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「テクノロジーの地政学」次世代モビリティ(中国編):「北京の空を青くした」中国クルマ革命の凄み

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「Software is Eating the World」。
この言葉が示すように、近年はソフトウェアの進化が製造業や金融業などさまざまな産業に影響を及ぼしています。そこで、具体的に既存産業をどのように侵食しつつあるのか、最新トレンドとその背景を専門外の方々にも分かりやすく解説する目的で始めたのが、オンライン講座「テクノロジーの地政学」です。
この連載では、全12回の講座内容をダイジェストでご紹介していきます。
講座を運営するのは、米シリコンバレーで約20年間働いている起業家で、現在はコンサルティングや投資業を行っている吉川欣也と、Webコンテンツプラットフォームnoteの連載「決算が読めるようになるノート」で日米のテクノロジー企業の最新ビジネスモデルを解説しているシバタナオキです。我々2名が、特定の技術分野に精通する有識者をゲストとしてお招きし、シリコンバレーと中国の最新事情を交互に伺っていく形式で講座を行っています。今回ご紹介するのは、第4回の講座「次世代モビリティ:中国」編。ゲストは、上海を拠点に日中でスタートアップ支援と大企業向けオープン・イノベーション支援のアクセラレーター事業を展開している「匠新(ジャンシン)」の創業者CEO、田中年一氏です。

【ゲストプロフィール】

田中年一氏
東京大学工学部・航空宇宙工学科を卒業。Hewlett Packardで大企業向けエンタープライズシステム開発・販売に従事した後、デロイト トーマツに転職。12年間、M&Aアドバイザリーや投資コンサルティング、IPO(株式上場)支援、ベンチャー支援、上場企業監査などに従事。うち2005年~2009年の4年間はデロイトの上海オフィスに駐在し、中国企業の日本でのIPOプロジェクトや日系現地企業の監査、投資コンサルティング業務などを手掛ける。2013年に独立して「匠新(ジャンシン)」を創業。米国公認会計士、中国公認会計士科目合格(会計・税務)。


EV「普及と発展の震源地」が生まれた理由

トヨタ自動車やホンダ、日産自動車といった世界的大手が名を連ねる日本では、電気自動車(以下、EV)の話題も国内メーカーや米Teslaのような欧米のメーカーが中心になりがちです。

しかし、EVの普及率を見れば、現在は中国のマーケットを外して語るわけにはいきません。その理由と、現地で台頭するEVメーカーの動向を田中氏に聞きました。

シバタ:中国自動車工業協会が2018年1月に発表した調査内容によると、中国の2017年新車販売台数は約2888万台で9年連続世界一となっています。

その中でも、EVを中心とする「新エネルギー車」の販売台数は、対前年比53.3%増の78万台と大きく伸びているようです。ただ、販売台数全体の中で、新エネルギー車が占める割合はまだ2%未満。この現状をどう見たらいいのでしょう?

田中:2%という数字を低く感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、中国はマーケット規模そのものが大きいので、現段階でもグローバルなEVシェアでは中国が約半数を占めています。

この勢いは2018年に入ってさらに強まっており、1月~3月の第一四半期でのEV販売台数を見ても、全世界で中国だけが対前年同期比で2倍以上の伸び率となっています。

シバタ:中国政府は、大気汚染対策に力を入れる一環で、EV販売率を2025年までに20%台に引き上げるという計画を発表しています。この伸び率の背景には、政府の発表の影響もあるのですか?

田中:そうですね。近年は中流階級の人たちが自動車を買い始めているので、マーケット全体が伸びていて、ガソリン車も相当売れています。それで大気汚染問題が顕在化し、規制がかかるようになった一方、EVは購入時に補助金が出るなどの支援を受けています。だからEVの購入率も加速度的に伸びているのです。

新能源汽车行业研究报告##」という調査レポートによると、中国国内における2017年上半期の新エネルギー車販売台数でトップ6に入っているのは、北京市、上海市、深セン市、杭州市、広州市、天津市なんですね。この6都市は「限定購入」といって自動車の購入について月間販売台数などが制限されており、一方でガソリン車による空気汚染の問題を解消するため「EVであればそういった購入規制の対象外とします」というのをやっているんです。

シバタ:中国は人工知能(以下、AI)分野やモバイルペイメントの開発・普及でも注目されていますが、これらの分野もEVの普及と同じく、何らかの国策の下で発展してきました。中国は、こういう「地政の作り方」が非常にうまいですよね。

田中:問題を解決しつつ、新しい分野の産業を上手に成長させていますよね。例えば、深センでは公共バスが100%EV化していて、これを支えているのは深センに本拠がある自動車メーカーのBYDです。

シバタ:こうした状況ですから、中国ではEV関連のスタートアップもたくさん出てきています。お2方が特に注目している企業はどこですか?

