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マネーフォワードはなぜ「選択と集中」をせずにB2CとB2Bの両方を提供し続けるのか

柴田: 今回の「しば談」は、マネーフォワードの辻庸介社長にお越しいただきました。まずは最初に自己紹介と自社紹介をお願いします。

辻庸介さん(以下、敬称略): マネーフォワードの辻です。新卒でソニーに入って、その後3年間ソニーにいて、その後、マネックス証券というネット証券に9年ほどおりました。途中2年ほど、ペンシルベニア大学のウォートンというMBAに留学をして、マネックスに戻って1年半やらせてもらって、起業したというキャリアです。インターネットと金融というのが好きで、この業界に非常に長くいます。2012年に個人向けのお金のサービスで起業しました。


前職での新規事業アイディアを諦めきれずに起業へ

柴田: なぜお金のサービスをやろうと思ったんですか?

辻: 個人のお金に関する課題、例えば、今いくら持っているとか、今いくら使っているとか、将来いくら必要であるとか、老後どうしたらいいんだとか、子どもが何人、例えば、2人持つためには学費いくら必要なんだとか、そういう人生にとってすごく大事なことが、なかなか分からないという問題意識があって、そのお金の課題をテクノロジーで解決できるんじゃないかというようなことを思って、マネーフォワードという会社を作りました。初めは個人向けの自動家計簿・資産管理サービスですね、アメリカで言うところの、パーソナルファイナンシャルマネジメント(PFM)サービスである「マネーフォワード」を作って、主にアプリで提供しています。これがおかげさまで好評で、Google PlayでのベストアプリとかApp Storeの、ファイナンス部門アプリで1位に選んでいただいたりしたおかげで、今だいたい350万人以上の利用者が登録してくださっています。その後1年ぐらい経って、法人向けに「MFクラウド会計」、個人事業主向けに「MFクラウド確定申告」というサービスを提供し始めました。その後、クラウド会計とクラウドの請求書、給与、マイナンバー、消込、経費というようにプロダクトをどんどん出していて、今登録ユーザだと50万ユーザぐらいいらっしゃいますという現状です。

柴田: ありがとうございます。MBAから帰ってこられて、1年半経ってから起業されたというのは、割と順当なのか、珍しいのかというのは、ちょっとよく分からないですが、その1年半の間にいろいろなんか起業しようかな、やっぱりやめようかなという葛藤はあったんですか。

辻: そうですね。やっぱり、すごい葛藤があって、もともとマネックスにいたときに思い描いていたマネーフォワードのビジネスとか、サービスがすごくいいんじゃないか、ユーザにとってはすごくいいから、マネックスでなんとかできないかなと思っていました。そこで、マネックスの松本社長にいろいろ相談させてもらっていたんですけど、ちょうどリーマンショックがあって、マネックスとして新規のビジネスなんてやるべきタイミングじゃなかったんです。

柴田: それはそうでしょうね。

辻: なかなかタイミングが難しくて、ずっと相談させてもらっていて、でも最後はやっぱり、どうしても自分は、このサービスをやりたかった、大げさに言えばこういったサービスがあったほうが世の中にはいいんではないか、と思ったので、やらせてくださいという感じでお伝えしたんです。すると、松本さんも器が大きい方なので、そこまで言うなら、じゃあちょっと応援してやるよということで、出資までしていただいて。

柴田: すごいですね。僕あんまり自分のこと言えないですけど、松本社長は本当に器の大きい方ですね。では、会社を作って、最初は今あるコンシューマー向けのマネーフォワードを作ろうと思って会社を作ったんですか。

辻: そうです、そうです。


ユーザーの声を聴き続け、株主・社内の反対を押し切ってB2B「クラウド会計」を開始へ

柴田: それから、BtoC向けのサービスをやりながら、B向けもやるという、そこのきっかけというか、なんでB向けも始めようと思ったんですか。

辻: 一番のきっかけは、BtoCのユーザーさんによくアンケート取っていたんですよ。次どんなサービス欲しいですかみたいな。

柴田: なるほど、アンケートのメール来ますよね。

辻: 今だにアンケートをお送りしても多くの方がこたえてくださるんですが、当時も答えてくれるユーザーの方がすごく多くて。

柴田: 最初は特にそうですよね。

辻: そうなんですよ。そのアンケートの中で、僕たちは個人向けのサービスで、「次はどんなサービスが欲しいですか?」、とかをお伺いするアンケートをよくしていたのですが、その選択肢として例えば、資産運用の相談を受けられるとか、税金の相談受けられるとか、住宅ローンの見直しができるとか、いろんな項目を作ってみたんですけど、その中で「確定申告が簡単にできる」という項目を入れたんですよ。アンケートを見ると、断トツトップでたしか17パーセントぐらいの人が、マネーフォワードの仕組みを確定申告で使いたいって回答してくれたんです。確かに、今までは僕も自分で確定申告やっていたので、その大変さに気が狂いそうになっていたんですよ。

