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起業前でも「壁打ち相手」になってくれるシード投資家ここにあり

柴田: 今回の「しば談」は、CyberAgent Ventures(以下、CAV)の竹川祐也さんにお越しいただきました。まずは最初に自己紹介をお願いします。

竹川祐也さん(以下、敬称略): CAVは、アジアを中心に8カ国、11拠点で、主にシード、アーリーステージに投資をしているベンチャーキャピタルで、親会社はサイバーエージェントになります。グローバルで約30名のメンバーが所属していまして、日本以外はアメリカが1拠点、中国が3拠点、台湾、韓国、インドネシア、ベトナムが2拠点、そしてタイで展開しています。基本的に現地のメンバーがローカルの起業家に投資をしています。国内はキャピタリストが、役員を入れて6名です。その中で私自身はシード・ジェネレーター・ファンドというファンドを通してシード投資の責任者をやらせていただいています。


証券会社、人材会社、ベンチャーCFOを経てベンチャーキャピタルへ

柴田: 竹川さんはVCになる前は何をされていたんですか? なぜVCになろうと思われたんですか。

竹川: 新卒では証券会社にリテール営業として入りました。ちょうどサイバーエージェントとライブドアが上場するタイミングで、他にもヤフーが1株1億になってたりとか、自然と銘柄としてのベンチャー企業に興味を持ちました。そのうちにこれはどうやら相当面白そうだぞ、ということになり自分自身もベンチャーの中に身を置きたくなり、ベンチャー企業を紹介してもらうつもりで友人が勤めていた人材紹介会社に登録しに行ったんです。そこで社長がいきなり出て来て「うちもベンチャーだぞ」と口説かれて(笑)、その会社にそのまま転職したのですが色々あって、そこで出会った元リクルートの方と別の人材紹介会社を立ち上げました。ここではベンチャーの社長にアポを取って、御社にはこんな人材が必要なんじゃないんですか、みたいな幹部人材の採用の提案をしていたんですね。一方で立ち上げの時に、自分たちのネームバリューがない点がネックにもなってました。良い候補者を集めるためには彼らを惹きつける案件を獲得しなきゃいけなくて、私なりに考えてVCやPEにアポを取って、彼らの投資先のCFOとか、CxO案件を投げてくださいと提案してみました。「そんな頻度高く紹介できないかもしれないけど、良い人居たら必ず優先的に紹介するので」と。これでユニークな、秘匿系の案件を持って来ることができて、その案件で候補者をスカウトして、例えばコンサルや投資銀行の方だったりとか、優秀な方をどんどん引っ張って来て、ベンチャーに紹介して、そこに決まらなくても他のところで転職先を決めてもらっていました。この動きのなかで投資系の人たちと仲良くなったんですね。で、彼らの仕事を横で見ているとVCの仕事のほうが、より長期的にベンチャーにコミットできるのが見えてきて、1回人を紹介して終わり、みたいな関係性よりもよりやり甲斐があるなと思ったのがVCを目指したきっかけですね。とはいえ未経験だったのでなかなか採ってくれるところもなくて。

柴田: そうですよね、前職は人材紹介なんですよね。そこからVCへ。それは確かに結構大変な転職な気はしますね。(笑)

竹川: そうなんです。当時相談したひとたちには無理って言われてました(笑)。転職したのが証券会社のVC部門だったので、職種違いはあるにせよ証券会社にいたことがあったのは採ってもらえた要因だったかもしれません。私が新卒で入った証券会社は新規参入組だったので、投信のようなパッケージ売りではなくて、個別株を提案するスタイルでしたので、これがラッキーだったのですが、情報収集のために毎日のように四季報やチャートブックを読みながら寝落ちするみたいな感じで、常時個別企業の事業内容や財務諸表、マーケットでの動きなんかを見る癖がつきました。どういった会社が上場してくるのか、その後どんな会社の株価が上がるのか、みたいな肌感があったのも活かせたと思います。とはいえ、いま思えばずっと社長にアポを取り続けて来てた営業力を一番評価してもらっていたのかもしれませんね(笑)。

(なつかしの転職情報誌B-ingより)

柴田: すごいですね。でも、その後はVCのキャリアかなり長いですよね。7年くらいになりますね。ちなみに、CAVにジョインされたのは、どういうきっかけだったのですか?

