地方発スタートアップの真実

柴田: 今回の「しば談」は、福岡でグッドラックスリーを経営されている井上和久さんにお越しいただきました。まずは、簡単に自己紹介・自社紹介をお願いします。

井上和久さん(以下、敬称略): 福岡でスマートフォン・キャラクターの会社をやっています。主力事業のゲームに加えて、映像とか音楽とか動画とかも商品展開とかも進めていて、モバイルアミューズメントパークという構想を掲げて、スマートフォンとかタブレット上で楽しめるエンターテインメント・体験を提供していくっていうことをやろうとしています。創業は2013年なので、3年経過したぐらいです。

柴田: いま社員何人くらいいるんでしたっけ。

井上: 46人くらいですね。

柴田: 結構いますね。でも46人もいて、前期まで黒字を続けているってすごいですね。

柴田: ちなみに、読者の人に分かりやすいようにビジネスの内容を簡単に、お話しておいたほうが良いかもしれないんですけど、 キャラクターを持ってるパートナーさんと、一緒にゲームを作るんですか? ゲームなり、キャラクターなり。

井上: 『さわってぐでたま』という、シリーズ累計200万ダウンロード突破したアプリがそのパターンです。そのパターン以外にも、自分たちで、オリジナルキャラクターをつくって、某アミューズメントパークと一緒にゲームをリリースするっていうプロジェクトも進めています。

柴田: 他社のキャラクターでやる場合は、どういう感じになるんですか一般的に?受託開発費みたいなのをもらうんですか?

井上: 受託開発費をもらうのではなく、自分たちで、リスクを取って開発費を出して、ゲームを作って、キャラクターの権利元にロイヤリティーをお支払いするっていう感じですね。

柴田: オリジナルキャラクターのゲームを作る場合は?

井上: その場合は、某アミューズメントパークみたいなパートナーがいる場合は、両社で開発費を出資し合います。 出資した開発費の比率に応じて、利益を分け合います。当たり前なんですど、「福岡から世界へ」を目標に掲げた時に、いきなり自己資本だけで達成するにはなかなか大変なんですよ。そういう時に、「じゃあ、この案件は、開発費は自社で全部出すけど、キャラクターは既存で人気あるものを使おう」とか、「この案件は、キャラクターは自分たちで作って、当たるかどうかは分からないけど、ここは両社でリスクを取って、開発費は共同出資にしましょう」とか。プロジェクト毎に、自社でリスクをとる部分と、パートナー企業に、機能補完、リスク負担して頂く部分っていうのを設定していくのです。

柴田: なるほど、それがまさに、コンテンツ企業の経営戦略なんですね。


なぜ福岡で起業したんですか?

柴田:突然ですが、そもそもまずなんで起業したんですか?もともと大学を卒業されてドリームインキュベータ(DI)ですよね。当時からエンタメ系の仕事をたくさんされているのは知ってたんですけど、なぜ起業したんですか?

井上:柴田さんは僕の性格をよく知ってるからご理解いただけると思うんですけど、僕は、基本やりたいことをやって生きていきたい人間です。エンタメ系企業のコンサルをしているうちに自分でもやりたくなってきたから、実際にドリームインキュベータで社内起業して、やってく中でたくさんの失敗をしてDIとしてはやめることになってしまいました。しかし、それでもどうしてもやりたかった。起業は手段だっていうんですけど、どうしてもやりたいことがあったときに、最終的に、「自分で起業」しか手段がなかったみたいな(笑)そしたら、やるしかないよね。起業はその時点においては1番適切な選択だったと思います。

柴田:起業した理由はわかりました。なんで福岡でやろうと思ったんですか?東京でやるっていうのが普通の発想だと思うんですけど。

井上:最初は福岡でやりたかったわけではなく、もともとやりたいことをやるのに人を集めようとしたら東京じゃ集まらなかったんです(笑)当時は、ソーシャルゲームの成長期で、東京の相場だと、「エンジニアは年収1,000万円からです」という状況でした。その年収でエンジニアを雇うと、お金がないスタートアップは、雇って給料を払ったら、その瞬間に、資金ショートみたいな状況なわけです。当時の福岡は、まだ、エンジニアがモバイル分野とかあんまりやってなくて、興味があるエンジニアはいるけど、やれる会社が少ないみたいな状況で、チャンスがあったわけです。グッドラックスリーのCTOも福岡で見つけました。彼みたいに、情熱も能力もある人材がいるんだったら可能性があるんじゃないかと考えました。あとは、私の地元で地の利もあるし。東京の人脈と、福岡のクリエイター人材を掛け算にすると、結構オリジナリティーがあるかなと思いついたわけです(笑)