柴田: そうですよね。

辻: そのアンケート結果があって、そう言われると、それはあるなと。僕自身、経理、ソニー時代、経理やっていたので。

柴田: ソニーでの仕事は経理担当だったんですか?

辻: そうです。3年経理やっていたんです。経理を希望していたわけではなくて、おそらく理系だったから、数字強いだろみたいな感じで配属だったと思うんですけど。それで3年間ぐらいやって、すごいやっぱり手入力とか、手作業とか、もう非常に原始的な作業が多いわけです、なのにすごい残業とか多くて、その非効率性というか、大事な時間を消費されていることへのすごい憤りを感じることがあったので、あ、これは結構いけるかもしれないなと思って。もう社内大反対でしたけどみんな。。

柴田: そうですよね。でも、ユーザー向けに出している、C向けに出しているアプリでアンケート取ったら、確定申告したいという、それは分かるんですけど、今のMFクラウドって、個人の確定申告だけではなくて、法人の決算もできるじゃないですか。個人の確定申告だけではなく、法人向けにもサービスを提供しようと思ったきっかけは何だったんですか?

辻: うちには、なぜか会計士の試験通ったエンジニアと、自分で起業していて、社長だったので経理ができるエンジニアがいたんですよ。その2人のエンジニアと僕が会計に詳しいというのがありました。


柴田: なるほど。

辻: 彼らと話していて、基本的に会計の仕組みって、個人も法人もサービスの根本、原理原則はあまり変わらないので、たとえ両方作っても2、3割しか労力は変わらないね、ということになって。

柴田: そうでしょうね。

辻: 7, 8割は一緒の仕組みでできるのでは、ということで作り始めたんです。

柴田:なるほど。それはすごいですね。結局、ユーザとの対話があって、ユーザが欲しいものを真剣に突き詰めた結果、C向けでやっていたものだけではなくて、B向けもやろうという話になったわけですよね。

辻: そうです。あとは自分たちの体験ですよね。(ソニー時代の)経理担当として、また開発メンバーは自分たちの経験としてとても大きなペインがあったので。

柴田: 先ほど、社員から猛反対だったという話あったんですけど、一応、スタートアップなので、事業をいろいろ変えるということは、普通にあっていいことだと思うんですけど、よくピポットとか言う場合もあると思うんですけど、C向けを閉じるというオプションはなかったんですか。冷静に外から見ると、まずスタートアップとしては「複数の事業をやる」というのは、やってはいけないこと、というのが定石な訳です。その定石に反して、未だにC向けとB向けの両方を提供していて、なぜそうしているのか、というのは素朴な疑問としてあるんですけど...

辻: そうですね。もともとBtoBやろうというのも、別にBtoCが伸びていなかったわけではなくて、BtoCもすごく伸びていましたし、ただBtoBも大きなチャンスがあります。クラウドサービスに限らず、新しいプレイヤーが入れる、参入のタイミングって、すごいウィンドウ短いと思うんですよ。

柴田: そうですよね。

辻: そのウィンドウが開いているときに、ばっと入らないと、もう手遅れだから、僕が思ったのは、あのとき入らなければ1年後だったんですよね。確定申告って3月なので。

柴田: なるほど。3月の確定申告に間に合うようにリリースしないと、次の年まで待たないといけない、ということですね。

辻: 僕ら、前年の12月ぐらいにリリースしたんですよね。それもなんか、半年ぐらいで作ったんですよ。だから、もうここの確定申告に間に合わなければ、このマーケットには僕らは入れないと思ったので、ここで入るべきだと。

柴田: 2013年の12月ですか。

辻: 2014年の2、3月の確定申告に間に合うように、2013年の12月にリリースしました。僕も一応、MBA出たので、リソースが少ないベンチャーは一つのことにフォーカスせよ、というのはもちろん頭では分かっていたのですが、よく考えると、どうしてもやりたくなっちゃったんですよね。