吉川:僕はEVメーカーのBYTON(バイトン)とNIO(ニオ)です。両社とも、米Teslaの対抗馬として注目を集めていて、Tesla車より安いんですね。また、BYTONのクルマは液晶のインパネが広くて、面白い作りになっています。

(BYTON車の液晶インパネ(同社Webサイトより))

日本では、SUVのEVでTeslaに対抗するようなスタートアップが出てくる雰囲気すらありませんよね。でも、中国ではスマートフォンの時と同様に、世界のトップ企業と伍して戦おうと意気込むスタートアップが台頭しています。彼らの動きは非常に面白いです。

田中:この2社に加えて、2018年6月に上海で行われた「CES Asia」(毎年1月にアメリカで行われる国際的な先端技術見本市のアジア版)では、小鵬汽車(Xpeng Motors)というEVメーカーも注目されていました。同社には、中国EC大手のAlibaba Groupや台湾の電子機器メーカーFoxconn Technology Groupなどが投資をしています。

シバタ:Xpeng Motorsの例しかり、中国ではIT御三家と呼ばれる「BAT」(検索サービス大手のBaidu、EC大手のAlibaba、SNS大手のTencentの3社の頭文字を取った造語)の影響力がさまざまな産業に波及しています。EV分野でも、BATによる投資が盛り上がっているのですか?

吉川:はい。BATに加えて、中国のライドシェア最大手である滴滴出行(Didi Chuxing。以下、Didi)も加えた4社が、どんどんEV分野に投資をしています。

田中:BAT+DidiがEV分野にも積極的に投資しているのは、自動運転技術の開発とも密接に関係しているのではないかと思います。特にAI開発ができるエンジニアの採用など、そういったところで、自動車メーカーとIT企業はどんどん深い関係になっていると感じています。


世界の自動運転車開発に影響を及ぼすBAT

中国の次世代モビリティ開発は、自動運転技術の発展と歩を合わせながら進んでいるという田中氏の指摘は、中国のIT大手の自動運転に対する取り組みを見れば明らかです。

第2回の講座「人工知能:中国」編では、検索サービス大手のBaiduが行っている自動運転車向けのプラットフォーム「Apollo」開発プロジェクトについて詳しく取り上げましたが、この「Appllo」は国内外の自動車産業に大きな影響を与え始めています。ここでは、BATの動向を詳しくご紹介しましょう。

吉川:中国で自動運転関連の開発を行っている会社を見ると、大企業もスタートアップも「Apollo」のソフトウェアを使っているところがとても多いですよね。

田中:そうですね。OEM(他社ブランドの名で製品・ソリューションを提供すること)供給でもBaiduの存在感は日に日に高まっていて、それらを総合すると、中国の自動車関連メーカーの8~9割くらいが、何かしらの形でBaiduと組んでいる状況になっています。

シバタ:海外の自動車メーカーとも幅広くアライアンスを組んでいますよね。

田中:はい。今では100社くらいが「Apollo」プロジェクトに乗っかっていて、有名どころだと米Ford MotorやChrysler、独のグローバルサプライヤーBoschなどがあります。半導体メーカーの米IntelやNVIDIAなども参加しているので、一大エコシステム(産業を取り巻く環境、生態系のこと)になりつつあります。

吉川:前述したBYTONも、ボイスコマンドと顔認証技術はBaiduから支援を受けているようです。ちなみにBYTONには、共同創業者にAlibaba Groupの出身者がいるんですね。いわばAlibabaで自動車関連の技術開発に携わっていた人がスピンアウトして立ち上げた会社と見ることもできます。

田中:一方、もう一つの新興EVメーカーとして名前の挙がっていたNIOには、Tencentが出資しています。

吉川:やはり、この分野でもBATの影響度は絶大なんですね。ただ、ここまで日本の自動車メーカーの名前が挙がっていません。この現状をどう見たらいいのでしょう?

Baiduの「Apollo」のように世界的に勢力を増しているプラットフォームに乗らないという選択は、技術の進化に置いていかれるリスクがあると思うのです。お2方はどう思われますか?

