Q. IBMの年間売上を、AWSが逆転したのはなぜ?
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Q. IBMの年間売上を、AWSが逆転したのはなぜ?

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A. IBMの売上成長の勢いに加えて、クラウド事業を別会社(Kyndryl)に分社化したため。

この記事はカネコシンジさん(企画・リサーチ担当)とmasmさん(ライティング担当)との共同制作です。

2021年、IBMの年間売上をAmazonのクラウドサービスであるAWSが追い抜きました。

FY21(2021年度)の通期売上
IBM:$57B(約5.7兆円)、YoY+3.94%
AmazonのAWS事業:$62B(約6.2兆円)、YoY+37.10%

IBMの創業は1911年と100年以上の歴史がありますが、一方でAWSは2006年のサービスローンチからまだ約15年しか経過していません。

AWSは15年という期間でIBMの売上を追い抜くまでシェアを拡大してきましたが、なぜIBMは追い越される結果となったのでしょうか?
その理由を、IBMの歴史や決算説明資料などから考察していき、今後の成長戦略についても推察していきます。


IBM社について

まず、IBM社の会社概要について紹介していきます。

IBMは、C-T-R(Computing-Tabulating-Recording)社という合弁会社として1911年に創業した110年以上の歴史を持つ企業であり、創業当初は秤やタイム・レコーダー、計算機などを製造していました。

1924年に現在のIBMに社名が改名され、バーコードによる商品管理の仕組みの開発、人類初の月面着陸を試みたアポロ計画のシステム開発、コンピューター・メモリーのDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリの略)を開発するなど、デジタル社会の実現に大きな影響を及ぼしてきた企業です。

近年では、Watsonという人工知能を開発しており、米国のクイズ番組のチャンピオンと対戦して70%の確率で勝利するまで人工知能の能力が高まってきています。このような高性能の人工知能を、実用化できるようなサービス開発にも取り組んでいます。


IBMの売上推移

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次に、IBMの業績を確認していきましょう。

上のグラフはIBMの通期売上とYoY成長率の推移です。FY17(2017年度)の通期売上は$79B(約7.9兆円)で、そこから毎年微減が続き、直近のFY21は$57B(約5.7兆円)、YoY▲22.1%と一段と売上が減少しています。

FY21の大幅な売上減少の理由は後述しますが、売上高をさらに分解し事業別に見ていきましょう。


IBMの直近の事業別売上

IBMの事業領域は大きく「Software」「Consulting」「Infrastructure」の3つに分かれており、これらでFY21Q4(2021年第4四半期)売上の98%を占めています。それぞれの事業内容と売上高を見ていきましょう。

▼Software

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Software事業は、ハイブリットプラットフォーム・ソリューション、自動化、データ・AIなどのソフトウェアサービスを提供しています。中でも最も成長しているのは、IBMの子会社として2019年7月に買収したRed Hatで、Linuxをはじめとしたオープンソースソフトウェアを利用したサービスを行っています。

Software事業のFY21Q4の売上は$7.3B(約7,300億円)、YoY+10%、最も成長したRed HatはYoY+21%、自動化サービスはYoY+15%と、Software事業全体の成長に貢献しました。

▼Consulting

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Consulting事業は、ビジネス系のコンサルティング、テクノロジーコンサルティング、アプリケーション運用など幅広いコンサルティングサービスを展開しています。

Consulting事業のFY21Q4の売上は$4.7B(約4,700億円)、YoY+16%と、Software事業を上回る成長率となっています。

Consulting事業もRed hatが好調で、新たに150の顧客開拓に成功しています。それに加え、ハイブリッドクラウドコンサルティングがYoY+34%と大きく成長しています。

▼Infrastructure

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Infrastructure事業は、ハイブリットクラウドサーバのIBM Zや、分散インフラストラクチャ、インフラストラクチャサポートなどのサービスを提供しています。

かつてのIBMのメイン事業ですが、FY21Q4の売上は$4.4B(約4,400億円)、YoY+2%と成長はかなり鈍化しています。

このように事業ごとの業績を確認すると、成長しているサービスはほとんどがソフトウェア関連や技術サービス、クラウド関連であることがわかります。

メインフレームなど、ハードウェアを売っていた時代から大きく変化し、クラウド上でシステムを構築し、サービスやコンサルティングとして稼ぐ時代になったことは一般論としても明らかです。

IBMも当然その変化に適応すべく、ソフトウェアやクラウド関連ビジネスに力を入れてきたわけですが、結果としては各事業の成長率が芳しくなく、全体売上も下降気味になっています。


FY21の売上が大きく下落した理由

IBMのFY21の売上が$57B(約5.7兆円)、YoY▲22.1%と大きく下がっていたのは、Kyndryl(キンドリル)を分社化したことが大きく影響しています

In2021, we continuedto investforthe future by increasing R&D spending, expanding our
ecosystemandacquiring 15 companies to strengthen ourhybrid cloud andAI capabilities

With the separation of Kyndryl we now have taken the next stepin the evolution of our strategy, creating value through focus andstrengthening our financial profile.

