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Q. なぜMeta(Facebook)の株価は大暴落したのか?3つの要因と今後の7つの注力領域とは?

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A. 株価大暴落の3つの要因は以下。
(1)翌四半期(2022年1Q)の売上成長率の見通しが低い
(2)FacebookのDAUがQoQで減少
(3)メタバースの年間損失額1兆円超

また、今後のMetaの7つの注力領域は以下。
(1)Reels
(2)Community messaging
(3)Commerce
(4)Ads
(5)Privacy
(6)AI
(7)Metaverse

この記事はゆべしさんとの共同制作です。

2022年2月2日に行われたMeta(Facebook)の2021年4Qの決算発表を受けて、Metaの株価が大暴落したというニュースを耳にした人も多いでしょう。

この株価大暴落は、歴史的に見ても凄まじい規模であり、1日にして約2,400億ドル(約24兆円)分の時価総額が喪失したことになります。これは、米国企業が1日で失った時価総額としては過去最大となったことで、多くのメディアで取り上げられました。

一方で、読者の皆さんはこの株価大暴落の要因や背景をご存知でしょうか?なんとなく聞いてはいるけれどきちんと理解できていないという人も多いのではないでしょうか。

この記事では、Metaの株価が大暴落した3つの理由の考察に加え、Metaがこの苦境を乗り越えるために、今後注力する7つの領域を解説します。

この記事では、1ドル=100円($1 = 100円)として、日本円も併せて記載しています。


Metaの株価大暴落、1日で$240B(約24兆円)の価値が喪失

Meta Earnings Presentation Q4 2021(2022年2月2日)
Meta Platforms, Inc.(FB) Force Quater2021 Results Conference Call(2022年2月2日)
Meta Reports Quater and Full Year 2021 Results(2022年2月2日)

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2021年4Qの決算発表が行われた2022年2月2日以降、上図のようにMetaの株価は大きく下落しました。2月3日正午時点(米国時間)で株価は26%ダウンし、時価総額はおよそ$240B(約24兆円)失われました。

消失した時価総額の規模は、ソニー(2022年2月4日時点の時価総額:約15.9兆円)やNTT(2022年2月4日時点の時価総額:約12.2兆円)の時価総額を上回り、ウォルト・ディズニー(2022年2月4日時点の時価総額:約$258B)の時価総額並みです。

これだけの規模の時価総額が1日にして失われたということは、まさに歴史的な事件と言えるでしょう。

なぜ、このような株価大暴落が起きてしまったのか、その要因を3つにポイントに分けて考察していきます。


株価大暴落の要因 #1: 翌四半期(2022年1Q)の売上成長率の見通しが暗い

株価大暴落の1つ目の要因は「翌四半期(2022年1Q)の売上成長率の見通しが低いため」です。

We expect first quarter 2022 total revenue to be in the range of $27-29 billion, which represents 3-11% year-over-year growth. We expect our year-over-year growth in the first quarter to be impacted by headwinds to both impression and price growth.

引用:Meta Reports Quater and Full Year 2021 Results(2022年2月2日)

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Metaの2022年1Qの売上の前年同期比成長率の見通しはYoY+3%〜11%です。

直近6四半期の売上成長率(上図オレンジ線)が、YoY+20%〜50%超だったことを踏まえると、今回の業績予想は売上成長率が大きく鈍化する見通しであることが分かります。

この成長鈍化予想の1つ目の要因は、「インプレッションに関する懸念」があるからです。
TikTokを含む競合環境の激化が継続することでインプレッション数の減少が想定されることに加え、アプリ内のユーザー行動が、フィードやストーリーズと比較して収益性の低いReels(ショートムービー)へシフトしていることで、インプレッションあたりの収益性悪化が想定されています。

成長鈍化予想の2つ目の要因は、「広告単価に関する懸念」があるからです。
Appleのプライバシー保護の強化によるターゲティング広告の精度低下、インフレ・サプライチェーン問題による広告主の広告予算縮小や為替レートの変化など外部環境の変化により、広告単価の低下が想定されています。

