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決済「覇権戦争」米中は1兆円超え投資も〜テクノロジーの地政学・全文公開#3

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このnoteでは、私シバタナオキと吉川欣也さんが2018年11月に出版した書籍『テクノロジーの地政学 シリコンバレーvs中国、新時代の覇者たち』の内容を毎週1章ずつ「まるごと」全文を公開していきます。

今、政治・経済で中国企業が話題に上る機会が増えています。背景にあるのは、中国のテクノロジー産業が急速に発展し、米国や日本の脅威になりつつあるという事実です。一方で、中国企業はシリコンバレーおよび米西海岸の企業群と密接に絡みながら(影響を受けて)進化を遂げてきたという側面もあります。

本書『テクノロジーの地政学』は、このシリコンバレーと中国のテクノロジー動向を深掘りしてまとめた一冊です。全6章を小分けにしてお届けする「全文公開」をご覧いただき、面白そう、役に立ちそうと感じたら、ぜひ書籍をお買い求めください。

本エントリでは、Chapter03:フィンテック・仮想通貨の内容を全文公開します。

この記事の目次

・書籍『テクノロジーの地政学』とは?
・全文公開Chapter03:フィンテック・仮想通貨の概要
・フィンテック・仮想通貨のマーケットトレンド

  シリコンバレー編/“熱狂”は収まるも、いまだ北米はフィンテック大国
  中国編/急成長するモバイル決済と、規制強まる仮想通貨
  リップル社に学ぶ、ブロックチェーンの歴史と課題
・フィンテック・仮想通貨の主要プレーヤー
  シリコンバレー編/「技術駆動」で課題解決に挑む注目プレーヤー
  台頭するインシュアテック「2種類のプレーヤー」
  中国編/モバイル決済「二大巨頭」の趨勢
・フィンテック・仮想通貨分野の注目スタートアップ
・未来展望
  中国編/中国フィンテックの急成長と抱える課題から学べること

書籍『テクノロジーの地政学』とは?

本書は、2018年6月~9月に我々が主催したオンライン講座「テクノロジーの地政学」を書籍化したものです。講座では、以下に記す6分野を中心に、シリコンバレーと中国それぞれのマーケットトレンドや主要プレーヤーを解説しました。

 Chapter01:人工知能(全文
 Chapter02:次世代モビリティ(全文
 Chapter03:フィンテック・仮想通貨
 Chapter04:小売り
 Chapter05:ロボティクス
 Chapter06:農業・食テック

なぜ「シリコンバレーvs中国」の比較形式にしたかというと、この2地域の企業動向が、今後の世界経済を確実に左右すると見ているからです。私たちがそう考える理由は2つあり、詳しくは以下のエントリで説明しています。

話を戻して、本書は上記した6分野ごとにシリコンバレーと中国の現地情報に精通した「ゲスト解説」をお招きして、

 ・マーケットトレンド解説(シリコンバレー編/中国編)
 ・主要プレーヤー解説(シリコンバレー編/中国編)
 ・各分野の注目スタートアップ
 ・未来展望(ゲスト解説と我々による議論)

の4つをまとめています。

今回取り上げるChapter03:フィンテック・仮想通貨の全文も、この構成に則って紹介しています。ここでは文章だけを抜粋していますが、書籍では「シリコンバレーvs中国で各分野の動向を見開き比較」している他、「市場調査会社が出している最新データ」や「主要プレーヤーが開発する製品の説明画像」もふんだんに盛り込んでいます(サンプルページは以下です)。ぜひお手に取ってみてください。

全文公開Chapter03: フィンテック・仮想通貨の概要

ここからは書籍『テクノロジーの地政学』のChapter03:フィンテック・仮想通貨の章を紹介していきます。

フィンテック(FinTech=FinanceとTechnologyの造語)は、その語源の通りテクノロジーによって既存の金融サービスをさまざまな形で効率化してきました。ただ、シリコンバレーと中国の企業群は、モバイル決済やブロックチェーンの技術などで日本の数歩先を行く革新的なサービスを生み出しています。その詳細を紹介しましょう。

《この章のポイント》
■ シリコンバレー

仮想通貨分野で着々と進む「技術に張る」動き
フィンテック先進国で新たに台頭するインシュアテック

■ 中国
モバイル決済大国で主権を争う二大巨頭
中国政府がICOや仮想通貨取引所の取り締まりを強化

《この章のゲスト解説》
■ シリコンバレー編
東京海上ホールディングス
Head of Digital Innovation(Silicon Valley)
楠谷“マックス”勝氏

大阪府生まれ。神戸の大学を卒業した後、東京海上火災保険株式会社(現・東京海上日動火災保険)に入社。保険サービスのデジタルイノベーションを推進するべく、2016年から東京海上グループで初となるシリコンバレーでのテクノロジー拠点立ち上げに従事。現在は計5名のチームを率いて、デジタルを活用した新しい保険サービスの開発やスタートアップ、プラットフォーマーとのアライアンス構築などを担っている。

■ 中国編
Ripple(リップル)
Sr. Director, Joint Venture Partnership
吉川絵美氏

ニューヨークに本拠を置く金融サービス企業のMSCI社(当時モルガン・スタンレー傘下)で機関投資家向けのクオンツ投資モデルのプロダクト開発に従事。その後、シリコンバレーのテックベンチャー勤務や、クロスボーダー事業開発に関するコンサルティング会社の経営を経て、ブロックチェーン技術開発スタートアップのリップル社に転職。現在はジョイントベンチャーおよびアジア市場の事業開発・パートナーシップを担当している。2017年には米Onalytica社が選ぶ「Women in Tech」の「TOP 50 Women in Fintech influencers」に選出される。米ハーバード・ビジネススクール卒業。Chartered Financial Analyst(CFA)資格保有。

フィンテック・仮想通貨のマーケットトレンド

■ シリコンバレー
近年は日本でもオンライン決済や仮想通貨などのビジネスが注目を集めているが、ビジネスの規模・技術革新のスピード共にいまだ米国がリードしている。

【フィンテック】
2017年の関連投資は年間約1兆6600億円

米CB Insights調べ(2017年時点)。世界の投資総額は2017年が過去最高で、中でも北米地域は世界一の投資額だったが、マーケットそのものは落ち着き始めたと見る動きも。

【フィンテック】
ユニコーン数は世界25社中16社が北米

米CB Insights調べ(2018年3月時点)。地域別のフィンテック関連ユニコーンの数では北米地域が世界一。オンライン決済や仮想通貨などの技術で先駆的存在が多い。

【仮想通貨】
2018年、世界の関連投資は年間約2800億円に

米CB Insights調べ(2018年)。2016年までは、関連投資額が年間で約500~600億円(5億~6億ドル)程度だったことから、2017年~2018年の2年間で急激に伸びた格好だ。

【仮想通貨】
そのうち投資額の55%が米国企業に

米CB Insights調べ(2012年~2017年2月まで)。中国を含め他の先進国が占める割合はひと桁台であることから、米国が圧倒的な割合を占めていると分かる。

■ 中国
フィンテック関連で多くの技術革新が生まれたのが米国なら、「サービス普及」の面で世界一になりつつあるのが中国。特にBtoCサービスの進化は著しい。

【フィンテック】
モバイル決済の2017年取引総額は約1600兆円

米Kleiner Perkinsの「Internet Trends Report 2018」より。このうち9割をAlipay(アリペイ)とWeChat Pay(ウィーチャット・ペイ)が占めている。

