しばQ: 日本 vs シリコンバレー: 起業・資金調達するならどっち?
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今回は、「起業する、あるいは、資金調達する際に、日本とシリコンバレーのどちらでした方がいいのか?」という質問が合計3つほどありましたので、まとめて回答したいと思います。
最初にお断りしておくと、この手の話は、いろんな人がいろんなことを書いたり言ったりしていると思いますが、絶対的な最適な正解というものは存在しないと思います。
極論すると、皆さんが自分のやりたいように、あるいは自分が正しいと思うようにやればいい、というのが私のスタンスです。
Q1: シリコンバレーで起業するメリットは?
いつも楽しみにnote拝見してます!質問なのですが、ぼくの知り合い(アプリエンジニア)がシリコンバレーで起業しようと考えているそうなのですが、正直固定費めっちゃ高いし、どこまで"シリコンバレーで"やることに意味があるんだろうって疑問です。現地にいる柴田さんから見て、シリコンバレーで起業することのリアルなメリットデメリット、あともしあれば他に起業するのにオススメな都市など教えてください。
A1: シリコンバレーにしかないものは、無尽蔵なVCマネー。
ご質問ありがとうございます。
最初にシリコンバレーで起業するデメリットを、いくつか挙げてみたいと思います。
1つ目。おっしゃるように、シリコンバレーの生活コストはとても高いです。単純に家賃だけで見ても、私がシリコンバレーに来た2009年と比べて、約2倍程度になっていると思います。
家賃は右のグラフのように右肩上がりです。
感覚値になってしまいますが、生活コストを考えると東京の約2倍〜3倍だと思っておくのが正しいと思います。つまり東京で年収1,000万の人が同じ生活をしようと思ったら、シリコンバレーでは年収2,000万〜3,000万程度ないと、同じ生活ができないということになります。
2つ目。シリコンバレーは多産多死を前提に全てが設定されていますので、例えば人材流通の面で、良い人が雇いやすい反面もあれば、一方でそういった人は他の企業からもヘッドハントされやすく、人材が安定しないというデメリットもあります。
3つ目。就労ビザを取得するのが年々大変になってきているという点です。
特にトランプ政権になって以降、H-1Bビザが非常に不安定な状況になっていると言わざるを得ませんので、外国人がシリコンバレーで起業する場合は、ビザをどのようにクリアしていくか、という明確な戦略が必要になります。
3つほどデメリットをあげたので、メリットも上げたいと思います。
極論すると最大のメリットは、ベンチャーキャピタルが提供するリスクマネーの量にあると思います。少しでもこのサービスは伸びそうだとなった瞬間に、他の国では考えられないほどのスピードで、考えられないほどのお金が世界中から集まります。
このリスクマネーの量に関しては、どれだけ日本でベンチャーキャピタルは最近発達してきているとはいえ、全く勝負にならないレベルだと思います。
生活費が年々上がっているというのも、まさにこの点と連動しているわけですが、巨大なリスクマネーが投下された瞬間から、日本では考えられないスピードで、人材獲得やビジネス開発が始まります。このステージになると、悪い言い方をすると非常に燃費が悪いお金の使い方をするわけですが、それでもスピードを優先してあらゆる事が進んでいきます。
起業するのにオススメの都市が他にあるのかと言われると、私自身東京とシリコンバレーしか知らないので何とも言い難いですが、東京はそんなに悪い場所ではないと思います。
イメージとしては、シリコンバレーでグローバルにサービスを提供する場合と比べて、市場規模はおそらく1/10ぐらいになると思いますが、競争の厳しさは恐らく1/20以下だと思いますので、勝てる確率で行くと2倍以上高くなるのではないか、というのが直感値です。
Q2: エンジェル投資家に何を求めるべきか?
今シリコンバレーで2社目の会社を始めようとしている●●と申します。
困った時にこちらの記事に何度も辿り着きます!
「できるだけ創業初期に、資金以上の何かを提供してくれる人から投資を受けること」とありますが、
仮に資金以外の何かをサポートしてくれる人が他に多くにいる場合は、資金のみを求めエンジェルを選ぶことは理にかなっていますでしょうか?