柴田: でもそれは当時、株主とかいましたよね。

辻: いました、いました、もちろん。

柴田: 「やめろ」とか言われないんですか。僕が株主だったら、「いやいや、ちょっと待って」と言うと思うんですけど。

辻: 言っていたと思うんです。みなさん。

柴田: でもそれを説得したんですか。

辻: そうですね。

柴田: すごいね、それは。

辻:経営って、ヒト・モノ・カネの3つが大事だと思うんです。じゃあなんでみんな反対するかというと、やっぱり、ヒトとカネが足りないから反対するなと。だったら、ヒトとカネは僕が調達してきますと、制限要素をもし取り払うことができたらアップサイドが大きいし、チャレンジする意味はあるんじゃないかと言って説得しました。もし仮にCにもっとフォーカスしていたら、もっと今よりも伸びていたかもしれません。ただ今、BtoC、BtoB、両方あることによって、すごいいろんな可能性あるので、今は今で良かったかなと思いますけど。ただ、フォーカスって必要だなとは、今結構いろいろプロダクトあるので、常に選択と集中については考え、悩ましいなと思うこともありますけどね。

柴田: なるほど、なるほど。逆に、その両方持っていることによる、かっこよく言うと、シナジーというか、二つ持っているから、こんないいことあるって何かあるんですか。会社から見て。

辻: ある経営者が言っていましたが究極的には「シナジーなんて無い」ということなんだと思います。少なくても、論理的なシナジーだけを期待してやってる訳ではありません。各々のプロダクトがユーザーに刺さるか、役に立てるかが本質的な事なので。

柴田: 確かに、紙の上で描くシナジーというのは思ったような効果がない場合がほとんどですね。

辻: 会社内の話で言うと、僕らはプロダクトを作る会社なので、やっぱりエンジニアリングが非常に重要です。エンジニア的には、BtoC、BtoB、両方あるというのは、すごい飽きないし、面白い。例えば、BtoCやっていた人間が、BtoB行ったり、逆もまたしかりです。あとは、サービスのプラットフォームには、アカウントアグリゲーションという共通要素があるんですね。だから、共通基盤が使えますと、それは僕らのアセットより、レバレッジできるのができますと。

柴田: それはそうですね。ソフトウェアが一部共通化できると、それはおっしゃる通りですね。

辻: 社内的にはそうで、社外的に言うと、最近僕ら、金融機関さんとか、いろんな事業会社さんと、すごく提携させていただいているんですけど、やっぱり、BtoB、BtoC、両方あるから、一緒にできること多いじゃないですか。そこは結構選んでいただく理由にもなっていなるのかなと思いますね。

柴田: なるほど、なるほど。じゃあ、このままC向けもやめる予定はないと。

辻: やめるつもりはありません。やりたいこと、やれる事がいっぱいなので、だから今後もより多くのメンバーを求めているんですよ。


マネーフォワードの今後向かう先

柴田: 今までC向けの自動家計簿サービス「マネーフォワード」にはじまり、B向けのクラウド会計、請求書、給与、経費精算などの「MFクラウドシリーズ」ができました。次はそのB向けのデータを使って、レンディングというか、お金を貸すビジネスをやります、というお話だったのですが、これからどこに向かっていくんですか。

辻: BtoBの方は、自分たちで全部やるのは無理なので、ユーザーメリットを考えると基本的にオープンAPIでエコシステムを作って、ユーザが最大限メリットを享受できる形にしたいと思っています。今まで、面倒だった作業が全部自動化されて、お金も借りやすくなって、ビジネスをやりやすくしましょう、創業もしやすくなりますと、いう形にしたいです。個人向けの方は、お金の現状が簡単に把握できるようにはなりました。ただまだ現時点では、実際にソリューションまで提供できていなくて、例えば「あなたがこうしたらお金貯まります」、「こうやったら、例えば、生命保険、今より、安くていいもの入れます」など、情報格差をなくすということをしたいと思っています。ここも僕たち一人じゃできないので、そういうアクションを実際に提供している会社と組んでやることになると思うんですけど、あとは、最近試験的に提供し始めたのは、「Money Ask」というチャットサービスです。例えば、柴田さん、最近お金何を悩んでいること、聞いてみたいことありますか?