吉川:確か、ホンダは2018年からBaiduの“Apollo連合”に加わったという報道がありましたよね。日本のメーカーでは同社が初めて。個人的には、こういったアライアンスには「顔は出しておく」「挨拶はしておく」のがベターだと思います。

田中:僕も同意見です。

吉川:スマートフォンOSの世界標準となったAndroid開発の時もそうだったんですけど、こういう新しいコア技術が台頭し始めた時、いの一番に「開発連合に参加します」と手を挙げる日本企業ってほぼ皆無ですよね。

本当は、黎明期に顔を出しておけば開発のトレンドを早期にキャッチアップできるし、「採用する・しない」の判断も早いうちに下せるわけで。だからこそ、巨大なアライアンスになりそうなものがあったら、まず飛び込んでみるのが大切なんだと思います。


Uberですら淘汰される、熾烈なライドシェア競争

次世代モビリティの動向を知る上で、自動運転以外にもう一つ欠かせないテーマがMaaS(Mobility-as-a-Serviceの略で、自動車を含むモビリティ自体をサービス化させる取り組み)です。

中でも世界的に盛り上がりを見せているライドシェアサービスについて、中国では利用者の急増に伴って熾烈な競争が繰り広げられています。

シバタ:下のデータは米のWebメディアStatistaに載っていたもので、前述のDidiが運営する中国最大手のライドシェアアプリ「DiDi」と、世界的に有名な米Uberの実績を比較したものです。

左がDiDiで右がUberなのですが、後発のDiDiがすごい勢いで伸びていることが分かります。

(米Statista「Meet DiDi: China's Answer to Uber」(2017年7月17日)より抜粋)

田中:そうですね。DiDiは、中国の都市部で暮らす人たちにとって必携のアプリになっています。月間ユーザー数がUberの2倍以上になっていることからも、それが伺えます。

シバタ:ここで、中国におけるライドシェアサービス普及の歴史を教えていただけますか? というのも、この分野は競争がものすごく激しいじゃないですか。その理由は何なのでしょう?

田中:ライドシェアに限りませんが、中国では「コピー文化」が根強く残っているので、流行りのサービスが出てきたらすぐコピーされるんですね。だから競争も激しくなるんです。

ここからは、自動車のライドシェアと、自転車のシェリングサービスに分けて説明していきます。

まずは自動車のライドシェアサービスの歴史から。最初に注目されたのは、2010年に登場した「易到(Yongche)」で、DiDiはその後の2012年に登場しました。同年には「快的」というサービスも登場していて、DiDiはもともとTencent系で、「快的」はAlibaba系だったんです。

で、この2社は2015年に合併して「滴滴出行(Didi chuxing)」と名前を変えています。これが現在のDiDiです。

その後、2016年にはUberチャイナが入ってきます。ここにはBaiduの資本も入っていたのですが、すぐDiDiに吸収されて、「DiDi一強」になったというのが今です。

ただ、2017年には美団(Meituan)というフードデリバリーサービスの会社が、ライドシェアアプリをリリースして新規参入してきました。さらに2018年、相乗りサービスをやっていた嘀嗒(Dida)という会社が「嘀嗒出行(Dida chuxing)」というアプリを出して、急激にシェアを広げています。

この嘀嗒出行(Dida chuxing)は、アプリのダウンロード数でDiDiを越えた週もあったくらい、勢いがあります。実は、Didaは2014年に「嘀嗒拼车」というサービスを出していて、嘀嗒出行(Dida chuxing)はそれをリブランディングしたサービスなんですよ。

シバタ:それで急に伸びたのですか。面白いですね。

田中:中国マーケットの特徴として、競争が激しいからこそ、勝ち残るためにどんどんサービスのクオリティがよくなっていくというのがありまして。嘀嗒出行(Dida chuxing)はその好例と言えます。

シバタ:続いて、自転車シェアリングサービスの歴史も解説をお願いします。ある調査によると、この分野の2大巨頭であるTencent系の「Mobike(モバイク)」とAlibaba系の「ofo(オッフォ)」は、2017年1月時点で前者のDAU(日次のユーザー数)が97万8000、後者のDAUが48万6000となっていました。

でも、2018年の5月時点の調査だと、MobikeのDAUは305万、ofoのDAUが417万となり、ofoが逆転しています。

田中:ええ。最近はofoが頑張っています。個人的な印象だと、Mobikeはテクノロジーが優れていて、乗り心地はofoが良いという感じです。この2社の競争はどちらが勝つかまだまだ分かりません。

吉川:自転車のシェアリングサービスは、地方都市で小さく頑張っている企業がいくつか残っているじゃないですか。これらの吸収合併劇がそろそろ起こるのではと思うのですが、どうでしょう?

