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ついに日本でも「株式報酬」が一般化するのか!? ヤフーや楽天が既に導入

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つい先日、Yahooの決算発表に連動して、取締役や従業員に対して株式報酬を提供する、というアナウンスがなされました。

シリコンバレーでは一般的になっている株式報酬ですが、日本では従業員に対して株式報酬を支払う、というのはまだあまり一般的でないようにも思いますので、今日はその株式報酬の仕組みというのを勉強していきたいと思います。

譲渡制限付株式報酬としての新株式の発行に関するお知らせ


ヤフーの株式報酬、総額3.7億円分、106名が対象

今回発表されたヤフーの株式報酬ですが、対象は取締役2名と、従業員104名、合計が約3.7億円という規模になっています。

対象となっているのが合計で106名ですので、おそらく執行役員の一つか二つ下のレベル、つまり本部長や部長以上の人が対象になっていると考えるのが自然でしょう(参考までにシリコンバレーのテクノロジー企業では、本部長でも部長でもない平社員にも株式報酬が提供されるのが一般的になってきています)。

取締役に提供される分と従業員に提供される分を合わせて平均を計算すると、一人当たり約350万円程度の報酬になります。従業員に提供される部分だけを平均すると、一人当たり約300万円程度の報酬という計算になります。

Yahooの本部長や部長クラスの人の給料がどの程度なのかは私には分かりませんが、仮に年俸が1,000万から1,500万程度だとすると、それにプラスして支給されるのが300万円程度の株式報酬というのは、現金報酬の20%から30%程度に該当すると予想されますので、決して小さなインセンティブではないということだけは言えるでしょう。


ヤフーの「譲渡制限付株式報酬」の仕組み

ではYahooの場合、株式報酬というのはどのような仕組みになっているのでしょうか。少し詳しく見ていきたいと思います。

当社は、2017年6月20日開催の第22回定時株主総会において、本制度に基づき、譲渡制限付株式取得の出資財産とするための金銭報酬(以下「譲渡制限付株式報酬」といいます。)として、付与対象取締役に対して、年額4億円以内(ただし、使用人兼務取締役の使用人分給与を含みません。)の譲渡制限付株式報酬を支給すること及び譲渡制限付株式の譲渡制限期間として3年間から5年間までの間で当社の取締役会が定める期間とすることにつき、ご承認をいただいております。

まず始めに、この株式報酬を支給すると言うこと自体はすでに株主総会で承認されている事案だということが記載されています。

株主総会で承認された内容は、合計が4億円以内であるという点、そして、譲渡制限期間を3年から5年の間で設定するという2点になります。

なお、本株式は、割当予定先である当社の従業員104名に対しては、その引き受けを希望する者に対してのみ発行されることとなり、本新株発行においては、本株式を引き受ける従業員に対して、現物出資するための金銭債権が当社から支給されますので、本新株発行により従業員の賃金が減額されることはありません。今後の付与対象取締役等に対する特定譲渡制限付株式の付与については、本新株発行の効果、各事業年度の当社業績及び株式市場への影響等を斟酌して決定する予定です。

そして、従業員の104名に対してはあくまで希望者のみが株式報酬を得られる、という仕組みになっています。

実際の株式報酬の提供の仕方は
・まず Yahoo が株式報酬として提供する新株を発行し
・会社が従業員に対して金銭を提供し
・従業員がその金銭で株式を買い取ると言う流れになっている
とこの文章からは読み取れます。

実はシリコンバレーの株式報酬の場合でも同じことが起こるのですが、このようなやり方をしたとしても税務上のいくつかのハードルがあります。それに関しては、この記事の後半で簡単に触れておきたいと思います。


ヤフーの「譲渡制限期間」とは?いつになったら株を売れるの?

今回のヤフーのケースでは、普通株をそのまま従業員に提供するのではなく、譲渡制限が付いた普通株を提供することになっています(英語ではRestricted Stock Unit、略して「RSU」と呼びます)。

つまり、ある一定期間は譲渡ができないという制限がついた株式になっているわけですが、具体的にどのような制限がついているのか見ていきましょう。

また、譲渡制限期間については、本制度に基づき、2017年5月19日の割当決議により当社の取締役及び従業員に付与された特定譲渡制限付株式と同様、3年間といたしました。

