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非ゲームアプリのマーケティングについて語ったよ

柴田: 今回の「しば談」は、AppLovinの坂本達夫さんにお越しいただきました。まずは最初に自己紹介と自社紹介をお願いします。

坂本達夫さん(以下、敬称略): 坂本達夫と言います。1985年生まれの30歳で、2人の子どもが居ます。2008年に新卒で楽天に入ったのですが、新卒で楽天に入ろうかどうしようかって迷っていた時に、後押ししてくれたのが06年に新卒で楽天に入社していた柴田先輩っていうことで知り合って、今まで関係が続いています。楽天で3年半勤めたあとグーグルに転職して、グーグルでも3年半ぐらい勤めて、去年の2015年の6月からAppLovinという今の会社で、日本への展開を担当しています。

坂本: AppLovinは本社がパロアルトにある、いわゆるシリコンバレー発のアドテク企業で、今まだ社員はグローバルで100人ぐらいの人数なんですけど、2015年の売上が日本円で250億円以上、去年も今も年100%以上の成長をし続けています。日本でも月数億円の売上にまでなってきて、ようやく業界では名前を知られてきたかなと思うんですけど、一般にはまだあまり知られていない結構な優良企業です。

坂本: やってることはモバイルとAppleTVアプリのアドネットワーク・DSPです。広告主にとって価値が高くない小さいサイズのバナーとかって言うのはやらずに、インタースティシャル(全画面)広告・動画広告・ネイティブ広告って言う、価値の高いフォーマットにフォーカスしています。広告主のリターン、広告投資対効果を最大化するって言うところにフォーカスしてアルゴリズムをガリガリ磨いて、それで伸びてるって言う感じです。競合他社と比べると、営業にかけてる人数がすごく少ない方だと思います。


AppLovinは、本物のテクノロジーの会社

柴田: 100人のうち営業ってどのくらい居るんですか。

坂本: いわゆる広告主側の営業と、パブリッシャー(媒体)獲得の営業を全部合わせて、10人ちょいぐらいです。一番多いのがエンジニアとプロダクト担当で半分ぐらい、オペレーションが20人ぐらい、バナーや動画を作るデザインチームが10人ちょい、あとはマーケとかコーポレートが数名ってかんじですね。

柴田: 典型的にエンジニアと言うかプロダクトドリブルの会社だなって言う感じですね。よくあるパターンとしては、アドテクと「テクノロジー」と言いつつ、実際はアドテクじゃなくて広告代理店・アドエージェンシーの場合が多いですけど、AppLovinに関しては完全にアドテク・テクノロジーの会社だなと言う印象が昔からあります。

坂本: 柴田さん、AppLovinを昔からご存知なんですか?

柴田: 創業時くらいから知ってますよ。昔から皆が「リワード広告だ」とか言ってる頃から、CPIだけじゃなくて、ROAS(※詳細は後述)ベースで「ちゃんと広告主に価値がある広告を出す」って言うことをずっと最初から言ってて。「いつかそういう時代になるんだろうな」と思ってたら、本当にそうなってるって言う感じですよね。アメリカだとFacebookとGoogleの次に大きいんでしたっけ。

坂本: モバイル(スマホ)の広告では、Facebook. Google, Twitterみたいな「大きいお兄ちゃんたち」に属してない、いわゆる独立系のアドの会社だと、多分一番大きいと思います。モバイルアプリの領域だと、GoogleのAdExchangeを買い付けてるDSPでも一番取引金額大きいらしいです。

(写真はAppLovin 創業者 Adam)

柴田: お客さんの種類で行くと、ゲームとゲーム以外でいうと、どんな感じですか。

坂本: もともとはゲームがすごく多くて、うちの会社で言うと、昔からソーシャルカジノとかスロットといったカテゴリだと圧倒的に強いです。それ以外のゲーム系でも、トップデベロッパーはほとんどお客さんですね。最近は非ゲームがすごい増えて来てて、去年時点では、トップ広告主の25〜30%ぐらいが非ゲーム広告主からの売上だったと思います。日本はまだ去年立ち上がったばっかりで、手っ取り早いゲームから始まったんで、ゲームが多いんですけど。最近非ゲームの取り扱いも徐々に始まって、増えてきてるって言う感じですね。


日本の非ゲームのアプリ化は遅れてる? アプリ化すべきサービスとは?