【フィンテック】
関連企業のIPO(株式公開)は2017年だけで5社と急増

米CB Insights調べ。AlibabaとTencentが大手保険会社「ピンアン保険」とともに設立した衆安保険(ジョンアン保険)など、世界屈指の規模となっている企業も。

【仮想通貨】
国内のICO&仮想通貨取引所が全面禁止に

2017年9月より、中国人民銀行を筆頭とする省庁を横断する委員会が禁止を決定。詐欺まがいの違法な資金調達が横行したことによる決定と見られている。

【仮想通貨】
2017年、ビットコイン取引額の世界一から陥落

米CoinDesk「State of Blockchain 2018」より。2016年まで人民元による取引が約9割を占めていたところに政府の取り締まりが入り、急減、先が読めない状況に。

“熱狂”は収まるも、いまだに北米はフィンテック大国

~マーケットトレンドの詳細解説 シリコンバレー編 楠谷“マックス”勝氏に聞く〜

オンライン決済やロボ・アドバイザーなど、日本でもいまやさまざまなフィンテックビジネスが普及しています。全体的なトレンドという観点では、フィンテックはもう黎明期を過ぎて普及期に入っていると言えるでしょう。

一方、近年は仮想通貨・ブロックチェーン関連の動向が話題に上る機会が増えています。独のDalia Researchが2918年5月に発表した調査結果によると、日本は「仮想通貨の所有率」で世界一になっており、今後の動向に注目している方も非常に多いのではないでしょうか。

そんな中、シリコンバレーではこれらの動向がどうなっているのか、数字を中心に見ていきましょう。

《フィンテック企業への投資額は北米がトップ》

CB Insightsの「Fintech Trends to Watch in 2018」という調査レポートによると、フィンテック関連企業への投資は年々増えていて、2017年には166億ドル(約1兆6600億円) に上っています。そのうち、地域別のベンチャーキャピタル(以下、VC)の投資額を見ると、2017年時点で北米が78億3700万ドル(約7837億円)で世界のトップ、次いでアジアが57億9400万ドル(約5794億円)、ヨーロッパが26億7600万ドル(約2676億円)となっています。

ただし、アジアは2016年の投資額と比べてマイナス10%に、北米も2015年の投資額と比べてマイナス5%になっており、マーケットが落ち着き始めたと見ることもできます。

一方で、CB Insightsのレポートにあるフィンテック関連のユニコーンの数を見ると、2018年3月時点でグローバルでは25社、そのうち16社が北米の企業とあります。ユニコーンの割合から考えると、シリコンバレーを中心とする北米は依然、大きな市場だと言えるでしょう。

《仮想通貨バブルの内情》

CB Insights が調べた世界の仮想通貨・ブロックチェーン関連投資額の推移を見ると、2016年までは年間で5億~6億ドル(約500~600億円)程度だったのに対して、2017年は15億6000万ドル(約1500億円)に、2018年は推計で28億2000万ドル(約2800億円)となっています。

この急激な伸びはバブルだと見られていますが、シリコンバレーでは「技術に張る」動きも堅調に増えているのが特徴です。

事実、CB Insightsが調査した地域別の仮想通貨・ブロックチェーン関連投資の割合(2012年~2017年2月) を見ると、米国が55%で最も大きな割合になっています。地域別で第2位となるイギリスは6%、中国や日本はたったの2%です。この結果からも、米国の関連企業はちゃんと技術に投資をしてきたことが読み取れます。

ブロックチェーンのような分散型台帳システムやICO(Initial Coin Offering=仮想通貨技術を使った資金調達)の思想そのものは、インターネットの黎明期のように刺激的なものです。ただ、まだまだ技術が理想に追い付いていないということも、分かっている人は分かっている。それゆえ、この仮想通貨バブルが過ぎ去れば、多くの投資家が落ち着いてまた技術に張り始めると思われます。

《ICOは多分野に広がる》

英Autonomous Researchが運営するAutonomous NEXTという調査メディアが発表した「#TOKEN MANIA」によると、2017月7月時点で世界のICO調達総額は12億6600万ドル(約1266億円)となっています。

ジャンル別に見てみると興味深い傾向があって、調達額が最も大きいのは「仮想通貨」分野で5億1300万ドル(約513億円)、次が「金融マーケット」分野で1億9400万ドル(約194億円)なのですが、「メディア・ソーシャル」分野が1億4700万ドル(約147億円)、「ゲーム・ギャンブル」分野も7700万ドル(約77億円)と小さくない割合を占めています。しかも、「メディア・ソーシャル」と「ゲーム・ギャンブル」分野のICOは、2016年から2017年の1年間でそれぞれ対前年比8倍と14倍に増えています。

他にもIoTやクラウドなど、さまざまなジャンルでICOによる資金調達が行われるようになっており、ブロックチェーンがフィンテック以外にも活用され始める兆しとして注目に値するデータでしょう。

急成長するモバイル決済と、規制強まる仮想通貨

~マーケットトレンドの詳細解説 中国編 吉川絵美氏に聞く~

続いて中国の全体動向を紹介しましょう。フィンテック分野では、IT御三家BAT(検索サービス大手のバイドゥ、EC大手のアリババ、SNS大手のテンセント)のうち、アリババとテンセントが際立った動きを見せています。特にモバイル決済のサービスで、熾烈な競争を繰り広げているようです。

他方の仮想通貨は、前述した「バブル」の影響がシリコンバレーとは違った形で表れています。

《モバイル決済は伸びるも規制が強まる》

中国のフィンテックマーケットで、世界的に見逃せない勢いで進化を遂げている分野の一つがモバイル決済です。米VCのKleiner Perkinsが、同社の著名パートナーであるメアリー・ミーカーの名で毎年発表している「Internet Trends Report 2018」によると、2017年は中国におけるモバイル決済の年間取引総額が16兆ドル(約1600兆円)を超えたとあります。しかも、そのうち9割をアリババ・グループのアリペイ(Alipay)とテンセントのウィーチャット・ペイ(WeChat Pay)が占めています。

特にウィーチャット・ペイは、誕生したのが2013年。たった5年でアリペイに迫るまで成長しており、この二大巨頭の競争については後で詳しく説明します。

もう一つトピックスを挙げると、中国では2017年だけでフィンテックスタートアップが5社もIPOしています。

代表的なのは、生命保険大手のピンアン保険(平安保険)とアリババ、テンセントが共同出資しているジョンアン保険(Zhong An Insurance)などです。ただし、この流れでフィンテックの新興勢力が増えていくかというと、疑問符が付きます。これまで中国でIPOしてきたフィンテックスタートアップの多くは、いわゆるピア・ツー・ピア融資のような消費者金融で、貸し倒れが頻発したため国の規制が強まっているからです。

実際に、2017年までにIPOしたフィンテックスタートアップの多くが、2018年に入って株価を落としています。

《ICOおよび仮想通貨取引所が全面禁止に》

中国の仮想通貨マーケットを語る上で外せないのが、2017年9月に中国国内でのICOおよび仮想通貨取引所が全面禁止になったというニュースです。中国人民銀行を筆頭とする省庁横断委員会の決定で、背景には「成熟していない業界をそのままにしておくと、詐欺が横行して金融の秩序を乱す」という考えがあったようです。

