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Q. 楽天モバイルが「0円プラン」廃止、1,350億円の損失はどこまで改善される?

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A. ユーザー離脱が起きないと仮定すると138億円の売上が生まれる。現実的には、75%が離脱したとしても30億円以上の売上が見込まれると推測でき、収益改善インパクトは大きい。

この記事はMihoさんとの共同制作です。

楽天モバイルは2022年5月13日に、契約者数の拡大に大きく寄与していた「0円プラン」を廃止すると発表しました。

2019年10月に携帯キャリア市場に新規参入した楽天モバイルは、競合他社と比較して安いプランを打ち出していましたが、その後、政府主導で3大キャリアをはじめとする携帯各社へ料金引き下げ要請がなされました。

三大キャリアはサブブランドの料金を引き下げ、2021年にはメインブランドでも料金を引き下げました。そこで楽天モバイルが発表したのが、1か月のデータ通信量が1GB以下であれば0円というプランです。これは2021年開始当時には大きな話題を呼びました。

しかし先日、開始から1年で、0円プランを廃止するという発表がなされ大きな波紋を呼んでいます。この記事では、楽天モバイルが0円プランの廃止に至った背景、それによる業績インパクトなどを考察します。


楽天モバイルの「0円プラン」廃止を発表

まずは楽天モバイルの現行プランと、今回発表された新プランを簡単に紹介します。

現行プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」​​は、1か月のデータ通信量が1GBまでであれば0円で、1GB以上の場合はデータ使用量に応じて3段階の課金があり、最大3,278円でした。

新プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」は、1か月のデータ通信量が1GB未満の場合でも、通信量が1~3GBのユーザーと同様に月額1,078円となります。

この料金変更は2022年7月1日から予定されており、既存ユーザーも新プランに自動的にアップデートされます。そのため、ユーザーからは「裏切られた」という声も多くあがっています。

楽天モバイルは契約者に対して無料で国内通話ができる「Rakuten Link」を提供しています。つまり、wifiを使用するなどでスマホのデータ通信量を1GB以下にすれば、基本料金0円に加えて、無料で国内通話することもできていました。

またデュアルSIM対応のスマホであれば、楽天モバイルをサブ回線として契約しておくことで、0円で楽天市場での買い物時のポイントアップするなど、楽天グループの他サービスのメリットを享受することができていました。

そういった背景もあり、ユーザーからの反響は大きなものでした。


なぜ楽天モバイルは「0円プラン」を廃止するのか?

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2021年に開始したばかりにも関わらず、一体なぜ楽天モバイルは「0円プラン」を廃止するのでしょうか。

上図は楽天モバイルの四半期売上と営業損失の推移です。売上は右肩上がりに伸びているものの、営業損失がそれ以上に拡大しており、FY2022 Q1(2022年1月-3月)の営業損失は1,350億円にまで膨らんでいることがわかります。

三木谷社長は今回の0円プランの廃止、つまり新プランへの自動移行について、電気通信事業法に抵触する可能性があり、0円プランを既存ユーザーへ提供できなかったと説明しています。

一般的に携帯事業者が新プランを導入する際は、新規契約については新プランとなるケースが殆どで自動移行は珍しいです。実際にはこのままでは事業としての継続が難しく、今回の変更に踏み切ったと思われます。

楽天モバイルは2019年に携帯事業に参入以降、基地局整備に予想以上の時間を要してしまい、KDDIとのローミングで通信を担保していました。しかしユーザー数の増加とともに、その費用が莫大になり、2021年10月からローミングエリアを縮小して収益改善をはかっています。

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FY2022 Q1(2022年1月-3月)の楽天全体の売上が4,371億円、コア事業の営業利益が423億円、全体の営業利益は楽天モバイルの1,350億円の損失の影響で、983億円の赤字となっています。全体から見ても、楽天モバイルの損失額はあまりに影響が大きく、対策を打つ必要がありました。


「0円プラン」の利用割合を推定

1か月のデータ通信量を1GBに抑えているユーザーはどの程度いるのでしょうか。

楽天モバイル売上(FY2022 Q1): 804億円
楽天モバイル契約数(2022年2月時点): 550万件

上記のデータを参考にすると、ARPUは 804億円 ÷ 3ヶ月 ÷ 550万件 = 487円 となります。

有料プラン利用ユーザーのARPUを3つのプランのうち中間の2,178円と仮定し、有料プランの利用ユーザー率をX%とすると、0円プランの利用ユーザー率は 1 - X% となります。