柴田: なるほど。じゃあそんなところで、今日のテーマの「非ゲームアプリのマーケティングをどうするべきか」って言う話なんですけど、どういう話をしましょうか?

坂本: 僕がGoogleに居る時から見てて課題に思ってるのが、日本ではゲーム以外のアプリで、がっつりマーケティングできるぐらいビジネスとして上手く行ってるものの数とか種類とかが少ないなって言う感じを持ってるんですよね。絶対数としてもそうですし、海外で上手く行ってるアプリとかと比べるとジャンルも少ないなって言う感覚があって。パッと思いつくところで言うと、メルカリに代表されるEC(eコマース)系、漫画・コンテンツ系、ニュース系などがあるんですが、バラエティすごく少ない。

柴田: なるほど。非ゲームだとアプリ化が進んでないんじゃないかって言う話ですね。

坂本: はい。一方、ウェブですごく上手く行ってる会社、例えば楽天やリクルートみたいなところって、ウェブにかけている力と比べると、ぶっちゃけアプリにそんなに力を入れていないんじゃないか、という感覚を持っています。もっとちゃんとやれば絶対売り上がりそうなのに、ちゃんとやれてないというイメージで。その結果後から出て来たメルカリとかにバチバチにやられて、みたいなところがあるじゃないですか。

柴田: アプリをウェブほど頑張っていないんじゃないか、と。

坂本: はい。柴田さんから見てて、それってどこに問題があると思いますか?会社の組織的な理由でアプリにあんまりフォーカスできてないんでしょうか?それとも、アメリカで、アプリで上手く行っているように見えるところも実は、VCから資金調達したお金を大量に広告費に投入しているだけで、実はビジネスとしては上手く行っていないという話なんでしょうか?何故こんなにアメリカと日本で非ゲームアプリの進み具合が違うんでしょう?

柴田: まず、アメリカと日本を比べると、アメリカの方が進んでて日本の方が遅れてるってのはその通りだと思います。1日あたりの接触回数が大きいものほど最初にアプリ化すると思うんですよね。だからメッセンジャーとかニュースとかSNSみたいなものは、1日に何回も使うので、アプリでなければならない。例えば、30秒しか時間がない時、ウェブだとページが読み込まれるまでに5秒以上とられたりするので、ユーザーはイラッとしてそのサービスを使わなくなってしまうじゃないですか。1セッションが短いんだけど、頻度が高いものって言うのは100パーセントアプリにした方が良くて、むしろアプリじゃないことのデメリットがすごく大きいと思います。

出展: App Annie 2015年第1四半期アプリ利用状況レポート:日本を含む5大市場で比較するアプリ利用状況

坂本: 確かに、コンテンツの読み込みに時間がかかると、ブラウザをそっ閉じ...しますね。

柴田: 他方、例えばEC(eコマース)みたいなのって、別にアプリになってなくてもそんなに困らないんですよ。確か、楽天みたいな最大手のマーケットプレイスでも、1ヵ月に1ユーザーが買うのって最大4回くらいなので、ちょっとぐらいUX(ユーザー体験、ユーザーエクスペリエンス)が悪くてもあんまり困らない、という話なのかと。

坂本: 毎日使われるわけでもないし、まぁアプリ頑張らなくてもウェブでいっか、みたいな。

柴田: そういう感じですね。メルカリとかは多分もっと接触回数が多いはずなんですよね。

坂本: メルカリの場合は、コアのユーザー体験が単に「買い物が安い・便利」というより、結構ユーザー同士のやり取りとか、コミュニケーションの部分だったりしますもんね。

柴田: そうですね。なので、そういう利用頻度が高いものはアプリになってた方が良いけど、そうじゃないものは別にアプリ化を急がなくても困らない、って言う世界だと思っています。