この決定の影響は、すでに多方面で出ています。仮想通貨やブロックチェーン関連のニュースサイト米CoinDeskが調査した「State of Blockchain 2018」によると、世界の通貨別ビットコイン取引量の推移では、2014年〜2017年初頭まで中国の人民元が8~9割近くを占めていました。それが2017年半ば以降に1~2割程度まで急減し、対して日本円とUSドルが伸びています。

それまで人民元のトレードが多かったのは、国内トップ三大取引所のフオビ(Huobi)、BTCC、オーケーコイン(OKCoin)がトレーディングフィーをほとんどゼロにして信用取引でもうけるような仕組みにしていたのが一因で、加えて取引量データの水増しも横行していたと言われています。こうした流れをいったん是正するために、規制が入ったわけです。

また、大きな資金調達に成功するスタートアップが出ていたマイニング分野でも、これから規制が強まると言われており、他国に拠点を移すような動きが進んでいます。中国の仮想通貨・ブロックチェーンのマーケットは、先が読めないというのが正しい見方でしょう。

ただし、中国政府は基礎となるブロックチェーンの技術開発には非常に協力的で、公にこの分野に力を入れていくと発表しています。

リップル社に学ぶ、ブロックチェーンの歴史と課題

この章のゲスト解説は、米リップル社(Ripple)のアジア市場担当・吉川絵美氏です。同社は仮想通貨・ブロックチェーン分野の世界的メジャーとなっており、多くの仮想通貨が課題としている「トランザクションのスピード向上」に注力していることでも知られています。

そこで、次の主要プレーヤー紹介に入る前に、リップル社の歩みを通じて仮想通貨・ブロックチェーン分野の課題と解決の打ち手がどんなものなのかを学んでおきましょう。

《リップル社の歩み》

リップル社は2012年にサンフランシスコで生まれた会社で、2018年7月時点では世界に8拠点、100以上の金融機関に対してブロックチェーン・ソリューションを提供しています。ブロックチェーンの世界で2012年にできた会社というのは、ある意味で老舗企業です。

仮想通貨・ブロックチェーンの歴史を振り返ると、メジャーな通貨の一つであるビットコイン(bitcoin) が2008年に誕生して、2011年くらいから世に知られるようになりました。その後、2012年~2013年くらいに「ビットコイン2.0」ブームが起こります。

これは、さまざまなプレーヤーがビットコインの技術を精査してより良い技術を生み出そうとする動きで、リップル社もまさにその中の1社として誕生しました。

その際、リップル社がフォーカスしたのが「送金」の問題。ビットコインよりもトランザクション処理に時間がかからず、よりスケーラブルな技術を作ることに注力しました。それともう一つ、創業初期からエンタープライズ系、特に金融機関向けにブロックチェーン・ソリューションを作ろうとしていたのも特徴です。

《リップル社が「送金」にフォーカスした経緯》

リップル社のビジョンは「価値のインターネット」というもの。英語で書くと「Internet of Value」、略して「IoV」です。

皆さんはIoT(Internet of Things、モノのインターネット)という言葉を聞いたことがあると思いますが、私たちが掲げる「価値のインターネット」は、IoTのさらに先を行くものだと考えています。

インターネットの黎明期が「Internet of Data」だとすると、モノのインターネットは「Internet of Things」。そして「Internet of Value」が意味するのは、お金のようなリアルな価値をインターネット上で自由に行き来できるものにするということです。リップル社はブロックチェーンを活用することで、情報が自由に行き来できるようにお金も自由に行き来できるようにしたいと考えています。

ここで、ブロックチェーン業界、特に分散台帳技術の歴史を簡単に振り返ってみましょう。2008年にビットコインが誕生した当時は「ブロックチェーン=ビットコイン」くらいのイメージで語られていました。インターネットの黎明期に、「インターネット=電子メール」だと思っていた人が多かったのと似た形です。なのでこの頃は「ビットコインさえあればどんなユースケースにも対応できる」と考える人もいました。

それが、この10年くらいで業界が成熟し、一つのデザインですべてのユースケースに対応するのは不可能だという理解も深まっていきました。そこで、リップル社は「国際送金」に特化することにしたのです。

では、国際送金の世界は具体的にどんな問題を抱えているのか。海外送金の経験がある方ならお分かりかと思いますが、現状はフラストレーションの溜まるプロセスになっています。

例えば、アメリカの地方銀行から日本の地方銀行に送金しようとした場合、その裏では複数の銀行が絡んできます。いわゆるコルレス銀行、中継銀行と言われる金融機関です。送金側の銀行と受取側の銀行に直接のつながりがないため、情報を送って、それを次の銀行がチェックして、それをまた次に送って……という逐次的で一方向のプロセスになっています。

その際に使われているのはSWIFTという金融システムです。これは40年以上も前にできた、プリ・インターネット時代の代物。そのため一つ一つのプロセスで非常に時間がかかる上に、オペレーションコストも高く付くのでそれなりの額の手数料を取られます。今、銀行で国際送金をしようとすると、3000~4000円くらいかかるのもそのためです。

しかも、現状は途中でやり取りが失敗することもあります。送った側は、一方向のプロセスなのでお金がいつ届いたのかも分からず、もし失敗していても通知が来ません。こういう状況では安心して海外に送金できないということで、リップル社はブロックチェーンの技術を使ってより近代的な仕組みにしようとしているのです。

図3‐5(図は書籍にて)のように、分散台帳技術の力を使って送金側と受取側を直接つなげて、シングルステップでリアルタイムな取引が可能になれば、今まで送金に数日かかっていたようなシチュエーションでもほんの数秒で処理できるようになります。何より透明性が担保されるということで、まさにインターネット時代の送金が可能になるのです。

《リップル社の技術》

では、どんな技術がこれを可能にしているのか。ここでは、鍵となる2つの技術を紹介します。

一つ目は、ILPと呼ばれているインターレジャープロトコル(Interledger Protocol)という技術です。そもそも、現在の送金ネットワークは多岐にわたっています。各国に国内銀行のネットワークがあり、ブロックチェーン自体も一つのネットワークです。加えて米ペイパル(PayPal)や中国のアリペイ(Alipay)のような大手送金プロバイダーも、自分たちの独自ネットワークを作っています。

問題は、これらのネットワークがお互いに連携できないという点。それによって、エンドユーザーは不利益を被っているわけです。ならばどういったソリューションが必要かというと、複数あるネットワークがお互いシームレスにコミュニケーションできるようなプロトコルを作ること。平たく言うと、このためのプロトコルが、インターレジャープロトコルなのです。

これはインターネットで言うところのインターネットプロトコルにあたるもので、現在はリップル社がこの技術の普及を促している段階です。このインターレジャープロトコルを基盤としたソリューションが、「エックスカレント」(xCurrent)です。

これはインターレジャーの技術を活用したリアルタイム送金システムで、決済リスクは最小化され、24時間365日オンデマンドで利用可能な一元決済を実現しています。さらにもう一つ、国際送金の課題として挙げられる流動性の問題を解消する技術が「エックスラピッド」(xRapid)で、その中で活用されている「XRP」が2つ目の鍵となる技術です。