竹川: ジョインする前は5年半ベンチャーにいました。その会社には創業1年後ぐらいのタイミングで、CFOとして管理会計の導入や資金調達、上場準備をするために入ったんですけど、管理会計の仕組みを作り上げ、1億円弱の資金調達も完了し、上場準備も規程の整備とか進み始めてそろそろ主幹事を選定しようかといったタイミングで、ちょうどリーマン・ショックがあって。当時PCアフィリエイトの代理店みたいな事業をやっていたのですが、メインが金融系のクライアントさんだったこともあり落ち込みが激しく、ファウンダーと相談してその事業のリストラをする判断をしました。その時ちょうどガラケーのモバイルのASPを立ち上げていて、その事業を中心に据えることになったのですが、ファウンダーから会社を売ろうという話が出てきて、1年ぐらいM&Aの交渉を各社と行い、某上場企業のグループ会社の子会社となりました。その後に私が社長を引き継いで2年半ほど新規事業を立ち上げたり、事業買収をやって再度成長軌道に乗せようとしたんですが、伸ばし切ることができず、最終的に親会社からはこのまま別組織でやってる意味ないから会社を吸収したいという話が来ました。そこで社員は全員引き継いでもらったのですが、私自身は責任を取ってクビという形になったんですね。

柴田: 「クビ」というのは大袈裟だと思いますけど。

竹川: そうですね。身の振り方を模索する猶予はもらったので助かりましたが、一応まだその会社の社長という体だったので、あまり表向きにも活動できなかったのは面倒でした。なので信頼しているVCや起業家の友人に声をかけて、ベンチャーのCFOか、ベンチャーキャピタルかの両にらみで3ヵ月ぐらい探しまして、最終的にCAVに来ることになりました。CAVの社長の田島とは以前、同じ会社に投資していてその会社がIPOしたということもあって元々縁があったのですが、私の状況を話したところ「うちでどう?」みたいな感じで声をかけてもらいました。同じタイミングであるベンチャーのCFOとしても内定をいただいたので、どっちを選ぶか正直迷いました。迷いましたが、それを伝えると、田島に中目黒の飲み屋に日曜日に連れて行かれてですね(笑)。「あのベンチャーは、多分竹川さんが行っても行かなくても成功するステージにある。あのベンチャーみたいな会社100社の創業に立ち会った方が楽しいでしょ」みたいな(笑)。

柴田: それは結構上手いこと言いますね(笑)。さすが田島さん。

竹川: 確かにそれはそうだなと思って。本当はベンチャーで成功して、自分自身もそれなりにキャッシュ持って投資の側に戻りたかったんですけど、逆に失敗した私だからこそ、若い起業家の支援に活かせることもあるかなと考えることができたので、VCに戻る決断をしました。背中を押してくれた田島には感謝しています。

(CAV社長の田島さんと)

柴田: すごいなと思うのは、すごくVCって皆レアなキャリアな人が多いんですけど、竹川さんもユニークですね。金融系のバックグラウンドもあり、人材系や営業力のバックグラウンドがあり、スタートアップのCFOのバックグラウンドもありって、すごいですね。VCって、過去に積み上げてきた年輪みたいなのがないと、やりにくい部分ってあるじゃないですか。

竹川: 以前に投資をしていた時はやっぱりインサイダーじゃないと言うか「どうせ起業したことねえじゃん」みたいな雰囲気はやっぱりあったんです、どんなに仲良くなって一緒にゴルフや合コンとか行ったりしても(笑)。 どこかでその壁があるって言う感じがしてました。

柴田: でもその前の会社で、当然上手く行ってらっしゃった時と大変だった時あると思うんですけど、その波でさっきもその、リストラレイオフとかおっしゃいましたけど、そういうのは、普通に大企業でサラリーマンしていたら絶対に経験できないことですよね。

竹川: そうですね。リストラと言っても辞めてもらって終わりではなくて次の就職先を人材紹介時代の伝手を使ってアレンジしたりもしてました。そのベンチャーには一応CFOとして入りましたけど、システム開発と給与計算以外は全部やりましたね(笑)。経理も3ヵ月ぐらい引き継ぎの期間は私がやりましたし。本当に良い経験させてもらいました。


シード・ジェネレーター・ファンドは、一番最初に投資する、でもシェアを取り過ぎない

柴田: 僕ら起業してる側からすると、特に自分が大変な時や辛い時に誰に話を聞きに行くかって言うとそういう人になるんですよね。CAVと言うと、いわゆる今のスタートアップブームになるちょっと前から、アーリーステージのスタートアップには、ほぼ全部と言うぐらい、全部ではないと思うんですけど、投資されている、すごく件数が多くてアクティブなベンチャーキャピタルさんって言う印象があるんですけど。その辺って言うのは意識されてやってらっしゃるんですか。