柴田:確かにそうですね。差別化が必要なスタートアップが、当時の東京のソーシャルゲーム企業と給料を競争しても勝てないわけですね。面白いです。

井上:やりたいことを何とかやろうと追求しつづけて、最適な道を模索する中で、勝手に「独自性」が生まれていく。そんな感じです。

柴田:いい話ですね。

井上:流れとか運命みたいなものを感じてるんです。福岡がスタートアップ都市宣言したから、福岡で起業したわけじゃないですよ。福岡で起業していたら、福岡がスタートアップ都市宣言したみたいな感じでした。


福岡市のスタートアップ支援はイケてる?

柴田:実際どうですか?高島市長のスタートアップ都市宣言

井上:福岡が注目を浴びるので、ありがたいと思っています。「福岡は、スタートアップ盛り上がってるらしいね」みたいな事を言われること自体は良いことです。ただ、僕が危惧しているのは、じゃあこんなに盛り上がっちゃって、結果って誰が出していくんだみたいな。僕らの周りの友人達が、その候補者達ですよ。福岡のスタートアップのコミュニティーは、とても狭いんで。「俺らだよな!やるしかないな!」みたいな。グッドラックスリーが事業展開しているスマートフォンとかコンテンツ分野っていうのは、成長の爆発力があるわけですよ。だからやるべき使命であるんだろうなとは思っています。売上100億円、1,000億円を狙えるメガベンチャーって、福岡のスタートアップがまだあまり見えなかった地平だと思っていて、やる以上は、そこを目指しています。

柴田:行政のサポートっていう面ではどうですか?僕あんまり行政にサポートしてもらったことないんですけど。。。

井上:僕も、当初は全く期待してなかったわけですよ。でも、福岡の行政のサポートは、凄く良いです。まず、行政にいる人たちが違うんですよ。民間企業から中途入社してきた人達や、プロパーの方で志高く情熱もって働いている人達が、スタートアップ界隈で動いていて、「井上さん、国内にとどまってちゃだめですよ」と言って、「海外のITカンファレンスとかいきましょう」とか、「アジアのゲームショー行きましょう」とか行政側から誘ってくれるんですよ。福岡市や福岡県でブース出して、その一部は、もちろん自己負担するんですけど、複数社でブースをシェアする形なので、安く出店できるなどの工夫もしてくれてます。

柴田:すごいねーそれ。韓国のカンファレンスに行ってたのはそれなんですか?

井上:海外出張の7割は福岡市、福岡県、商工会議所の職員と一緒に行って、3割ぐらいは自分たちで行くんですけど、福岡の行政の方たちが「世界を視野に入れて事業展開しよう」という刺激を与えてくれています。福岡には、センスがあって行動力がある役人の方々が多数います。かなり感謝しているので、ここはカットせずに、このインタビューで強調しておきたいと思います(笑)。あとは、福岡内でスタートアップカンファレンスをやるときに「登壇しませんか」と誘ってくださるので、グッドラックスリーが注目してもらえるきっかけも作ってくれます。

熊本地震の緊急物資支援物資の時でも、福岡は行政として凄く良い動きをしていたと思います。それは、高島市長のリーダーシップに加えて、現場の職員の情熱や、能力の高さが、割と短期間で効果的な支援につながったんじゃないかなと感じています。


福岡で働く人を東京で(も)採用する

柴田: オフィスは福岡以外にもあるんですか。

井上: 東京は、人材採用機能があるだけで、ほとんどの社員が福岡で働いてますね。東京に必要な機能は3つあって、1つ目が資金調達ですね。やっぱりお金の出し手は東京に多いと。で、2つ目は、パートナーシップ。例えば、うちならサンリオさんの「ぐでたま」というライセンスを預かっているわけですけど、そういうライセンスホルダーとか、あとはゲームのパブリッシャーは東京に多いですね。3つ目は、リクルーティングですね。人材も東京は豊富で、その中で、福岡で働きたいっていう、UターンとかIターン希望者と会うっていう、その3つが東京で必要なことですね。