柴田: 最近ですか。最近僕、ロボアドバイザー始めたんですよ。他に何かやっておいた方がいいことありますかという話を聞きたいですね。

辻: なるほど。例えば柴田さんの資産が30億円あって、ロボアドバイザーに例えば、10パーセント預けました。残りの90パーセントどういうふうにしたらいいですかとか、そういうのをファイナンシャルプランナーに実際に聞きに行くって結構ハードル高いじゃないですか。

柴田: 僕は資産がそんなにないのですが、そもそも、所謂従来型の対面でサービスを提供するファイナンシャルプランナーは、顧客側も資産がそれなりにある人じゃないと、扱えないですよね。

辻: そうなんですよ。特に、日本はファイナンシャルプランナーに気軽に相談できるという文化がないと思うのです。だから「Money Ask」のようなチャットで、ファイナンシャルプランナーさんに気軽に相談できるようにならないかなぁと思っています。でも、想定より問い合わせが少なくて色々試行錯誤しているんですよ。まだテスト段階ではあるんですが。

柴田: なるほど。そこは、相談を待っていてもなかなか来ないと思うんです。ご指摘のようにユーザーに知識がない人が多いというのが現状で、その状態で「気軽に質問してください!」と言っても質問しにくいと思うんですよね。そもそも「何がわからないかが分からない」という状態だと思うんです。

辻: どうしたらいいと思います?

柴田: 僕の実体験で説明しますね。僕が使っているロボアドバイザーのサービスは、僕の銀行口座を接続したら「あなたは現金を持ちすぎている。そんなに必要ないでしょ?このまま現金で持ち続けると、ロボアドバイザーで運用した場合と比べて30年でこれだけ損します!」というメッセージが表示されたんです。あなたの生活パターン見ると、こんなに現金いらないでしょと、現金は多くても生活費の6ヶ月分ぐらい持っていたら十分で、それ以上の分は全部ロボアドバイザーに預けて運用して増やした方がいい、と。もし現金が必要なタイミングがくれば別にいつでも引き出せます、と。これ結構すごい営業トークなんですよ。

辻: わー、それは凄いですね。

柴田: 要はですね、銀行に現金を預金しておいても利息がほとんどつかないですよね。アメリカは大体年2%くらいずつインフレしているので、銀行にあずけていると、事実上2%ずつ資産が減っているのと同じです。アメリカの過去30年間の債券と株の利回り率ご存知ですか?

辻: いくつなんですか?

柴田: 過去30年間でならすと、債券が年利7%、株式は年利11%というとんでもない数字で運用できているんです。これは個別銘柄を自分で買う場合ではなくて、インデックスファンドのようなものを買う場合です。つまり、買う側は何も考えなくてもいい、ということです。

辻: すごいですよね。だって、年利7%だと10年やったら2倍ですからね。

柴田: そうなんです。ただ、この話には続きがあって、僕も一応こういう「うんちく」は数年前から知っていました。でも何もアクションをしなかったんです。ところが、あるロボアドバイザーのサービスを使い始めた瞬間、先ほど言ったように「あなたは現金持ちすぎている。このままだと●●万円分の機会損失が発生します!」とか言われて、ガーン、となって運用を始めた、という具合です。多分、その「Money Ask」のコンセプトもすごくいいと思うんですけど、ユーザーに聞いてもらうのを待つんじゃなくて...

辻: アドバイスしに行く。

柴田: そう、データを見て、機械が見てですよ。人間が見たらいいと思うんですけど、機械が見て、こういう可能性ありますよみたいなのもひとつの手段としてはあるのかなと。。

辻: ワンプッシュでね。

柴田: それをきっかけに会話が始まるみたいな感じにしたら、流行ると思いますね。二つの「壁」があると思っていて、一つ目はそもそも知識がない、という話です。債券が年利7%で運用されてきたということを知らないという話。二つ目は、自分の資産状況を見た場合に、どうしたらいいのか、というのが分からないという話です。

柴田: 一応、注意として言っておくと、ロボアドバイザーみたいなものは、元本保証はありません。従って、短期的には損が出る可能性があります。例えば、Brexitみたいな一時的なイベントがあると損が出る場合があります。ただ、中長期的に見ると、許容されたリスク範囲でお金が増え続けるようにアルゴリズムが自動的に金融商品を売り買いしてくれる、というがポイントです。


