決算が読めるようになるノート
Q. 上場延期のチャットコマースZEALS、ユニークなビジネスモデルと今後の注目ポイントは?
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Q. 上場延期のチャットコマースZEALS、ユニークなビジネスモデルと今後の注目ポイントは?

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A. 競合と比較して、「成果報酬型」の課金モデルを採用している点が非常にユニークです。また、今後ZEALSが成長するための注目ポイントは以下3点です。
(1)自社セールスチームの構築とコミュニケーションデザイナーの採用
(2)ARPAの向上
(3)チャットボットを利用した新規事業の創出

この記事は沼幹太さんゆべしさんとの共同制作です。

本日は、チャットコマースサービスを手掛けるZEALS(ジールス)について、競合企業と比較したビジネスモデルの特徴と、今後の成長に関する注目ポイントを解説します。

チャットコマース(Conversation Commerce)とは、LINEやFacebookメッセンジャー等のチャットサービスを利用して、企業がユーザーとの会話を行い、商品提案や問い合わせ対応等を行うサービスで、チャットボットはチャットコマースの代表的な存在です。

BCGのレポートによると、2021年のチャットコマースの市場規模は$35B(約3.5兆円)であり、2025年までに約3.7倍の$130B(約13兆円)にまで拡大すると予想されています。

今回の記事では、そんなチャットコマースを運営するZEALSに関して、記事の前半では、事業展開や決算内容、ビジネスモデルとZEALSの特徴である課金形態について整理し、後半では、ZEALSのKPIの推移を確認しながら、今後の成長に関する注目ポイントを解説していきます。

ZEALSは、2021年12月23日に東証マザーズ上場が予定されていましたが、株式市場の動向等の諸般の事情を総合的に勘案し、2021年12月15日に上場延期を発表しました。


ZEALSについて

株式会社ZEALS 有価証券届出書 2021年12月

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ZEALSは「おもてなし革命」というビジョンを掲げ、接客・おもてなしの体験をデジタル化することで、顧客とユーザーがより良い関係を構築するために、AIを活用したチャットボットを中心に事業展開しており、競合多数な中、知名度の高さは突出しています。

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チャットボットの提供にあたって、ZEALS側が上図のような、商品購入や来店予約等の顧客の目的に応じた、ユーザーとの最適なコミュニケーションの流れを設計しています。このコミュニケーション設計のおかげで、個々のユーザーの消費行動に沿った接客体験を人手を介さずに自動で提供することが可能になります。

ZEALSのチャットボットは、上記に加えて、蓄積されたユーザーとの会話データを活用することで、パーソナライズされたコミュニケーション(マーケティング)が可能なため、一般的な広告と比較して高いCVR(Conversion Rate:成果に繋がる確率)を実現できることが特徴です。

一例として、ZEALSのチャットボットを導入しているメンズスキンケア商品を手掛けるBULK HOMMEでは、従来のWebサイトのLPと比較して、CVRが250%以上も効率化されているとのことです。


ZEALSの決算

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ZEALSの2022年3月期2Q(2021年7-9月)の3ヶ月間の売上は4.6億円(YoY+25.4%)で、営業利益は▲3.6億円と、2021年3月期4Q(2021年1-3月期)以降から赤字が拡大しています。

この赤字の要因は、開発費用や顧客獲得費用に加えて、後述する新規事業への投資といった、事業拡大を目的にした先行投資によるものです。中長期的な利益・キャッシュフロー最大化のために、2022年3月期以降も積極投資が続く予定です。


ZEALSのビジネスモデル

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ZEALSの売上は、上図のように、クライアント契約件数 × ARPA(Average Revenue per Account:1契約あたりの平均売上)で構成されており、ARPAは更に、1契約あたりの成果数(CV数)×報酬単価で構成されています。

売上=クライアント契約件数×ARPA
ARPA=1契約あたりの成果数×報酬単価

このビジネスモデルから分かる通り、ZEALSは「成果報酬型」の課金モデルを採用しています。そのため、多くのSaaS企業が採用している月額課金のような売上が安定するビジネスではなく、CV数や報酬単価によって毎月の売上が変動するという特徴があります。これはデメリットにもなりうる点です。