坂本: トラベル系とかも同じですかね。ECよりも更に使う頻度が低いと思うのですが。

柴田: トラベルは利用頻度、低いと思いますよ。ただ人によるんですよね。頻繁に出張してる人って結構居るんで。食べログとかYelpみたいなレストラン検索アプリって言うのは、毎日は使わないかもしれないけど、結構な頻度で使うじゃないですか。そういうのはアプリになってたほうが良いなと思います。eコマースって意外とそんなに頻度が高くないので、スマホの中で利用頻度という軸で見ると、主役ではないかなという感じはしますよね。例えば、Uberは使う人は本当に結構使うじゃないですか。

坂本: ぼくも出張でアメリカに行った時とかは、ちょっとした距離の移動は全部Uberですね。Uberがないと生きていけない、という感覚は良く分かります。

柴田: サンフランシスコだと、普通に、通勤にUber使っている人もいますね。会社でUber補助が出たりします。タクシーチケットみたいなものですね。

坂本: それはちょっと羨ましい(笑)。

柴田: 日本だとアプリ化が遅れてるなと思うのは、金融系サービスですね。金融系って割と接触頻度高いんですよ、銀行の残高確認したりとか、1日に何回もしないかもしれないけど、少なくとも1週間に1回ぐらいしたい人はそれなりにいるはずですよね。それなのに、クレジットカード会社のアプリとか、アメリカの方が全然良く出来ていると思いますよ。

坂本: 確かにそうですね。そういうのうちの嫁は家計簿としてマネーフォワード使ってるんですけど、銀行の残高とかカードの利用履歴とかはマネーフォワードのアプリでチェックしています。あれって確かに、楽天カードのアプリとかでサクッとチェックできれば、そっちを使ってたかもしれないですもんね。

柴田: そう。なので、接触頻度が高いものはアプリになってた方が良いなと言う感じはしますよね。


非ゲームアプリの広告以外のマーケティングの肝

坂本: アメリカの非ゲームのアプリデベロッパーさんって、マーケティングってどんなことしてるんですか?ゲームの場合は割と想像しやすくて、Facebook広告やって、動画広告やって、予算が余ったら全画面広告とかやって、最後にバナーをやるじゃないですか。日本みたいにオフラインとかテレビとか、そんなに選択肢が無いので。

柴田: Paid Acquisition(広告でのユーザー獲得)は、非ゲームでも、アメリカでも同じような感じだと思いますよ。広告以外も含めますか?

坂本: 広告以外の話もぜひ。

柴田: 非ゲーム系の会社って、ある程度歴史がある会社で、ウェブにもうユーザーが居る場合が多いんですよね。そういう場合は、ウェブで新規ユーザーの獲得をして、そこからアプリに送客してリテンションを高くする、みたいなパターンが多いですよ。お客さんのおもてなしをする時に「新規顧客はウェブでおもてなしして、リピーターはアプリでもてなししましょう」みたいなことをよく言ってますね。

坂本: GoogleのApp Indexingなどが出て来たとはいえ、特に検索経由の場合は、未だにほとんどウェブにランディングしますからね。アプリは「このアプリが欲しい」って明確になってからダウンロードされることが多いと思うので、「たまたま」の出会いはウェブの方が多いですよね。

柴田: 利用時間で見ると、アプリとウェブで、アプリが80%、ウェブが20%ぐらいなんですけど、トータルの利用者数で見ると、ウェブの方が大きいですよ。1人あたりの滞在時間がウェブはすごい短くて、いろんな情報探そうとしてるということですね。欲しいもの・情報を探せたタイミングでちゃんとアプリをダウンロードしてもらうか、あるいは既にダウンロードしているユーザーは、ウェブに飛ばさずアプリ開いてもらうって言う努力を、アメリカの会社の方がすごく丁寧にしてる気はします。理由は2つあって、UXを考えたら、アプリの方が全然良い訳ですよね。どれだけ考えてもアプリの方がユーザー体験を良くできるので、そっちにお客さん持って行きたいと。

出展: アプリに費やす時間 (Flurry) 