現状、ある国から他の国に金融機関が送金をしようとする時は、目的地の銀行に「ノストロ・アカウント」という口座を開設して、そこへ事前払い込みをする必要があります。そのプロセスが非常に面倒で、金銭面・オペレーション面の負担も大きい。そこで、これを仮想通貨を使って簡素化するのが「エックスラピッド」の狙いです。

例えばアメリカの送金業者がメキシコの送金業者にお金を送りたいという場合、今まではメキシコの銀行にノストロ・アカウントを作り、メキシコペソを調達して、払い込みを続ける必要がありました。それが「エックスラピッド」を使えば、USドルが仮想通貨のXRPに変換され、そのXRPがメキシコの取引所でメキシコペソに変換されて受取側の口座に入ります。この法定通貨と仮想通貨の交換プロセスがほんの数秒で完結するので、まさにオンデマンドかつ流動的な調達が可能になるのです。

ちなみに、数ある仮想通貨の中でリップル社がXRPを採用している理由は、送金に最適な特性を備えていると考えたからです。具体的には、特に3つの点が他のメジャーな仮想通貨より優れていると考えています。

一つは決済時の処理スピード。(以降の記述は全て本書の発行時点で)XRPは決済に4秒しかかかりません。ビットコインだと決済に1時間以上かかることもあるので、XRPは圧倒的なスピードだと言えます。

2つ目は取引手数料の低さ。これもビットコインと比較すると、現状は1件の取引あたり5ドル程度の手数料がかかるところ、XRPはアルゴリズムの特性上、平均で0.0004ドル程度と非常に低い手数料を維持しています。

そして3つ目がエンタープライズ向けソリューションとして最も重要なスケーラビリティの優位性です。ビットコインは1秒あたり32件の取引を処理するのが限度とされていますが、XRPだと同じ1秒で1500件もの取引の処理が可能となっています。

他にも、XRPは特有のアルゴリズムを使うことによって1取引あたりのエネルギー消費量でも非常に効率が良い。これらの側面から、XRPが送金用途では最適な仮想通貨だと考えています。

なお、日本では「XRP=リップルコイン」として語られるケースが多いようですが、実態は違っていて、XRPは「パブリックなブロックチェーン上に存在するXRPという仮想通貨」なのです。対してリップル社は、世界中の金融機関向けに国際送金の問題を解決するためのソフトウェアとソリューションを提供している会社。このソリューションの一部として、XRPを使っているという形になります。

日本の金融機関でもリップル社の技術利用が進んでいて、一例としてSBIグループのSBIレミットが挙げられます。同社はタイのサイアム商業銀行とともに「エックスカレント」を採用した海外送金サービスを行っており、日本で働くタイ人労働者とその家族に、より速く、低コストな送金を提供しています。

日本からタイの家族に仕送りをする際、従来は銀行を使うしかなく、前述の通り相応の手数料と時間がかかっていました。しかも、その送金が途中で失敗してしまったら、家族の生活に多大な打撃を与えることになってしまいます。一方、リップル社のソリューションを使った海外送金サービスなら、ほんの数秒で海外送金が完了する上、手数料も銀行に比べてかなり抑えることができます。これらが好評を呼び、サービス開始から3カ月で取引量が3倍に増大したと聞いています。

フィンテック・仮想通貨の主要プレーヤー

■ シリコンバレー
「普及期」に入りつつあるフィンテック分野では、ユーザー基盤の拡大に取り組むスタートアップが増える一方、大企業の「技術に張る」動きも強まっている。

・PayPalとの競争に挑むStripe(ストライプ)

2010年設立のオンライン決済サービス企業で、フィンテック分野のユニコーンとして成長中。オンライン決済の先駆者PayPal(ペイパル)やSquare(スクエア)としのぎを削る。

・米国最大の仮想通貨取引所Coinbase(コインベース)が日本進出

2012年設立の仮想通貨取引所で、この分野で初のユニコーンとなったCoinbaseは、2018年6月に日本進出も発表。今後の展開が注目されている。

・CitiやGSなどの大手がスタートアップ投資を加速

変化に適応するべく、CitiグループやGS(ゴールドマン・サックス)といった大手企業もブロックチェーンのような先進テクノロジーを持つスタートアップに積極投資。

・台頭するインシュアテック2種類のプレーヤー

フィンテックの中でも成長が期待されるインシュアテック(保険=InsuranceとTechnologyを合わせた造語)では、どんなタイプのプレーヤーが台頭しているのか?

■ 中国
モバイル決済を筆頭にフィンテックサービスが浸透している中国では、大手IT企業が生み出す「ニュー金融プレーヤー」が熾烈なシェア争いを繰り広げている。

・Alipay vs WeChat Pay

AlibabaグループのAlipayと、Tencent傘下のWeChat Payがモバイル決済の二大巨頭になっている中国で、今後のシェア争いはどう動いていくか?

・Ant Financial(アント フィナンシャル)の「TechFin革命」

Alipayを運営するAlibaba Groupの金融会社は、巨額の資金を技術開発に投資。集めたデータを活用しながら他の金融サービス開発に生かしていく戦略を進めている。

・BAT+JDが進める、四大国有銀行との連携

IT御三家のBATやEC大手のJD(京東商城)が、相次いで国有銀行との連携を深めているのは、お互いに「持ってないもの」を補い合うのが狙い。その詳細とは?

・Bitmain(ビットマイン)やCanaan(カナン)などのマイニング企業

仮想通貨のマイニング(発掘)事業で巨額の資金調達に成功し、世界的に注目されてきた両社。仮想通貨関連ビジネスに対する規制が強まる中でどう動いていくのか?

「技術駆動」で課題解決に挑む注目プレーヤー

~主要プレーヤーの詳細解説 シリコンバレー編 楠谷“マックス”勝氏に聞く~

シリコンバレーのマーケットトレンド解説で、北米はフィンテック関連のユニコーンが最も多い地域だと説明しました。ここでは、その中でマックス氏や吉川が注目する企業や、老舗と呼ばれる大手金融機関の動きを紹介していきます。

《フィンテック分野の注目ユニコーン》

2018年3月時点で世界25社のうち16社ある北米地域のユニコーンで、我々が特に注目しているのはオンライン決済の米ストライプ(Stripe)や、仮想通貨取引所の米コインベース(Coinbase)などです。

ストライプはオンライン決済で先行するペイパルやスクエア(Square)に迫る勢いで成長しており、コインベースは2018年6月に日本進出を発表しています。それぞれ、世界シェアをどのように取っていくのか、今後に注目です。

あまり日本で知られていないユニコーンだと、学生ローンや住宅ローンなどの借り換えサービスを提供しているソーシャルレンディングの米ソーファイ(SoFi)も面白いと思います。同社には、ソフトバンクも投資をしています。

《金融大手の「全方位投資」》

次に大企業の動きも見てみましょう。フィンテック分野では、昔からある金融機関や銀行、投資銀行なども積極的に動いていて、有望なスタートアップにどんどん投資をしています。これは、フィンテックスタートアップの多くが、「全く新しい金融サービスを作っている」というよりも「すでにある金融商品を技術の力でより良いものにしている」ケースが多いからでしょう。