こちらの記載にある通り、3年間は一切譲渡つまり売却ができない株式になります。

(1)譲渡制限期間 2018年7月18日~2021年8月2日

具体的には、2018年の7月18日から2021年の8月2日まで譲渡制限がついています。

(4)当社による無償取得
当社は、譲渡制限期間が満了した時点において譲渡制限が解除されない本株式の全部について、当該時点の直後の時点をもって、当然に無償で取得します。また、付与対象取締役等が譲渡制限期間中に自己都合により退任等した場合など、一定の事由に該当した場合には、付与対象取締役等が当該事由に該当した時点をもって、本株式の全部(当社の従業員の場合は全部又は一部とし、在籍期間等を勘案して譲渡制限付株式割当契約に基づき決定します。)を当然に無償で取得します。

その譲渡制限が解除される前のタイミングで退職をした場合は Yahoo は従業員からその株式を無償で取得することができるという制限がついています。

(余談ですがこの文章にある「当然に」というのはシリコンバレーの常識からすると全く当然ではないので、なぜこのようにきつい言葉を用いて印象を悪くしているのかと少し思いました。なぜこれが「当然」でないのか、も後半で記載します。)

以上がヤフーの株式報酬の概要になりますが、実は Yahooだけが日本で株式報酬を提供しているネット企業というわけではありません。

楽天でも数年前から、生の株式ではなくストックオプションという形ですが、株式報酬を従業員に対して提供しています。ここでは楽天のケースも比較対象として詳しく見ていきたいと思います。


楽天の「特に有利な条件」をもって発行されるストックオプション

楽天のケースでは、特に有利な条件をもって発行されるストックオプションが株式報酬として提供されています。

(5) 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額
 新株予約権1個当たり1円とする。

ヤフーのケースとは異なり、楽天の場合は新株予約権一個(=100株)につき1円で行使できるという、要はほぼ無料で行使できるストックオプションを提供していることになります。

ストックオプションの仕組みの詳しい解説はここでは割愛しますが、要は、将来のある決められた期間に楽天の株式100株分を1円で購入することができる権利が付与されることになります(付与時点での株価を約780円とすると、仮に株価が一定だとすれば、将来の時点で、(現時点で)78,000円に相当する分の株式を1円で購入できる権利がもらえるということです)。

受け取る従業員から見ると、譲渡制限がついた株式を受け取るのと1円で100株を得ることができるストックオプションを受け取るのとで、経済的には事実上、差異はあまりありません。

楽天の場合は、1,261人の社員に対して、31,369個のオプション、つまり約300万株のストックオプションが付与されることになります。

ストックオプションを付与したタイミングでの株価を約780円とすると、合計で約24.5億円程度の株式報酬になります。

従業員一人当たりに換算すると、約194万円程度の株式報酬という計算になります。

単純にYahooと比較すると、対象者が役楽天の方が12倍程度多い計算になりますが、従業員一人当たりに直すと、Yahooの約2/3程度という計算になります。


楽天のストックオプションの行使期間は?いつになったら株に転換できるの?

Yahooの場合は、生株をそのまま従業員に渡すため、譲渡制限という形になっていましたが、楽天の場合はストックオプションを付与することになるので、実際にそのストックオプションはどのような条件で、いつ行使できるようになるのかというのを詳しく見ていきましょう。

(6) 新株予約権の行使期間
 新株予約権発行の日(以下「発行日」という。)の1年後の応答日から10年後の応当日までとする。ただし、権利行使期間の最終日が当社の休日に当たるときは、その前営業日を最終日とする。

このストックオプションは、発行された日の1年後から10年後まで、計9年間有効なストックオプションになります。ただし以下のような細かい制限がついています。

④ 新株予約権者は、以下の区分に従って、新株予約権の全部または一部を行使することができる。
ⅰ)発行日からその1年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権のすべてについて権利行使することができない。
ⅱ)発行日の1年後の応当日から発行日の2年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権の15%について権利行使することができる(権利行使可能となる新株予約権の数に1未満の端数が生じた場合は、これを切り捨てるものとする)。
ⅲ)発行日の2年後の応当日から発行日の3年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権の35%(ただし、発行日の2年後の応当日までに新株予約権の一部を行使していた場合には、当該行使した新株予約権を合算して、割り当てられた新株予約権の35%までとする。)について権利行使することができる(権利行使可能となる新株予約権の数に1未満の端数が生じた場合は、これを切り捨てるものとする)。
ⅳ)発行日の3年後の応当日から発行日の4年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権の65%(ただし、発行日の3年後の応当日までに新株予約権の一部を行使していた場合には、当該行使した新株予約権を合算して、割り当てられた新株予約権の65%までとする。)について権利行使することができる(権利行使可能となる新株予約権の数に1未満の端数が生じた場合は、これを切り捨てるものとする)。
ⅴ)発行日の4年後の応当日から発行日の10年後の応当日までは、割り当てられた新株予約権のすべてについて権利行使することができる。