坂本: 本来はそうあるべきですよね。イケてないアプリしか出していないサービスは、その限りでもないですが。

柴田: もう1つはリテンションを考えるとアプリの方が良いというのがあります。一番大きい理由はプッシュ通知が送れること。アプリだと、ユーザーが嫌にならないような範囲でプッシュ通知を簡単に送信できるじゃないですか。ウェブだとそれができないので、メールをバンバン送らなきゃいけないみたいな感じの世界観になってしまって、どんどんユーザーに嫌われていくという。

坂本: どこかの会社みたいになっちゃいますね。

柴田: そういう風になるから、最初に見つけてもらうのはウェブでも良いんですけど、1回見つけてもらったらなるべくアプリを開いてもらうのが良い、ということを皆分かっていて、そのための施策を丁寧にやっている印象です。


なぜ非ゲームの会社はアプリにリソースを割けない(割かない)のか?

坂本: すごく不思議なのが、本当はアプリの方がUX良いはずなのに、日本だとアプリの方がUXが悪いサービスをよく見るんですよね。例えば、GoogleのApp Indexingにきちんと対応して、検索経由のユーザーをアプリに流し込んだら、アプリの転換率がウェブより悪かったために逆に売上が落ちた(そして理不尽にも、Googleの担当者が怒られた)、ってことを聞いたことがあります。ニワトリと卵という感じもするんですけど、今現在ウェブの方がビジネスや売上が大きい会社の場合、アプリに力を入れない法則とかあるんですかね。ウェブを改善して売上を数パーセント上げた方が、アプリをガンと伸ばすよりもインパクトが大きいから、ウェブの方に投資のお金が行っちゃったりとか、エースエンジニアがアプリをやらない、みたいなことが結構起こってるのかな...

柴田: そういう話はよく聞きます。正確には、アメリカで2年前くらいに良く聞きました。そこは多分、経営陣のセンスの問題だと思っていて。ユーザーがウェブに費やす時間って言うのはどんどん減ってるんですよ。他方、アプリに費やす時間はどんどん増えている。

再掲: アプリに費やす時間 (Flurry)

柴田: その中でウェブに賭けるって言うのは、縮小するマーケットにお金を突っ込んでるって言うことなんで、それが本当に正しいかどうかって言う経営判断の話だと思うんですよね。ユーザーの利用時間とか利用者数とかで行くと、アプリが増えてく訳ですよ。いろんな経営戦略あって良いと思うんですけど、これから大きくなるところに張るのか、これからしぼんで行くところに張るのかって言うのは、まさに経営判断以外の何者でもないと思うんです。

坂本: なるほど、おっしゃる通りですね。

柴田: もう一つは、組織の話もあって、ウェブとアプリを別々の部署にしてると大体ケンカします。リソースの取り合いとかになります。上手く行ってる例で聞くのは、「モバイル」という大きなくくりにして、フロントエンドやUX担当みたいなくくりでひとまとめに担当させちゃう、みたいなのです。

坂本: ウェブもアプリも同じ人がどっちも一緒に見るということですか?

柴田: はい。デザイナーもエンジニアも混ぜちゃった方が良いですね。同じチームが担当するから、ウェブとアプリでUXの差が出にくいし、リソースの問題もある程度同じチームなんで「仲良くやれよ」って言う話になりやすいのかなと。ウェブチーム、アプリチームって分けるやり方はオールドスクールな組織のやり方。アメリカの会社なんか、ほとんど分かれてないんじゃないですかね。

坂本: そうなんですね。

柴田: もちろん「モバイルチーム」の中で担当者は分かれてると思いますよ。ただ、組織を作るときにまずウェブとアプリを分けて考えるって言う発想そのものが、もう終わってる、というイメージです。

坂本: 日本だと確かに、名刺交換すると「アプリチーム」みたいな肩書のところ多い感じしますね。

柴田: 非ゲームの場合は特にウェブとアプリの間がシームレスになってればなってるほど良い訳ですよね。ディープリンク対応などもしないといけないので、チームが分かれていると辛いと思います。

坂本: まずはデータベースを全プラットフォームに対応できるようにきちっと構成して、ウェブではそれをどう見せる、アプリはiOSとAndroidでそれぞれどう見せる、みたいにそれぞれのデバイスやプラットフォームごとに最適化するみたいな発想ですね。