【Appleのプライバシー保護の強化とは】
従来は、IDFA(Identifier for Advertisers:広告出稿等に用いられるiOS端末の広告識別子)を活用して、各iOS端末の行動データをトラッキングした広告配信が可能でしたが、2021年4月から提供されたiOS14.5でプライバシー保護が強化されたことで、IDFAの利用を許可しないユーザーの行動データを活用することができなくなり、多くの企業に影響を与えています。

このように、インプレッションと広告単価への懸念があることを踏まえて、Metaの翌四半期(2022年1Q)の売上成長率は大きく低下する見通しとなっています。


株価大暴落の要因 #2: FacebookのDAUがついにQoQで減少

株価大暴落の2つ目の要因は、「FacebookのDAU(Daily Active Users:1日あたりのアクティブユーザー)がQoQで減少したため」です。

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2021年4QのDAUは19億2,900万人で、前四半期(2021年3Q)の19億3,000万人と比較して微減しました。QoQでDAUが減少したのは、創業以降初めてのことです。

People have a lot of choices for how they want to spend their time and apps like TikTok are growing very quickly,

引用:Meta Platforms, Inc.(FB) Force Quater2021 Results Conference Call(2022年2月2日)

このDAU減少の背景には、前章でも触れた通り、TikTok等との競合環境の激化や、ユーザー行動がReelsへシフトするトレンドが起き、特に若いユーザーの獲得に影響を与えています。

詳細は後述しますが、Metaはこのようなトレンドを踏まえ、短期的な収益減を許容して、Reelsを中心とした新たなユーザー行動に即したプロダクト開発に注力し、中長期的な収益化を目指す方針を掲げています。


株価大暴落の要因 #3: メタバースで年間1兆円規模の損失

株価大暴落の3つ目の要因は、「メタバース事業での年間1兆円規模の営業損失」です。

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2021年4Qから、Metaが注力している拡張現実や仮想現実関連事業を含む「Reality Labs」のセグメント(上図赤枠)の財務情報が開示されるようになりました。

2021年4Qの3ヶ月間のReality Labsの売上は$877M(約877億円)でYoY+22.3%、営業損失は▲$3,304M(▲約3,304億円)です。単純計算すると、年間の営業損失は$3,304M × 4 = $13.2B(約1.32兆円)と、1兆円以上の損失が出ている計算になります。

売上が順調に成長しているフェーズでの積極投資であれば、投資家への見え方も変わったかと思いますが、前述のように、全体の売上は成長鈍化の見通しです。さらに、FacebookのDAUもQoQで減少した状況での積極投資のため、一部の投資家からは不安視されています。


Alphabet(Google)、Appleの広告事業と比べてみると?

ここまで、Metaの株価大暴落の3つの要因を整理しました。

ここで、もう少し掘り下げて考察するために、Metaの主要事業である広告売上について、同じ広告事業を展開するGoogleの親会社のAlphabetと比較してみましょう。
(注:Metaの2021年4Qの広告売上は、全体売上の約97%を占めています。)

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両社の広告売上の規模が異なるため、上図のように四半期ごとの広告売上の前年同期比の推移を整理すると、2021年2Q(2021年4-6月)以降、AlphabetがMetaを上回っていることが分かります。

ここで、少し古いデータにはなりますが、2021年11月に公開した記事で、iOS14.5のプライバシー保護の強化によるAlphabet(Google)、Meta、Snap、Appleの広告事業の影響をまとめました。この記事の内容を簡単にまとめると、以下の通りです。

・iOS14.5からのAppleのプライバシー保護の強化により、ユーザーの行動データを利用したターゲティング広告が影響を受けつつある
・そこで、ユーザーの検索意図にマッチする広告出稿が可能な「検索連動型広告」の需要が高まっている
・そのため、Apple Store内の検索連動型広告であるSearch Adsの需要が増加している

このことから、検索連動型広告が中心のAlphabetよりも、ユーザーの行動データを利用したFacebookの広告売上が中心のMetaの方が影響を大きく受けることになり、2021年2Q以降、両社の前年同期比成長率が逆転していると思われます。

とはいえ、iOS14.5の提供開始は2021年4月で、そこから半年以上が経過した2021年4QのMetaの広告売上の前年同期比は120%(注:成長率はYoY+20%)です。それと比較しても、2022年1Qの売上成長率がYoY+3%〜+11%に留まるという見通しは、かなり成長鈍化の見通しであることが分かります。

そのため、前述したように、Appleのプライバシー保護の強化だけではなく、様々な要因が絡み合って逆風の環境となっていることが伺えます。


Metaの今後の7つの注力領域

Today I’m going to discuss our seven major investment priorities for 2022: and they’re Reels, community messaging, commerce, ads, privacy, AI, and of course the metaverse. These are the areas that we’re putting a lot more talent and budget towards.