お金の「リテラシー」を高めるには

辻: 僕、社内では何度も言っているんですけど、今、日本はデフレじゃないですか。「マネーフォワード」を使ってもらうと、自分の資産の推移が全部分かります。資産が円だと、あまり減ってもなく増えてもいないんですけど、これドルに換算した瞬間、円安になったら、すごい減っているわけですよ。こういった視点ってすごい大事だと思っていて、将来のことは分かりませんが、例えば、中長期的に見ると、日本てやっぱり少子高齢化で国力弱くなって、円安になりますと、そうすると為替で外国のドルとか、ユーロとか、持っておかないと目減りするじゃないですか。グローバルでの資産が、だから、日本が今後1,700兆とか言われている個人資産を上手く活用するためには、そういう視点って個人の資産防衛のためには必要だと思っていて。だからもっと個人がそういうのに気づくきっかけを与えられるサービスを作りたいなぁと。実際アクションするかどうかは個人次第でいいと思うのですが、そういった気づきや情報、具体的なアクションの提示があったほうがユーザー的にはいいなぁと。。

柴田: そのお金の「リテラシー」という点では一つ仮説があります。アメリカの場合はですね、401K(確定拠出型年金)がお金のリテラシー教育という意味では大きな役割を果たしている気がして、要は、ああいうふうに積み立てておくと増えるというのが、みんななんとなく分かっているわけですよね。就職した瞬間から、401Kというものがあるらしいと、これはなんだということから、みんな、22歳くらいで勉強する訳です。日本も最近、確定拠出年金がやりやすくなったと思うのですが、もう少しプッシュしてもいいかもしれませんね。

辻: 日本の確定拠出年金も、最近、法律変わって、すごく改善されているので、401Kはでかいですね。

柴田: 401Kの教育効果は大きいです。401Kのガイダンスでよく言われるのが、例えば、定年65歳でリタイアのときに、1億円貯めるためには、毎月いくらずつ貯蓄したらいいかというのが出てくるわけですよ。数字は適当ですが、例えば25歳から始めると、毎月5万円ずつ積み立てれば良いけど、35歳から始めると、月10万円ずつ積み立てないといけません。「Power of Compound Interests」(「複利」のパワー)とか出てくるわけです。

辻: 分かりやすい。

柴田: そういう分かりやすいのがあるんですよね。実際、それは金利なので、先の話は分からないし、いろいろ変動するでしょうけど、その話の始まり方がこうなんですよ。65歳でリタイアするときに、1億円貯めるにはどうしたらいいか、5000万円貯めるにはどうしたいいのかといったような非常に根源的なところから始まる訳です。確かに、リタイアしたときに、1億円あったらいいよねって、みんな思うじゃないですか。

辻: 結局、運用とか資産って、やっぱり時間をどう味方につけるかがあって、早めにやることにこしたことはないですけどね。人類史上最大の発見は複利の力である、とアインシュタインが言っているのですが、資産運用は結果が出るまで時間がかかるので、現時点で資産運用するというインセンティブが働きにくいんですよね。それをどうやって強制力をある程度持たせてやるかというのが、結構社会問題でもあると思うんですよね。だって、日本の今後の少子高齢化考えると、圧倒的にちゃんと自分で資産管理をやらないと、国が全部助けないといけない時代になるじゃないですか。

柴田: 国が助けられないからですね。

辻: 助けられないですよね。そうなるより先にやらないといけなくて、そういうマクロ的な話もありつつ、個人としては、マネーフォワードとしては、やっぱりテクノロジーでそういうのどうやってできるかが、まだ誰もやっていないチャレンジなんですよ。

データとテクノロジーで最適化された資産運用アドバイスを

柴田: ユーザーとして便利だなぁと思うのは、例えば、僕はその資産が一部、円で、一部、ドルになっているので、ぐちゃぐちゃなんですけど、例えば、じゃあ僕の日本の銀行の口座を全部紐づけるから、どう運用したらいいか教えて、ソフトウェアに教えてほしいですよね。

辻: そうですよね。そうですよね。

柴田: 多分、辻さんから直接電話かかってくるとちょっとうざいんですよ。笑 やっぱりソフトウェアで、ここはもったいないからこうした方がいいとかというのって、いくつか結構自動的に言えるはずです。

辻: はい。

柴田: それやってくださいよ、ぜひ。プッシュしてくださいよ。

辻: プッシュしましょう。法律や規制面で確認しないといけないことはありますし、ユーザのプライバシーは同意を得た上で、という前提ですが。

柴田: 僕、あんまり財テクみたいなの好きじゃなくて、例えば、自分で個別で為替やったりとか、個別の会社の株買ったりとかって、上場企業の株を買って、今日上がった、下がったってやるのは苦手なんです。そんな暇ないし。出来立てのスタートアップの株を買うのは好きなんですけど。笑