もう一つ特徴的なのは、自社が持っていない技術分野に強いスタートアップに投資をしている大企業が多いということ。例えば米シティグループやゴールドマン・サックスのような巨大な金融グループは、保険やレンディングといったサービス領域だけでなく、データ解析やブロックチェーンのようなテクノロジー分野のスタートアップにも全方位的に投資をしています。

業界で老舗と呼ばれるような大手からすると、「ビジネスモデルは分かるけど技術が分からない」というシチュエーションが増えています。それで有望なテクノロジースタートアップに投資をするわけですが、投資先のどこか一つがうまくいかなかったとしても他社に負けないように、関連するあらゆる分野に投資の網を張っているのです。

後述するインシュアテック(保険=InsuranceとTechnologyを掛け合わせた造語)でも似たような動きが活発になっているので、今後は「大手とスタートアップ連合」の巻き返しが見られるかもしれません。

《仮想通貨・ブロックチェーンの注目企業》

最近は仮想通貨を提供するプレーヤーや取引所の他、仮想通貨のインデックスファンドも台頭してきました。近年はさまざまな仮想通貨のプレーヤーが台頭しているので、投資をしたいと思った時にどの通貨を買うべきか迷うわけです。そこで株式と同じように、一銘柄だけ買うのではなく分散投資をしたいというニーズに応える企業が出てきました。

例えばスタートアップへのオンライン投資サービスである米エンジェルリスト(AngelList)の創業者ナヴァル・ラヴィカント氏が支援している米ビットワイズ・アセット・マネジメント(Bitwise Asset Management)は、2017年10月に10種類の仮想通貨を対象にしたインデックスファンドを組成しています。

このインデックスファンドは、ビットコインやイーサリアム(Ethereum)、XRPといった複数の仮想通貨の価値を「重み付け」した上で預かった投資金額を当て込み、自動的にリバースしてくれるファンドです。

本書の発行時点では、いわゆる「適格機関投資家」と呼ばれる人しか買えないようになっていますが、単純にビットコインを持ち続けるよりも、このインデックスファンドに入れておいたほうが良いリターンが得られると謳っています。

また、マーケットトレンドの中国編で前述したリップル社の取り組みしかり、仮想通貨のトランザクションを高速化する動きにも目を光らせておきたいところです。

例えばリアルタイム・分散型の仮想通貨取引所である米クオンタ(Quanta)のようなスタートアップには、グーグル出身者やセキュリティ系、ビデオ通信系の技術に詳しい人たちが集まって、冗長化と分散化を両立させることで高速なトランザクションを実現しています。現時点の仮想通貨は、モノによってはトランザクションに15分もかかっています。「今後、仮想通貨は決済手段として使われるようになるか?」という議論がありますが、それもこれもトランザクションのスピードが改善されないと現実味が出てきません。それゆえ、こういう課題を地道に改善していくようなスタートアップは、「技術に張る」という視点では非常に面白いと思います。

日本でも、こういう健全なところで戦えるスタートアップが出てきてほしいです。

台頭するインシュアテック「2種類のプレーヤー」

続いて、今回のゲスト解説者である楠谷“マックス”勝氏の専門分野であるインシュアテックの詳細を見ていきましょう。

そもそもインシュアテックという言葉は、数年前にはなかった言葉です。先にフィンテック(Finance+Technology) という言葉が生まれ、その後に続いて生まれたバズワードだと言えます。前述のように、フィンテックのブームは落ち着き始めていることから、次のムーブメントはインシュアテックの領域で起きるとも言われています。現状はどんなトレンドなのか、マックス氏に聞いてみました。

《インシュアテック台頭の背景》

インシュアテックは今後さまざまなビジネス領域に広まっていくと思います。新しいビジネスモデルが出てくれば、ほぼ必ず新しい保険サービスが必要とされるからです。

例えば2017年には、東京海上日動火災保険とクラウドファンディングのキャンプファイヤー(CAMPFIRE)が連携して、「クラウドファンディング保険」というサービスを始めました。

クラウドファンディングとは、製品やイベントなど、自分のアイデアをインターネット上でプレゼンして、賛同した人から開発資金や運営資金を募るという仕組みです。日本でも一般的になりつつありますが、お金を 出して支援する人たちからすると、詐欺や横領目的のファンディングだったら……とか、製品が手元に届く前に出資先が倒産してしまったら……という心配もあると思います。こういった不安を保険の仕組みを使って解消するのが「クラウドファンディング保険」です。言い換えれば、保険の力でクラウドファンディングという新しい仕組みが世の中に浸透するのを応援していることになります。

近年は、他にもデジタル領域のイノベーションが同時多発的に生まれているので、我々もさまざまなビジネスモデルを追いかけているところです。

ここで、インシュアテックとは何かをご理解いただく上で、分かりやすい事例をご紹介しましょう。シリコンバレーではなくイギリスの会社になりますが、ボート・バイ・メニー(Bought By Many)という会社が非常に面白いビジネスをしています。同社の事業をひと言で説明するなら、「保険会社にまとめてお客さんを持ち込む会社」です。

例えば、イギリスではパグ犬の飼い主がペット保険に入れず困っています。パグ犬は特定の病気に罹りやすく、保険の加入を断られるケースが多いからです。そこでボート・バイ・メニーは、SNSで「パグ犬の保険を買いたい人」を募り、数の理論を持って複数の保険会社に「パグ犬用の保険サービスを作ってほしい」と掛け合うのです。

他にも、危険なスポーツの愛好家や新しい乗り物のユーザーなど、普通なら保険の適用対象外になってしまう人たちをまとめてコミュニティ化し、一定の人数に達したら保険会社に商品化の交渉をする。従来は人づてで集めるのが難しかったけれど、SNSが普及した今なら一気に「同じ悩みを持っている人たち」をコミュニティ化できます。こうやってテクノロジーの力で保険を変えていくのがインシュアテックです。

《インシュアテック・イネーブラー》

インシュアテックのスタートアップは大きく分けて2種類あります。「インシュアテック・イネーブラー」と「インシュアテック保険会社」です。

最初の「インシュアテック・イネーブラー」とは、保険会社にサービス向上やコスト削減につながるテクノロジーを供給するスタートアップです。機械学習やドローン、ブロックチェーンなどの新テクノ ロジーは、保険サービスを進化・向上させる可能性が大いにあります。こういったテクノロジーを持つスタートアップは、保険会社から見ると「サポーター」。そこで、我々のような既存の保険会社は、さまざまなイネーブラーと組むことでインシュアテックの幅を広げようとしています。

具体的な例を挙げると、今、ドローンの世界ではパイロットがいらない自律飛行ドローンがどんどん実用化しているので、2017年に米ヒューストンを襲ったハリケーン「ハーヴィー」の後はたくさんのドローンが飛んでいました。人がまだ入れない、もしくは被害範囲の大きな工場などの上にドローンを飛ばして、建物や在庫が水没したことを確認した上でいち早く保険金をお支払いするためです。

現状で我々ができることは、「ドローンで被 害を確認して保険金をお支払いする」というクラシックなやり方ですが、今後は事故に遭った時の被害を少なくすることや、物資を現物支給するようなサービスも提供するのが夢です。

