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Q. アメリカ電動キックボード最大手のBirdが日本上陸。キックボードシェアって儲かるの?

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A. Birdの売上は右肩上がりで成長を続けている。
一方で、電動キックボードの管理コストが重く、利益が出る体質になる道のりは長い。

この記事はカネコシンジさんとの共同制作です。

電動キックボードに関するニュースを見かけることが増えました。最近では、日本発の電動キックボードシェアサービス「Luup」の大型資金調達についての記事を目にした方も多いのではないでしょうか。

Luupは今年(2021年)に入って急速にサービスエリアを拡大しており、東京都内の一部エリアに加えて、10月に横浜市・11月に京都市でサービスをスタートしています。

そして今年6月には、満を持してアメリカ最大手の電動キックボード企業のBird社が日本でサービスをローンチしました。

今回の記事では、注目を集める電動キックボードについて、アメリカで既に上場しているBirdの決算書と、Luupの公開資料をもとに深掘りします。


電動キックボードとは

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引用元:LUUP公式ホームページ

電動キックボードとは、ユーザーがスマートフォンにアプリをインストールすることで、街中のポートに停まっている電動キックボードを時間単位で借りることができるサービスです。

ユーザは必ずしも借りた場所にキックボードを返却する必要はなく、短距離の移動手段としてとても便利です。

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引用元:電動キックボード市場のご紹介

電動キックボードは特に海外でその注目度は高く、ここ2年で50億円以上の資金調達を行った会社が9社もあります。

また、冒頭紹介したBirdは、当時創業から世界最速でユニコーンになった企業でした。


電動キックボードが注目される理由

では、なぜこれほど電動キックボードが注目されるのでしょうか。それは交通に関する「ラストワンマイル問題」への有効な解決策として期待されているからです。

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引用元: Micromobility | Barclays Investment Bank

交通における「ラストワンマイル問題」とは、人の移動の大きな割合を占める短距離移動が未だに非効率なままであることを言います。

これまで、中長距離の移動は車や飛行機の発明、最近は自動運転などによって急速に進歩してきました。しかし、短距離移動は自転車の発明以降、大きな変化はありません。

Barclays Researchの調査結果によると、人々の移動距離の約60%は5マイル(約8km)以下の短距離移動であり、この領域にイノベーションが起きることで人々の移動が大きく変化することが期待されているのです。


アメリカの電動キックボード最大手、Bird

では、電動キックボードを事業として見た際はどうなのでしょうか。Birdの決算書を見ながら深堀りしていきましょう。

※ 直近四半期と前年同期の営業利益までの数値を、枠線でハイライトしています

Bird Announces Record Third Quarter 2021 Financial Results and Raises Full Year Financial Outlook

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まずは、損益計算書を見てみます。

2021 Q3 売上高
・総額 $65M(約65億円) (YoY +62.76%)
・シェアリング事業 $64M(約64億円) (YoY +90.68%)
・販売事業 $1.3M(約1.3億円) (YoY -79.13%)

Birdには電動キックボードのシェアリングと販売の2つの事業があります。

直近四半期の総売上は約$65M(約65億円)で、YoYで+62.76%と大きく伸びています。しかしこの数値は、昨年のコロナ禍の影響から回復した分も含まれると見たほうがよいでしょう。

また、シェアリング単体で見ると売上はYoYで+90.68%と、より高い成長率を誇っています。

一方で、気になるのは利益率の低さです。

2021 Q3
・売上総利益率 20.58%
・営業利益率 -40.62%

売上総利益率・営業利益率は共に低い水準です。

利益率の低さの大きな原因に、一般管理費(General & administrative)の高さがあります。その金額は、売上高の約50%、$30M(約30億円)に相当します。

おそらく、この数値の大きな割合を占めているのは、街に配置された電動キックボードの回収や充電などのオペレーションコストです。

街に配置されたキックボードは、置いたら終わりではなく定期的に充電やメンテナンスが必要です。

実際、筆者(カネコ)は3年ほど前にテキサス州でBirdを利用したことがあるのですが、夜になると大型トラックが街中のキックボードを山積みにして回収し、早朝に充電された状態で配置する様子を何度も目にしました。


管理コスト削減の施策

Birdはこのような管理コストの高さを解決するために、ユニークな施策を行っています。それが、「フリートマネージャー」プログラムです。

Bird Investor Presentation November 2021

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「フリートマネージャー」とは、簡単に言うと、Birdから委託されて各地域の電動キックボードの管理を代行する人のことです。

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この施策を開始した結果、昨年はコロナ禍にも関わらずBirdのユニットエコノミクス(乗車1回あたりの収益性)はむしろ改善しました。

ライドシェア売上 $10あたりの収益(減価償却後)
・2019 Q4 : -$9.66
・2020 上半期 : $1.40

おそらくBirdは今後も「フリートマネージャー」を自社の管理オペレーションとうまく使い分けながら、収益性を改善していくと思われます。


Birdの利用者は1回の利用でいくら支払っているのか?