辻: 分かります。

柴田: 自分が持っている株が上がったり下がったり、それで落ち込んだり、喜んだりするのって僕個人としては凄く苦手なんです。そうではなくて、英語だと「Set & Forget」と良く言うのですが、一旦、設定してしまえば、後はもう何もしなくてもいい、というようなニュアンスで、自分で細かく取引しなくても、中長期的に資産を最大化してくれるアドバイスは欲しいですね。

辻: お金のリテラシー教育はすごく大事ですけど、やっぱりすごく時間がかかると思うので、逆にテクノロジーでできることが多いと思うんですよ。だから、おっしゃったように、「Set & Forget」できる仕組みを作れば、いつの間にかお金が増えていく方向に向かうというようなアドバイスが出来るようになればいいなぁと思っています。

柴田: でも日本全体がデフレの中で、自分だけ5パーセント、7パーセントで回ったら、結構すごいと思ったりします。みんなが銀行預金して、そのお金は裏側では国債買われているのって、なんかあんまりハッピーじゃない気がするので。

柴田: 御社の場合、既に利用者が350万人以上もいるので、そこら辺の銀行より大きいですよね。

辻: はい。1億2,000万人の日本人のうち銀行のオンライン口座が多分、3000-4000万人ぐらいなんですよ。だからその3000-4000万口座までは到達したいと思っています。


Rubyのコミッターも在籍するプロダクト志向の企業

柴田: 最後に採用の話もしておきましょう。今何人ぐらいいるんでしたっけ。

辻: 今だいたい200人弱ぐらいですね。

柴田: 200人もいるんですか。今、月に何人ぐらい入社しているんですか。

辻: 月に10人ぐらいじゃないですかね。

柴田: 年間120人ぐらい入るんですか。今創業4年経ったぐらいで、200人、それはすごいですね。200人のうち、じゃあ、ビジネス系とプロダクト系の二つに分けたら、何人、何人ぐらいですか。

辻: だいたい半々くらいです。昔エンジニアの方が割合多かったんですけど、最近、カスタマーサポートとか、僕ら事業推進と言っているんですけど、世の中で言うところの営業+事業開発のメンバーも多くなってきたので、半分弱ぐらいがエンジニアじゃないですか。

柴田: プロダクト半分もいるんですか。多いですね。

柴田: 結構そのね、御社の場合、C向けもあるからあれなんだけど、BtoBのSaaSの会社って、エンジニアが30パーセントとかそれ以下になるケースが結構多くて、シリコンバレーでも、SaaSと言いつつ営業会社みたいになる場合が結構多いんですけど、200人もいて、まだ半分もプロダクトなんですね。

辻: そうですね。

柴田: それすごいですね。それこだわって、そうやっているんですか。

辻: やっぱりそこが一番の競争の源泉だと思っているんですよね。やっぱり、プロダクトじゃないですか。ユーザーさんを驚かすようなサービスを作る会社でいたいと思っています。

柴田: そうなんですけど、言うのは簡単ですが、エンジニア比率を半分に保ったまま成長するというのはそんなに簡単じゃないんですよね。

辻: 日本の場合は、営業が強い会社がやっぱり過去成功した会社を見ても伸びていますし、楽天さんしかり、GMOさんしかり、サイバーエージェントさんしかり、やっぱり営業力をつけないといけないなというのは常に思っています。逆にアメリカとの違いかもしれないですけど。

柴田: だからでも、半分ってすごいですね。どうやって採用しているんですか。

辻: もうあれですね、社員紹介が一番大きいです。やっぱり、いい人、優秀な人は、いい人を知っている。社員紹介に力を入れ始めてから、入社する人たちのうちの60パーセントくらいを占めるようになりました。

柴田: なるほど。じゃあ、マネーフォワードに入りたかったら、すでに働いている社員に話を聞きに行けばいい、ということですね。今どんな人が一番足りていないですか。

辻: 全部、全部足りていない。笑

柴田: そうですけど、プライオリティをつけてください。

辻: プライオリティはやっぱりエンジニアですよね。まずエンジニアで、僕らアプリケーションサイト、Ruby on Railsのエンジニアと、あとはスマホもあるので、iOS、アンドロイドが足りないです。

辻: 当社、Ruby on Railsを使っているのですが、社内に一人フルタイムのRubyのコミッターがいます。

柴田: 社員なんですか?