2,178円 * X + 0円 * (1 - X) = 487 という方程式を解くと、有料プランの利用率は22.4%、0円プランのユーザー率は77.6%です。

仮定からの算出ではありますが、0円プランのユーザー割合が4分の3を占めていると推測されます。


「0円プラン」廃止による売上増をシミュレーション

0円プランを廃止してもユーザーは離脱せず、新プランに全ユーザー移行すると、550万件 * 77.6% * 1,078円 = 46億円となり、月次で46億円の売上貢献があります。

四半期では138億円の売上貢献となります。それでも現在の1,350億円の営業損失を補うことはできず、基地局整備などのコストが抑えられない限り、赤字構造は続きそうです。


現実的なシミュレーション

0円プランの利用ユーザーが離脱しないという仮定は現実的ではありません。実際に楽天モバイルが0円プランの廃止を発表すると、競合他社はSNS等で自社PRを加速させています。

KDDIの格安スマホプラン「povo」は、基本料金0円で利用できるプランへの申し込みが急増し、本人確認に時間を要する旨のプレスリリースを出すほどです。その後、メディアの取材に対して、高橋誠社長は申込数が以前と比べて2.5倍に増えた​と答えています。

前項で推定した楽天モバイルの0円プランユーザーの解約率を25%、50%、75%のそれぞれのパターンで売上に対するインパクトを算出してみます。

●25%離脱の場合
550万 * 77.6% * (1-25%) * 1,078円
= 34.5億円

四半期あたり売上: 103.5億円増加
●50%離脱の場合
550万 * 77.6% * (1-50%) * 1,078円
= 23.0億円

四半期あたり売上: 69.0億円増加
●75%離脱の場合
550万 * 77.6% * (1-75%) * 1,078円
= 11.5億円

四半期あたり売上: 34.5億円増加

結果は上記のようになります。

0円プランユーザーの75%が解約しても、四半期で34.5億円の売上貢献があります。

一般論としては、価格優位性を強みとしたビジネスは価格競争に巻き込まれます。今回、楽天モバイルの最低料金が1,078円に引き上げられたことで、最低料金0円のpovoの申込件数が急増していることからも、楽天モバイルが価格競争に巻き込まれていることは明白です。

しかし、楽天は楽天経済圏が大きく、楽天の他サービスも利用しているユーザーにとっては、1,078円であれば継続するという合理性もあり得るでしょう。いかに解約を防止しつつ、新プランでのユーザー獲得を進められるかが重要です。


楽天モバイルと楽天経済圏のシナジー

前述の通り、楽天モバイルは楽天経済圏のシナジーにより、解約防止・新規契約増を図っていく必要があります。

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最も大きいのは、楽天モバイル契約者が楽天市場で買い物を行うと付与される楽天ポイントアップです。現在、買い物時に+1倍のポイント付与がありますが、2022年6月から楽天モバイルユーザーにさらにポイントが加算されるため、楽天カードを毎月買い物に5万円程度利用する会員であれば、3G以下の利用料はポイントで相殺できる計算になります。


補足: 0円プランとは別に無料期間のユーザーにも課金開始

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楽天モバイルは1GB以上のデータ通信を行なっても一定期間は無料となるキャンペーンを実施していました。前述の試算ではシンプルにするために考慮しませんでしたが、これらのユーザーが有料化した際に、1か月のデータ通信量が3GBまでの1,078円以上使う可能性もあるため、実際の売上はさらに上振れする可能性があります。


まとめ

今日の記事では、楽天モバイルの0円プランの廃止についての影響を考察しました。0円プラン廃止発表時に、三木谷社長は下記のように答えています。

「(0円プランの廃止は)ユーザー1人当たりの売上金額が上がるという意味で(収益への貢献は)相当あると考えていただければと思います。(中略)いいサービスを提供するという意味では、適切な価格で提供していくというのは妥当な話であり、非常に競争力のあるサービスなので、加入についてもそんなにスローダウンしないのかなと考えています」(三木谷社長)

楽天モバイルの新プランへの移行は、7月1日となっています。そのため、FY2022 Q3(2022年7月-9月)の決算で契約数や売上がどのように変化するかに注目です。

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