引用:Meta Platforms, Inc.(FB) Force Quater2021 Results Conference Call(2022年2月2日)

この苦境とも言える状況において、Metaは以下の7つの領域に注力する戦略を掲げています。以下に、簡単に内容をまとめます。

注力領域#1:Reels(短編動画)
→人々のコンテンツ消費において、リール等の短編動画は非常に重要であり、InstagramやFacebookでも急成長している領域。今後はクリエイターのためのマネタイズツールなどを拡充させることに注力する。

注力領域#2:Community messaging(グループチャット)
→WhatsAppやFacebook Messenger等で、簡単にグループチャットが利用できるよう改善することに加え、ビジネス領域においてもUber等の企業と提携することで、チャットを通して車の予約が行えるなど、機能拡充に注力する。

注力領域#3:Commerce(コマース)
→ユーザーが新しい商品を見つけた際に、ブラウザに遷移したり、支払情報を再入力したりすることなく、シームレスな購入体験ができるよう注力する。

注力領域#4:Ads(広告)
→Appleのプライバシー保護の強化が進む中でも、高品質のターゲティング広告を実現するために、新しい広告モデルの構築に注力する。

注力領域#5:Privacy(プライバシー)
→WhatsAppやMessengerの暗号化技術に注力する。

注力領域#6:AI(人工知能)
→より少ないデータで、より良い広告出稿ができるようAI開発に注力することで、ReelsやCommerce、Metaverseの更なる成長に寄与する。

注力領域#7:Metaverse(メタバース)
→没入型の具現化されたインターネットを構築するために必要な基盤となるハードウェア・ソフトウェアの開発に注力する。

この7つの注力領域はそのまま投資の優先順位を指しており、2022年12月期は、Reelsが一番の注力領域で、反対にメタバースの優先順位が他と比較して低いことが分かります。

2021年10月末に、メタバース領域へ注力することを理由に、FacebookからMetaへ社名を変更しましたが、本格的な普及は5-10年後を見据えていることから、来年度(2022年12月期)の投資の優先順位としては低くなっていると思われます。


まとめ

ここまで、Metaの株価が大暴落した3つの理由と7つの注力領域について整理しました。

・2021年4Qの決算により、Metaの株価は26%ダウンし、時価総額は約$240B(約24兆円)失われた

・株価大暴落の1つ目の要因は、翌四半期(2022年1Q)の売上成長率の見通しが低いためであり、インプレッションや広告単価の懸念が影響している

・株価大暴落の2つ目の要因は、FacebookのDAUがQoQで減少したことであり、TikTok等との競合環境が激化している

・株価大暴落の3つ目の要因は、メタバース領域で年間1兆円超の営業損失が出ていること

・この苦境とも言える状況で、Metaは(1)Reels、(2)Community messaging、(3)Commerce、(4)Ads、(5)Privacy、(6)AI、(7)Metaverseに注力する方針

ここで、米国の各Tech企業の今期の決算結果を見ると、Meta(Facebook)の売上及び純利益は必ずしも悪い結果ではないものの、翌日株価変動率は大きくマイナスとなっており、明暗がはっきりと分かれる結果となりました。

最後の章で記載した通り、Metaの今後の7つの注力領域の1つに「広告」があります。現時点で広告売上はMetaの主力事業のため、どこまで成長鈍化を抑えられるのか注目ですね。

現時点では苦境に陥っているMetaですが、今後の7つの注力領域がどこまで成長するのか、その結果としてMetaの業績や株価がどのように推移するのか、引き続き注視していきたいと思います。

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