eBayとPaypalの離婚。幸せになったのはどっち?
離婚の原因
そもそも、なぜeBayとPaypalが離婚しなければならなかったのか、復習しておきましょう。これを理解するには、Paypalの歴史を知っておく必要があります。
Paypalは個人間の送金サービスです。サービス開始後、一番急成長したのは、実はeBayでの支払いに使われたからでした。それもあって、Paypalは株式公開後にeBayに買収されました。10年以上前のことです。
この時は、サービス間のシナジーが凄まじかった。一般的に、アメリカの投資家はコングロマリット(複数の事業が1つの会社下にある状態)を嫌がりますが、これだけシナジーがあるならまぁいいか、という状態が10年以上続いていました。ところが、時代はPCからスマホ主導に変わって、この事情が変わってきました、というのが離婚の背景です。
eBayの決算(2015年10-12月)
まずはeBayの決算を見てみましょう。
最初は売上。なんと、売上はYoY +0%です。(今期はアメリカ企業にとって為替が不利でしたが、為替影響を除外してもYoY +5%しか成長してません。)これはあまりいいニュースじゃないですね。
次に購買者数。過去12月間の購買者数がYoY +5%しか伸びてません。通常、スマホ化すると、購買者数(回数)が増えて、購買単価が少し落ちる、というのが一般的ですが、購買者数の伸びが頭打ちになっています。
最後に、ECビジネスで一番重要なKPIであるGMV。GMVというのは「流通総額」のことです。アメリカでYoYで+4%「しか」成長していません。(為替影響を除外してもYoY +5%しか成長してません。)流通商品数もYoY +4%のみの成長。ほぼフラットで辛いですね。
会社側が発表している、通年での成長率予測もYoY -1%〜+2%と非常にネガティブです。
Paypalの決算(2015年10-12月)
次にPayPalの決算を見てみましょう。
まずは売上。YoY +21%の$2.6B(約3000億円!)。成長率が凄いですね。この売上成長はどこから来ているのを少し見てみましょう。
Paymentビジネスで、ECのGMV(流通総額)に相当するのが、TPV(総支払額)。これがなんとYoY +29%も伸びてます。この規模で+29%の成長というのは凄まじいです。
次にアクティブユーザー数ですが、こちらも3ヶ月前に比べて660万ユーザー増えているとのことです。絶好調ですね。
最後にアクティブユーザーあたりのトランザクション回数ですが、これも綺麗なカーブで増えています。四半期に27.5回ということは、
約3日に1回はPaypalのサービスで支払いをしている
ということになります。もはや完全にインフラ企業の域に達していますね。
離婚後に幸せになったのはどっち?
以上を読んでいただければ、離婚後に幸せになったのがどちらか、というのは明白ですね。eBayは成長できずにいるのに対して、PaypalはYoY +25%以上の成長です。
以前は夫婦仲良くやっていたこの2社がなぜこんなに差がついてしまったのか、少し掘り下げてみたいと思います。
PayPalの何が上手く行っているのか?
最初に幸せな方から。決算資料のp6にヒントがあります。3つあります。
Mobile volume growth of 45%. Mobile represented 25% of TPV vs 21% a year ago
1. スマホでの支払いがYoY +45%も伸びた。スマホでの支払い額は全体の25%(1年前は21%)
Venmo volume up 174% to $2.5 billion in the quarter
2. Venmoという(買収した)サービスがあり、これが174%も伸びて、$2.5Bも支払いを処理した。
Since acquisition, Braintree full year volume has quadrupled
3. 数年前にBraintreeという決済APIの会社を買収しましたが、この会社の年間取扱額が買収時から比べて4倍になった。スマホアプリなどのアプリ内決済などで使われています。
Paypalの勝因は、一言で言うとこういうことかと思います。
スマホで勝ってる
1. (アプリ開発者に使われる)Braintreeの買収、統合が非常に上手く行っている
2. 個人間送金アプリのVenmoが急成長。
eBayの何が上手く行っていないのか?
↑に記載したGMVのスライド(p14)に小さくこんな記述があります。ヒントはコレ。
Q4 FX-Neutral global fixed price grew 12% Y/Y and auction-style listings declined 22% Y/Y
どういうことかというと、
固定価格販売はYoY +12%伸びたが、オークションスタイルの販売がYoY 22%減少した(為替影響を除外した場合)
ということでして、要は昔ながらの「最高落札価格で入札した人が買える」という形のオークションが嫌われているということですね。モバイルの時代、フリマアプリのように、固定価格で「サクッと」買える方が好まれている、ということなのでしょう。
スマホ時代のECに重要なことは?
これだけ決算が悪いと、eBayは今後どうしていくのか、ということを投資家に説明しなければなりません。決算資料では、冒頭で7ページも使って説明されているのが「Structured Data」という取り組みです。
「Structured Data」というのは、要は「商品カタログを強化」ということです。オークションやフリマの場合、「商品カタログ」が整備されいないと、2人の出品者が全く同じ型番の中古iPhoneを出品する場合に、2つの別々の商品として登録されてしまいます。
これは買う人側からすると困る場合があります。欲しいものが決まったのに、出品されている商品を検索して、一つずつどれが自分が欲しい型なのかさがさねばならず、とっても面倒ですね。もし、同じ型番の中古iPhoneが、一つのカタログ商品に紐付いていれば、そのカタログ商品の中から、価格を見ながら選べばいいので、だいぶ簡単になります。
つまり、eBayはオークションサイトとして、この「商品カタログを強化」に十分投資してこなかった。その上、PC時代に流行った「オークション形式」がスマホユーザーに嫌われている。この2つが決定的にダメージになっているということです。
スマホ時代のECに大事なことは、
欲しいものがサクッと探せて(商品カタログが整備されていて)、サクッと買える(オークションではなく固定価格)
ということなのでしょう。
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