辻: 社員です。

写真: 技術顧問の松田氏、フルコミッタ―の卜部氏

柴田: その人は何をしていらっしゃるんですか。

辻: うちの仕事、いわゆるプロダクト作りなどは基本やらなくて、Rubyの開発をしています。

柴田: じゃあ、普通にRubyのコミッターという仕事をしているんだけど、マネーフォワードから金、給料をもらっているということですか?

辻:そうなんですよ。

柴田: オフィスに来ているんですか。

辻: 来ています。毎日来ています。オープンソースを使うだけじゃなくて、オープンソースのコミュニティに貢献しないといけないんじゃないかっていう問題意識がやっぱりエンジニアから出てきて、確かにそうだねと、じゃあ、そうしようかと言って、来てもらう事にしました。この規模の会社なので、とても大きなギャンブルでした。笑

柴田: すごいですね。Ruby on RailsやRubyで分からないことがあったら、その人に聞けるわけですよね。

辻: なんでも聞けます。

柴田: それすごい恵まれていますね。その人、そういう感じで今既存の社内のプロジェクトになんですか、コミットしなくても、なんかアドバイザー的に関わっていたりするんですか。

辻: 結構してくれています。僕らGeeks Nightと言って、エンジニアが集まって勉強するときとか、例えば、ある処理でRuby自体のレスポンスが遅いという問題があった時に、それもっと早くしてほしいという要望をしたりとかですね。

写真:Ruby開発会議時にオフィスの壁に書かれたコミッターのサイン

柴田: そうすると、こうしたらいいよとか。プログラミング言語の本体作っている人だから分かるわけですよね。

辻: そうなんですよね。その方もオープンマインドですごいいい人なんですよ。細かいことでもすごく丁寧にアドバイスしてくれて、そういうコミュニケーションだとか、関わり方というのはほんとにいいなと思います。

柴田: 新しいですね。だから、やっぱりソースコードレベルで分かっている人ってすごい強いと思いますし、御社の経営的に見ても、そうやって一人雇うことでお金は当然かかるんですけど、多分それを補って、余りあるベネフィットが、さっきオープンソースコミュニティに貢献とそれももちろんあるでしょうけど、それを除いてもですね、そういった意味を除いても、十分メリットがあるんじゃないのかなと。逆にそれって、Ruby on Railsでエンジニアの人だったらいいですね。Rubyのコミッターと一緒に働ける。毎日、話そうと思えば、話せる環境にあるというのは、結構職場環境としては、ちょっと福利厚生という言い方は悪いかもしれないけど、エンジニアのモチベーション的には凄く良いことだと思います。

辻: 最近、社内に技術部という部署を作って、技術の根本のところをしっかりやりましょうというのをやっていたり、あと僕らインフラとセキュリティが一番大事じゃないですか。やっぱり、セキュリティエンジニアとかも、非常に重要です。セキュリティとかインフラの勉強会に出ては、すごい興味持ってくれるような方が来てくれたりとか、そういうのは力入れていますね。エンジニアにとっては、すごい面白いと思いますけどね。

写真:meetupの様子

柴田: ビジネス側・事業側だとどんな人が欲しいんですか?

辻: Fintech系のビジネス、具体的には融資の新しいサービスをやろうとしていて、そのあたりの経験がある人が欲しいです。例えば、昔銀行で融資していましたとか、ノンバンクで事業開発とかマーケティングやっていましたとか。

柴田: 融資事業の経験がある人。

辻: はい。それ以外にも、事業推進とかの営業経験、法人の営業経験、最近、ダイレクトセールス部隊に力を入れていて、結構クラウド経費とか、クラウド給与とかって、やっぱりその会社に行って説明させてもらってみたいなのもやっているんですよ。そこの、そういうセールスのメンバーが足りなかったり。あとは、海外進出も視野に入れているので、なんかその辺とか、あらゆるところです。

柴田: やり方が、全然スタートアップっぽくないなと思って見ているんですけど、普通では考えられない具合に「横」に広げていくからすごいなと思って、普通スタートアップって「縦」に掘るじゃないですか。

辻: そうなんですよ。だから、最近ちょっと縦に掘ろうと反省しています。笑

柴田: 今そのレンディングのお話しがあったと思うんですけど、お金を貸すということですよね。要は、そういうビジネスをやると。それはやっぱり、クラウド会計を持っているからできることで、B向けに出すんですか、C向けに出すんですか。