竹川: そうですね、基本的には私たちもシードからアーリーステージですね。できればもっとシードにフォーカスしたいなって、思っていたタイミングもあり「シード・ジェネレーター・ファンド」というのも始めました。

柴田: CAVで投資される場合と、シード・ジェネレーター・ファンドで投資される場合って、会社のステージと投資金額は、どんなイメージなんでしょうか?もちろんそれはケースバイケースなんでしょうけど、イメージが伝わるようにお話いただければ。

竹川: シード・ジェネレーター・ファンドでは明確に基準が決まっていて、ポスト(投資後の会社の評価額・バリエーション)1億円で、1千万円の投資が上限です。通常、普通株で投資します。こちらは基本的に私が投資の可否を判断して良いことになっています。

柴田: なるほど。最大で10%って言うことですね。

竹川: CAVの通常のファンドの方で言うと、基本的には優先株でやらせていただいてまして、ストライクゾーンは、数億円の前半のバリエーションで、3千万円から5千万円ぐらいを投資する形です。唯一、1億円投資した案件もあるんですけど、数億円の後半のバリエーションでしたし、10億円を超えて投資するケースはほぼないかなと思います。

柴田: 大体その10%から15%ぐらいは取るって言うことですかね。

竹川: そうですね、はい。少なくとも5%以上は取りたいねって言うスタンスでは居ます。

柴田: 逆に20%とか30%とかはあんまり取らない。

竹川: 取らないですね。

柴田: その辺が良心的だなって言うか、シリコンバレーの感覚からすると常識的だなって言う感じがします。日本だと、結構エグいことする人いっぱい居るじゃないですか、エンジェルの人とか。今回、日本に来てびっくりしたのは、そういう例ばっかり聞かされて、これは何とかしないといけないんじゃないかって思うんですけど、シードとかアーリーステージで少なくて5%、多くて10%とか15%分を投資するというのは、特にVCとしては極めてリーズナブルって言ったらちょっと失礼かもしれないですけど、起業家フレンドリーと言うか、Cap Tableを壊さないという形で、起業家のシェアやモチベーションを保ったまま次のラウンドにつなげられる、ということですよね。

竹川: そうですね、資本政策において次のラウンドの邪魔をしないというのは結構大事かなと思ってます。

(インタビュー後に、Startup Base Campでパシャリ)


起業前から「壁打ち相手」になる

柴田: 今いろんなシードファンドとか、アクセラレーターが増えてると思うんですけど、シード・ジェネレーター・ファンドの強みと言うか、他とこういうところが違います、というのはどういったところになりますか?

竹川: シード・ジェネレーター・ファンドを作る時には国内外含めリサーチをしていました。1つは、「起業家にフェアにやる」ということを徹底していて、シェアを取り過ぎないことを意識しています。もう一つは、アクセラレーターのような期間を区切った「プログラム型」には敢えてしなかった、という点です。というのは、プログラム型にすると、起業家がお金を欲しいタイミングで出資できないことがあるからです。最後に、起業家と事業を一緒に創るところにもっとフォーカスしたいなと思って、ファンド開始のタイミングに合わせて週2回のブレックファースト・フォー・ファウンダーズという朝食付き勉強会を開始しました。これから起業してこんな事業をやりたい、もしくは事業を既に立ち上げたけど、壁打ち相手が居なくて困ってるみたいな方に対して、投資前提じゃなくて、事業のブラッシュアップだけを目的にオフィスに遊びに来てくださいって感じで。1年間で70回ぐらい開催しました。

柴田: 年に70回ってすごいですね。週1でやって50回なので、週1以上ですよね。よくそんなに起業家を見つけましたね。

竹川: 最初はこちらからイベント等で知り合ってお声掛けするケースもありましたが、途中からは参加された起業家の方からのご紹介が増えました。この会で最初は知り合って、その後「この間竹川さんにいただいたフィードバックを元にサービスのここを変えてみたんですよ、また話聞いてください」とご連絡をいただいて、そこから投資案件化するケースがシード・ジェネレーター・ファンドの投資先でいうと半分はありました。本当に役立つ「壁打ち相手」になることで、事業を一緒に創るパートナーとして選んでもらえるように意識していました。そこは私自身も前職の経験が活かせる部分があると思っていますし、たまに同席してくれる他のキャピタリストも起業経験があったり、サイバーエージェント内で事業立ち上げの経験をしていたりするので、生っぽい良いインプットができているのではないかと思います。あとは、シード・ジェネレーター・ファンドの投資先でも米国や東南アジアで起業している方もいるのですが、彼らに提供できる現地のネットワークやノウハウがあるところもCAVとしての強みだと実感しています。

