見出し画像

ヤマト運輸、アマゾン配送問題を解決するための2つの選択肢

ヤマト運輸が、主にアマゾンなどからの配送に対応できずに苦しんでいる、というニュースがありました。

既に色々な報道がなされていますが、少し数字の面で整理してみたいと思います。

アマゾンはヤマト運輸の値上げを断れない --- 宮寺 達也」によると、以下の数字は抑えておく必要があるでしょう。

■宅配便市場
・日本の宅配便は年間37億個(2015年)
・ヤマト運輸が17億個、佐川急便が12億個
■アマゾンの宅配便
・アマゾンの宅配便は推定2.5億個(日本の宅配便の6.7%)
■宅配便の単価
・個人向け宅配便は、平均的な段ボールサイズ(80cm)で関東-関西間が980円
・アマゾンの宅配便は推計1個200円程度

日本の宅配便全体の6.7%ものシェアを持つアマゾン に対して、定価の約1/5の値段でサービスを提供しているわけですから、当然苦しくなるに決まっています。


ヤマト運輸がアマゾンとの取引をした背景(推測)

ちなみに以前は、アマゾンの宅配便は佐川急便が取り扱っていました。2015年時点で、ヤマト運輸と佐川急便の取り扱い数の差分は年間あたり約5億個です。アマゾンの2.5億個が佐川急便に取り戻されると、ヤマト運輸と佐川急便の市場シェアがほぼ同じになるという、非常にデリケートな競争環境であるということも事実です。

従ってヤマト運輸としては、「佐川急便に市場シェアナンバーワンを奪われるくらいなら、少しぐらいの赤字を覚悟してでも、アマゾンとの取引を継続した方がいい」という判断をした可能性が十分考えられます。

しかし現時点では、その無理な取引のせいもあり、非常に苦しい状況にあると言えるでしょう。


ヤマト運輸の売上・営業利益率

ヤマト運輸の直近2016年4月〜12月の9ヶ月間の決算を見てみます。

デリバリー事業の売上が8,872億円、営業利益率は5.2%となっています。

[2]

一方で、アマゾンの取り扱いを始める前の3年前、2014年4月〜12月の決算を見ると、デリバリー事業の売上が8,451億円、営業利益率は5.7%でした。

デリバリー事業の売上が約400億円増えていますが、これは仮に2.5億個の荷物を200円で宅配すると、約500億円の売り上げになりますので、アマゾンとの取引による売上増の貢献が大きいと考えられます。

一方で、営業利益率は5.7%から5.2%と下がっているのも事実です。営業利益率だけではなく、営業利益の絶対額も、596億円から580億円へと下がっています。

この数字だけでは、アマゾンとの取引によって営業利益率が下がったのか、ということはわかりませんが、いずれにしてもヤマト運輸としてはあまり好ましい状況ではありません。


同じECでも楽天・ヤフー・メルカリとの取引があまり問題にならない理由

個人的にアマゾンが嫌いなわけではないのですが、今回の一連の話の根本的な問題は、「アマゾンの取引に対する割引率約80%」というのが大きすぎることが原因と考えられます。

ちなみに日本のEC化率はまだまだ低く、これからEC市場全体が拡大していく、というトレンドにあるのは間違いありません。そしてマーケットが大きくなるわけですから、これ自体は宅配便業界にとっては好ましい事であるのも間違いありません。

同じEC業界でも、楽天・ヤフー・メルカリなどの出品者からの配送は、問題にならないのでしょうか。

かなり高い確率で、楽天・ヤフー・メルカリなどの出品者からの配送は問題になりません。というのは、楽天・ヤフー・メルカリなどの出品者は、個別にヤマト運輸や佐川急便と取引をしており、取引量に応じて多少のディスカウントはあるかもしれませんが、アマゾンのように80%ディスカウントされることはおそらくないからです。

