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IPO申請したElasticに学ぶオープンソース x SaaSの成長戦略

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今日は少し技術系の話も出てきますが、最近 IPO申請したElasticを取り上げてみたいと思います。

この会社は、ミッションステートメントにもあるように、ElasticSearchという検索用のソフトウェアを提供する会社です。

この会社がユニークなのは、オープンソースとしてソフトウェアを配布しつつも、これまで多くのオープンソースの会社がライセンス販売で稼いでいた中で、それに加えてSaaS 型のビジネスも、ハイブリッドで提供しているという点です。

Elastic N.V. FORM S-1
まずはプロダクトの概要と、市場環境を見てみましょう。


プロダクトとマーケット

いくつかのプロダクトを提供していますが、メインとなるプロダクトはElasticSearchと呼ばれる検索用のソフトウェアです。このソフトウェアを使うと、誰でも高速な検索エンジンが構築できるようになります。

もうひとつ注目すべきは、Kibanaと呼ばれる、ElasticSearch上のデータを可視化するためのソフトウェアです。このソフトウェアがあるおかげで、開発者はElasticSearchだけではなく、Elasticが提供するソフトウェアをブラウザーから簡単に管理することができます。

Beatsというのはデータのパイプライン用のソフトウェアであり、Logstashは高度なログ管理用のソフトウエアになります。

市場環境ですが、検索用のソフトウェアの市場規模は、2018年で$8B(約8,000億円)、IT のオペレーションマネジメントが$9B(約9,000億円)、ビッグデータ分析用のソフトウェアが$23B(約2兆3,000億円)、セキュリティが$5B(約5,000億円)、トータルで$45B(約4兆5,000億円)の市場があると記載されています。


売上: 成長率YoY 約+100%のスピードで成長

次に売上を見てみましょう。

売上は、2018年4月までの1年間で$160M(約160億円)と、前年度の$88M(約88億円)から、ほぼ倍増しています。

内訳を見ると
・ライセンス販売が$26M(約26億円)(13%)
・SaaSが$124M(約124億円)(78%)
・プロフェッショナルサービスが$11M(約11億円)(9%)
となっています。

従来のオープンソースの会社というのは、ライセンス販売とプロフェッショナルサービスがほぼ全ての売上だったのが普通かと思いますが、この会社はSaaSの売上が非常に大きくなっているのが特徴的です。


費用構成

費用構成も見てみましょう。

売上に対して

・原価が27%
・R&D(エンジニアの人件費)が34%
・営業マーケティングが54%
・一般管理費が18%

となっています。

SaaS企業としては、極めて一般的な教科書通りの水準と言えるでしょう。SaaSビジネスを展開している方は、この比率を覚えておくと良いかと思います。


オープンソースと SaaS を組み合わせた成長戦略

さて、本日のメイントピックである、オープンソースとSaaSを組み合わせた成長戦略に入っていきたいと思います。

目論見書の中で「Our Growth Strategies」というセクションがあり、そこに詳しく解説されていますので、ひとつずつ見ていきましょう。

・Increase product adoption by improving ease of use and growing our open source community.
(プロダクトを改善しオープンソース利用層を増やす事で、製品採用率を上げる。)
・Expand within our existing customer base through new use cases and larger deployments.
(既存の利用者層に、新しい利用場面の提供やより大規模な導入をする。)
・Increase usage of Elastic Cloud.
(Elastic Cloudの利用を拡大する。)


戦略#1: オープンソースでソフトウェアを配布

冒頭から述べ申し上げている通り、この会社は自社で制作したソフトウェアを、オープンソースで無料で配布しています。

そのソフトウェアのダウンロード数は、このグラフにある通り、右肩上で急増して、3.5億ダウンロードを突破しています。

オープンソースという無料配布の形をとることで、ソフトウェアを利用するエンジニアをどんどん増やしていく、というマーケティング戦略がここにあります。

無料でオープンソース版をダウンロードして使い始めてくれるエンジニアが、将来の有料ライセンス購入や、SaaS利用に繋がるという形になります。


戦略#2: ライセンス販売

次に、無料でオープンソース版をダウンロードして使い始めたエンジニアのうちの一部が、有料版のソフトウェアのライセンスを購入します。

ここでのポイントは、多くの営業先がすでにオープンソース版のソフトウェアを利用している場合が多いため、自社でゼロから営業をするというよりは、すでに利用している人にライセンスを販売するという形に持って行くことが出来、営業効率が非常に高いという点です。