(シード投資先のCoupe竹村社長。”ブレックファースト・フォー・ファウンダーズ”にて)

柴田: 今「壁打ち相手」っておっしゃいましたけど、普通、起業する前って誰にも相談できない、周りの人にはできるかもしれないですけど、VCの人なんか行っても普通相手にされないじゃないですか。

竹川: そうなんです。私自身も自分がベンチャーの経営側に回った途端、気軽にはVCの人に会いづらくなったんですよね。

柴田: そうですね。弱みを見せると付け込まれる的なところちょっとあるじゃないですか。

竹川: そうそう。それを全部、そういうの気にしないで、おいでって。意外とニーズはありました。

柴田: それはあるでしょう。何かお金取ったら良いんじゃないですかって思うんですけど(笑)。

竹川: まぁリターンとして返ってくれば良いかなって(笑)。そういうことはありましたが、まずは短期的な成果は抜きにして、毎週水金の朝8時から、愚直にやり続けましたね。でも、別に義務感もないし、こっちも刺激がもらえるしクリエイティブになれるので単純に楽しいんですよね。

柴田: 良いですね。シード・ジェネレーター・ファンドって言うのはやっぱり若い起業家が多いですか。

竹川: 多いですね。平均すると投資時の年齢で25歳ですね。一番若くて18歳とかですね(笑)。

柴田: じゃあ大学生から社会人2、3年目みたいなイメージですね。会社を作る時に一緒に投資するみたいな感じですか。

竹川: そうですね、設立のお手伝いも仲の良い司法書士さんとかをご紹介してさくっとやってもらいます。そのほうがスムーズだし、事業にすぐ集中できるので。出資含みで会社を作ってもらう感じなので、設立して翌月に出資みたいなケースが多いですね。

柴田: 会社の登記はやれば出来ると思っている人が多いかもしれませんが、1回やったことがある人と、ちゃんとやったことがない人がやれば、ただ同じことやるだけで簡単なんですけど、知らない人がやると、って言うのはありますよね。投資された後も今おっしゃった壁打ち相手みたいなのはずっと継続して相手してくれるんですか?

竹川: そうですね。感覚的に皆さんそうだと思うんですけど、最初の事業でそのまま成功することってほぼなくて、途中どうしてもマイナーチェンジだったり、思い切ったピポットが必要になるので、そのタイミングではしっかり壁打ち相手になっています。実際にシードの投資先でも最初の事業が思ったより早く伸びが鈍化して来たので次の事業を考えたいって言う経営者が居たので、合宿をやったんですね。2、3時間篭もってディスカッションするという。その時には事前に100個アイディア出しましょうってお互いに持ち寄って、これは良い、これはダメ、と絞り込んでいって、次の事業が決まったという実例もあります。通常もシード初期の場合は週次で定例ミーティングやスカイプをしているので、その時にアップデートを聞きながら、あーでもないこーでもないって軽い議論をするケースもありますし、それ以外の時間でもFacebookでガンガンメッセ―ジが飛んでくるので、起きている間は常に壁打ちをやっている感じです。

(シード投資先のDogHuggy長塚社長。朝食会にて)

柴田: 例えばシード・ジェネレーター・ファンドで投資した場合は、イメージ的にはないかもしれないですけど、次のステージに行ったら卒業みたいな感じになると思うんですが、そこの橋渡しと言うか、次のVC紹介するとかもあり得るんですか?

竹川: はい、もちろんあります。シード・ジェネレーター・ファンドの最初の投資先の「Gozal(ゴザル)」を提供するBECの場合、昨年末に約1億円調達できたんですが、CAVも追加の出資をしていますし、それ以外に入っていただいた3社の投資家さんも我々がご紹介したVCや事業会社さんにになります。シード・ジェネレーター・ファンドの投資先13社のうち彼らも含めて8社が現時点で次の調達が完了または確定していますので、このやり方が理想かなと思ってます。なので資金調達のサポートはこれからもしっかりコミットしてやっていきたいですね。

柴田: そうですね、起業家側からするとVCにアポ取って行くのって結構時間的にも精神的にも辛いと思うんで、それを一緒に消化してくれたり回ってくれる人が居るって言うのはすごい楽ですよね。

