「脳ドック専門クリニック」のオペレーションとビジネスモデルが凄かった件(前編)
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シバタの楽天時代の先輩、濱野斗百礼さんが開業した「脳ドック専門クリニック」へ行ってみたところ、あまりの早さに感動したので、その場の勢いで「しば談」をお願いしてみました。
前編・後編の2回に分けてお届けします。
※「しば談」は対談者との金銭のやり取りを一切行わない対談企画です。今回の企画でもシバタは自費で受診していますし、紹介料等のやり取りは一切ありません。「スマート脳ドック」の詳細はこちらのビデオをご覧ください。
シバタ: 今ちょうど、脳ドックとCT検査をしてもらったところなのですが、このクリニックに僕が到着してから、20分かからずに全ての診察が終わってビックリしています。
濱野斗百礼さん(以下、敬称略): 早いでしょ?
シバタ: 早いなんてもんじゃないですね、これ。アメリカでは、病院やクリニックは普通は予約制で日本みたいに意味不明に待たされることはないのですが、こんなに早いのははじめてですよ。まさかMRIとCTがあわせて20分かからずに終わるとは思ってませんでした。
「脳ドック」専門クリニックを開設しようと思ったきっかけは?
シバタ: 濱野さんは、楽天時代、ポータル事業(インフォシーク)、広告事業などを担当され、リンクシェア・ジャパンの社長もやられて、なぜこの事業をやろうと思ったんですか?
濱野: 以前たまたま知り合った病院の先生がいて、減価償却が終わったMRIを持っていたんですが、それをどういう患者さんに使っているかというのを聞いたら、毎年30-40万円くらい払える、いわゆる富裕層向けのフルパッケージ型の人間ドッグに使っているという話を聞きました。
一方で、丁度その頃に、バスの運転手の運転中に脳の障害を起こして大きな事故を起こしてしまうという件がありました。通常、バス会社などは運転手には、普通の健康診断を受けてもらっていて、それは 5,000円から1万円くらいかかるんだけど、脳ドッグとなると4-5万円かかるので会社としてもそこまでは負担できない、という話になるんです。
これは何とかできるんじゃないかと思った。そこで、その先生に「減価償却終わってるんだから、MRIを1万円でやってみましょう」とけしかけてみたんです。
ただ、ニーズが本当にあるかどうか分からなかったので、その先生と病院に広告主になってもらって、楽天会員向けに1万円でテストマーケティングしたんですよ。
シバタ: 濱野さんらしいですね。(笑)
濱野: 当時、ポータル事業担当だったので、ポイントメールという楽天会員にメールを送るサービスも担当していたのですが、病院が千駄ヶ谷にあったので、東京、神奈川、千葉、埼玉在住の楽天会員約15万人に「1万円で脳ドッグいかがですか」とメールを送ったら、2日で500人もの応募があったんです。
シバタ: それは凄い。
濱野: これは絶対ビジネスになるなと思いました。でも最初は、自分でクリニックをやるのではなく、送客ビジネスモデルをやろうと思っていました。
自動車保険の見積もりサイトを担当していたことがあって、あれは1回見積もりを取ると、20社一括で約4,000円の売上があって、ユーザーに1000ポイントバックしても3,500円入るので、収益性が非常に高い。
脳ドックも「同じモデル」だと。「基本的には年に1回やればいい」と思ってもらえれば毎年毎年顧客データベースがたまっていって、これはまたすごく儲かるものが作れるな、と勝手ないつもの想像をしてました。(笑)
シバタ: 濱野さんらしい!なるほど。ご自身で深く理解されているリードジェン型のビジネスの型にはまる、と思われたということですね。
当初想定していた「送客型ビジネスモデル」からの方向転換
濱野: そこで「MRIって日本に何台ぐらいあるんだろう?」って思って調べたら、実は日本が世界で一番持ってて、6,000台もあった。
シバタ: 意外でした。確かに、僕アメリカにいるのですが、アメリカだと高すぎて、MRIは気軽にはできないですね。
濱野: 知ってる(笑)。アメリカからもたくさん来てくれています。アメリカだと高くて受診できないと。この間も実は女性の方がアメリカから来てくれて、うちでCT撮ったのですが、うちの胸部CTは、税込で8,100円。アメリカでも同じことやって、同じ結果が出て$1,400(約14万円)だと言われましたよ。
シバタ: そうですね。アメリカだと、メディカルツーリズムっていうのがあって、特にこのような検査系とかはメキシコに行って検査したりする人もいます。
メキシコなどに病院の検査に来るためのキレイなホテルがあるわけです。あるいは、高額な歯の治療をするために泊まるホテルなどが、全部病院の隣にあるわけですね。でも、その病院も物凄いキレイらしいんですけど、そういう所に行って検査や治療をする人もいます。
でも、胸部CTが8,100円って、保険無しですよね?なんでそんなに安くできるんですか?