他にも、保険金の支払いに必要な保険会社と病院間の医療情報(個人情報) の取得をブロックチェーン経由で実施する実証実験を行っています。こうして最新のテクノロジーを取り込んで保険を進化させるには、自前主義を捨ててイネーブラーと幅広く連携しながら商品やサービスの魅力を高めていかなければと思っています。

《インシュアテック保険会社》

2つ目の「インシュアテック保険会社」は、自らテクノロジーを活用した保険業を始めて新しいマーケットを創出し、既存の保険サービスに不満を抱く顧客を獲得するスタートアップです。機械学習やデータ解析、SNSでのマーケティングなど、普通の保険会社がこれまであまり使ってこなかった技術を使ってマーケットに新風を吹き込んでいます。

既存の保険会社からすると、こちらは単純に見れば「ライバル」になります。なので、我々はこういうスタートアップと敵対していくのか、あるいは何かしらの形で手を結んでいくのかという点を考えなければなりません。私個人の考えとしては、彼らはビジネスモデルの着想やユーザー体験などの面で我々よりも優れている点があるので、一緒にできることを探すのがベターだと思っています。

ちなみに今回の解説でお分かりのように、現状、フィンテックやインシュアテック関連のテクノロジーは北米を中心に盛り上がっています。だから、欧米のほとんどの大手保険会社が、シリコンバレーにテクノロジー・スカウティング(スタートアップと連携するための拠点)を設けているのです。

東京海上グループの主力事業である損害保険に関しては、北米の中でもシリコンバレーにプレーヤーが多く、一方でヘルスケアや生命保険に関してはニューヨークやボストンといった東海岸のほうがプレーヤーが多い。保険サービス発祥の地である英ロンドンにも一定数の関連スタートアップがありますが、やはりシリコンバレーが技術面では最先端を走っているので、シリコンバレーに拠点を置く大手企業が多いのです。

この保険大手の「シリコンバレーシフト」はいよいよ本格化していて、最近はシリコンバレーの有力アクセラレーターである米プラグ・アンド・プレイ(Plug and Play)で大企業側のパートナー数が最も多いのはインシュアテック分野になっているほどです。プラグ・アンド・プレイのオフィスの入口には、パートナーのロゴを並べた看板があるのですが、あれを2~3カ月おきに見に行くと、これからどの分野が盛り上がっていき、どの分野が落ち着き始めるのかが分かります。この看板を見ても、今はインシュアテックの勢いを感じます。

モバイル決済「二大巨頭」の趨勢

~主要プレーヤーの詳細解説 中国編 吉川絵美氏に聞く~

ここからは中国のフィンテック・仮想通貨分野の注目プレーヤーを紹介していきます。

先のマーケットトレンド解説で、アリババ・グループのアリペイとテンセントのウィーチャット・ペイがモバイル決済でしのぎを削っていると説明しましたが、具体的には両社がどんな戦略でシェア獲得を図っているのか、詳しく見ていきます。

《モバイル決済、強みの異なる2社の戦略》

中国のビジネススクール長江商学院のメディア『CKGSB Knowledge』が出した「The WeChat Economy, From Messaging to Payments and More」(2017年8月28日)という記事によると、2015年にはモバイル決済市場でのシェアが約75%もあったアリペイを、ウィーチャット・ペイが急速に追い上げているという調査結果が出ています。2016年の第3四半期時点で、アリペイが市場シェアの50.42%なのに対して、ウィーチャット・ペイは38.12%まで迫っている。

この勢いは、ウィーチャット・ペイがメッセンジャーアプリのウィーチャット(WeChat)をベースにしている点が大きいと思われ ます。普段使っているサービスで、決済もできるというのはやはり便利だからです。

ただ、アリペイはアリババ・グループの持つ各種のECサービスと連動しているので、日々の買い物と決済がつながっている上、ローンなども展開できる。それぞれが強みを持っているため、今後の主権も行ったり来たりするのではないでしょうか。

《急速な「多角化」の背景》

アリペイとウィーチャット・ペイは、モバイル決済のみならず資産運用や金貸し、保険など他の金融サービスもどんどん提供し始めています。これは、自分たちで集めたデータを活用して、他の金融サービスに生かしていく戦略です。例えばアリペイを運用するアリババの金融関連会社アント フィナンシャル(Ant Financial/蚂蚁金服)は、2016年くらいからこんなことを言い始めています。

「ちまたではフィンテックという言葉が流行っているけれども、自分たちは『TechFin』会社なんだ」

と。フィンテックが既存の金融サービスをテクノロジーでより便利にするものならば、自分たちはもともとテクノロジーの会社だから、それを金融の世界に生かしているだけだというわけです。つまり、自分が集めたデータや、開発を進めているAIを、他の金融会社にも提供しながら金融の世界全体を変えていくという意味です。

実際、アント フィナンシャルは2018年5月に140億ドル(約1兆4000億円)という巨額の資金調達を実施しており、世界各国のローカルパートナーとアライアンス締結を結ぶ形で海外展開も積極的に進めています。

なお、アリババおよびウィーチャット・ペイを持つテンセント以外の注目株を挙げると、JD(京東商城)が頑張っています。同社はもともと「中国のアマゾン」的な存在で、最近はジェーディー・ペイ(JD Pay)を入口にさまざまな金融サービスを展開しています。

ここに、保険業から始まっていまや巨大金融グループになりつつあるピンアン保険なども入ってくると、より面白くなるでしょう。同社についてはこの後の注目スタートアップの紹介部分で詳しく説明します。

《国外に拠点を移す仮想通貨マイニング企業》

続いて仮想通貨分野の注目企業を見ていきましょう。中国では、ビットマイン(Bitmain)やカナン(Canaan)といったマイニング関連のスタートアップが大きな資金調達に成功して、世界的にも注目されていました。

ただ、今後はマイニング分野についても、マーケットトレンド解説のところで話した「政府による規制」が入って来ると言われています。

そのため、例えばビットマインなどは中国国外(モンゴル)にマイニングファームを作ったり、欧米に進出するなど、国内から徐々に拠点を移し始めている状況です。今後も地方都市で目立たないように粛々とやっていく企業はあるでしょうが、これもいずれ中央政府による規制で地方政府に指示が行くと思われます。

《信用を求めるIT企業と、データを求める金融機関》

中国のIT御三家であるBATにJDを加えた大手4社は、この1~2年で国有銀行との提携を続々と発表しています。

中国には「四大国有銀行」というのがあって、中国工商銀行を筆頭に、中国政府とのつながりも非常に強い。少し前まで、こういった銀行はアリペイやウィーチャット・ペイのようなサービスを敵視していましたが、BAT+JDには豊富なデータとそれを活用する技術があり、銀行には信用、資本、リスク管理、政府との関係などの面が強みとしてあります。そこで「お互いに組むとシナジーがありそうだ」となり、他行が良い企業と手を組む前に提携を進めようという流れが生まれています。

それでも、現状は一対一の独占契約というより、「この分野ではココと組む」という部分的な提携が多いです。まだお互いに警戒している部分もあるからでしょう。

フィンテック・仮想通貨分野の注目スタートアップ

この分野は、【送金・決済】【投資・資産運用】【保険】【融資・資金調達】【仮想通貨・ブロックチェーン】の5つに分類できます。この中で、マックス氏が注目する保険分野のスタートアップから、中国が先行する「信用経済」を体現するサービスまで、我々が注目する企業をピックアップしてみました。