柴田: はい。なるべくシームレスの方が良い訳ですよ。UXも似てた方が良いし、ウェブからアプリにスッと行けるようになってた方が良いじゃないですか。そうなってた方が良いにも関わらず、部署が分断されてるとかって言うのは、単純にそれは経営センスの問題かなと。組織上、人事上のミスでしかないと思います。

坂本: 今から例えばやるんだったら、モバイルウェブ見てる人にアプリもまとめてやらせちゃうのがいいんですかね。

柴田: そうですね。あとはKPIの管理の仕方も、ウェブをアプリとをあわせて見ていく必要アリです。トータルで伸びることが重要な訳ですよね。

坂本: 両方を見てる人がいれば、アプリの方が同じリソースを投下した時にウェブより伸びるって判断したら、その人が「じゃあアプリにもっと投資しよう」って言う決定ができるって言うことですね。

柴田: その通り。大抵の場合では、特にエンゲージメントの数字を見ると、アプリの方が圧倒的に良い訳ですよ。でも部署が分かれてるとケンカするんですよね。例えばウェブからアプリにユーザーを流そうってなると、ウェブのチームからは「ユーザーが減る」って反対が出るんですけど、追いかけるべき指標を「トータルの」エンゲージメント量に設定すると、ウェブでもアプリでもどっちでも良いわけで、とすると当然アプリに寄せた方がそのKPIが上がるじゃないですか。

坂本:普通にそうですね。

柴田: だから結局、KPIの設計、つまり経営陣が何を見るかを勘違いしてる場合がほとんどなんじゃないかなって言う気がしていて。現場の人がアプリのことを分かってないから、ダメだとかって言う話ではないのかなと言う気がします。課題設定が間違ってるって言うパターンがほとんどなんじゃないかなと。

坂本: まぁ確かに自分の経験を振り返っても、現場の人は「もっとアプリちゃんとやれば良いのに」って分かってるケースは多いですね。

柴田: 大事なことなので、もう1回繰り返すと、大事なことはスマホの中における自社のサービス全体の、ユーザー数、利用時間、売上なんかを最大化することなわけです。本質的にはアプリかウェブかって言うのはどうでも良いわけですよね。でも、非ゲームの場合大半の例を見ると、アプリの方がエンゲージメントも良いし、頻度も高いし、売上も大きいしって言う風になるんですよ、99パーセント。僕は逆の例を見たことがないです。

坂本: 逆があったとしたら、アプリが本当にクソな場合ですよね。

柴田: そうそう。だとしたらそのゴールに沿えば、アプリ側に寄せる方が正しい訳じゃないですか。今は大半がウェブな時にそれをやろうとすると、ウェブ側のKPIが落ちるから、困るって言う話になるんですよ。そこは要するに、ウェブ vs アプリという「局所最適化」をするのではなく、モバイル全体でのKPIの「全体最適化」ができるような組織とか、目標設定にしなきゃいけないって言う、それだけだと思うんですけどね。

坂本: そして、最後はそれを上から決定する経営陣のセンスって言うことですね。

柴田: そうですね。ウェブのユーザー数を最大化しても、全体で損してたら意味ないじゃないですか。良く「モバイルが分かるエンジニアがいなくて...」と嘆いている経営陣の人がいるのですが、問題はタレントや人材ではなく、組織や経営的な問題だと思うんですけどね。

坂本: 結構いろんなところにそういう問題ある気がしますね。例えば小さい会社を買収しましたとか、新規事業やりますって言う場合も、既存の売上が大きい事業にリソースが集中して、すごく伸びてるけど小さい事業はないがしろにされる、っていう「あるある」。

柴田: それはケースバイケースで、既存の大きいものがまだまだ伸びると思うんだったら、そっちにリソースかけるって言うのは極めて正しいんですよ。そうじゃなくて既存の大きい方はもう伸びないという状況で、小さくても始めなきゃいけないんだって言うんであれば、小さい方に張らないといけないじゃないですか。今回のウェブ vs アプリの話に関しては、今のところアプリに寄せるしか選択肢はないと思うんです。それなのにその判断ができない、あるいはウェブ側に投資しちゃってるって言うのは、普通に考えて、これから小さくなるマーケットにお金を突っ込んでるってことなので、経営者としてイケてないと思うんですよね。


ウェブやHTML5の時代は来るのか?