濱野: 自由診療です。結局「稼働率」が大事なんです。
日本にはMRIが6,000台あって世界で一番の保有台数なのに、大学病院などは3時ぐらいに診察終了でMRIが稼働していないんです。それなら、空いてる時間のMRIを貸してもらおうと思って、病院に営業しました。
シェアリングエコノミーだと言って、3件営業しました。見事全員に断られた(笑)。
シバタ: どうしてですか?濱野さんが営業して断られるって、よっぽどですよね(笑)。
濱野: いやいや、そんなことないんだけど(笑)。ある先生に言われた言葉が多分適格なのだと思いますが、「濱野君、MRIは何のためにあるか知ってる?」って言われたから、「いや、検査ですよね。」って言ったら、「患者のためにある。」って先生が言ったんですよね。
日本で考える医療機器というのは、いわゆる疾患がある人たちを撮る物が医療機器なんですよ。だから、健康な人を撮るためのものではないと考えられているんですね。
日本ってやっぱ保険制度が充実しているから、多分「ドック」と言わないで「画像診断」という言い方をするんだけど、画像診断で例えば頭の検査、例えば膝の検査、腰の検査、肩の検査ってMRIやるじゃない。病院からすれば、撮影するだけでいろいろ合わせて2万~3万円もらえてしまうんです。
だから、自由診療にして安くするという発想がまずはない。自由診療で出すんだったら、その受診者が患者さんにならない可能性が高いので、保険診療でもらえる金額プラス1-2万円乗せないといけないという思い込みで、脳ドックの相場が4-5万円になっているという裏の構造が分かったわけです。
機械が遊んでいるのだから、それを使わせて欲しいという営業に行ったら、そもそも論でMRI撮ったあと、「読影」といって今度は先生が見なきゃいけない。先生も必要だし、放射線技師が撮らなきゃいけない。病院って疾患の人がたくさん来るから、「暇なわけねーだろう。」と(笑)。
シバタ: 機械は空いてるけど、病院は忙しい、ということですね。
通常4-5万円の脳ドックが17,500円で出来る理由
シバタ: 「稼働率がポイント」というお話が先程ありましたし、他の病院が4-5万円かかる仕組みもわかったのですが、なぜ、このクリニックでは脳ドックが17,500円で出来るんですか?
濱野: 大学病院などは、いろいろな部位を撮影するので、機材の設定を変えたりする必要があって、1時間やっぱり2人撮るのが限界です。
うちは脳ドックに特化しているから、機材も頭部用だけ固定して、機材も新しい物なので位置決めとかもコンピューターで出来る。実際にMRIに入っているの10分ぐらいなんですよ。だから、1台で1時間4人は撮影できます。
例えば、大学病院が、1回3万円で1時間2人しか撮れないとすると、1時間あたりの売上は6万円。うちは2倍のスピードで回転するので、1時間に4人分撮れて約1.5万円まで値段が下げられるという発想です。
シバタ: そう言われるとすごく単純な仕組に聞こえてきますが、どうやってオペレーション作ったんですか?