《シリコンバレー/送金・決済》

■ Circle(サークル)
これは、ボストン発のスタートアップで、もともとはピア・ツー・ピア(複数のコンピュータ端末同士が自律的に通信する仕組み)の国際送金サービス「Circle Pay」などを提供する会社でした。「Circle Pay」は中国のWeChat 向けサードパーティ・アプリとして始動して成功を収めたのですが、2018 年に入ってから次々と仮想通貨分野に進出して注目を集めています。

2月に大手仮想通貨取引所のPoloniex(ポロニエックス)を買収し、5月には「Circle Invest」(サークル・インベスト)という仮想通貨向けウォレット・投資アプリをリリース。今夏からは「Circle USD Coin」(サークルUSDコイン=ドルと連動し安定性を持つコイン、いわゆる“ドルペッグコイン”の仕組みで開発するもの)の開発を開始しています。

国際送金サービスではTransferWise(トランスファーワイズ)が有名ですが、こういったスタートアップが出てくることで、より便利な世界が実現されるでしょう(吉川)。

《シリコンバレー/投資・資産運用》

■ Qapital(キャピタル)
ユーザーが目標にする貯金額を、「生活習慣」をトリガーに達成していくためのサービスで、2018年4月に3000万ドル(約30億円)の資金調達に成功。これまでの調達総額は4730万ドル(約47億3000万円)になっています。

いわゆる「貯金アプリ」でここまでの資金調達ができたのは、ユーザー体験が非常に優れているから。例えば「SNSのインスタグラムに写真を投稿したら自動で1ドル貯金する」「マクドナルドで食事をしたら自動で3ドル貯金する」といったような設定ができて、悪い出費癖を改善したり、生活習慣の改善にもつなげることができるようになっています。2018年4月時点で42万ユーザーを獲得、累計で約550億円の無駄な出費削減に貢献しているそうです(吉川)。

《シリコンバレー/保険》

■ Metromile(メトロマイル)
サンフランシスコにある自動車保険のスタートアップで、固定費プラス走行距離分の「利用した分だけしかチャージされない」Pay-per-Mileというコンセプトの従量制自動車保険を提供しています。

普段あまり自動車に乗らないユーザーや、短い距離しか走らないユーザーがターゲット。登録すると数週間以内に専用デバイスの「Metromile Pulse」が送られてきて、手のひらサイズのデバイスを車両のヒューズボックス付近に取り付けると、自動で走行距離を測定して走った分だけの保険料を払うという仕組みです。これも、保険のユーザー体験を改善した例と言えます。

事故対応についても、大きな問題がない事故だったら素早く保険金が支払われる「ストレートスルー」という手法を導入しており、データ活用・AI活用という意味でも最先端を走る会社です(マックス氏)。

■ Lemonade(レモネード)
これはシリコンバレーではなくニューヨークのダウンタウンにあるスタートアップで、ホームオーナーズ保険(火災保険など)を提供しているのですが、まだニューヨークなどの一部の州でしか営業していないにもかかわらず、サービス開始からたった8カ月で1万4000人の加入者を獲得して話題になりました。

最大の売りはユーザー体験。月額5ドルからの低価格な家財保険を、最短90秒で申請可能なサービスを提供しています。また、一般的な保険商品だと「1年間事故がなければ保険金は掛け捨てになる」ようなケースが多いところを、同社は保険料の一部を自分が選択した特定のNPOや慈善団体に寄付できるようにしています。こういう仕組みを導入して従来型の保険会社との差をアピールすることで、若者を中心に支持を得ています。

2017年12月にはソフトバンクがリードして約135億円の出資をするなど、これからまだまだ伸びていきそうな会社として注目しています(マックス氏)。

■ Clover Health Insurance(クローバー・ヘルス・インシュアランス)
健康保険のスタートアップで、AIを用いて予防医療を積極的に推進する保険を提供。患者の医療データを分析し、病気の予防につながる提案を医療機関と患者双方に行っています。病気を予防しユーザーが健康でいることができれば、保険会社の負担金が減るので、患者の健康増進をAIで実現していこうというコンセプトです。

日本では国が健康保険制度を提供していますが、アメリカは民間が提供していて、サービスや商品の内容がバラバラです。なので、健康保険への不満も非常に多い。同社はこの点に着目し、テクノロジーでそれを解決しようとチャレンジしているのです。

まだ2年くらいの営業期間ですが次のユニコーン候補と目されています。遠隔医療や遠隔処方箋の分野にも乗り出しているので、今後さまざまな州で営業できるようになれば(注:米国は州ごとに保険に関する法律が異なる)さらに注目されるようになるでしょう(マックス氏)。

《中国/保険》

■ Ping An Insurance(ピンアン保険/平安保険)
Ping An Insuranceは中国の既存金融機関の中で最もフィンテックに積極的な会社です。グループの総顧客数は4億人近くに上るため、そのビッグデータを活用してさまざまなリテール向けネット金融分野に進出しています。

また、グループ内のスタートアップ4社がユニコーンに成長。中でも健康関連のプラットフォームを提供するPing An Good Doctorは、2018年4月に50億ドル(約5000億円)の時価評価額で上場。ピア・ツー・ピア・レンディングのLufaxについても、600億ドル(約6兆円)の時価評価額で近々上場予定と言われています。

さらにBtoB分野では、ブロックチェーン技術を活用して金融機関のさまざまな問題解決に取り組む団体「R3コンソーシアム」に中国企業で初めて参加するなどの動きを見せています。

ちなみに、2017年には漢方薬品メーカーであるツムラと資本・業務提携を締結して、議決権ベースで約10%を保有する筆頭株主になりました。漢方薬事業など中国市場に本格参入したいツムラ側と、保険販売につながる医療健康関連事業を強化したいピンアン側のニーズが一致した形です。

いずれはアジアのヘルスケア関連ビジネスに必ずPing An Insuranceが一枚噛んでいる、という状況になるかもしれません(吉川)。

《中国/投資・資産運用》

■ Zhima Credit(ジーマ・クレジット/芝麻信用)
これは、セサミ・クレジットとも呼ばれる「信用スコア」を取り扱う個人信用評価システムです。

個人や中小企業がAlibaba Groupのサービスを利用した際の取引記録や政府のオープンデータベース(公共料金の支払い記録、学歴など)を基に、ビッグデータ分析でスコアリング。算出される「信用スコア」が高くなればなるほど、良いサービスを受けることができるという仕組みです。

開発元のAnt Financialは、もともと「銀行口座を持てなかったような若者や低所得者層にも金融サービスの恩恵を提供する」という思想で生まれています。だからAnt=蟻(あり)という名前が付けられており、セサミ・クレジットの「セサミ」もゴマという意味。「小さくてもみんなが集まれば大きな力になる」という思想の表れです。

ただ、中国の「みんな」を従来型の金融機関のやり方で格付けするのは非常に難しいということもあって、信用スコアのような仕組みが普及したのだと見ています。最近では、お見合いサービスや合コンのような場でも「信用スコア」が重視されるということで、いよいよ市井に広まってきたと感じます(絵美氏)。

■ Mybank(マイバンク/網商銀行)
2015 年に設立されたAlibaba系のオンライン銀行で、零細事業者や農家への融資にフォーカスしており、前述したセサミ・クレジットの概念が取り入れられています。