田中:はい、実際にそのような動きが出始めています。下の図は自動車シェアリングサービスの主要プレーヤーの中国国内シェアを示したもので、2017年10〜11月に、小規模な事業者同士が合併したり経営破綻するというニュースがありました。

(自転車シェアサービスの中国国内シェア)

図の右側にあるスマートフォンの画面は、全部が自転車シェアリングサービスのアプリなんですよ。スマホの一画面に収まり切らないくらいサービスがあるという点からも、統廃合の動きが加速化していくと思われます。


広大な国土や都市事情を考慮したスタートアップが台頭

ここからは、中国におけ次世代モビリティ分野の最先端事例を紹介していきます。

この分野は、大きく【1. コネクテッド】【2. 自動運転】【3. シェアリング&サービス】【4. ニュービークル】の4つに分類することができます。今回は、この4ジャンルの中でも中国で大きな盛り上がりを見せている【自動運転】と【シェアリング&サービス】に関するスタートアップを中心に、我々が注目する企業をピックアップしてみました。


自動運転: NIO

EVの話の中でも出てきた「中国版Tesla」NIOは、2014年の創業以来、自動運転分野でも注目されてきました。創業者である李斌(通称:ウィリアム・リー)は、スマートフォンのようなEVカーを製作することを目標としてNIOを設立。2018年6月から市販を始めています。「NOMI」という名前のAIデジタルコンパニオンがどのように進化していくかも注目したいところです(吉川)。

(NIOのSUV「ES8」に搭載されているAIデジタルコンパニオンの「NOMI」(撮影:吉川欣也))


自動運転:Pony AI(ポニー・エーアイ)

米フレモントと中国・広州に本社を置き、北京に研究開発拠点を持つ自動運転ライドシェアリングサービスのスタートアップです。2018年1月には$112 Million(約1億1200万円)を調達しています。

ユニークなのは拠点の置き方。本社が広州にあるので大手メーカーの広州汽車と組んで事業展開ができる一方、自動運転用AIの研究開発は北京やシリコンバレーで行うというスタイルを採っています。

CEO(最高経営責任者)のJames PengとCTO(最高技術責任者)のTiancheng Louは、どちらもGoogleとBaiduで自動運転技術の研究開発をリードしていた経歴の持ち主。創業から約1年半で自動運転技術Lv4までの技術を構築しています。すでに走行テストも開始するなど、爆発的なスピードで成長している企業の一つです(田中氏)。

シェアリング&サービス: ele.me(ウーラ・マ)

上海発のユニコーン(企業の評価額が$1B=約1,000億円以上で非上場のベンチャー企業を指す言葉)で、中国ナンバーワンのAlibaba系フードデリバリー企業です。中国国内で1億人くらいが利用しており、日本でいうUberEATS(ウーバーイーツ)のようなサービスをより安価な手数料で展開しています。

面白いのは、配達員の人手不足解消と時間短縮を目指して、宅配ドローンや高層ビル内で各部屋にデリバリーするロボットの開発に注力している点です。

特に配達ロボット開発について、同社によると「今は配達時間の半分くらいがビルに着いてから部屋に届けるまでの間に使われている」のだそうで、このプロセスを無人化することで効率化を図ろうとしています(田中氏)。


シェアリング&サービス: EHANG(イーハン)

深センにあるドローンの会社で、現在、人が乗れるタイプの自動運転ドローン開発を進めています。ニュービークルのジャンルに入る企業ですが、これが実用化されれば「空飛ぶタクシー」にもなり得るということで、シェアリングの枠で紹介しました。

同社のドローンにはタッチパネルで操作できる画面があって、自分の今いる場所と目的地を設定すれば自動的に送り届けてくれる構想を描いています。詳しくは下の動画を見てみてください。

(EHANGの自動運転ドローン)

現時点で乗れる人の総体重(積載重量)は100キロまで、1回充電すると25分間飛行できるそうで、30〜50キロくらい飛べる計算になります。まだ実験中とのことですが、今後は米NASAのコントロールルームみたいな場所からドローンを一元管理する計画もあるそうです(吉川)。


中国のクルマ革命に日本が学ぶべき「リアリティ」とは

講座の最後は、シバタが吉川、田中氏の2人に「中国マーケットの素朴な疑問」を聞いてみました。その回答から垣間見えた、日本メーカーも見習いたい中国企業の凄みとは?