濱野: ウェブの予約から問診票を取って、受付して、撮って帰っていただき、検査結果はスマートフォンで閲覧できる、という具合に限りなく無駄を省いています。
ユーザー目線でサービス設計した結果の「バイラルマーケティング」
シバタ: 普通、病院の機器に稼働率の発想はないですよね。でも、稼働率を上げようとすると、それだけ多くのお客さんを集める必要がありますよね。
濱野: 病院に人は来るのですが、自分で開業すると、マーケティングができないんですよね(笑)。
シバタ: 分かります。
濱野: 看板上げてれば人が来るかというと、そんなことなくて、朝9時から夜実は8時までやってて、ランチの時間にもお越しいただけるようにしています。
仕事で銀座に来て、30分空いたのでその場で15分前に予約して来る人もいらっしゃいました。
シバタ: そうですね。予約スロットが15分刻みなのに驚きました。
濱野: 更に、脳ドックの検査結果はうちのサイトで、マイページで見れる。検査後、1週間後にメールが来たらログインすると、診断結果が見られます。
総合判定を2人の先生が診て、うちの先生がコメントを書いて、何かあれば外来に行ってくださいとなります。
受診者の方に好評なのは、脳の画像を全部見せましょうっていうのをはじめました。自分の脳が全部分かる。多くの方が受診結果、つまり自分の脳の画像をキャプチャーしてFacebookにあげてくれています。
知り合いがたくさん撮って写真をあげているものだから、同じ写真をあげてみたい「僕も私もやりたい。」というニーズがでましたね。
シバタ: 完全にバイラルマーケティングに成功していますね。(笑)
シバタの脳MRI画像(本物です)
「治療」vs「予防」
シバタ: 少し話が戻るんですけど、病院というのは病気になった人を治す場所だという考え方と、最近だと、英語でpreventive medicine(予防医療)、病気になるのをそもそも食い止めるという医療があって、どちらかと言うと濱野さんの目指しているのは、後者だとおもうのですが、まさに時代のトレンドそのものだなぁと思いました。
アメリカだとカリフォルニアにカイザーという病院があるんですよ。アメリカは保険が全部民間なので、カイザーという病院は病院でもあり保険でもあります。カイザーの保険を持っている人は、カイザーの病院にしか行けないんですが、何が凄いかと言うと、カイザーには予防医療をやるインセンティブがあるんですよ。
カイザーとしては、大きな病気になる人が増えれば増えるほどコストがかかります。病気になる人が多くても少なくても保険料の収入はほぼ一定です。したがって、なるべく病気になる前に検査して、小さい時に治療しておいた方が全体として儲かるようになってるんですよ。
濱野: うちの先生は、循環器の先生が実は院長先生になってくれているのだけど、先生は今まで何をしてたかと言うと、循環器だと心臓のカテーテルの手術などをたくさんやっていました。結局「やってもやっても患者が減らないね。」というのが分かってて、僕たちの発想とマッチしました。
実は病気になる前の人たちをどうやって減らしていくのか、というのをしっかりやりたい、という思いで、院長先生と一緒になってやっています。
シバタ: ビジョンが一致しているのは強いですね。
濱野: ただ、病院は忙しいということと、病院が一番儲かるのは、疾患の人を見つけて手術をやることだということです。健康そうに見える人のMRIを撮っても、疾患が出なければ患者にならないので、経営的に合理性を見つけるのが難しいという問題になるわけです。
シバタ: やはり「手術が上手な人が一番」という発想があるのでしょうか。本当にギリギリのところで命を救う、というのももちろん大事なわけですが。
濱野: 予防医療は実は日本の保険制度にも優しいんです。保険として非常にお金がかかるものの人は「延命」。でも、例えば、40歳で脳ドックやって何か問題が見つかれば、生活改善しなきゃいけないかとなるので、その人の人生全体での医療費が低くなるケースが多いです。
(後編に続きます。)
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