A2: 辛い時に助けてくれる人をエンジェル投資家にすべし。
最近は特に、日本でベンチャーマネーが過剰になっている傾向が強い気がします。これはマーケット全体を見ると必ずしも悪いことではないと思うのですが、あまりにも簡単に資金調達ができてしまうので、スタートアップが売上や利益を出そうとする努力を十分しないままで資金調達ばかりに目がいってしまう、という傾向が出てきている気もします。
要は1万円の利益を出すよりも、1万円を資金調達する方が圧倒的に簡単であるため、多くの企業家が、事業を作るよりも資金調達に最適化しようとしてしまっている、というのが現状なのではないかと思います。1万円の利益も1万円の資金調達も、銀行残高が1万円増えるという点では同じですが、あまりにも安易に資金調達に走る起業家が増えてきている点は、危機感を覚えます。
その上で、どうしても資金調達をする必要があれば、という話ですが...
私がいつも言っているのは、資金調達は、しなくて良いのであればしない方が良いですし、できるだけタイミングを遅らせることができるのであれば、遅らせた方がいいと言っています。
なぜこう言っているかというと、スタートアップのいろいろなプロセスの内、資金調達だけは、後からやり直すのが非常に困難だからです。例えば人を採用する場合、万が一間違えても途中でクビにしたりすることは不可能ではありません。またサービスがうまくいかなかった場合、別のサービスを再度トライすることもできます。
ただ株主だけは、一度株主になってしまうと、後から追い出すことが非常に困難です。特に会社が初期のステージであればあるほど困難です。
従って、株主になってもらう人は非常に慎重に選ぶ必要がある、というのが私の持論です。
なぜ「資金以外の何かを提供してくれる人から投資を受けた方がいい」のかというと、まさにこの点が大きいと思っているからです。スタートアップというのはリスクの塊なので、必ずしもうまくいくことばかりではありません。うまくいかなかった時に見捨てることなく、しっかりサポートしてくれるような人以外からは、特に初期のうちは、お金は受け取らない方が良いと、今でも思っています。
あなたがお金のみを求めて、投資家がお金だけを提供することをお互いに期待している場合、投資家がお金を回収するのが困難だと感じた際に、サポートするのではなくてスタートアップにとって困る行動をする人が出てくるかもしれません。
特に初期のうちは、そういった身内の投資家に対応している時間はありませんので、可能であればそういった困難な状況に陥っても助けてくれるような人を、エンジェル投資家として迎え入れるべきだと思います。
Q3: 資金調達は日本 or シリコンバレーのどちらからすべき?
これを執筆している2017年時点での話ですが、シリコンバレーと日本のベンチャーキャピタルの動向を見ると、圧倒的に日本で資金調達をする方が簡単と言わざるを得ません。
シリコンバレーのトレンドとしては、ベンチャーキャピタルは投資をする前に、以前に比べてより大きな確固たる実績を異常に要求するようになっています。つまり、明らかな勝ち馬だとわかるまでは、投資を躊躇する傾向がどんどん強まっています。
従って、数年前まではシリーズAと呼ばれていたようなサイズの投資までシードラウンドで行われるようになり、1ラウンドあたりの投資金額が大きくなっています。
一方で日本では、ここ数年間でベンチャーキャピタルの数や、ベンチャーキャピタルの投資余力が大きく増えました。これ自体は非常に素晴らしいことだと思いますが、現状はある意味業界の過渡期であるとも言えます。
また起業家の数も増えているとは思いますが、ベンチャーキャピタル業界が供給できる資金の量に比べて、起業家の数がまだシリコンバレーほど多くないため、資金調達という点では、競争がシリコンバレーほどは厳しくないのではないか、という風に見えます。
「シードラウンドを日本から調達して、Aラウンドでシリコンバレーのベンチャーキャピタルから調達するのは可能か」という質問ですが、決して不可能ではないとは思いますが、相当難しいと思います。
以下では、AラウンドでシリコンバレーのVCから資金調達をしたい、という希望があるという前提で話を進めますが、もしシードラウンドでシリコンバレーのVCから調達できるのであれば、そうするのが一番の近道でしょう。
もし、シードラウンドでシリコンバレーのVCから調達できないのであれば、より基準の緩い日本のVCから調達することはできるかもしれませんが、その後、より厳しいシリコンバレーの「Aラウンド基準」に到達する、というのは相当難しいのではないでしょうか。
AラウンドでシリコンバレーのVCからの調達を目指すのであれば、早い段階で自ら「バー」を下げるのではなく、シードラウンドもシリコンバレーのVCから調達を目指すべきだと思います。
そしてより大事なこととしては、上で書いた通り、本当に資金調達をする必要があるのか、というのを自問自答をしてみるのが良いと思います。
資金調達のニュースはTechCrunchなどで大きく取り上げられるのでとても目立ちますが、表には出てこないだけで資金調達をせずに大きくビジネスを成長させている会社は、たくさんあります。
資金調達は手段であって、目的ではないことを忘れずに頑張ってください。
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