Kyndrylの分社化は、IBMがハイブリッドクラウドとAIにより集中し、テクノロジーとコンサルティングを中心としたポートフォリオにより、IBMの成長目標を達成するために取り組んでいる施策の中の一つです。

また、IBMは引き続き独立した企業となるKyndrylと協業していく方針をとることになっています。


Kyndrylについて

IBMによるKyndrylの分社化の詳しい背景については後述していきますが、まずはKyndrylの企業・事業概要を整理していきましょう。

KyndrylはIBMの顧客先インフラ・サービス部門が独立した会社であり、大規模な情報システムの設計、構築、管理、開発を受託しています。

2021年11月3日にIBMから分社化されましたが、すでにニューヨーク証券取引所にも上場済みです。

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様々なプラットフォームと提携しており、MicrosoftやGoogleCloudなどを始め、2022年2月にはAWSともパートナーシップを結び提携を開始しました。


 Kyndryl社の戦略

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上記の様々なプラットフォームとの提携からも見て取れますが、IBMというベンダーに囚われず、マルチベンダーのテクノロジーニーズに対応するため、クラウドベースのサービス提供で成長を目指す戦略に舵を切っています。

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具体的には、現状は20%の従業員がIBMのクラウド関連事業に従事していますが、中期的には50%の人材がAWSなどのハイパースケーラーと関わるようになることを目指すなどしながら、現状減少傾向にある売上を2025年までに成長させる素地を作ろうとしています。

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従来のクラウドサービスを成長させることに加えて、アプリケーション、データ、AI、DXなど今まで提供できていなかったサービスサインナップの拡充も目指しています。


なぜKyndrylを分社化したのか

Kyndrylの分社化は様々な理由があると考えられますが、具体的には以下のようなしがらみから解放されるためだと考えられます。

ITmediaエンタープライズSPECIAL:キンドリルとは何者か?何ができ、何が新しいのか?(2021年12月20日)

インフラ運用でIBMのサービスを利用する際、クラウドは別のプロバイダーを使いたくても「『IBM Cloud』を使ってほしい」と言われる。サービスを選ぶと製品まで決まってしまうのは本当の意味での顧客目線と異なることもあります。真に顧客と向き合うならIBM製品は選択肢の一つにすぎないはずです。であれば独立して最適な技術を使い、顧客の要望にフォーカスすべきだ――そうした考えからスピンオフとしてキンドリルは始まりました。

こちらの記事にあるように、IBMで最も成長しているのは技術サービスなどの分野で、IBM Cloudを前提としたサービス提供ではソリューションの幅が限られるため、IBM Cloudに縛られずさまざまなクラウドやオープンソースのサービスを使い、顧客に提供していきたいと考えていることが大きな理由の一つであると想定されます。

またIBMにとっては、ハイブリッドクラウドとAI分野を強化しテクノロジーとコンサルティングに集中するために、インフラ分野を得意とするKyndrylとの分社化したと考えられます。

IBMとKyndryl双方にとって、分社化が成長に繋がると考えられたと言えます。


 AWS, Kyndryl, IBMの売上推移

最後に、AWSとKyndrylを含めたIBMとの売上推移を見てみます。

まずは、AWSの直近の業績について見ていきましょう。

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AWSのFY21Q4の売上は、$17.8B(約1.78兆円)、YoY+39.5%と高い成長率を維持しています。

通期売上で見ると、FY21は$62.2B(約6.22兆円)、YoY+37.1%となっています。

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過去4年間の通期売上を、IBM、Kyndryl、AWSとIBM+Kyndrylの推移で比較すると上のグラフのような推移になります。

Kyndryl分離後のIBMはFY21にAWSに売上を抜かれてはいますが、Kyndrylを合算した場合は、まだ依然としてIBMの売上がAWSを上回っています。

グラフで見て取れるように、IBMとKyndrylの売上がほぼ横ばい、AWSは年々成長していることを考えると、Kyndrylとの合算売上をも上回るのは時間の問題に見えます。

しかし、ここまで解説してきたIBMとKyndrylの分社化、それぞれの成長戦略が功を奏せば、巻き返しもあり得るかもしれません。


 まとめ

今回は、IBMの年間売上をAWSが追い抜いたというトピックスから、なぜそのようなことが起こったのかという視点でIBMの事業や戦略を深掘りし、分社化したKyndrylを含めた今後の成長戦略についても見ていきました。

要点をまとめると、以下のようになります。

・IBMのFY21は$57B(約5.7兆円)、YoY▲22.1%
・20%を超える売上減少要因は、IBMのインフラ・サービス部門が独立したKyndrylの分社化によるもの
・IBMの分社化の狙いは、ハイブリットクラウドとAIにより集中し、テクノロジーとコンサルティングを中心とした事業ポートフォリオにするため
・Kyndryl側から見た分社化の狙いは、IBMに囚われずオープンソースを活用しながらAWSなどの様々なベンダー、プラットフォームと連携し、真の顧客目線でのサービスを提供するため

IBMは、後世に残る様々なアイディアを実現してきた素晴らしい企業であり、多くの危機や失敗を乗り越えてきた歴史もあります。

現時点では、、直近数年の売上が下落傾向にあり、さらにFY21にはKyndrylを分社化したとはいえYoY▲20%の売上減となっていることから、決して上手くいっているとは言えないでしょう。

そのような状況でも、戦略を見直して立て直しを図っていることが今回の記事で見て取ることができたので、今後IBMが巻き返していけるのか、注目していきたいです。

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アメリカ・日本のネット企業(上場企業)を中心に、決算情報から読みとれることを書きます。経営者の方はもちろん、出世したいサラリーマンの方、就職活動・転職活動中の方になるべく分かりやすく書きます。