一方で、詳細は後述しますが、成果報酬型を採用することで、顧客にとっては導入によるリスクが大幅に下がるため、導入するハードルが低くなるメリットもあります。

事実として、ZEALSの売上が安定的に成長していることから、ZEALSのチャットボットが高いパフォーマンスを発揮しており、成果報酬型による売上変動のデメリットを回収しつつ、顧客への導入に成功していると言えるでしょう。


「完全成果報酬型」の課金形態について

課金形態について整理すると、ITプロダクトの課金形態は大きく以下の4つに分類できます。それぞれの課金形態の特徴を簡単にまとめたのでご覧ください。

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サービスの内容や料金、解約条件等に応じて変動しますが、一般的に上図の4つの課金形態において、下に行くほど顧客の導入のハードルが低くなります。そのため、「成果報酬課金型」のモデルは、顧客にメリットが大きくサービス提供側でリスクを追うモデルと言えます。

導入クライアント側の手間は当社が設計したシナリオのレビューのみであり、成果が見えない中で初期コストを普段することがないため、クライアントにとって導入しやすいサービス設計になっているものと考えております。

引用:株式会社ZEALS 新株式発行並びに株式売出届出目論見書(2021年11月)

ZEALSは、成果報酬という課金モデルに加えて、チャットボット導入の際に、顧客は前述したユーザーとのコミュニケーション設計を確認するのみで良いため、さらに導入ハードルは低くなります。

また、国内でチャットボットを提供するChatbookなどの企業は概ね、初期費用や月額料金が発生する課金体系を採用しており、AWSのチャットボット「Amazon Lex」は従量課金を採用していることから、成果報酬を採用しているZEALSは非常にユニークなポジションを確立しています。

次章からは、ZEALSのビジネスモデルを参考に、今後の成長に向けての3つの注目ポイントを解説します。

今後の注目ポイント
#1:自社セールスチーム構築とコミュニケーションデザイナー採用
#2:ARPAの向上
#3:チャットボットを利用した新規事業の創出


今後の注目ポイント#1:自社セールスチーム構築とコミュニケーションデザイナー採用

前述の通り、ZEALSの売上は、契約クライアント数 × ARPAで算出されるため、ZEALSのKPIは、「契約クライアント数」と「ARPA」となります。まずは1つ目のKPIである契約クライアント数から見ていきましょう。

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上図は、シバタが提供しているKPIデータベースから、ZEALSの契約クライアント数の四半期推移を引用したものです。契約クライアント数は順調に増加しているものの、成長率は鈍化していることが分かります。

ZEALSは成果報酬モデルのため、よりパフォーマンスを発揮できる顧客に絞って経営資源を投下するべきという前提の上で、IPOによる資金調達により、(1)自社セールスチームの構築と、(2)コミュニケーションデザイナーの採用に注力することで、契約クライアント数の拡大を進める戦略を立てています。

(1)自社セールスチームの構築
現時点でZEALSの顧客獲得は、電通や博報堂などの代理店に大きく依存しており、2021年3月期で代理店経由での売上比率は80.2%です。また、2021年9月時点で、ZEALSの従業員はエンジニア及びコミュニケーションデザイナーが大半で、営業人員の割合が極端に低いです。

そのため、今後は代理店の販売網を活かした受注活動に加え、これまでリーチできなかった顧客への販売強化を目的に、自社セールスチームの構築に注力しています。

(2)コミュニケーションデザイナーの採用
コミュニケーションデザイナーとは、より高い成果を創出するプロセスの制作や運用改善を目的に、大量の会話データを活用した分析データやナレッジを活かして、一気通貫のコミュニケーション設計を構築するポジションで、ZEALSの強みの1つとなっています。

成果報酬モデルでは、導入時のコミュニケーション設計が非常に重要なため、このコミュニケーション設計が適切かつスピーディーに構築できるよう、コミュニケーションデザイナーの採用に注力することで、契約クライアント数拡大のための体制強化を進めています。

現時点で契約クライアント数の成長率は鈍化していますが、今後はIPOによる資金調達と、これらの戦略を踏まえて、どのような成長を遂げるのか、注目ポイントとなるでしょう。