竹川: あとはその前段階の事業計画書づくりもサポートしています。シード時の事業計画書は正直言って出来としてはよろしくないものが多いんですけど、次のラウンドに行くときには「もっとしっかり作りましょう」って、骨子を作るところから一緒に入ってやったりもしますね。それこそ、この会議室の机のうえに全部紙プリントしたスライドを並べて、順序を替えたりとか、「ここにこんなスライド入れましょう」みたいなことまでやっていますね。あとはVCやキャピタリストごとに特徴や好みが違うので、それも私たちで「この案件だったらこのVCのこの人」みたいなマッチングは、意識してやるようにしてますね。

柴田: それは大きいですね。ちなみにCAVさんがある中でシード・ジェネレーター・ファンド作ってるって言うのは、自然なように見えますし、ある意味コンフリクトする部分もあるじゃないですか。わざわざ分けられてる理由って言うのは、何かやっぱりあるんですよね。

竹川: あります。ひとつは2014年当時「CAVがシード投資ををやってるイメージがない」と思われていたということです。実際に起業家にインタビューをしてみても、我々としてはシードから良い起業家に投資をしたいし、実際にクラウドワークスのような成功事例もあるのに、うまく訴求できていないと感じていていました。逆にシードで別の投資家が投資した案件を、シリーズAの時に紹介されるみたいなこともあって、この会社だったらもっと早い段階から投資したかったよね、と。その中で、解決策として看板を別にしましょうという提案を私がしました。他の理由では、そもそもCAVに来たときに田島と話したように私自身もっと創業に携わりたかったということや、ある有名ベンチャーのシード期に投資をするチャンスがあったにも関わらず自分の力不足で社内の賛同を得ることができず投資できなかった経験があったりとか、そういったキャピタリスト個人としての強い思いもありました。なので実は最初は私が別ファンド作るんでそこに出してください、って提案をしたんですけど(笑)。それやると、方向性としてはアグリーだけど時間かかっちゃうんで、一旦投資枠として切り出して任せるから、すぐやろうよ、という感じで決まって提案から3か月でシードジェネレーターファンドを立ち上げることができました。

(先輩起業家と朝食会参加者の夜の交流会”ディナー・フォー・ファウンダーズ”)


シード投資を受ける条件

柴田: ちょっと話は変わりますけど、今日本のスタートアップ界の景気や資金調達環境はどうでしょう?

竹川: 人気ある企業に一極集中しがちなのかな、というのと、一方でシード投資はまだ活発になってるとは思えないですね。投資したいとか投資できる人たちは以前より増えているんですが、投資したくなる起業家の絶対数が増えているかって言うと、そうでもないのかなと。あとは、本当のどシードに投資してくれるVCはまだ増えてないかなって思ってるんです。「シードやります」って言っても、私たちの感覚からすると、より後のラウンドで投資するアーリーステージの投資家だよな、みたいな。ある程度走って、トラクション出始めたぐらいのところに投資をしてる自分たちはシードと思っている投資家が多いような気がしてて、本当はその前の段階でリスク取って事業を立ち上げるところから一緒に関わって投資する人たちが居ない。そこはあまり変わってない印象ですね。バリュエーションについてはシリーズA以降はそこに到達する会社が絞られる分、資金が集中しがちなので、高くなってるなって言う感じは受けます。シードからアーリーステージぐらいは落ち着いてる感じですかね。なので、もし私が起業するんだったら、いまは良いタイミングかなと思うんですけどね。

柴田: それはそうだと思うんですよね。今の話は面白いので、少し掘り下げたいと思います。いわゆるシードからアーリーステージってプロダクトがあるのかないのか分かんない、アイディアみたいな状態で、プロダクトができて、それを出して、トラクションがどうでって言う話になってくじゃないですか。先に言われた他のシードファンドは、いわゆる最初の何かしらのトラクション見て入れるって言うのだと思うんですけど。本当のシードステージの時って、御社のシード・ジェネレーター・ファンドから投資を受けたいって言った場合って、どこまで何ができてないとダメなんですか。

竹川: そういう意味では何もできてなくても全然ありです。ただ1つだけ条件付けてて、エンジニアがチームに居ることが必要です。プロダクトが作れるかどうか。最初のモックでも良いので、そこまでは持って来てもらうって言うのは条件にはしてます。そのトラクションがあるかないか、というのはその後かなと思うので、投資の時点では気にしません。誰にそのサービスの提供をするのか、誰のどんな問題解決するのかってよく言ってるんですけど、そこでお互いちゃんと納得できて、それを適切なソリューションとかプロダクトに落とし込めるかどうかって言うところさえ、お互い合意できれば投資するって言う感じですね。

