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TeslaとGoogleの自動運転の最大の違いは「センサー」にあり

先日、「Google: 完全自動運転型の自動運転車の開発を事実上の断念」というニュースが出ました。

実はこのニュースはあまり正確ではなくて、もともとGoogleは、自社で車まで作るという発想ではなく

Google: We're not building self-driving cars, we're building the driver.

という発想で、自動運転技術のみを作るということを明言していました。

一方で冒頭の記事は、自動運転に対するアプローチの違い、特にTeslaとGoogleのアプローチの違いを明確にしていることもあり、それを取り上げてみたいと思います。


自動運転技術を作る上で最も重要なもの

自動運転を可能にするためには、膨大なデータが必要になります。

ここでいうデータというのは、実際にドライバーが目で見ている情報、耳で聞こえている情報、といった「入力」と、ドライバーが実際にどのような運転操作をするかという「出力」の、「情報のペア」のことを言います。

例えば、雨が降ってきたらスピードを緩める、前の車に近づいてきたらブレーキを踏む、高速道路に入ったらスピードを上げる、横断歩道で人が渡っていたら人が渡り終わるまで待つ、といった、人間であればほとんどの人が出来ることを、機械が出来るようにしなければなりません。

自動運転を可能にするためには、これらの入力と出力の膨大な「正解データ」を収集する必要があります 。

一旦正解データが集まれば、それを元に大規模な機械学習を行い、機械であっても人間と同じようなハンドル操作ができるようになる、というわけです。


データ収集のアプローチの違い

TeslaとGoogleでは、データ収集に対するアプローチが全く異なります。

Teslaは先日発表された通り、今後発売されるModel SとModel Xについては、人間の2倍の精度で情報を感知できるセンサーが搭載されます。

Teslaはそのセンサーで「見た・聞いた」情報と、実際にドライバーが運転した情報を、クラウド上に収集し、そのデータを元に機械学習を行うというアプローチです。

TeslaはModel SとModel X合わせて、2016年の1年間で約50万台を出荷しました。当然、来年はこれ以上の出荷台数が見込まれます。

アメリカでは車1台あたり、少なくても年間1万マイル(約1.6万km)以上走行する事が一般的です。

50万台が1万マイル走ったとすると、50億マイル(約80億km)分のデータが、1年間で集計出来ることになります。

一方でGoogleのこれまでのアプローチは 、Googleが作ったプロトタイプの車でGoogleの社員あるいは契約社員が走行し、データを収集するというものでした。

このやり方では当然、50万台といったスケールで実施することはほぼ不可能であると考えられるため、規模で言うとTeslaほどデータが収集できないことになります。

ちなみにUberもGoogleと同じく、まずは自社で作成したプロトタイプ車でデータを収集して、自動運転の精度を少しずつ上げていく、というアプローチを取っています。

このアプローチの違いから、一番最初に大量の「正解データ」を集めることができるのは、明らかにTeslaであることがお分かりいただけると思います。


データ収集に用いるセンサーの違い

冒頭の記事はデータ量以外にも、センサーのコストという点に言及しています。

世界で初めて商用車に自動運転技術を導入したTeslaは、 コスト的に比較的安価な音波レーダーと光学カメラを併用する方式を採用しており

とあるように、Teslaは汎用機関用品である比較的廉価なセンサーを使って、データを収集しています。

一方でGoogleやUberは、Lidarと呼ばれる高価なセンサーを使っています。

このLiDARというセンサーは、車の上に取り付けられます。

このLiDARというセンサーについて、「Cheap Lidar: The Key to Making Self-Driving Cars Affordable」という記事を見てみましょう。

Many autonomous cars have relied on the HDL-64E lidar sensor from Silicon Valley–based Velodyne, which scans 2.2 million data points in its field of view each second and can pinpoint the location of objects up to 120 meters away with centimeter accuracy. But the sensor itself weighs more than 13 kilograms and costs US $80,000.

多くの自動運転車はシリコンバレーのVelodyne社のLidarセンサー、HDL-64Eを使用しています。HDL-64Eは毎秒220万のデータポイントをスキャンし、最大120m離れた物体の位置をcm単位の精度で特定できます。しかしその自重は13㎏以上で、費用は$80,000(約800万円)です。


実際の製品はこのような形をしています。

センサーを通して見ると、このように周りにあるものが120m先まで見られます。

ただしこのセンサーは、現時点で1台あたり$80,000(約800万円)もするというのが最大の欠点です。$80,000(約800万円)では、センサーの値段だけで市販されている車よりもはるかに高価になってしまう、ということが十分考えられます。

This year, Velodyne announced the VLP-32A, which offers a 200-meter range in a 600-gram package. With a target cost of $500 (at automotive scale production), the VLP-32A would be two orders of magnitude cheaper than its predecessor but still too expensive to be integrated into driverless cars intended for the consumer market.

今年、Velodyne社はVLP-32Aを発表しました。600gで200m範囲に使えるパッケージです。 VLP-32Aの目標コストは$500(約5万円)(車載用生産時)で、前世代よりも2桁安いですが、消費者市場向けの自動運転車に組入れるには高価すぎます。

LiDARを提供する Velodyne社からは新しいバージョンのセンサーが既に発表されており、そのセンサーは200メートルの範囲を検知することができ、値段が$500(約5万円)になると言われています。

まだ発売にはなっていませんが、上にある通り$500(約5万円)であってもセンサーの値段としては非常に高い、という問題が指摘されています。

従ってこのセンサーの価格問題を考えると、GoogleやUberはTeslaに対して2つ目のハンディを負っている、と言わざるを得ません。


GoogleやUberの起死回生なるか?

現時点では、自動運転レベル3以上の自動運転に最も近いのはTeslaである、と言うことが出来るかと思いますが、GoogleやUberも全く手が無いわけではありません。

GoogleはAndroidで行ったように、複数の自動車メーカーと手を組み、車のOSだけを提供し、一気に市場シェアを獲得するということも十分狙っていると思います。

ただ車メーカーは、スマホメーカーと比べてどれだけ早く動くことができるのか、という点に関しては疑問符を付けざるを得ませんし、まだまだ不確定な要素がたくさんあると思います。

Uberに関しては、自社で営業車をドライバーに貸し出すとすると、その車は通常の自家用車とは異なり24時間近く稼働させることが可能になるでしょう。

自家用車の稼働率は10%以下と言われていますので、その稼働率を仮に100%近くに出来るとすると、単純に考えれば10倍のコストを許容できるということになります。

つまりUberの場合は、強固なビジネスモデルが既に存在するため、多少高価な車であっても、大規模な投資を行える可能性があるとも言えます。


Teslaが不利な要素

とはいえTeslaも盤石ではありません。テスラが最も弱いとされているのは地図情報です。

自動運転を可能にするためには、現在我々がスマホで使っている地図よりもはるかに精度の高い地図が必要になると言われています。

そういった地図を生成するという事に関しては、Googleに一日の長があります。Teslaが、実際に運転されているTesla車から集める情報だけで完璧な地図が作れる、ということはまず無いでしょう。

以上、まだまだ不確定要素が大きい自動運転業界を見てみました。今後もどのような競争環境になっていくか、注目していきましょう。


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