これを簡単に要約すると以下のようになります。

・ストックオプション発行から1年後までは、全く行使できない
・1年後以降、2年目最終日までは、15%分を行使できる
・2年後以降、3年目最終日までは、さらに20%(計35%)分を行使できる
・3年後以降、4年目最終日までは、さらに30%(計65%)分を行使できる
・4年後以降、10年目最終日までは、さらに35%(計100%)分を行使できる

要は、ストックオプションが付与されてから一年以内に退職すると全く行使できません。

付与されてから1年経過すると、15%分が行使できるようになります。2年経つとさらに追加で20%分が行使できるようになります、という風に、4年経過するまでは、付与された全てのストックオプションが行使できないような制限がついています。

なぜこのような譲渡制限や、ストックオプションの行使に制限をかけているかと言うと、従業員が退職しにくくするためです。

Yahooの場合においては、少なくても3年は在籍してほしいというメッセージが強烈に発信されていますし、楽天の場合においては、少なくても1年は在籍しないと従業員側が損をするようになっており、長く在籍すればするほどたくさんのストックオプションを行使できるようになるため、従業員が長く会社に留まる経済的なインセンティブを与えているわけです。


シリコンバレーの株式報酬の標準形

シリコンバレーでは株式報酬が一般化されているという話をしましたが、シリコンバレーのスタンダードなパターンを簡単に書いておきたいと思います。

シリコンバレーのスタンダードは、「4年vesting, 1年cliff」なので、

・ストックオプション発行から1年後までは、全くVestされない(オプションが行使できない)
・発行1年後に、1/4(25%)分がVestされる(行使可能になる)
・発行後から13ヶ月目以降は、48ヶ月目まで、毎月1/48ずつVestされる(行使可能になる)
・退職等の場合は、その時点でVestされていないストックオプションは会社に無償で還元される

という仕組みです。

ご覧いただければ分かる通りですが、シリコンバレーの方が圧倒的に従業員に有利な形になっています。シリコンバレーのパターンというのは最低1年は在籍する必要がありますが、1年目以降に関しては毎月月次で1/48ずつ譲渡制限が解除されていく形になります。


余談: 株式報酬を受け取った従業員の税金

さて、冒頭で税金の話が複雑であるという点を述べました。

今回のケースでは、Yahooの一株を449円と換算して、それを無償で従業員に提供することになるわけですが、当然これも通常の所得とみなされ、課税対象になります。

楽天のケースでは、仮にストックオプションの発行時点での株価が780円とすると、ストックオプション一個につき78,000円分の価値があるオプションを1円で提供していることになるので、77,999円分は所得として課税対象になるのではないでしょうか。

楽天のプレスリリースは以下のように記載されています。

⑤ 新株予約権者は、新株予約権または株式に関連する法令で定められる、いかなる税金等(日本国内で定められているか否かを問わず、所得税等の税金、社会保障拠出金、年金、雇用保険料等を含むがこれに限らない。)についてもこれを納める責任を負い、当社、当社子会社または当社関連会社が税金等の徴収義務を負う場合には、当該徴収義務を負う会社は、次の各号に掲げる方法により、新株予約権者から税金等を徴収することができるものとする。
ⅰ)現金による受領
ⅱ)新株予約権者が保有する株式による充当
ⅲ)新株予約権者の給与、賞与等からの控除
ⅳ)その他当社が定める方法

今回のように譲渡制限がついているストックオプションを付与された場合の従業員は、まだ株を売ることができないにも関わらず税金を支払う必要がある、というケースが想定されます。

それだけ現金に余裕がある従業員は先に税金を支払うことができるのかもしれませんが、そうでないケースは、先に税金を支払うことができないがために、これらの株式報酬を受け取れない、というケースが出てくる可能性があります。

Yahooや楽天のリリースからは、これらの従業員の税務がどのようにワークするのかがわからないのですが、株式報酬を普及させていくという点で考えると、従業員目線での税務の情報はもう少し欲しいなあというのが正直なところです。

日本の税務に関してはあまり詳しくないので、もし詳しい方がいれば、ぜひ補足していただければ嬉しく思います。

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