柴田: なるほど、「エンジニアがチームに居る」というのは大事ですね。実際に起業家が社会人の場合は、例えば会社でまだ働いててとかって言うパターンもあるんですか。

竹川: ありますね。最初は働いていて、ですね。

柴田: でも辞めるってそれなりに結構大きな結論だと思うんで。

竹川: 辞めて起業してるところに投資をするって言うよりは「投資するんで辞めようよ」みたいな感じ(笑)。「この事業やろうよ」って背中押すみたいな感じですかね、どっちかって言うと。

柴田: 結構シリコンバレーだとエンジェルのやってるようなことをやられてるって感じですかね。

竹川: そうですね、はい。名前に込めた意味でもあるんですけど、シード、種から芽生えていて、その成長を加速するアクセラレートするんじゃなくて、シード、種そのものをジェネレートする、生み出すって言うことが重要かなと思っています。過去を振り返ってみても、ベンチャーブームって何度も繰り返されてるんですけど、盛り上がってくると注目度も上がって集中してお金が投下されるのに、1社でも不祥事だったり、悪目立ちして世間に嫌われる会社が出てきたりすると「やっぱりベンチャーってダメじゃん」みたいな風潮になってしまって資金が引かれるので、そういうことに振り回されないような足腰の強い起業家がコンスタントに出るようなエコシステムを作りたいなと。そこに私たちが共同創業者的な投資をし続ける意味があるのかなって思ってます。

柴田: 共同創業者と言いつつ、株は最大でも10パーしか取らないって言う、これ非常にリーズナブルって言うか合理的ですね。竹川さんが好きなドメイン、得意なドメインというのはありますか?

竹川: 好きというか共通項、傾向はあるかもしれないですね。B2Bや、プラットフォーム、シェアリングエコノミー系が多いかもしれないですね。


竹川さんの投資先を3つだけ紹介するとしたら...

柴田: では、竹川さんの担当されている投資先で3つ選んで挙げてください、と言ったらどこをあげますか?

竹川: シードジェネレーターファンドに限らずで言うと、カブクって言う3Dプリンターのプラットフォームをやってる会社。まだ2人しか居ない時に、CAVとして唯一1億円を突っ込んだ案件なんです(笑)。

竹川: 二つ目は、おかんって言う、オフィスおかんというオフィス向けの無添加の置き惣菜のサービスを提供している会社で、こちらもサービス開始前、かつ社長一人の時に5,000万円弱を投資をさせていただきました。

竹川: 三つ目は、シード・ジェネレーター・ファンドの第一号案件でもある、企業のバックオフィス自動化サービスの「Gozal(ゴザル)」を提供しているBECです。この会社も投資時は2人だけでしたね。

竹川: 全部、プラットフォーム系なんですよね、カブクはものづくりのプラットフォームだし、オカンは社内の食事、福利厚生のプラットフォームだし、BECは中小企業のバックオフィスをシステムとクラウドソーシング、士業のクラウドソーシングで解決してバックオフィス業務の負担をゼロにしますって言うのをやろうとしてるんですけど、彼らもその後のいろんな構想を考えると、最終的には中小企業と政府や取引先や金融機関や士業をまたぐプラットフォームになれると思ってます。その3つをみても、「関所ビジネス」になるようなものを狙ってるとは言えますね。

カブクは、ものづくりの世界が金型から3Dデータを起点としたデジタルなものづくりに移行していくなかで、ものづくりの世界のアップストアとか、グーグルプレイみたいなポジションを取れる会社だと思っているんです。おかんも社内の食の課題解決を皮切りに、働く社員を幸せにするソリューションをその上に載せて展開していけるんですよね。BECも、中小企業と士業の方や政府とのやり取りをデジタル化、自動化することで日本全体の生産性を上げられるサービスだと確信を持っています。

柴田: そうですね、この3つは次のステージに少なくとも行っちゃってる感じはしますよね。


何を見て投資判断をしているのか?