シバタ:中国は、ライドシェアサービスの浸透スピードが日本に比べてすごく速いですよね。これは何が理由なのでしょう?

田中:盛り上がっているサービス領域にはとりあえず進出してみるというのが中国企業のスタイルで、これが理由の一つになると思います。

そしてもう一つ、中国には新しいサービスをどんどん受け入れるカルチャーがあるというのも大きいと思います。もともとタクシーの運賃が安かったところに、効率的に使いこなせるDiDiのようなサービスが出てくると、一気に普及するわけです。

吉川:ライドシェアサービスの発祥は、Uberを生んだシリコンバレーじゃないですか。でも、それを見て「いいな」と思ったらすぐコピーしてしまうのが中国の良さでもあって。シリコンバレーをよく研究して、まずやってみようと。

もともと、中国には公共バスがぎゅうぎゅうだったり、自転車を買ってもすぐ盗まれてしまうという問題があって、それらの課題をシェアリングサービスで解決するという文脈があいまって、一気に普及したのだと思います。利用料も安いですし。つまり、サービスが中国のお国柄にフィットした。

一方で日本は、交通に関する問題がそこまで顕在化していないし、自分でクルマや自転車を所有しても家で安全に保管できますからね。中国に比べれば、盗まれる確率は相当低い。そういう環境だと、「わざわざ他人と共有したくない」とか、逆の方向に触れてしまうのだと思います。

これから若い世代の間で「ライドシェアでいいんじゃない」という流れが出てくれば、マーケットも広がっていくかもしれませんが、利用料の高さを解消できれば......。

田中:日本のシェアリングサービスは総じて高いですよね。

吉川:そうなんです。中国のように10円、20円単位から利用できれば、若者たちも使うと思うんです。経済的なアドバンテージが見えないと、普及の可能性はどんどん小さくなってしまいます。

シバタ:では、最後の質問を。日本の自動車メーカーや関連会社の人が、モビリティ分野で中国企業と提携するような動きは、今後もっと増えていきそうな気がします。もしそうなった時、知っておくべき中国企業との上手な付き合い方を挙げるとしたら、何になりますか?

田中:Alibaba Group、Tencent、特にBaiduの「Apollo」プロジェクトのような主要プレーヤーとの連携は、確かに押さえておかなければならないレベルになってきたと感じています。スタートアップでは、NIOやBYTON、Xpeng MotorsといったEVの新興メーカーであったり、その裏側でソフトウェア開発をやっている自動運転系の会社。まずはこういった企業が何を志向して、どんな取り組みをやっているかを知ることから始めるべきではないでしょうか。細かな「お付き合いの作法」を覚える前に。

吉川:僕も同じで、まずは各社の動向をきちっと押さえながら、役員から現場の方々まで情報を把握しておくのが大事だと思います。しかも、情報を知るのと実際に見るのとでは全然違うので、ぜひ見ておくべきです。

日本のスタートアップにも、これから盛り上がっていくマーケットですからチャンスがあります。遣唐使とか遣隋使じゃないですけど、あの時代に戻る感じで、自分たちがリスクを取りながら見に行って、組めるところとは組むというのが重要なのかなと思います。

今回、僕は出張で北京や西安の現状を実際に見ることで、いろんな刺激を受けました。今、北京の空ってめちゃくちゃ青いんですよ。ちょっと前まで、深刻な大気汚染に悩まされていたはずなのに。

(2018年6月末の北京市内の様子(撮影:吉川欣也))

今まで通りに工場を稼働させつつ、空も青くなっている。中国はこういう劇的な改善ができる国なんだと、政府が示しているわけですよ。やる気を出せば、空も青くできるぞっていう。

そしてその裏側には、EVの普及であったり、さまざまな技術革新があるわけです。また、工場を地方都市に移転させつつ、競争力を落とさないために核となるエンジニアは北京の本社で抱えてAIの研究開発などを進めている。こういうことを、上海でも深センでも広州でも、大企業もスタートアップも、いろんな場所でやっています。この戦略性みたいなものは、日本も見習わなければならないと思います。

シバタ:今日も貴重なお話をありがとうございました!

今後もオンライン講座「テクノロジーの地政学」のサマリを配信していく予定なので、ご希望の方は「テクノロジーの地政学」マガジンをフォローしてください。

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