しばQ: 上場している広告代理店のうち、セプテーニの売上規模がとても小さく見えるのはなぜ?
テスト的に一部の方にだけお知らせしていた「何でも質問できますコーナー = しばQ」を一般公開します。
このnoteは、「何でも質問できますコーナー = しばQ」の最初の回答です
Q: 上場している広告代理店のうち、セプテーニの売上規模がとても小さく見えるのはなぜ?
●●大学3年の●●といいます。就職活動のために、企業研究を始めたのですが、ネット広告代理店を調べると、セプテーニの売上規模がとても小さいです。
セプテーニに就職した先輩に聞いたところ、セプテーニも他社と同規模だと言われました。なぜ決算ではセプテーニの売上規模が小さいのでしょうか?
A: 会計基準の違いを理解できると、セプテーニの売上規模が小さく見える理由が理解できます。
はじめに、貴方の先輩やセプテーニで働く方の名誉のために書いておきますが、セプテーニの売上規模が小さく「見える」のは会計基準の違いのためです。実際にセプテーニだけが特別売上規模が小さいことはありません。
セプテーニの2017年1-3月の決算を見てみます。
*セプテーニホールディングス 2017年9月期 第2四半期決算説明会 (2017/5/1)
ここでは収益が35億円、営業利益が12.6億円でした。
例えばこれをオプトの決算と比較してみます。
*オプトホールディングス 2017年12月期Q1 決算補足資料(2017/4/28)
オプトの場合、売上高が209億円、売上総利益が43.5億円、営業利益が10.9億円となっています。
質問された方は、このオプトの売上高209億円とセプテーニの収益35億円を比較して、セプテーニの方がとても小さい企業なのではないか?という質問をされているかと思いますが、 厳密に言うと細かい話は多々あるのですが、オプトの売上高209億円と比較すべきは、最初のスライドの一番下の行に記載されている(参考)売上高189億円という数字になります。
セプテーニの収益35億円と比較すべき数字は、オプトの売上総利益43.5億円という数字になります。
広告代理店モデルにおける会計基準ごとの決算開示
広告代理店のビジネスというのは、広告主が予算100万円で広告代理店に依頼して広告を出稿する場合、広告代理店は例えば15%の「手数料」を乗せて広告主に対して115万円を請求するというようなビジネスになります。
オプトやサイバーエージェントは日本会計基準を用いているため、例えば上記のような取引があった場合、
まず売上高として115万円を計上し、媒体費である100万円を原価として差し引いて、15万円を売上総利益という形で計上します。
一方でセプテーニのような国際会計基準(IFRS)を適用している会社の場合、収益は自社の手数料である15万円という計上をします。
この辺りは言葉遣いも非常に紛らわしく、明確に違いを表すためには「グロス売上」「ネット売上」と言った言い方をすることがあります。
通常、「グロス売上」と言った場合は媒体費を含む数字になるので、上の例では115万円がグロス売上になります。
「ネット売上」と言った場合は媒体費を除く数字になるので、上の例では15万円がネット売上になります。
同じような誤解が生まれやすい状況は電通と博報堂の間にも起こっています。
電通は国際会計基準、博報堂は日本会計基準を適用しているため、電通の収益と博報堂の売上を比較すると博報堂の売上の方が大きく見えてしまいますが、実際には電通の方が取扱高や売上総利益などは大きい会社なので、とても紛らわしい状況になっています。
ちなみに就職活動中とのことなので、2017年1-3月期のネット広告代理店の主要数字も紹介しておきますね。
サイバーエージェントの広告事業は、売上が525億円、営業利益が53億円です。
*サイバーエージェント 2017年9月期第2四半期 決算説明会資料 (2017/4/27)
アドウェイズは、売上が117億円、売上総利益が21.2億円、営業利益が1.6億円でした。
*アドウェイズ 平成29年3月期 決算説明会 (2017/5/12)
整理すると以下のようになります。
就職活動がんばってくださいね。
おまけ: 国際会計基準の「収益」の考え方
国際会計基準では媒体費を含まない手数料部分のみを「収益」として計上するという話に触れました。
業態によって細かい違いはもちろんあるのですが、国際会計基準のIFRSやアメリカの会計基準のGAAPにおいては、自社で仕入れあるいは在庫リスクをとると「収益」として計上できるという形になります。
今回の広告代理店の例では、広告代理店が媒体に支払う媒体費というのは広告代理店が在庫リスクを負わない形である場合がほとんどだと思われます。こういった場合は媒体費は経費として計上することはできません。
だから、自社の「手数料のみ」を「収益」として計上します。
一方で例えば、Amazonのようにメーカーから品物を一旦自社に仕入れて、在庫リスクを自社で負った上で販売するような場合は、商品の「販売価格」を「収益」として計上するケースが多いです。
おまけのおまけ:そもそもなぜ複数の会計基準が?
今回、国際会計基準と日本会計基準が出てきましたが、なぜ統一されていないのかというと、元々はどの会社も日本会計基準だったのですが、経済のグローバル化に伴い日本の企業も国際会計基準を適用した方が良いのでは?という議論が長い間続いています。アメリカも独自の会計基準があるので、国際会計基準とのルールの統合に向けて動いています。
日本では2016年6月に国際会計基準の任意適用企業の拡大を促進するという閣議決定がされましたが、強制適用にはまだなっていません。
*国際会計基準をめぐる最近の状況 金融庁 (2017/2/14)
金融庁が発表している数字としては、2017年2月時点で上場企業で適用しているのは131社、適用予定の上場企業が28社ということで、東京証券取引所の上場企業数3,557社に対して5%未満の状況です。
しかし、近い将来強制的に適用となる可能性もあるため、あずさ監査法人の調査では約8割の企業がIFRS対応の準備を進めているそうです。
二つの会計基準は考え方が大きく異なる部分も多いため、会計基準の統一にはもう少し時間が必要かもしれません。
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