坂本: そういう話するとときどき「でもまたウェブの時代が来るかも」とか「HTML5が〜」みたいなことを言う人がいると思うのですが、どう思います?

柴田: すみません、残念ながらそんな時代はしばらく来ないですね(笑)。ブラウザの性能はOSの性能、あるいはハードウェアの性能ほど良くならないと思うんですよ。

坂本: 言い切りましたね。なんでなんでしょう。

柴田: なぜなら、競争がないから。例えばiOSの中だとSafariとChromeは競争してないんですよ。Safariは独占だし、Chromeも裏側でSafariのエンジン使わなきゃいけないって言うルールになってる。そうしないとApp Storeの審査通りません。こういう構造になってる以上は、AppleがSafariを良くするインセンティブは小さいです。独占なので。

坂本: 少なくとも、iPhoneが売れないほどSafariがひどくない限りは、改善するインセンティブが無いってことですね。

柴田: そうです。同じようにAndroidでも、Chromeがほぼデフォルトで入ってて、それを置き換えて何か入れる人ほぼ居ないじゃないですか。

坂本: よっぽどのマニアックな人以外は。

柴田: そうするとChromeを劇的に良くしようと言うインセンティブがないんですよ。一方でiOS vs Androidって言う観点で考えると、例えばiOSとかAndroidのゲームの3Dの描画エンジンを良くするって言うインセンティブは、めちゃくちゃあるんですよ。だってAndroidからしたらiOSよりももっと綺麗なゲームを作れるようにしたいじゃないですか。デベロッパーを囲いたいから。Appleも同じこと考えてますよね。

坂本: 良いコンテンツを自社のプラットフォームに囲いたいってのは昔からありますよね。

柴田: 3D描画エンジンの話はWWDSやGoogle/IOで必ずキーノートに出てきますが、ブラウザの話はキーノートには入りませんよね。そう考えるとブラウザじゃなくて、そっちの3Dのゲームの描画エンジンみたいな方に絶対リソースを突っ込むので、ブラウザは全部後回しになると思うんですよ。するとどんどんネイティブとウェブの差が広がって行って、縮まるどころか広まって行くと思っています。

坂本: 良いクオリティのサービスを作ろうと思ったら、アプリじゃないとできない時代が続くということですね。

柴田: 残念ながらしばらくそういう感じになるんじゃないかなと思います。HTML5は素晴らしい技術だと思いますし、エンジニアとしてはもっともっと進化して欲しいなと思うけど、残念ながらネイティブアプリに匹敵するほど良くなることは、しばらくはないんじゃないかなと思います。ビジネスに徹するなら、そういう淡い幻想は捨てなさいと言うことですね。

坂本: なるほど(笑)。面白いですね。


ディープリンク・App Indexingはなぜ普及していないのか?

柴田: 今日、もう1つ話したかったのは、ディープリンク(Deeplink)が全然流行らないのはなぜかって言うことなんですが、何故だと思いますか?

坂本: ディープリンク流行んないですね。App Indexingも当初想定されていたよりも、全然皆やってないじゃん、みたいなところありますね。普通に対応すればメリットあると思うのですが...

柴田: Universal Linkとかも対応しているアプリが数えるほどしか無い気がしていて、特に日本のサービスひどいなと思っています。例えば僕がGoogleで何か検索した場合、検索結果に出てきたサイトの中で、既に端末にアプリをインストールしているものがあれば、アプリを開いて欲しい訳です。ですが、実際はウェブページに飛ばされて、そこにも「アプリを開く」ボタンもない。

坂本: アプリをダウンロードしよう!っていう、AppStoreとGooglePlayへのリンクがめっちゃ貼ってあるサイトとかはありますけどね。

柴田: それはまだ良いですよ。だって頑張ろうとしてるじゃない。頑張る気力がない奴らが多すぎる気がしています。

坂本: 確かに。ウェブサイトやってる人だと、皆当たり前のようにGoogleのクローラーにサイトマップ食わせたりしてSEO対策しているのに、何でアプリでやんないのかなって言うのは謎なんですよね。

