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GoogleがHTCを買収した背景と1,200億円が「破格」である理由

GoogleがHTCのハードウェア部門を$1.1B(約1,200億円)で買収する、という発表がされました。

今日のnoteでは、何故Googleが今回の買収に踏み切ったのか、と言う背景と、その$1.1B(約1,200億円)と言う買収金額の妥当性を、議論してみたいと思います。


苦しいHTCと自社端末で攻めたいGoogle

始めに、HTCとGoogleの現場を簡単に見てみたいと思います。

HTCのハイエンドスマホ市場シェアは、最盛期の2011年には10%弱ありましたが、現時点では1%を割る程、非常に厳しい状態になっています。

一方でGoogleは昨年から、Pixelと言う名前で、初めて自社でスマホを開発販売し始めました。Googleが自社の端末としてスマートフォンを発売するのはこれが初めてだったわけですが、実際に製造を委託されていたのはHTCだった、というのは有名な話です。


Pixel vs iPhone

グローバルで見ると、Googleが提供するAndroid OSのマーケットシェアは80%を超えると言われていますが、これまでGoogleは自社で端末を販売することをしてきませんでした。

ここに来て、HTCのハードウェア部門を買収してまで、自社端末にこだわる姿勢を見せているわけですが、その背景にあるのは当然iPhoneをライバル視していると言う点です。

ここで簡単に、PixelとiPhoneの比較をしておきたいと思います。

昨年10月に発売されたPixelは、一体何台ぐらい販売されているのでしょうか。あくまで推測値になりますが、詳しく見てみたいと思います。

Google has sold close to 1.8 million Pixels since it launched nearly eight months ago

1.8 million sales wasn’t the only number that BayStreet Research had. It also stated that around 475,000 Google Pixel devices were sold in the second quarter of the year (which ends on June 30th, so there’s still time for it to grow even larger).

この記事によると、約8ヶ月間の間で180万台のPixelが、販売される直近の四半期では3ヶ月あたり50万台程度が販売されているのではないかと推測されています。

つまり、あくまで推測になりますが、1年間で約200万台程度のPixel端末が販売されたと見ていいでしょう。

他方、iPhoneの販売は、伸びが止まってきているとは言え、年間2億台以上となっています。

簡単にまとめると、iPhoneは年間2億台、Pixelは200万台程度と言う様に、自社製造端末で見ると、iPhoneの方が100倍程度大きいことになります。

OSレベルで見ればGoogleの方が、ユーザー数が4倍以上多いわけですが、自社製の端末と言う点では、100分の1程度しか販売できていないと言う具合に、Googleは大きな成長ポテンシャルを見出したと言っても過言ではありません。

そこでGoogleは、今回のHTCのハードウェア部門買収で、一体何を手に入れようとしているのか、と言うのを2つほど挙げてみたいと思います。


Googleが欲しかったもの#1 = iPhone並のマージン

一つ目は、間違いなく、iPhone並みのハイエンドスマートフォンを大量に販売することで得られる売上と利益になります。

皆さんはiPhoneの1台あたりのマージンをご存知でしょうか。

「The iPhone 7 costs a lot more for Apple to build than previous phones did」という記事が詳しいので見てみます。

$649(約64,900円)のiPhoneを作るための原価と組立費用が、$224.8(約22,480円)だと言う推測がなされています。つまり原価率が約35%と言うことになり、別の言い方をすると総利益率は65%もあるという、非常に収益性の高い端末です。

Googleが販売するPixelも、価格帯やハードウェアの部品のスペックを見る限り、iPhoneとほぼ同程度のものとなっているため、Pixelの製造台数がスケールしていくにつれて、得られる粗利益率もiPhoneと同等になっていくと考えるのが正しいでしょう。

現時点では、Pixelの販売台数はiPhoneの販売台数の100分の1程度でしかありませんが、仮にこれを10倍にすることができれば、Googleのような巨大な企業であっても、売上そして損益に与えるインパクトは非常に大きくなることは間違いありません。


Googleが欲しかったもの#2 = iPhone並のユーザー体験

Google がもう一つ欲しかったものと言うのは、間違いなく、iPhone並のユーザー体験を提供することでしょう。

ここではカメラの例を挙げてみます。

DXOMarkというカメラ評価サイトによれば、ピクセルのカメラはiPhone 7 Plusよりも高評価でしたが、 iPhone 8やiPhone 8 Plusには敵わない、という評価でもあります。

特にPixelのカメラは、Androidの中では非常に高い評価を得ており、レンズが一つしかついていないカメラでありながら、Googleのソフトウェア開発力で非常に性能が高いカメラに仕上がっている点は、高く評価されています。

一方で今回、 iPhone 8、 iPhone 8 Plusに搭載されることになった、A11 Bionicと呼ばれる、Appleが自社開発したチップを見ると、ハードウェアとソフトウェアの融合という点では、Appleにはしばらく敵わないのではないかとも思われます。

Appleは間違いなく、スマートフォンやタブレットでのユーザー体験を最大化するために、そこから逆算して、チップの設計製造までを行っていると考えられます。

そういった中、Googleがチップなどの部品を自社で設計製造できないだけではなく、それを組み合わせるハードウェアの設計製造の部分まで外部に依存しているのでは、当然勝ち目がないと考えたのも、自然な考え方だと言えるでしょう。

今回のHTCハードウェア部門買収によって、チップの自社製造とまではいきませんが、少なくてもハードウェアの製造部分を完全に自社でコントロールすることはできますので、Googleが自らの意思でPixelのユーザー体験をより良くしようとコントロールできる裁量は、大きくなったことは間違いありません。


Googleが手に入れたもの = HTC並のハイエンドスマホを作れるエンジニア2000人

「Why Google is spending $1.1 billion to ‘acqhire’ 2,000 HTC engineers」という記事にある通り、今回の買収に伴って、2,000人のハードウェアエンジニアが Googleの傘下に転籍することになります。

買収金額が$1.1B(約1,200億円)だとすると、エンジニア一人当たり6,000万円で買収できたことになります。

今回の買収は、HTCが有する特許への非独占的なアクセスが含まれており、単純なアクハイヤー(acqhire、人材獲得が目的の買収)ではありませんが、仮に今回の買収をアクハイヤーだとして見ても、ハードウェアエンジニア一人当たり6,000万円で買収できたと考えれば、とても「格安」な買収だとも言えるでしょう。

$1.1B(約1,200億円)と言う買収金額は、Google史上6番目に大きな買収ではありますが、現在のGoogle の規模を考えれば、そこまで大きなギャンブルではないかもしれません。ただ金額として、非常に大きな買収であることは変わりありません。

今回のGoogleの買収を経て、Pixelがハイエンドスマホ端末市場の中でどの様にシェアを増やしていくことができるのか、と言う点は、今後も注目していきたいと思います。


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