辻: 両方可能性あると思っているんですけどね、まずはB向けで始めるというプレスリリースは出させてもらいました。

柴田: なるほど、例えば、アメリカだと、僕の会社は、Quickbooksという会計ソフトを使っているんですけど、Quickbooksからよく手紙が来ます。「あなたはこれだけのお金を借りれます。ワンクリックで24時間以内に振り込みます」みたいなのが来るわけですよ。Quickbooksはうちの会社の財務状況を全部見ているので、かなり機械的に「この会社にいくら貸しても大丈夫か」というを判断できているということだと思うんです。実際にお金借りたことはないのですが。

辻: そうですね。だから、今までだと、銀行融資とかって、バランスシートとか、損益計算書とか、ああいう試算表をもとに貸していましたと、ところが今、今まで見ることができなかった、キャッシュフローとか、トランザクションデータがあるので、それをもとにアルゴリズムで判断して貸した方が、ひょっとすると今まで借りれなかった会社も借りれるかもしれないし、あとは早いですよね。

柴田: 大事なところなので、もう1回お話すると、今までは、財務諸表とか、いわゆる、財務のある一時点の「スナップショット」だけを見て、貸す、貸さないという審査をしていたのが、クラウド会計になると全部のトランザクション(取引履歴)が分かるから、より精度高く、貸せるということですね。

辻: そうですね。キャッシュフローデータとかもあるので、もちろんユーザーさんの同意を取った上ですが、そのデータをもとにすると、今まで借りれない、貸せなかったプレイヤーに貸せる可能性はあるし、あとやっぱり銀行さんだと、営業の方がいて、営業のコストあるじゃないですか。そうするとコストに合わない小さい規模の会社って、行けないじゃないですか。インターネットでテクノロジーでコスト自体を下げることによって、そういった会社にもお金が借りることができるチャンスが広がるかもしれないし、必要な時に迅速にお金を借りることができて、会社の成長をドライブすることができるかもしれない。

柴田: そうですね。はい。

辻: 小さい規模の会社にも貸せる可能性が出てくると、あとは、どうしても人が審査とかするので、1ヶ月とか、2ヶ月とか、場合によっては、今までかかっていましたけど、ほんとに極端な話、今振り込みますとか、さっき柴田さんがおっしゃったようなこともできるようになるから、ほんとお金が必要なときにすぐお金を貸せる・借りれるという世界になります。

柴田: これはプレスリリースを見る限り、まずは御社が貸すのではなくて、すでにレンディングをやっている人たちに送客するようなビジネスになると思うんですけど、今後そこら辺、自分たちでもやっていくみたいなところあるんですか。

辻: 現時点で、僕たちはバランスシートが大きくないので、大きなお金は貸せないです。他方、僕たちはテクノロジーとデータがあるので、既に貸金業をやっているパートナーの方たちと一緒にやっていくのが、いいかなと思っています。新しいサービスなので、今後いろいろな課題、チャレンジが出てくると思いますし、将来どうなっていくのかは、まだ分からないですけどね。

柴田: トランザクションのデータを持っている人が、お金を貸すというのは、極めて自然な考え方で、さっき僕が言ったように、アメリカだとQuickBooksなんかもやっていますし、PayPalもBtoB向けにやっているみたいです。

辻: 今回いろいろアメリカ訪問したのもあるんですけど、一方で、カルチャーって違うじゃないですか。お金を貸すビジネスと、プロダクトを作るビジネスって、またちょっと違うなと思っていて。

柴田: そうですね。はい。

辻: それを同じ会社でやるのか、それとも、別会社で作ってやるのかとか、その辺はかなり慎重に考えないといけないとは思っています。苦手なところやカルチャーが違うことをやってもしょうがないので。

柴田: そうですね。多分、レンディングビジネスそのものは、多分、90パーセントぐらいオペレーションのビジネスですよね。そこは確かに、プロダクトの会社とはちょっと違うかもしれないですね。

辻: そうなんです。だから、そういう僕もレンディングのビジネスやったことないので、経験者の人を絶賛募集中です。

写真:2016年集合写真


柴田: 本日はありがとうございました。最後に、まだ言い残したことありますか?

辻: 柴田さんに顧問になってもらうにはどうしたらいいですか。

柴田: それは録音を止めてから話しましょうか。笑


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