続いて、各種KPIを分析してみましょう。

Bird Announces Record Third Quarter 2021 Financial Results and Raises Full Year Financial Outlook

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※ 直近四半期の数値と、その前年同期比の数値を枠でハイライトしています

売上とほぼ比例する形で、各種KPIも順調に伸びています。

2021 Q3
・シェアキックボード利用回数
15.1億回 (YoY+101%)

・キックボード1台あたりの1日の利用回数
2.1回(YoY+31%)

総利用回数だけでなく、キックボード1台あたりの利用回数も大きく改善しています。

これらの数字をもとに、1回あたりの利用単価を求めてみます。

シェアリング事業売上高 ÷ 利用回数
= $6.4B(約6,400億円) ÷ 15.1億回
= $4.24/回

ユーザの1回利用あたりの単価は$4.24です。

Birdの料金体系は初乗り料金 + 時間ごとの従量課金で、都市によって料金は異なりますが、$4.24はおよそ15分の乗車料金に相当します。

まさに、「ラストワンマイル」の移動に使われていると言って良いでしょう。


ドコモ・バイクシェアとの比較

最後に、日本の電動自転車シェアサービス大手のドコモ・バイクシェアとの、直近四半期の数値を比較してみましょう。

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ドコモ・バイクシェアは非上場であるため、決算公告を始めとした公開資料の数値をもとに、100円=$1で概算して比較しています。

まず、売上はBirdとドコモ・バイクシェアで約10倍の開きがあります。また注目すべきKPIは1回あたりの利用単価の差で、ドコモ・バイクシェアはBirdの約3分の1です。

Birdがこの価格帯でも業績を伸ばしていることを考えると、ドコモ・バイクシェアにも値上げの余地は残されているかもしれません。

一方で、ドコモ・バイクシェアはわずかながら営業利益で黒字を出しています。

公開されている情報が少ないので想像するしかありませんが、世界屈指の人口密度である東京を中心に展開しているのでオペレーションが効率的であること、電動自転車はコモディティ化されているので電動キックボードほど調達コストがかからないこと、などの理由が考えられます。


まとめ

今回の記事では、電動キックボード市場について、Birdの決算書を中心に見てきました。

まとめると以下のようになります。

・電動キックボードは、人の短距離移動にイノベーションを起こす可能性があるとして、注目が集まっている。

・アメリカ電動キックボード最大手のBirdは、コロナ禍の影響からの回復もあって売上が急成長。今年日本でもサービスをローンチした。

・一方で、電動キックボードの管理コストは非常に大きく、Birdが利益が出すのは遠い。その対策として「フリートマネージャー」プログラムを開始し、地域住民にキックボードの管理を委託している。

・Birdの1回あたりの平均利用単価は$4.2(約420円)/回

・Birdの四半期売上はドコモ・バイクシェアの約10倍、1回あたりの利用単価は約3倍。

人の移動が徐々に戻りつつある昨今、新しい移動手段としての電動キックボードは今後も関心を集めていくと思われます。

一方で、日本での普及には課題が多いのも事実です。特に大きな課題は国や法規制です。

現在日本で走行できる電動キックボードはあくまで「原動機付自転車」という位置づけであり、利用には運転免許が必要です。

また、ヘルメットなしでの走行も「実証実験」として認められているにすぎません。

一方でアメリカでは州によってルールが異なりますが、免許無しで利用できる場合が多く、歩道を走行も可能です。

他にも、アメリカはキックボードを返却する場所に制限はなく、サービスエリア内であればどこで乗り捨てても良いのに対し、日本では各事業者が管理するポートに返却しなければなりません。

日本の電動キックボードが海外と同じくらい便利に使えるようになるには、越えるべき課題がいくつかあります。

これらを乗り越えて、電動キックボードが日本で普及し、人々の移動にイノベーションを起こすのか、引き続き注目していきたいと思います。


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