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Q. NTTの決算から見えてくるドコモの3つの顧客層と戦略とは?

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A. ドコモの3つの顧客層とそれぞれの顧客層に対する戦略は以下の通り。
1: 5Gと大容量データ嗜好するユーザー → 5Gへのインフラ投資を強化
2: 高コスパを求めるユーザー → DXを徹底し、コスト管理と顧客満足度を強化
3: 低価格にこだわるユーザー → MVNOとの連携・dポイントへの誘導

今日の記事では、NTTグループの2020年度連結決算(2020年4月-2021年3月)をNTTドコモ(以下、ドコモ)の決算を中心に見ていきたいと思います。

NTT 2020年度決算、2021年度業績予想について (2021年5月12日)

NTTドコモ 2020年度 決算について(2021年5月12日)

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初めに、NTTグループ全体の2020年度の通期決算を見ていきましょう。通期の営業収益は、11兆9,940億円でYoY+0.4%でした。

通期営業利益は、1兆6,714億円でYoY+7.0%となっています。

YoY(読み:ワイオーワイ。year-over-yearの頭文字:前年比のこと)

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NTTグループの事業毎の内訳を見てみると、営業収益の成長に最も寄与したのは「地域通信事業」でYoY+1,275億円と大きく伸びています。

営業利益の増加に最も貢献したのは、「移動通信事業」でYoY+586億円でした。

NTTグループの稼ぎ頭は、ドコモを中心とする「移動通信事業」であることは以前と変わりませんので、今回もドコモの決算を詳しく見ていきたいと思います。

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上図はドコモの2020年度の決算概況です。通期営業収益は、YoY+1.6%の4.7兆円、営業利益はYoY+6.9%の9,132億円となっています。

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上図のドコモのセグメント別の実績を見ると、通信事業はほぼフラットであるのに対し、スマートライフ領域で営業収益、営業利益ともに成長しているのが特徴的です。

これらのトレンドは近年大きく変わりませんが、今回の決算ではドコモの主要な戦略である「料金プラン」と「顧客層の住み分け」が、かなり明確になってきたので、それらを詳しく見ていきたいと思います。

今回の決算の中で最も目を引いたのは、「顧客基盤が明確に3層に分かれている」という点でした。以下では、ドコモがどのように顧客をセグメントしているのか?

そして、それぞれの顧客層に対してどのような戦略を適用しようとしているのかを詳しく見ていきたいと思います。


明らかになったドコモの3つの顧客セグメント

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今回のドコモの決算で押さえておくべきスライドを一枚だけ選ぶとしたら、このスライドになるのではないでしょうか?

図の左側にある通り、ドコモはお客層を「プレミア」、「ニュー」、「エコノミー」という3つに区分して定義しています。それぞれの顧客層を詳しく見ていきましょう。


顧客セグメント#1: 5Gと大容量データ嗜好するユーザー

一つ目の顧客層は「プレミア」と呼ばれる顧客層で、大容量データをフルサービスで希望するユーザーです。

「プレミア」は、従来からドコモが強い顧客層であるかとは思いますが、すでに5Gの契約者数が309万人を超えるなど、大容量時代にいち早く適用しているユーザーがこちらのセグメントになります。

2021年度においては、「5Gの契約者数を1,000万人まで増やす」という目標が掲げられています。

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2021年の3月末時点で7,100局設置されている5Gの基地局数を、2021年度の夏までには人口カバー率55%に相当する2万局まで増やすという計画も発表されています。

「大量のデータを利用したいユーザーのために効率的なインフラ投資を通じて、より快適な高速ネットワークを提供する」というのが、この顧客層に対する戦略です。

この戦略に関しては、これまでのドコモの長い歴史のノウハウがそのまま活かされると思います。3Gから4G、そしてLTEにインフラを移行したように、5Gへの移行もドコモが先陣を切って行うのではないでしょうか?


顧客セグメント#2: 高コスパを求めるユーザー

二つ目の顧客セグメントは「ニュー」と呼ばれる、いわゆる中容量のデータをコストパフォーマンス高く利用したいと考えているユーザーです。3月26日にドコモが提供を開始した「ahamo」のユーザーがまさにこの層に合致すると言えるでしょう。

ahamoは、3月26日にリリースしてから4月30日までの間に100万契約を突破したと発表されており、非常に早いペースで顧客獲得が進んでいるといえます。

前出のスライドにあったように、ahamoの契約者は、50%以上が30代以下の若い層となっています。決算発表の中に「過去にドコモから離脱したユーザーがahamoで復帰するケースも多い」というコメントがありました。キャリアチェンジしたものの、ahamoの料金であればドコモに戻ってきても良いと考えるユーザーもそれなりに存在するので、ahamoは顧客維持に貢献していると言えるのではないでしょうか。

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Ahamoは非常に合理的なDXが行われています。このスライドにある通り、ahamoはなるべくデジタルチャンネル、つまり店舗や対面ではなく、オンラインでの申し込みやサポートを推奨しています。ahamoプランをドコモショップで申し込みしようとすると、一回3,300円を支払わなくてはいけないということが発表されています。

逆に言えばオンラインで申し込めば手数料は無料です。ドコモショップなど店舗のリソースを利用する場合は有償にするという非常に分かりやすく、透明性の高いプランになっています。

高齢者の方やネットリテラシーが高くない方は、3,300円を払って店舗でサポート受けたいと思う方もいるでしょうし、オンラインでの申し込みで十分だという方は、3,300円を節約できる仕組みなのですが、これはまさに「ドコモ流のDX」だと言えるのではないでしょうか。