柴田: 採用ってすごく面白いと思っていて、福岡で働く人を東京で採用するんですか。

井上: そういうケースが多いんですよ。例えば、僕は35歳なんですけど、そうすると親はもう65歳を超えるわけですよ。長男とかだと「実家はどうすんだ」みたいな話が切実に出てきたりします。あと、子供が産まれると、「孫の顔みせろ」とか、大体30~35歳位で大抵の人が仕事だけじゃなくて、家族関係で大きな変化が起こるわけです。そうすると九州出身者の場合、実家の近くで働きたいっていうニーズが出てくる。それが多くのUターンのパターンです。それに加えて、もう一つIターンっていうのがあって、「東京でやること一通りやったぞ」みたいな人が、「俺の人生は、本当に幸福か」と考え始めて、程よく都会で、ほどよく地方で暮らしやすい福岡に興味を持つパターンがあります。

グッドラックスリーの通勤手段(徒歩と自転車が半分を超える)

柴田: じゃあ、全然福岡とか九州と関係ない人が転職してくるパターンもあるんですか。

井上: 福岡は、やっぱり食事がおいしいのに加えて、満員電車には、ほとんど乗らなくていいですし。あとは、福岡関連で、ネットでよくバズっているのは、「福岡の女の子が可愛い!」とかですね。男女比が、結婚適齢期だけ切り出すと、僕の体感だと男4・女6ぐらいの割合です。女性に、お食事会を頼まれることはあるのですが、男性から頼まれることはほとんどありません(笑)

柴田: それなんでなんすかね?男の人は東京とかに出ちゃうってこと?

井上: すごい単純な構造で、九州の男性は、一旗揚げようと東京・大阪に出て行く。それに対して、九州の女性は、「福岡までにしとけ」みたいに親に言われ、九州中から福岡を目指してやってくる。福岡と、九州の主要都市を繋ぐ九州新幹線があったり、高速バスがあったりして、週末、気軽に実家に帰れるんですよ。統計だと、人口構成上は、男45%:女55%ぐらいでそこまで差はなさそうなんですけど、住民票を移していないとか、週末買い物とか遊びとかで佐賀、熊本から出てくる女性とは、この統計に考慮されていません。僕の体感では、男4:女6の比率なんですね。こういう話ばかり興味を持たれても困るんだけど、それぐらい福岡は、男が足りてないんです(笑)男、はよーおいで。

柴田: 僕も福岡いこうかな。笑

井上:明日からおいで(笑)中洲で飲みましょう!真面目に話すと、僕の人生のミッションの一つに、福岡のUターン、Iターンを推進するっていうのがあります。幸せには、仕事はもちろん大事ですが、結婚や家庭生活もあるわけです。僕らの会社や福岡のスタートアップが魅力的になっていくことで、福岡へのUターン、Iターンが推進され、福岡に仕事もプライベートも楽しい人が増えて、結果として、福岡のIT、コンテンツ産業が発展していくということを実現しようと思っているんですよ。


東京から福岡へ転職する場合の給与

柴田: 僕も住んだことはないけど福岡は何回も行ったことがあって、食べ物もおいしいし街もコンパクトだし、良いこといっぱいあるのはわかってて。けど東京で採用してUターンとかIターンとかされてるとは知らなかったです。ちなみに、言いにくいかも知れないんですけど、東京で働いている人がいるじゃないですか、給料もらってますよね。それを福岡に連れていくのって給料どうなるんですか。下がる?上がる?

井上: 正直に言うと、生活コストが大体2〜3割安いので、年収が2〜3割下がることは多いです。それが福岡の水準です。ただスタートアップの場合は、ストックオプションを配れます。見た目の年収は下がるけど生活コストも下がるので、生活水準は維持できる。それで、給料が下がった分は、ストックオプションで補って、成功した暁には、みんなで分かちあおうという立てつけにしています。ですから、社員全員にストックオプションを配っていますね。

柴田: それはシリコンバレーでも同じで、大企業からスタートアップに転職するときって当然給料は下がるわけですよ。2割とか3割とか下がってその分ストップオプションになるっていうのはきわめて普通の話なので。面白いですね。


地方のベンチャーに足りない人材とは?

井上:足りてない人材はいますね。エンジニアとかデザイナーとかは福岡でも採用できるんですよ。プランナーもそこそこいると思ってます。一方で、足りていない人材は、ファイナンスができる人とか、マーケティングができる人。こういう人を福岡で探すのがめちゃくちゃ大変で、そういう人は東京から連れてくるか、育成するかですね。

柴田:エンジニアとかデザイナーは福岡の中で採用できるということですか?