柴田: それももしかすると、さっきと同じ話で、モバイルサービス全体を見ている人がいなくて、モバイルウェブの担当者はアプリにユーザーを送客するインセンティブがない、という話なのかもしれないですね。

坂本: もう一つは、スタートアップとか「今からアプリ作ります」みたいな小さい会社とかの人も、基本的な技術的なことを知らないって言うのは割とあります。iOSやAndroidの仕様やベストプラクティス自体あんまり実は読んでないような気も。そういうのを無視して勝手にデザインしているものを結構見ますよ。GoogleもAppleも、基本自分たちのプラットフォームに最適化して作って欲しいって思ってるはずじゃないですか。未だに「Androidではバックボタンには対応させましょうね」みたいなことを、毎回Googleがカンファレンスで言わなきゃいけないみたいな状態って、皆それぐらい読まずに作ってるってことなんじゃないかと。

柴田: なるほど。頭痛いですね、それ。


非ゲームアプリの広告の現状と課題

柴田: 広告以外のユーザー獲得の話をしてきましたが、非ゲームの広告系の話では、最近のトレンドはどんな感じなんですか。

坂本: そうですね...進んでる会社でも「未だにCPI(Cost Per Install=インストール単価)でしか成果を評価していない」というのは、特に非ゲームだと顕著ですね。ゲームは最近よく「ROASで見てるんですよ」みたいな会社が増えてきてます。ちゃんとしてる会社はちゃんとROASで評価して、CPIも広告主側は少なくともそんなに気にしない。代理店からは未だに「CPI抑えられないですかね」とかって言ってきたりするんですけど、そういう人は、広告主のゴールをちゃんと理解できてないのかなぁというケースが多いですね。

柴田: なるほど。日本は代理店文化なので、そこはちゃんと理解してもらわないと困りますね。

坂本: 他方、非ゲームは、CPIしか見てないみたいなところの割合が9割9分みたいな印象があります。唯一ちょっと違うのは、例えばリクルートのSUUMOのような、「ゴール(Action)が資料請求」みたいに明確なアクションポイントがあるケースで、その場合はCPAを目標にする、という風にCPI以外の指標で見てるところはあります。

柴田: なるほど。一応、ROASを聞いたことがない読者の方に説明しておくと、ROASというのは、Rerurn On Advertising Spendの略で、広告費を1円使った時に、いくら売上が上がるか、という指標です。論理的に考えると、広告費を100万円かけて、3ヶ月で売上が200万円上がるのであれば、その200万円の売上を何人のユーザーから作ったか、逆にいうと1ユーザーあたりの獲得にいくらかかるのか(=CPI)というユニット単価はどうでもいい、という話です。

坂本: 例えばニュースアプリみたいな課金がないアプリの場合、本当は継続率とかに最適化すべきなんですよね。インストールが増えても、アクティブユーザーが増えないとビジネス的に意味ないですし。なので、普通の広告だと継続率が1週間後で20%だけど、継続率が30%になる広告があるなら、1.5倍のCPI出して良いよとかってやるのが「正しい」考え方です。でも現実的には、特に広告代理店から「CPIをとにかく下げてくれ」って言われることが未だに多いですね。

柴田: ここに関しては僕いくつか問題のパターンが見えて来てて、1つは今まさにおっしゃってた、会社側・広告主側がゴール、つまりコンバージョンの定義が決めれないパターン。有料会員になってもらうのがゴールなのか、1週間後の継続率がXパーセントなのがゴールなのかでだいぶ話が違うじゃないですか。

坂本: 確かに。分かんないから「とにかくCPIって言っときゃ良いや」ってなっちゃうわけですね。ECとかは比較的分かりやすいですけどね。

柴田: でもECでも結構難しくて、本当はLTVを最大化したい訳ですよね。LTVを正確に測定しようとすると、無限に待たなきゃいけないんです。それは出来ないので、インストール後30日以内の購買を最大化するのが良いのか、30日ではなくて14日なのか、7日なのか、というのは割と正解がない問題です。そうすると広告主側がゴールを決められないパターンがでてきて。

