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携帯キャリアの1ユーザーあたりの売上・利益いえますか?

9本目です。3大携帯キャリア(NTTドコモKDDIソフトバンク)の2015年10-12月決算が出揃いました。

携帯キャリアビジネスは、インフラビジネスなので、インフラ投資が必要な反面、規制産業なので凄まじく儲かります。今回は、1ユーザーあたりの売上・利益を詳しく見てみたいと思います。


携帯キャリアビジネスの営業利益率・市場シェア・解約率いえますか?

恒例の「主要KPIは頭に入れておきましょう」のコーナーから始めます。

上の表は、可能な限り「携帯キャリアビジネス」セグメントだけを切り抜いたものです。(ドコモは携帯だけですが、KDDIとソフトバンクは固定電話ビジネスが分離できていません。)

細かいことはさておき、大雑把に

EBITDAマージン: 30%以上
営業利益率: 20%程度

のビジネスだと覚えておきましょう。あれだけの設備投資をしながら、これだけの規模でこれだけの利益率が出るビジネスは他に無いでしょう、というくらい儲かることが良くわかると思います。

政府や総務省が「携帯料金が高すぎるから、もっと安くするように」と指導したくなる気持ちも何となく分かりますね。


次に、市場シェアですが、上の表にある通り、

ドコモ: 48%
KDDI au: 28%
ソフトバンク: 24%

と覚えておきましょう。(「契約数」はなるべく携帯「電話」のみの数字に近いものを抽出しています。データカード等は除ける場合は除いてあります。)

また特筆すべきは、解約率の低さです。四半期あたり0.58%〜1.41%「しか」解約されないというのは、Subscription(継続課金)のビジネスをやったことがある人であれば「特異的に低い」と言えることが良く分かるでしょう。(これだけ解約されないから、あれだけ儲かるし、MNPにあれだけキャッシュバック等ができる、とも言えます。)


1ユーザーあたりの売上(ARPU)

全社ともに必ず毎回の決算発表スライドには「ARPU」のスライドが入っています。ちなみに、「ARPU」(Average Revenue Per User)とは、「1ユーザーあたりの売上」のことです。ARPUというのは、携帯ビジネス以外でも良く使う用語なので、はじめて見た方は覚えておきましょうね。

簡単に各社のARPUを見てみましょう。

まずはNTTドコモです。1ユーザーあたり、割引前で5470円/月(割引適用後で4490円/月)の売上があります。


次にKDDI/auですが、割引前でARPUが6160円/月です。KDDIは割引額を開示していません。(他の2社から推測するに、月1000円程度の割引になっていると思われます。)


最後にソフトバンクですが、割引前で5200円/月(割引適用後で4720円/月)のARPUとなっています。

まとめると、以下の表のような形になります。

大雑把に、日本の携帯キャリアは、1契約あたり

  割引前で月間5,500円〜6,000円のARPU
  割引後で月間4,500円〜5,000円のARPU

と覚えておけば良いでしょう。

では、次に1ユーザーあたりの利益を見てみましょう。


1ユーザーあたりの利益(EBITDA、営業利益、キャッシュフロー)

携帯キャリアビジネスはインフラ投資が大きいため、利益を見る際にどの指標で見るかを注意する必要があります。

一般的に「利益」というと「営業利益」をイメージする方が多いかと思いますが、他にもEBITDA(償却前の営業利益)やキャッシュフローを見ることも重要です。


表にまとめてみました。A〜C2までは前述の表と同じです。

DにはEBITDAマージン%を転載し、Eには割引適用後のEBITDA(償却前の営業利益)を記載しています。なお、KDDIに関しては、割引額が開示されていないため、NTTドコモとソフトバンクの間をとって1000円/月を割引額としてあります。

注: EBITDAマージン%、営業利益率%を計算する際、上述ように可能な限り「携帯キャリアビジネス」セグメントだけを切り抜いてありますが、ドコモは携帯だけですが、KDDIとソフトバンクは固定電話ビジネスが分離できていませんので、実際の数字は多少異なる可能性があります。

Fには営業利益率%を転載し、Gには、営業利益を計算してあります。

更にHには、四半期あたりの設備投資額÷累計契約者数÷3として、「1ユーザーあたりに必要だった設備投資額」を記載しています。これとEとの差分を摂ることで、Iに1契約あたりのキャッシュフローが記載されています。

これを簡単に整理すると、携帯キャリアの1ユーザーあたりの売上・利益等は大雑把に以下のようになると思われます。

  売上(割引前): 約5,500円/月
  売上(割引後): 約4,500円/月
  EBITDA: 約1,500円/月
  営業利益: 約900円/月
  キャッシュフロー: 約800円/月

つまり、1契約を取ると、毎月約900円ずつ営業利益が出るビジネスで、(しかも2年ロックがありますので、解約率が1%程度と非常に低いという夢のようなビジネスです。しかも、規制産業で事実上新規参入が無理、かつ、国民ほぼ全員が1人1台持つもの、という非常に巨大なビジネスです。

(上表の計算式を見ていただければお分かりの通り、非常に「雑な」計算をしています。これ以上詳細情報が開示されていないので、これ以上は難しいというのもありますが、非常に大雑把な計算をしているという点をご理解ください。)


「MNPキャッシュバック」が乱発された背景

一時、「MNP(他キャリアからの番号移転)するなら、XX万円キャッシュバック」という現金バラマキが起こり、社会問題になりましたが、この背景を少し経営的に考えてみたいと思います。

上述のように、携帯キャリアビジネスとは1契約を新規に取ると、毎月約900円ずつ営業利益が出るビジネスです。そして、2年間は契約がロックできる(途中解約の場合は違約金あり)ため、1契約獲得するのに、900円 x 24ヶ月 = 21,600円かけても、2年間トータルで見れば赤字になりません。つまり、携帯キャリアの経営陣としては、すごくコンサバに見積もっても「1契約取るのに2万円かけていいから、取れるだけ取れ!」と考えるのはとても自然なことなのです。

ましてや、解約率が四半期あたり1%程度と非常に低いです。四半期に1%ということは、2年で8%程度です。つまり、90%くらいの契約は2年後に解約されることはないわけです。この低い解約率まで考慮すると、1契約を取るのに2万円よりもずっと大きい費用をかけても、回収できるというビジネスです。

この儲かりすぎる構造こそが、2015年に起こった政府や総務省からの「指導」の背景にあると考えるのが妥当です。


「2年契約ロック」の背景を考える

2015年に起こった政府や総務省からの「指導」は、個人的にはあまり意味が無いと思いますが、ユーザーにとって利便性が高いとは言えない状況が続いています。その典型が「2年契約ロック」でしょう。

日本の携帯キャリアの「2年契約ロック」は、世界的に見ても相当酷いレベルだと思います。アメリカの場合も似たような契約解除ペナルティはありますが、

新端末を2年間の分割払いで買う場合は、その2年間の間に解約したらペナルティを払う必要がある。ただし、2年後以降に同じ端末を使い続けるなら、解約時のペナルティは(ほぼ)ゼロ。

となっています。つまり、2年間契約をコミットしてくれるのであれば、携帯電話本体の代金を分割払いで払えるようにする上に割引します(だから途中解約時は残金ちゃんと払ってね)というある意味、日本の「2年契約ロック」に比べて「フェア」な形になっていると思います。


では、なぜ日本では未だにこの悪しき「2年契約ロック」が存在してしまっているのでしょうか?というのを次回のnoteで読み解きたいと思います。


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