井上:福岡には、レベルファイブさんとかサイバーコネクトツーさんとかガンバリオンさんとか実績のあるゲーム開発会社があり、ゲーム産業が盛んなんですね。だからクリエイターは沢山いるんです。ゲーム専門学校もたくさんあるし。

柴田:それは面白いですね。

井上:そういう福岡のクリエイター人材と、東京から来たファイナンスとかマーケティングが出来る人材が、掛け算になると面白いことになる。

柴田:確かにそうですね、マーケティングとかの人は東京の人の方が、経験がある人が多そうですね。

井上:九州のゲーム会社で、株式公開を計画してアグレッシブに資金調達してるのは、今のところ、うちだけですからね。そういう掛け算をすると、面白いことが起こると確信しています。

地方発ベンチャーの資金調達

柴田: 資金調達は東京と福岡の両方でやっていると思うのですが、福岡と東京でやる場合はどういう感じですか?

井上: 両方で資金調達できて、むしろオプションが広がってよかったです。東京のベンチャーキャピタルは、経営陣、ビジョン、戦略、ビジネスモデルを見て、類似企業と時価総額を比較しながら投資するかを決めていくという、いわゆるオーソドックスな感じですよね。九州のベンチャーキャピタルの場合は、もちろんそこもみますが、それと同じくらいか、それ以上に大事なこととして、福岡及び九州の産業振興が目的にあります。投資ロジックの重点項目が違っていて、うちの場合、九州のIT、コンテンツ産業の振興に寄与するということをご評価いただいて、九州のベンチャーキャピタル4社から投資頂いてます。

柴田: 九州のベンチャーキャピタルというのは、もともと地銀系(地方銀行系)なんですか?

井上: 地銀が、ベンチャーキャピタルのファンドにお金を入れてます。九州で起業してみて、地方型資本調達モデルがあるのではないかと気づきました。それは、地銀系ベンチャーキャピタルと、地銀から、資本(株式での調達)も、負債(借金での調達)の両方で調達するという方法です。うちは、九州のベンチャーキャピタル四社から出資を受けて、その関連の地方銀行からも借り入れしています。

柴田: 借り入れもしているんですか?

井上: はい、しています。今は、金利が低いので、調達に借入を組み合わせることで、結果的に、資本コストが安く済むんです。

柴田: 借入は、個人保証が必要にならないんですか?

井上: 資本がしっかりあって、足元の事業がしっかりしている場合は、無担保、無保証の条件が出る場合もあります。

柴田: でもその資本も、結局、もとは地銀から(地銀が出資したVCから)出てるんですよね。

井上: そうですね。でも、地銀からすると資本があって、黒字の会社であるなら、良い条件で貸せるのではないでしょうか。 地方だと黒字経営は安心されますね。

柴田: それはそうですよ。それは、地方ではなくても、どこでもそうですよ。

井上: グッドラックスリーのファイナンスは特徴が3つあります。わりと大型の資金調達をやってるんですけど、東京のスタートアップ界隈では、大型の資金調達では優先株が主流の中、今のところは普通株だけでやっているというのが一つ目。投資契約書の条項で、Exitのオプションが色々と取りやすいように工夫しています。二つ目は、調達額の4割位がエンジェル投資家からの出資なんです。エンジェルは、東京と福岡が半々です。三つ目は、先ほど説明したように、地方銀行と、その系列のベンチャーキャピタルから、増資と借入の両方で調達しているという点です。

柴田: どうやってこの3つにたどり着いたんですか?

井上: 壁にぶつかると、知恵が出て工夫が生まれます。色々と考えながら動いてみて、うちにとって現時点で最適と考えられる資金調達スキームが、結果として、この3つの特徴を持っていました。地方型ファイナンスモデルの一つの形ではないかなと考えています。資金調達というのは、各企業に固有の最適な形があるので、現時点では一つの参考例ですが、ノウハウを共有化していくことで、九州のITコンテンツ産業振興にとって意味あるものになると考えています。


おまけ: エンジェル税制

柴田: エンジェルがそんなに多いのって凄いですね。

井上: 日本のエンジェル税制は凄くて、投資分が所得控除になるので、エンジェルから見ると節税効果が凄く大きいんです。うちの場合、全投資額の4割がエンジェル投資家からの投資で、そのうち、エンジェルの半数が福岡在住の方です。

