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Q. Facebookが提唱した暗号通貨Libra、脱退企業が相次ぐのはなぜ?

A. 米国議会からの強力な圧力によって、加盟企業が脱退。

今日の記事では、先日Facebookが発表したLibraと呼ばれる暗号通貨が、立ち上げ前の時点で既に暗礁に乗り上げているので、その話題を取り上げていきたいと思います。

リブラ崩壊危機——脱退組にビザ、マスターカード、イーベイ、ストライプ、メルカドパゴ、ペイパル

マスターカード(Mastercard)、ビザ(Visa)、電子オークションを手掛けるイーベイ(eBay)、決済サービスを提供するストライプ(Stripe)、そしてメルカドパゴ(Mercado Pago)は、フェイスブック(Facebook)の主導するリブラ協会から脱退した。

この記事にある通り、当初Libraへの加盟を表明していたビザやマスターカード、eBay、ストライプなどの企業が、相次いでLibra協会から脱退することを発表しました。

Libraそのものはまだリリースもされていないわけですが、このタイミングで一体なぜ大量離脱が発生してしまったのか、というのを詳しく見ていきたいと思います。


Libra加盟企業への米国議会からの「脅し」レター

事の発端は、米国議会からLibra加盟企業への脅しのレターが送付されたことに起因します。

Stripe社への米国議会からのレター

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We write to share our deep concerns about Facebook’s Libra crypto-currency project and the formation of the Libra Association. We are concerned because key questions remain unanswered about the risks the project poses to consumers, regulated financial institutions, and the global financial system.

かなり強い口調で、Libra協会に加入していることを問題視するレターが、米国議会からLibra加盟企業に送付されました。

最大の懸念点として、コンシューマーへのリスクが大きく、リスクを回避する解決策が一切提示されていない、と書かれています。

We urge you to carefully consider how your companies will manage these risks before proceeding, given that Facebook has not yet demonstrated to Congress, financial regulators—and perhaps not even to your companies—that it is taking these risks seriously.

Facebookは米国議会に対してLibraの金融システムとしての安全性を説明していないため、Libra協会の加盟企業はその点を真剣に考慮するように、という点も、かなり強い口調で警告がなされています。


マーク・ザッカーバーグCEOが米議会で証言する展開へ...

フェイスブックCEO、リブラをめぐり米議会で証言へ

ソーシャルメディア大手のフェイスブック(Facebook)のCEO、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏は2019年10月、米議会の前で仮想通貨プロジェクト「リブラ(Libra)」を弁護することになる。

これに連動してFacebookのCEOであるマークザッカーバーグ氏が、米国議会での証言を求められ証言するというニュースも出てきました。

米国議会としては、法定通貨を驚かす可能性があるLibraという暗号通貨が、米国の金融レギュレーションに合致しているかどうかをきちんと検証する必要がある、と強く考えており、そのためにマークザッカーバーグ氏に米国議会での説明を強く求めた、というのが事実です。


米国議会が指摘しているFacebookの脆さ

米下院金融サービス委員会からFacebookへのレター

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Facebookに対しても米国議会からレターが送付されており、最初の段落にある通り、スイスを拠点とするLibra協会は、アメリカの金融政策や法定通貨であるドルを驚かす可能性があるため、そしてFacebookの20億人という巨大なユーザーに対して提供されるものであるため、という点が懸念されています。

以下ではこのレターと、上で掲載したLibra協会の加盟企業に送られたレターから、米国議会が一体どのような点をリスクと捉えているのかというのを整理していきたいと思います。


その1: Facebookはリスク管理が全く出来ていない企業である

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You should be concerned that any weaknesses in Facebook’s risk management systems will become weaknesses in your systems that you may not effectively mitigate…If you take this on, you can expect a high level of scrutiny from regulators, not only on Libra-related payment activities, but on all payment activities.

一つ目ですが 、Facebookはリスクマネージメントが全くできていないという点が指摘されています。

以下で詳細が出てきますが、米国議会から見ると、Facebookというのは非常に危なっかしい企業だと今でも思われているということが読み取れます。


その2: Facebookメッセンジャー上でのポルノ画像・動画の管理もできない会社が金融サービスなんて出来ない

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These risks are not hypothetical. The New York Times recently reported a proliferation of online child sexual abuse, due in large part to tech platforms like Facebook. In fact, 12 million of the 18.4 million reports of child sexual abuse photos and videos around the world last year were attributed to Facebook Messenger. It is chilling to think what could happen if Facebook combines encrypted messaging with embedded anonymous global payments via Libra. Your companies should be extremely cautious about moving ahead with a project that will foreseeably fuel the growth in global criminal activity.