また、オープンソース版と有料版で多少の機能の違いはあるものの、基本的には利用用途に対する制限であったり、サポートに対する対価を支払う形になるため、R&Dが二重に必要なわけではない、という点も大きなポイントです。


戦略#3: SaaSへ転換

そして無料のオープンソース版を利用してくれている顧客の一部が、SaaS製品であるElastic Cloudを利用する、というのが、この会社の最も特徴的なファネルです。

このグラフは、SaaSを開始し始めた年度別のコホートになります。

グラフを見れば分かる通り、2016年度にSaaSを使い始めたユーザーからの売上が緑になるわけですが、この帯が右肩上がりで大きくなっていることがわかります。

この緑色の顧客からの売上は、2016年度が$20.6M(約20.6億円)であったのに対し、2018年度は$37.7M(約37.7億円)まで増えています。つまり、2年間の間に同じ顧客からの売上が1.8倍になったというわけです。

このグラフが意味するところは、一旦ユーザーがSaaSサービスを利用し始めると、そのユーザーからの売上が右肩上がりで大きくなっていくという事です。

Our Net Expansion Rate was 142% as of July 31, 2018 and was over 130% at the end of each of our last seven fiscal quarters.

という記載がある通り、毎年42%ずつ一顧客あたりの売上が増えて、積み上がるモデルになっています。

このようにして、顧客がどんどん積み上がっていき、こちらに記載されているような著名大企業も顧客リストに含まれています。


経営陣への報酬と株主構成

最後に、いつも書いている通り、経営陣への報酬と株主構成を簡単に見ておきたいと思います。

CEOへの現金報酬が$0.4M(約4,000万円)、ストックオプションなどの株式報酬が$7.5M(約7.5億円)となっています。この株式報酬は、上場前のタイミングでの一時的なものである可能性が大きいかと思います。

CFOへの報酬は、給与が約$0.27M(約2,700万円)、ボーナスが$0.2M(約2,000万円)、株式報酬が$3.5M(約3.5億円)となっており、CRO(Chief Revenue Officer)へは、給与が$0.5M(約5,000万円)、ボーナスが$0.11M(約1,100億円)、株式報酬が$1.1M(約1.1億円)となっています。

アメリカで上場する企業を創る経営陣というのは、日本の上場企業とは比べ物にならないくらい大きな報酬を得られるということはご理解いただけるかと思います。

株主名簿ですが、CEOが上場時点で15%、CFOが1.1%、CROが1.7%を保有しています。アメリカの上場する会社の創業者経営陣の持分としては、標準的なレベルではないかと思います。

ベンチャーキャピタルとしては、Benchmarkが17.8%、Index Venturesが10.5%、NEAが10.2%を保有しています。

過去に、この表にあるような経緯で資金調達をしてきているので、シリーズAで約20%弱、シリーズB、シリーズCのそれぞれで10%ずつの希薄化が起こっていると想定できます。


まとめ

簡単にまとめると、この Elasticという会社がユニークなのは、オープンソースをうまく活用して、SaaSビジネスにつなげている点です。

以下の3点がポイントになります。

・オープンソースでソフトウェアを無償配布
・有償ライセンス販売
・SaaSサービスへのコンバージョン

オープンソースを無料のマーケティングツールとして活用するという流れは、これからも増えていくかと思いますので、ソフトウェア型のビジネスをされている方は是非参考にされてはいかがでしょうか。

★SaaSビジネスのキホンを学びたい方は、こちらの新著でも詳しく触れています
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