柴田: 投資を決める時って、何を見て投資を決めるんですか?僕は割と起業家から資金調達の相談されることが多いんですが、「VCの好みを知っておくことは重要だよ」といつも言っています。どういう風に投資家側が見てるかって言うのも、起業家側が知るってことも重要だと思うので、差支えない範囲で教えてください。

竹川: 投資したいなというか成功するだろうなと思う起業家のタイプで言うと、2つぐらいあるかなと思っていて。ヴィジョナリーな起業家タイプと、ユーザー視点が強い投資家タイプみたいなのがあるかなと思っていて、起業家タイプって結構アンバランスで、見えてる世界が私たちとはちょっと違ってたりとか、その世界観だけで突っ走れる、押し切れる、一緒に話してるとちょっと居心地悪くなるようなタイプ、っていうんですかね。例えば会ったことないですけどテスラやスペースXのイーロン・マスクとかソフトバンクの孫さんとかがイメージに近いです。投資家タイプって言うのは、大きなユーザーニーズの変化をしっかり掴みつつ、事業を仕掛けるタイミングをじっくり見計らっていて、その市場に入るならいまが最高のタイミングだって言うときにがっつりリソースを投入するタイプ。バークシャーのウォーレン・バフェットとかは典型的でしょうけど、日本で言うとカカクコム、クックパッドの穐田さんとか、うちの親会社の社長の藤田とかもそうだと思います。この2タイプのどちらかだと投資したくなりますかね。後者はあまり外部から資金調達をしないタイプですけど。

柴田: 面白いですね。逆に過去の実績みたいなのって気にしたりします?

竹川: あんまり気にしないですね。一番最初に聞く質問って「何でこの事業をやるんですか」なんですけど、このモチベーションが明確だと投資しやすいかなと思ってます。あとはマーケットと人が重要で、戦略は一緒に考えれば良いかなと思ってます。特にシードだと自分たちの取りうるマーケットがどれぐらいアップサイドがありそうかって言うところと、それをやるに足るモチベーションがある経営チームかどうかって言うところが評価の大部分を占めます。戦略のところは一旦起業家から出てくるんですけど、壁打ちしながら良いものにしていけば良いって言う感じで捉えてます。多くのビジネスプランを見てきて、ビジネスって同じフレームワークの焼き直しと言うか、アナロジーが効きやすいし、マネタイズとかもそんなにパターンないじゃないですか。

柴田: そうですね。逆にあんまり変なことやろうとするとできなかったりするんで。

竹川: そうです。そういう見方をしてますかね。

(現シード・ジェネレーター・ファンドのメンバーと)


投資先がダメになった場合、投資家としてどうする?

柴田: 当然シードやアーリーに投資すると、上手くいかなくなっちゃってダメになっちゃう会社も当然あると思うんですね。それだけ早い段階で投資してますからね。その場合ってどうされるんですか。

竹川: 今のところまだシードジェネレーターファンドとかでは起きてないんですけれども・・・

柴田: 起こり得ますよね。っていうか起こるべきですよね、数的には。

竹川: そうですね。起業家がどうしたいかって言うのはまず重要で、会社としての器を残しつつ、何とかもう1回再浮上を目指すって言うんであれば、別に会社潰さずに社員全員辞めてもらって、社長がアルバイトでもすれば続きますよね。そのパターンもあると思いますし、起業家自身が諦めているであれば、売却するか清算するかって言う話にはなると思います。当然そこでは私たちとして最後まで粘りきろうってサポートしようとは思ってます。心がもし折れちゃったりすると、ちょっと難しいかなと思うんですけどね。あと、投資先ではないですけど、起業家の友人でまさに苦しかった時代にコンビニでバイトしてたって言う奴が居ました。あれはすごいなと思って。いまは順調そうなので、自分で笑いのネタにしてましたけど、奴はすげえなと思いました。そう言うの見てても、やっぱり安易にバンザイしない人に投資したいなとも思ってるんですよね(笑)。

柴田: そうですよね、結局投資、おっしゃってた通りで、ギブアップしなかったら絶対潰れないと思うんですよね。

竹川: 一時期バッと華やかにメディアでもてはやされたのに、居なくなっちゃった人っていっぱい居るじゃないですか(笑)。

柴田: 居ますね。

竹川: そういうのあんまり良くないと言うか、諦めるにしてもちゃんと自分で最後までケツ拭いてから次にチャレンジした方が良いので、そう言うのは投資する起業家には意識してもらおうとは思ってますかね。

柴田: 逆にあんまり上手く行かなくて、ただ本人たちはまだやる気もあって、あるいは投資家にきちんとお金を返したいって言うのがあって、売却できないかなって言う感じで、ただ事業そのものはあんまり上手く行ってないんで、事業そのものには買い手が付かないという場合は、アクハイアー(人材が主な目的のM&A)みたいなパターンって日本でも結構ありますか?