Facebookのリスクマネージメントが全くなっていないことの一つの例として、アメリカでは子供の性的に問題がある写真や動画の問題報告は去年1年間で1,840万件ありましたが、そのうち1,200万件が、Facebookメッセンジャーに起因する問題だと書かれています。

ポルノ画像の管理もできない会社が、金融システムを管理出来るはずがない、というのが米国議会の論調です。


その3: Facebookは2016年の大統領選挙に関連する不正疑惑でFTCに$5Bもの罰金を支払うような問題企業である

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These risks are even more glaring in light of Facebook’s troubled past, where it did not always keep its users’ information safe. For example, Cambridge Analytica, a political consulting firm hired by the 2016 Trump campaign, had access to more than 50 million Facebook users’ private data which it used to influence voting behavior. As a result, Facebook expects to pay fines up to $5 billion to the Federal Trade Commission (FTC), and remains under a consent order from FTC for deceiving consumers and failing to keep consumer data private.

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、2016年の大統領選挙に際して、Facebook上で展開された広告キャンペーンが、不正にユーザーの個人情報を用いていたという点に関して、Facebookは$5B(約5,000億円)の懲罰金を FTCに支払っていました。

この事例をもって、Facebookは個人情報の管理が十分にできていない企業であり、金融システムを管理できる会社ではないとしています。


その4: Facebookは、2019年1-3月の間だけで22億もの偽アカウントを削除するほどテロリストなどの攻撃に弱い

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In the first quarter of 2019 alone, Facebook has also removed more than 2.2 billion fake accounts, including those displaying terrorist propaganda and hate speech. It has also recently been sued by both civil rights groups as well as the U.S. Department of Housing and Urban Development for violating fair housing laws on its advertising platform and through its ad delivery algorithms.

さらにFacebookは、2019年の3ヶ月間だけで22億ユーザーの偽アカウントを削除する必要があったほど、脆いシステムだと書かれています。

これの意味するところは、テロリストなどの攻撃に非常に弱いということで、テロリストなど悪意を持った人が Facebook上で広告を掲載する事などが可能な点が問題視されています。


その5: Facebookは(金融サービスで失敗するには)大きすぎる

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Because Facebook is already in the hands of a over quarter of the world’s population, it is imperative that Facebook and its partners immediately cease implementation plans until regulators and Congress have an opportunity to examine these issues and take action. During this moratorium, we intend to hold public hearings on the risks and benefits of cryptocurrency-based activities and explore legislative solutions. Failure to cease implementation before we can do so, risks a new Swiss-based financial system that is too big to fail.

最後にFacebookは、失敗するには大きすぎるという点が指摘されています(Too big to fail)。

Facebookのユーザーは全世界人口の1/3を超えるわけですが、そんな巨大なプラットフォーム上でリスクのある金融システムを、それも、アメリカの法定通貨であるドルと競合するような暗号通貨を展開されてしまった場合、万が一何か問題が起こってからでは、対応が間に合わないいうリスクが強く指摘されています。


まとめ

個人的には、Facebookが本当に米国議会に嫌われていることがよくわかる内容のレターが出てしまったなという印象です。

ネット企業は、一般的にフットワークが軽く迅速に動けるため、イノベーションが加速しやすいわけですが、ネット起業のフットワークの軽さを否定するだけではなく、そこに潜在するリスクの大きさを指摘しているのが、米国議会からのレターだと言えるでしょう。

トランプ政権との相性の悪さもありますが、金融サービスという、ある意味インフラを扱う企業として、Facebookがまだ不十分であるという点は一理あるのかもしれません。

日本でも、暗号通貨の数々の流出事件以降、金融庁が相当厳しく規制をし始めているというのは事実かもしれませんが、このアメリカの議会の論調を見ると、日本よりももしかすると強い姿勢で、暗号通貨を規制しに行っているようにも見えます。

このニュースだけを見ると、Libraプロジェクトは相当暗礁に乗り上げているように見えますが、今後FacebookやLibraがどのような打ち手を出してくるのかを、見守っていきたいと思います。


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