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米ヤフー、売却後を占う5つのポイント

米ヤフーが米ベライゾンに48億ドル(約5100億円)で買収合意へ」という報道が出はじまりました。早ければアメリカの25日(月曜日)のマーケットが開く前にも発表されるとのことです。

時代の象徴でもあった米ヤフーがこのような形で売却、というのは非常に残念な気もしますし、ようやくこれで落ち着くのかと思うと、ホッとする気持ちもあり、複雑な心情ではあります。

先週発表された米ヤフーの決算発表は、米ヤフーとして事実上最後の決算発表になる可能性が高いので、簡単に振り返ってみましょう。

2016年の4-6月期は、売上は$1.3B(約1300億円)、EBIDTAが$172m(約172億円)という数字でした。

この数字だけから判断すると、$4.8Bという買収額は、年換算売上の1x、EBITDAの7xという金額になります。これらのマルチプルだけ見ると、売却する米ヤフー側にとっては非常に厳しい条件での売却、ということになるでしょう。

ベライゾンがAOLを買収した際には$4.4Bを払いました。今回の米ヤフーの買収金額もさほど差がないことを考えると、米ヤフーへの評価があまり高くなかったことが良く理解できると思います。(米ヤフーの方が、AOLよりは大きい事業を持っているため。)

なぜこんな厳しい条件での売却になってしまったのか、というと、成長がマイナスだからです。

米ヤフーのビジネスは、検索連動型広告とディスプレイ広告の2つなわけですが、両方ともマイナス成長でした。

検索連動型広告の方は、クリック数がYoY -24%と現象、クリック単価がYoY +8%増加しているものの、全体としてはYoY -18%でした。

ディスプレイ広告は、広告数がYoY +9%、広告単価がYoY -15%とこちらも現象です。

以上のように、一言で言えば

(スマホ化の波に乗れず)マイナス成長の事業なので、低いマルチプルでしか買えません

ということです。


売却そのものはもうほぼ決まりなんだと思いますし、金額もあれだけ長期間に渡ってオークションをしてきた上での金額なのでデマンド・サプライの交差点の金額なのだと思いますが、売却が正式発表される際に注意して見ておくべき5つのポイントを整理しておきたいと思います。今回の売却ディールは非常に複雑な背景があるので、売却先・金額以上に他のポイントにも十分気をつけておきましょう。


焦点1: 売却益に関する税金

今回の一連の売却は、米ヤフーの株主が「本業とアリババ株式を分離せよ」と言い始めたことがことの発端です。

はじめは、アリババ株式部分だけを別会社で切り出すスキームが検討されましたが、税金的なリスクが大きすぎて断念。米ヤフーの本業を他社へ「事業売却」の形で売却する形で模索して、今回の報道に至ります。

もし今回の売却が報道通りに実現すれば、$4.8B(4800億円)もの売却益が米ヤフーに入るので、当然、課税対象になります。

米ヤフーの株主からすれば、税金は出来るだけ小さい方が良いでしょうから、この課税スキームがどういった形になるのか、というのは注視しておく必要があるでしょう。


焦点2: 米ヤフー株主への還元方法

「本業」の売却が完了すると、米ヤフー社の資産は以下のようになります。

・アリババ株
・ヤフー・ジャパン株
・知財(特許など)
・現金

これらを見ると、ほぼ投資会社にしか見えません。この状態で上場を継続するのか、株主への配当等を行なうのか、行なうとすればどのように行なうのかなどなど、非常に複雑かつ、今後の同様ケースでのガイドラインを設定しかねないケースなので、注視しておく必要があるでしょう。

税金の話と連動しますが、単純に「アリババ株を売って、株主に配当すればいいじゃないか」と思う方もいるかもしれませんが、アリババ株を仮に売却できたとしても、その売却益に対して税金がかかるので、株主からすると「それはやめて」となる訳です。いかにして課税を回避してくるのかが見ものだと思います。


焦点3: マリッサ・メイヤーCEOと現経営陣の行方

前述の通り、ベライゾンは、米ヤフーと非常に似た事情構造を持つAOL社を既に買収済です。

ベライゾングループの「ネット事業」担当役員は、AOL CEOだったティム・アームストロング氏が担当しています。

今回、米ヤフーを買収するに際して、ベライゾングループの「ネット事業」担当役員は誰になるのでしょうか?

ティムがそのまま担当する場合、米ヤフーCEOのマリッサ・メイヤー氏とその経営陣の処遇が焦点になります。

ティブの上にマリッサ・メイヤーを配置するということはあまりないと思いますが、その可能性もゼロではありません。このあたりの「買収後の人事」も焦点の一つです。


焦点4: ヤフー・ジャパンとの関係

米ヤフーは、ヤフー・ジャパンの30%以上のシェアを有する第二位の株主です。今回の$4.8Bの売却には、ヤフー・ジャパンの株式は含まれていないため、米ヤフーとヤフー・ジャパンの関係が非常に大きな焦点になると思います。

この点が面倒なのは、「米ヤフー」ブランドを保有することになるベライゾンが、スプリントの直接の競合にあたるからです。

つまり、このまま放っておくと、ベライゾンは、ヤフージャパンに対して、いろいろ悪いいたずらをすることが出来ます。(実際にやるかどうかは別にして、例えば「明日から日本で『ヤフー』を名乗るの止めてね」と言えてしまうかもしれません。)

そうなると、一番困るのは、ヤフージャパンの親会社であるソフトバンクです。ヤフージャパンという「稼ぎ頭」のブランド名と一部のサービスを、スプリントの直接の競合に依存することになるからです。

米ヤフーが保有する株式を買い取るにも約1兆円の現金が必要ですし、仮に買い取ったとしても、上述のようにリスクが消える訳ではありません。この点、ベライゾンは、アメリカの携帯キャリアで、日本でのネット事業にはあまり関心がないとは思いますが、どのようにソフトバンクがディールをまとめるのか、非常に気になります。


焦点5: 検索連動型広告・ディスプレイ広告の統廃合

旧AOLも米ヤフーも、主要なビジネスは、検索連動型広告とディスプレイ広告の2つです。

検索連動型広告部分だけを見れば、旧AOLはGoogleのOEM、米ヤフーはマイクロソフトBingとGoogleのハイブリッドという形になっています。

ディスプレイ部分は、米ヤフーが(以前買収した)Brightrollの技術が高く評価されているようですが、旧AOLも当然、自前でディスプレイ広告システムを持っているわけなので、このあたりの統廃合がどのように進むのか、というのも注視する必要があると思います。


以上、5つの焦点をまとめてみましたが、買収発表時には、金額以外にもこれらの点を注意して見ておきましょう。現場からは以上です。


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