坂本: 「ゴールを決められない」問題は、イチ広告会社の営業担当として結構辛いなって感じることが多いです。広告商品として見れば、AppLovinみたいなROASで自動的に最適化してくれる広告商品というのは、広告主にとっては非常に楽なはずなのですが、その良さが、あえて悪い言い方をしちゃうと、アホには伝わらないんだなぁと思うことはあります。CPI安くたくさん取るのがゴールだと思ってる人に、うちのプロダクトいくら売っても刺さんなくて辛いんですよね。CPIが安けりゃ良いじゃなくて、100万円投資して120万円返してくるんだったら、ユニットあたりのコストが100円だろうが1万円だろうが一緒だよね、という話です。

柴田: まずはそこの啓蒙が必要かもしれないですね。

坂本: でも目の前の広告主の担当者の人からは「そんなん言われても僕インストール数で人事評価されるんで」みたいなことを言われることもあります。

柴田: そうなんですよ。結局組織とかゴール設定が間違えてる。

出典: http://www.tatsuojapan.com/2016/01/cpi.html

柴田: 2つ目の問題はさっきの話と全く同じなんですけど、ウェブとアプリが別々のチーム、マーケティングも分かれてたりするんですよ。そうすると、ウェブの方は1会員獲得あたりいくらでやってるから、アプリもそれに合わせろとか、そういう話になっちゃう場合があって、いわゆる「局所最適」が起こるという話です。本来であれば全体最適をすべきであって。例えばLTVまで含めると、アプリで取った人の方がウェブで取ったお客さんよりもROIが高いんであれば、アプリでどんどん突っ込んだ方が良い訳じゃないですか、本当は。

坂本: なるほど。

柴田: なので、やっぱり組織の話もKPIの話も、とにかくアプリとウェブを混ぜたほうが良い、っていうことですね。

柴田: あと3つ目の問題はトラッキングツールの問題があるのかなって言う気がしています。

坂本: そこ切り込みますか。

柴田: 要するにウェブとアプリを横断でトラッキングできないと困るんですよ。そうしないととチームを一緒にしてもまたケンカするんですよ、チームの中で。違う指標・KPIを見てるから。

坂本: 同じユーザーでも、アプリとウェブの両方を使っていたら、別ユーザーとして扱って見てたりとかしますしね。

柴田: 広告のトラッキングとかも、ウェブ用とアプリ用が1個になってないと困る。

坂本: 元々ウェブ用のトラッキングツール、例えばGoogle AnalyticsやSitecatalystなどが、一応ウェブとアプリと両方同じダッシュボードで見れるようになっているはずです。でもアプリのトラッキングや分析に特化すると、アプリ専門でやってるツールのほうが使いやすかったり高機能だったりするので、GAやSitecatalystはあまりメジャーではない印象ですね。

柴田: 本当はそういうトラッキングツールじゃないとすごい困りますよね。多分組織だけ変えても、結局また中でケンカするんじゃないかなみたいな。

坂本: 同じ指標で見てないからってことですね。

柴田: 大事なことは、もう1回繰り返すと、スマホ全体のユーザー数なり売上なりを増やすことな訳ですよ。ウェブかアプリかって本質的にはどうでも良いはず。組織だったりツールだったりが分断されいるがために、片方を増やすと片方が減るということになったとき、ケンカをして最適に動かなくなるって言うパターンが多いと思うんですよね。

坂本: 同じものさしで両方を見てれば、片方が減った結果としてもう片方が伸びたのであれば、全然良いわけですからね。

柴田: あるいは同じ例えば100万円ずつ投入して、ウェブとアプリでどっちがパフォーマンス出るかって、一発で見られたらさっきの問題って起こんないと思うんですよね。僕が例えばECとかトラベルの会社の社長だったら、別々のKPIで報告されたら絶対困ると思うんですけど、皆どうしてるんですかね?「頼むから同じKPIで報告してくれ」って言うと思います。

柴田: 今日のところはこの辺でやめておきましょう。お忙しい中、ありがとうございました。


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