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ソフトバンクは、なぜARM社を3.2兆円もの大金で買収するのか?

速報です。最近、持ち株の売却などで約2兆円の現金を捻出したあげく、株主総会前夜に、副社長だったニケッシュの退任を発表したソフトバンクですが、英ARM社を買収するというニュースが入ってきました。それも、3.2兆円ものソフトバンク史上最大の買収です。

金額、タイミング、買収先全てに驚くばかりですが、Brexitの影響で、1ポンド155円くらいだったのが、1ポンド139円くらいまで落ちてきているので、為替を上手く利用したタイミングと言えるでしょう。

また、負債規模や投資方針などでソリが合わなかったとされるニケッシュ氏との決別の直後ということもあり、

ニケッシュがいなくても一人で買収できるもん。
オレほど借金できるヤツは世界にもいないだろ!

という傘下のダイエーホークスとは真逆に、世界の借金王へと突き進む決意を感じさせられます。

さて、それはさておき、この買収の狙いを少し見ていきたいと思います。


英ARM社とは

ARM社が何をしているのか、良く分からない人も多いかと思います。一言で言うと、「組込み型半導体のライセンス提供」をしている会社と言えば分かりやすいかと思います。

ビジネスが「ライセンス」ビジネスなので、非常に長い期間に渡るR&Dと回収が必要なビジネスで、同社の決算資料によると、通常、

・R&D(基礎研究)に2-3年
・製品化に3-4年
・その後25年以上に渡って販売

という具合に、ソフトウェアのビジネスと比べると圧倒的に長いサイクルでのビジネスになっています。(医薬品ビジネスみたいなものだと思えばいいでしょうか。)

2016 Q1の売上が$398m(398億円)なので、年換算で約1600億円の売上の会社に3.2兆円払うということになります。売上マルチプルが20xととてつもない倍率で、「高値で掴まされている!」という批判も聞こえてきそうです。

この「高すぎるのでは?」疑惑は既に指摘されていて、2015年の営業利益の70x、EBITDAの50xという金額で買収することになりますので、常識的に考えれば「こんな高い値段で買うのは馬鹿だ!」となりかねません。

皆さんご存知の通り、ソフトバンクは一件「高すぎる!」という値段で買収しても、後から振り返ってみると実はそんなに高く無かった(=皆が価値に気づかなかった)というケースも多々ありますので、一体、どんな意図でこんなに高い値段(マルチプル)を払うのか、というのを少しみたいと思います。


CPUの2系統

PCであれスマホであれ、コンピューターにはCPUが必要です。CPUには大きく以下の2系統があります。(専門家の方が突っ込みたくなる内容であることは承知の上で、分かりやすくするために単純化して書きます。)

・PC・サーバーなどに主に用いられるx86/64系
・スマホ・IoTなどに主に用いられるARM系

前者のx86/64系は、主にIntel/AMDの2社が知財から製造・販売まで行っている「垂直統合型」だと思ってください。このx86/64系は、パソコン・サーバーに主に使われるものです。

後者のARM系は、ARM社が知財を有し、その知財を製造メーカーにライセンスし、製造メーカーが実際にCPUチップを製造するという形が取られています。x86/64型が「垂直統合型」であるのに対し、ARM系は「オープン戦略」を取っています。ARM系は、スマホやIoTデバイスなど「スペックはそこそこでいいけどバッテリー重要」というケースで主に利用されています。

実際の市場シェアを見てみると、上の図のように、スマホ以前はx86系の方が大きかった訳ですが、スマホ以後、2018年には、x86/64系とARM系がほぼ同じくらいになるという見込みが出ています。


ARM社の市場シェア

それぞれの市場での市場規模と市場シェアを見てみましょう。

市場| 市場シェア 市場規模(2015) => 市場規模(2020)
--------------------------------------------------------------------------
スマホ | 85% $18B => $25B
ネットワーク機器 | 15% $13B => $16B
サーバー | <1% $15B => $20B
組込み型(IoT) | 30% $21B => $30B

市場| 市場シェア 市場規模(2015) => 市場規模(2020)
--------------------------------------------------------------------------
車載 | 10% $10B => $15B
モバイルその他 | 35% $13B => $15B
家電 | 40% $20B => $20B
その他 | 30% $7B => $10B


上の数字を見ると、

・スマホでは独占に近いレベルでシェアを獲得済
・サーバーではほぼゼロ
・車載用途は10%と伸びしろあり
・家電は40%のシェアがあるが、市場が伸びる見込み無し

ということが言えると思います。


スマホはARM系部品なしでは製造できない?

同じく決算資料の中に面白い資料を見つけたので、記載しておきます。

ARM系の部品(ARMからライセンスを受けて製造されている部品)は主に、CPU、センサーの2つがあるとのことです。

上位機種、中位機種、下位機種のそれぞれ、以下のようなチップが乗っているとのことです。

上位機種
 CPU: $15-20
 ネットワークセンサー: $5-$10
中位機種
 CPU: $5-15
 ネットワークセンサー: $2-$3
下位機種
 CPU: <$5
 ネットワーク: $1-$2

要は、現代のスマホは、ARM系の部品がないと製造できない、というレベルと言ってもいいかもしれません。

また、このスライドで面白いのは、スマホの製造台数は、2015-2020年でCAGR(年平均成長率) 6%で伸びるとの予測ですが、ARM社のロイヤリティ収入はCAGR 約15%で伸びる予定だとのことです。これは、スマホが「高スペック」化していくからで、CPUコア数やGPUなどより高度なチップが必要になるからだ、と記載されています。


IoT系でもシェア拡大の見込み

上の図にある通り、組込み型(IoT)系でも、消費電力が少ないチップの販売が見込まれているとのことで、CAGR 7%で伸びる市場でシェアを30% => 50%位まで拡大する意気込みのようです。

組み込み型の用途としては、スライドの右側にある通り、スマートシティ、スマートホーム、産業用、農業用、ウェアラブル、MCU、センサー、スマートカードなどが対象となっています。


まとめ

以下、簡単にまとめます。

・3.2兆円での買収というのは、売上の20倍という非常に高いマルチプルで買収
・CPU2系統のうち、スマホ・IoTという今後に伸びが期待されるCPUをほぼ独占でライセンス提供
・スマホではシェア80%、今後も1台あたりの売上増加の予定
・IoTではシェア30% => 50%まで拡大予定


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