楽天モバイルとの競争が最も激しくなるのはこの「ニュー」に相当する顧客層であると考えられますし、ソフトバンク、KDDIもahamoに対抗するプランを出していますので、まさにこの顧客層の獲得が、今後モバイルのキャリア同士で最も熾烈な争いになると予想されます。


顧客セグメント#3: 低価格にこだわるユーザー

Ahamoを発表した際に、一部で「MVNOはどうするんだ?」という声が聞かれましたが、今回ドコモにとってはニッチな顧客層である「エコノミー」と呼ばれる低価格にこだわる顧客層に関しては、MVNOを通じたサービス提供を検討している、ということが明確に発表されました。

現在まだプランの詳細は発表されていませんが、MVNOのサービスを利用してもらうだけではなく、それらのユーザーにdポイントの会員になってもらえるような仕組みを準備しているという説明がありました。

つまりドコモからすると、携帯回線はMVNO経由でも、dポイントを通じてドコモとの接点「も」、持ちやすくなるという点が強調されていたのが特徴的でした。

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このスライドにある通り、データ活用を積極化すると言う発表もありました。「エコノミー」セグメントのユーザーは、通話・データ共に低価格であることを非常に重要視するため、通話やデータ通信からの利益はあまり期待しにくいわけですが、低価格ユーザーを他社に渡すのではなく、通話・データはMVNOに任せるものの、dポイントを中心にしたスマートライフ領域で顧客接点を維持して、そちらでマネタイズしていくという戦略は非常に理にかなっていますし、とても新鮮に感じました.

ここに関しては MVNOを最も積極的に展開してきた、あるいは展開して来ざるを得なかったドコモだからこそできる戦略であり、楽天を含めた他のキャリアに対しても十分競争優位性がある戦略ではないかと個人的には思います。


3つの顧客セグメントに共通する戦略

さて、ここまでドコモが定義する3つの顧客セグメントとそれぞれに対応する戦略を書いてきましたが、実はこの3つの顧客セグメントに共通する戦略があります。

それは、dカードを起点にした主にフィンテック領域でマネタイズする戦略です。

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このグラフの通り、dカード・d払いの取扱高は2年間で倍近く、2020年度には7兆円を超える、とても早いペースで成長しています。

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dポイントカードの2020年度の登録数はYoY+17%で5,000万枚を超えています。dポイントの「利用ポイント数」は、YoY+25%で約2,500億ポイントと、dポイントクラブ会員数のYoY+9%の増加に対して圧倒的に早く成長しています。dポイントは、ドコモの中で最も成長しているサービスの一つだと言えるでしょう。

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dポイントだけでなく、dカードも大きく成長しています。dカードの取扱高はYoY+27%の5兆2,500億円、d払いの取扱高はYoY2倍以上の8,100億円となっています。

決算発表の中で、「特にahamoのユーザーはまだクレジットカードを持っていない若いユーザーも多いため、それらのユーザーが初めて作るクレジットカードが、dカードになっていくように積極的にマーケティングを仕掛けていきたい」という説明がありました。

また、毎月の利用料金をdカードで支払いすると、月間容量20GBが25GBに増量される特典を付けるという話もありました。ドコモとしてはユーザーを積極的にフィンテックに誘導して、マネタイズしていきたいという意図が明確になりつつあります。

決算発表の中で何度も強調されていたのが、ドコモは「会員モデル」をしっかり作っていきたいという話でした。携帯回線だけではなく、ドコモのポイントやクレジットカードのサービスを利用してもらうことで顧客接点が増え、中長期にわたってドコモとの関係性を維持してくれる「会員」になってもらうことを目指しているということです。


まとめ

今回の決算では、ドコモの3つの顧客層とそれぞれに対応する戦略が具体的に見えてきました。

一つ目の顧客層「プレミア」は、大容量のデータ通信をフルサービスで利用したいという、従来からドコモが得意とする顧客層です。「プレミア」に対しては、5Gへの投資(特に基地局の設置)を他社に先駆けて行うことで高品質なサービスを提供していくというのが主な戦略になるでしょう。

二つ目の顧客層「ニュー」は、ahamoを選択する中容量のデータとコスパの高さを求める顧客層です。「ニュー」に対しては、徹底的なDXを行いコストを管理することで、低料金で無駄がないプランを提供していくことが戦略になるでしょう。楽天モバイルや他のキャリアとの競争が激化するのもこの「ニュー」と呼ばれる顧客層です。

今回新しく発表されたのは、三つ目の顧客層「エコノミー」に対する戦略です。この顧客層は価格を重視するため、ドコモは従来のMVNOとの取引関係を積極的に活用し、サービスそのものはMVNOに提供してもらいつつ、ユーザーにdポイント会員になってもらうことを条件とする提携を模索しているようです。低価格のため、通話やデータからのマネタイズは難しいので、dポイントを中心としたスマートライフ領域でのマネタイズを狙う戦略でしょう。

これらの3つの顧客層に向けて共通している戦略は、「dポイントやdカードを通じたフィンテック領域での顧客接点の増加とマネタイズ」という点です。

個人的には、楽天がフィンテックから携帯キャリアビジネスに参入しているのに対し、ドコモは逆に携帯キャリアビジネスからフィンテックビジネスに参入しようとしているのが、非常に対照的で面白いと感じました。

今後ドコモの3つの顧客セグメントにおける顧客の獲得がどのように進んでいくのか?そしてドコモのフィンテックビジネスがどの程度大きくなっていくのか?という点に注目していきたいと思います。

記事提供「日興フロッギー」


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