきたいと思います。
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