竹川: そんなに頻発してるイメージはないですね。たまにありますけどね。相当チームが良くないと起こらないって感じです。大企業側がもうちょっと値段を付けてくれれば良いんですけど、やっぱりのれんのこととか考えると。

柴田: 買収側がIFRS(国際会計基準)になってないときついと思いますね。アクハイアーは特にきついですね。人材目的で買収して、のれんを毎年償却していくというのは、恐らく株主に説明できないと思いますそこで減損しなきゃいけないって、説明できないと思うんですよね、多分ね。


起業家へのメッセージ: 市場が大きく変化するタイミングでフルスイングせよ

柴田: 最後に、起業家にこれだけは言っておきたいみたいなことあればお願いします。

竹川: ヒット狙いじゃなくてホームラン狙いのバッターであって欲しいかなと思っています。起業家に限らず多くの日本のビジネスマンって、そこそこ頭が良かったりそこそこスキルある人多いので、着実に伸びそうなんだけど、売上や利益のトップライン低くない? みたいな事業を選択しがちなのかなと思っています。あなただったらもっとポテンシャルの大きな事業にチャレンジした方が面白いのにって思うことが多いですね。なので、野球に例えるとまずフルスイングすることが重要かなと。強いスイングをしないと絶対にホームランは出ないと思うので。

柴田: そうですよね。フルスイングしないと、当たっても飛ばないですからね。

竹川: まずは、打席に立つこと。そしてフルスイングをすることが重要だと思います。それができてからバットに当てる正確性、ミートを意識していけば良いし、ミートが上達したら、どうやって全体のパフォーマンスを格好良く見せられるかみたいな、ポーズにこだわっていけば良いと思うんですが、どうもミートするとかパフォーマンスが上手い人が多い気がします。基本動作として、ちゃんと良い場所にアドレスして、強く振ることができる人が、少ない気がします。

柴田: その例え面白いですね。

竹川: あとは事業ドメインの選択の仕方ですが、相場の格言で「国策に売りなし」というのがあるんですが、今、日本がどこに向かおうとしているのか、国家のヴィジョンみたいなのを理解しておくことも重要だと思ってます。委員会や審議会の議事録とかは官公庁のホームページとか調べれば分かるじゃないですか。日頃のニュースだけじゃなくてもう少し深堀りして、次に何が起ころうとしていて、例えばあの規制が緩和されますよねとか、この法律が変わりますよねみたいなのとか、こういう特許が切れますよねとかって言うのを、あらかじめ理解して、それを事業として仕込んでおく。その規制が外れた瞬間に確実に生まれてくる、大きくなる市場を戦略的に取りに行けてる起業家ってそんなに居ないので、そういうのもっと意識的にやれば良いのに、とは思いますね。

柴田: 最近だと何なんですかね。

竹川: ドローンとかも去年の末に航空法が改正されたりとか、民泊もようやく全面解禁が見えてきましたね。ちょっと前ですがヘルスケア分野でも薬事法が2014年に改正されて、アプリが医療機器と認定されたりとか、再生医療周りとかも緩和されたりとか。これからだと自動運転周りとかも注目ですね。

柴田: 確かにそうですね、潮目が変わる時ってチャンスですよね。

竹川: カブクの場合でいうと、産業用3Dプリンターの基本特許が切れるというタイミングを見越してビジネスを立ち上げてます。プリンターメーカーの参入が増え、価格が安くなり普及し、かつ個々の性能が上がるだろうと。さらに言うと、自分たちで3Dプリンターを買ってプリントするんじゃなくて、世界中の3Dプリンター工場をクラウドで繋げた方が良いよね、みたいなのは当時からヴィジョンとしてありましたね。

柴田: 結構前からやってますよね、カブク。

竹川: 2013年ぐらいから彼らも仕込んでて、その当時から私も話は聞かせてもらっていて、その特許が切れた直後ぐらいに投資をさせていただきました。彼らのように虎視眈々とチャンスを狙ってフルスイングする起業家をもっと増やしたいので、大きな産業をつくりたい、変えたいというモチベーションで起業を考えている方はぜひ壁打ちしにきて欲しいですね。

柴田: やはり、竹川さんは、いろんな荒波を乗り越えてきたキャリアがあるので、凄くユニークですね。今日はお忙しい中、ありがとうございました。


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