彼らのうちの多くは、定価に近い価格で宅配便を利用して商品を発送している為、ヤマト運輸から見れば「上顧客」だと言えるでしょう。

ここでは、一連の問題を解決するために、ヤマト運輸にどういったオプションがあるのかを、2つ提示してみたいと思います。


オプション1: 値上げする

単純に考えると、最初のオプションはアマゾン対して値上げをするというオプションです。

アマゾンの取扱量とこれまでの経緯を考えると、アマゾンよりもヤマト運輸側に有利な交渉に見えます。というのは、アマゾンほどの規模の宅配便を扱える業者は、ヤマト運輸か佐川急便しかおらず、過去に佐川との取引は破談になっているからです。

一般的な感覚からしても、あるユーザーに対しては100円で提供しているものを、別のユーザーには20円で提供する、というのはあまり好ましくない気がします。ましてや非常に労働集約的なサービスであるわけですから、これだけの価格差をつけるというのは、定価で宅配便を利用しているユーザーにとってもアンフェアな条件だといえるでしょう。

今の構造が続く限り、定価で宅配便を利用しているユーザーが、アマゾンユーザーの分の配送料も負担している、という形になっていますので、もう少し健全な割引率に戻す努力はして然るべきだと考えられます。


オプション2: 「再配達なし」価格を提示する

本件でもう一つ問題になっているのが、再配達のコストの問題です。特に都心部のマンションなどで、宅配ボックスが設置されていない、あるいは既にいっぱいになっているケースでは、宅配業者が再配達をせざるを得ず、そのコストがどんどん膨らんでいます。

これに関しては色々なアイディアが既に議論されているかと思いますが、一番現実的なのは、アマゾンなどの大口顧客に対しては、「再配達なし」の価格と「再配達あり」の価格の2種類を提示して、宅配ごとにアマゾンにどちらかを選ばせることだと思います。

例えば再配達なしの宅配便は300円、(受取人不在の場合に)再配達ありの宅配便は500円という具合に値段を分けるという話です。

アメリカのアマゾンでは、購入した商品の値段や宅配先の治安によって、受取人が不在であっても荷物を玄関やアパートの入り口に置いていくということが行われています。 非常に稀に、パッケージが紛失した場合、アマゾンプライムの会員であればかなり高い確率でアマゾンが再度配送してくれます。

例えばアマゾンで200円のノートを購入したとしましょう。このノートを宅配するのに何度も再配達するよりは、盗難に遭うリスクを負ってでも玄関の前にノートを置いていき、もし盗まれた場合にはアマゾンが同じ商品をもう一度送る、とする方が、経済的には合理的なわけです。

そして、こうしたデータが蓄積されていけば、パッケージが盗難に遭いやすい場所や建物が特定できます。そのデータを使ってより損失が小くなるように、アマゾンが宅配サービスを自動的に選択するようにすればいいだけの話です。

逆に、例えばアマゾンで5万円のカメラを購入した場合、こういった商品はデフォルトで「再配達あり」で配送すべきでしょう。

全商品、全地域一律にデフォルトで再配達ありというのは、現在のような 「EC化社会」においては若干過剰サービスかなと感じる次第です。

配送者側ではなく、受け取るユーザー側に再配達コストを負担させる、というアイデアもあります。しかしユーザー側から見れば、荷物は安全にオンタイムで届けば問題ないわけで、再配達するかどうかをユーザーに判断させてそこで余分に料金を取る、というのは現実的でない気がします。

日本は世界でも最も安全な国だとも言われており、仮に玄関前に宅配物を置いても、そこまで盗難が多くならないのではないかという気もします。何よりパッケージの紛失データを収集することで、データに基づいてパッケージの紛失リスクを推定できるようにする、というのは、宅配業者にとって大きなコストダウンに繋がると思います。

本件が早期に解決し、日本のEC業界がさらに盛り上がることを祈ります。


----------------------------

1ヶ月あたり4〜8本の有料ノートが追加される予定の「有料マガジン」もあります。是非ご覧ください。

気に入ってくださった方は、↓から「スキ」「フォロー」してください!

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

サポートいただくよりも、Amazonで本のレビューを書いていただける方が助かります。↑のリンクより是非レビューをお願いします!

嬉しいです!(文末にある)LINEの友達申請もお願いします!
48
アメリカ・日本のネット企業(上場企業)を中心に、決算情報から読みとれることを書きます。経営者の方はもちろん、出世したいサラリーマンの方、就職活動・転職活動中の方になるべく分かりやすく書きます。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。