ユーザーがスマートフォンのアプリやブラウザから融資申請を提出すると、コンピューターが即座に融資判断をし、数分以内にAlipayのアカウントに送金されるという仕組みで、その日その日のマイクロレンディングが可能になっています。

TencentもWebank(ウィーバンク)という類似の銀行を始めていて、「信用スコア」を活用したマイクロレンディングは今後の動向が注目される分野になっています(絵美氏)。

《中国/仮想通貨・ブロックチェーン》

■ Qulian(チューリアン/趣链科技)
マーケットトレンドの詳細解説で、中国の仮想通貨・ブロックチェーン企業は軒並み規制によって伸び悩んでいると説明しましたが、個別に見ると元気なスタートアップも出てきています。Qulianはその1社で、2016年の創業からわずか2年で、シリーズBとして1億5000万元(約250億円)を調達。ユニコーンの仲間入りも間違いないと言われています。

同社はRippleと同じくエンタープライズ向けのブロックチェーンソリューション・プラットフォームを目指しており、すでに米国の大手企業とも業務提携を結んでブロックチェーン活用に関する共同研究を進めています。

なお、同社の拠点は中国の杭州にあるのですが、杭州は今、ユニコーンの企業数で北京と上海に次いで中国国内第3位になっています。スタートアップのメッカとして杭州のステータスはどんどん上がっており、杭州政府も「ブロックチェーンで国内ナンバーワンになる」と公言しているので、今後注目の地域です(絵美氏)。

中国フィンテックの急成長と抱える課題から学べること

~未来展望 中国編 吉川絵美氏に聞く~

この章の最後は、日本よりモバイル決済などのフィンテックサービスが普及している中国市場の特徴とこれからの展望について、シバタと吉川が吉川絵美氏(以下、絵美)に伺いました。

シバタ まず伺いたいのは、中国ではなぜモバイル・ペイメントがこれほどの短期間で広まったのか? という点です。

絵美 ウィーチャット・ペイがアリペイの数年後に出てきて、急速にキャッチアップしたという話が出ましたが、これの理由を分析すると、短期間で普及した文化的背景のようなものが見えてきます。

中国には紅包(ホンバオ)という日本の「お年玉」みたいな風習があるのですが、日本と違うのは年1回ではなくいろんな場面でお金を渡し合う点。ウィーチャットは、この風習を視野に入れて、「お友達や家族にウィーチャット・ペイで紅包(ホンバオ)を送ろう」みたいな一大キャンペーンをやっていました。

しかも、このキャンペーンではウィーチャット・ペイを使っていないユーザーにもお金を送ることができるようにしていて、それによってバイラル的に広まったという印象があります。こういった取り組みは、文化に根差した形で非常に面白いと思いました。

シバタ そのウィーチャット・ペイとアリペイの競争が非常に熾烈なものになっていますが、今後はどう展開していくと予想していますか? アリペイは、ジーマ・クレジット(セサミ・クレジット) の普及とあいまって勢いを取り戻しているという話もあります。

絵美 そうですね。ウィーチャット・ペイはメッセンジャーが基盤となっていることもあって、そこからペイメントサービスに入ってもらう障壁が非常に低いのが強みです。

ただ、アリペイのようなBtoCやCtoBのコマースが絡んでくるところはそこまで強くない。それを知ってか、最近のアリペイは零細・中小事業者向けレンディングサービスなどですごく頑張っているので、甲乙付け難い状態になっています。ウィーチャット・ペイも、中小企業向けのサービスに参入しようとしているのですが、この領域はアリペイが圧倒的に強い。

シバタ では次の質問を。アリババ、テンセントを追う第二勢力として、ピンアン保険の勢いが見逃せないという話がありましたが、ピンアン保険は何がすごいのでしょう? 日本だと日本生命がフィンテック分野で台頭していくようなイメージだと思うのですが、このたとえだといまいちピンと来ません。

絵美 個人的には、ピンアン保険グループのテクノロジー部隊がすごいと感じています。

グループ全体の共通技術プラットフォームを開発するピンアン・テクノロジーという会社の他、直近ではワンコネクト(OneConnect)という会社をスピンアウトさせて、中小の金融機関向けに金融サービスのバックエンドソリューションを展開しています。

中国には中小系の金融機関が何千とあるので、そういうところも攻めているのが素晴らしいと思います。

吉川 また、Ping An Good Doctorの急成長を見ていると、日本企業がよく陥る「PoC(Proof of Concept。実証実験)大好き症候群」とは一線を画していると感じます。彼らには良くも悪くもPoCという概念がほとんどなくて、いきなり1万人とか10万人を対象にサービスを展開するわけです。

日本でPoCに慣れている人たちからすると、乱暴なやり方に思えるかもしれませんが、たとえクレームが発生してもスピード重視で改善していき、1万台、10万台とデバイスを売っていく。

保険とIT、デバイスの連携は、インシュアテックの次なる展開になるはずなので、ここで先駆けて経験値を積み上げているという点では、非常に面白い会社だと思います。

シバタ では最後の質問を。ICOや仮想通貨取引所に対する規制が強まったことで、中国における今後のフィンテック市場はどうなっていくのでしょう?

吉川 私の印象だと、関連するテクノロジーについては今もちゃんと精査しているような気がします。今までは詐欺まがいのビジネスも多かったので、政府としても規制せざるを得ないという状況でしょうが、それでもきちんとテクノロジーが追い付いてきたら「仕切り直し」するのではないでしょうか。

だから、マーケットを規制しつつ、優秀なテクノロジーを開発する スタートアップには引き続き注目していくのだと思います。

絵美 おっしゃる通り、中国はすごく真剣に技術の最新動向を見ようとしています。例えば中国人民銀行の人たちや、金融機関のトップたちがシリコンバレーのフィンテック企業に見学ツアーをしに来たり。リップル社にも見学にいらっしゃいました。

吉川 中国のフィンテックビジネスに関して補足すると、今後、地方都市はどうしていくのか? という問題にも向き合わなければなりません。

北京や上海、香港、杭州、深センあたりでは、本当に良い関連スタートアップが出てきていて、さまざまなフィンテックサービスが普及しています。ただ、地方都市は全然追い付いていない。とはいえ地方の経済も伸びているし、そこには銀行口座を作れないような人もまだまだ多いわけです。

この課題を解消するために、地方の人たちは必死に勉強しようとしていますし、地方政府も国の成長スピードに追い付かなければとハングリーです。日本と違って、中国の地方には500万人、1000万人という人口がいるので、この課題は日本や米国の常識を当てはめても解消できない一方で、もし解消できた時には完全にオリジナルなフィンテックビジネスが生まれているかもしれません。

そういう見方で今後をウォッチしていくと、面白いかもしれません。

これでChapter03:フィンテック・仮想通貨の章は終わりです。日本でも、最近はキャッシュレス化を促すサービスが続々と生まれています。ただ、ここで紹介したように、米中のフィンテック産業はその数歩先を行っている。彼らから日本のプレーヤーは何を学べばいいのか? そして、フィンテックが密接にかかわる小売業や製造業、飲食業はどんな変化を遂げているのか? ぜひ本書で詳細をチェックしてみてください!


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