今後の注目ポイント#2:ARPAの向上

次に、ZEALSのもう一つのKPIであるARPAを見ていきます。

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ARPAの四半期推移を見ると、右肩上がりに増加している一方で、直近は契約クライアント数と同様に、成長率が鈍化していることが分かります。

ZEALSのARPAは、更に「CV数」と「報酬単価」で構成されているため、これらの指標の推移と注目ポイントを詳細に見ていきましょう。

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まず、2022年2Q(2021年7-9月)のCV数は55,000件(YoY+34%)で、右肩上がりに成長しています。

CV数は更に、「流入カスタマー・ユーザー数」と「CVR」で構成されています。ZEALSの有価証券報告書には、流入カスタマー・ユーザー数の拡大を重視しているという記載はあるものの、具体的な施策内容については開示していないようです。

また、ZEALSでは、ユーザーとの会話データから、ユーザーの行動や活動時間帯等の様々な角度から定量・定性分析を行っており、パーソナライズしたプッシュ通知等に注力しています。今後は会話データの蓄積に加え、分析を精緻化させることで、CVRの向上が期待できます。

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次に、2022年2Q(2021年7-9月)の報酬単価は3,385円で、ほぼ横ばいで推移しています。報酬単価の算出方法は開示されていませんが、顧客が目標としているCPA(Cost Per Action:顧客獲得単価)の水準に応じて決定されていると思われます。

2021年9月時点のZEALSの顧客は、コスメ、健康食品、エステ、人材など幅広く活用されていますが、今後は高いCPAを設定している(=ZEALSにとって報酬単価が高い)顧客の受注を進めることで、報酬単価の成長が期待できるでしょう。


今後の注目ポイント#3:チャットボットを利用した新規事業の創出

最後に、ZEALSの新規事業を見ていきます。これまで培ったチャットボットの知見を応用することで、以下のような新規事業を立ちあげています。

(1)自動車業界向けのチャットボット入庫予約サービス
(2)店舗接客DX

(1)自動車業界向けのチャットボット入庫予約サービス

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ZEALSは、2021年2月から自動車ディーラー向け入庫予約サービスを開始しました。ユーザーは、LINE上のチャットボットにマイカーを登録すると、適切なタイミングで車検や点検の案内を受けることができ、入庫予約までLINE上で完結できます。

このサービスを導入することで、自動車ディーラー側は、これまで顧客への電話対応に膨大な時間を効率化でき、ユーザー側はLINEという身近なプラットフォームで入庫予約まで完結できるようになります。

ちなみに、こちらのサービスも成果報酬モデルを採用しており、ユーザーの入庫予約をCV(成果)として報酬単価を設定しています。

(2)店舗接客DX事業

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また、ZEALSは旅行業界の企業向けに、チャットボットと販売員のビデオ会議を組み合わせた接客システムを提供する新規事業も立ちあげています。

この接客システムは、旅行の初期段階の問い合わせはチャットボットで対応し、具体的な相談は販売員とのビデオ接客で対応するモデルのため、企業はオンライン上でも、効率的かつきめ細やかな接客を提供でき、ユーザーはスマホ上で旅行の予約を一気通貫で行えます。

このように、ZEALSではチャットボット技術を活用して、積極的に新規事業に取り組んでいるため、今後新規事業がZEALS全体をけん引する中核事業に成長するかどうか、注目ポイントになるでしょう。


まとめ

今回の記事では、ZEALSの事業展開や決算内容、ビジネスモデルに加えて、今後の注目ポイントを3つ整理しました。

#1:自社セールスチームの構築とコミュニケーションデザイナーの採用
#2:ARPAの向上
#3:チャットボットを利用した新規事業の創出

冒頭でも記載した通り、チャットコマースは非常に注目されている市場で、今後も市場規模の拡大が見込まれています。また、チャットボットサービスの中でも、ZEALSは「成果報酬モデル」を採用しており、非常にユニークなポジションを確立しています。

また、記事の後半で紹介した通り、ZEALSの一部KPIの成長が鈍化しているようにも見受けられましたが、今後の成長に向けた明確な戦略や施策を進めています。

本日解説したZEALSの戦略により、どのような成長を遂げるのか、今後の上場の行方と併せて、引き続き注目していきたいと思います。


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