経済産業者のHPより抜粋

柴田: そのいまの日本のエンジェル税制の控除ってどういう控除なんでしたっけ。

井上: 結構すごくて、認定されたベンチャー企業に対して、「総所得額の40%または年1,000万円のいずれか低い方」までの投資額が所得控除になる、というものです。年収2,000万円の人は、仮に全部が所得だとして、そのまま税金を納めると、50%くらい持ってかれるわけですよ。要は、1,000万円の税金を納める。エンジェル税制がすごいのは、年間所得2,000万円の人が、エンジェル税制対象企業に認定されたベンチャー企業に1,000万円投資すると、800万円(総所得額の40%)が、所得から控除されて、残った1,200万円に対して課税されるので、実効税率が40%だとすると課税額は500万円くらいになります。

柴田: つまり、年収2,000万円の人は、何もしないと1,000万円が税金になる。一方、1,000万円を投資すると、税金が500万円位になるので、差額500万円の節税になる、という話ですね。

井上: そうそう、彼らからすると、1,000万円で投資しているんだけど、節税分の500万円を考慮すると、1000万円分の株式を500万円で買っているようなものです。

柴田: これは重要な話ですね。

井上: 重要な話です。確定申告の後、一度納めた税金が還付されてきて、実感します。そして、エンジェル税制の有用性に、そこでみんな気付くんですよ。

起業家の道に導いて下さった孫泰蔵さん(久留米附設高校の先輩、同じ福岡出身)と、SLUSH@ヘルシンキにて


柴田: ちなみに、大事な話なので、確認したいんですけど、エンジェル税制を適用する場合って、会社側に資格がいるんですか?それとも、投資家側にいるんですか?両方いるんですか?

井上: 両方必要です。会社側で、経済産業局から、エンジェル税制適用企業であるという確認書を貰っておく必要があります。

柴田: それはどういうものですか?何をすればいいんですか?

井上: いろいろな条件があって、その条件を満たすスタートアップが、経済産業局に申請すると、エンジェル税制適用企業であるという確認書を得ることができます。条件には、営業キャッシュフローが赤字とか、設立3年以内である必要があるとか、いろいろあるのですが、それらの条件は、一般的なスタートアップならば、だいたいの企業が満たしてるとは思います。

柴田: 知らなかったですね。これは、知らない人多いと思うんですよね。

井上:意外と 使われてないんですよね。創業してから三年間が一番有効に使える制度なのに、創業時に、その知識がない。故に、かなり効果的な投資手法があるのに、起業家も、エンジェルも、気づかずに機会ロスしてしまう。それで、エンジェル税制を作ってくれた人たちに、『井上さん、もっとこれを広めてくださいよ』と言われていましたが、中々機会がありませんでした。ぜひとも、「しば談」で広めてくださいな。

柴田: 広めましょう!ちなみに、その投資するエンジェルの方はなにもいらないんですか?単に、確定申告のときに、申請すればいいだけですか?

井上: そうそう、適用企業のほうから、必要な書類を準備して、確定申告の前にお渡しします。投資家側も条件はあります。ただ、うちのエンジェルにはいろんな方がいますが、要件を満たさなかった人はいないので、大半の人は大丈夫かと思います。エンジェル税制適用企業の方で、株主向けの業務フローにしっかり入れて対応していくことで、エンジェルの方に安心して投資頂けます。

柴田: それってすごい話ですよね。エンジェルからみると、投資した額をある意味損金みたいに扱えるということですよね。こんなにベンチャーに優しい政策はないんじゃないかっていう気はしてますね。その一点だけをみると。 アメリカだと考えられないですよ。投資した分を所得から引けるなんて、そんなんだったらもう、シリコンバレーとかでも、全員エンジェル投資してますよ。


地方発スタートアップが有利な点

井上: 地方発ベンチャーでも、スタートアップで成功できるようになったのではないかと感じていることがあります。

柴田: それは、どういうことですか?

井上: スタートアップで成功しやすい環境が、スマホの普及、進化によって実現しているじゃないかなと。スマホのSkypeと、スマホのFacebookが、要因として大きい気がしてます。例えば、シリコンバレーにいる柴田さんは、みんなに忘れ去られてしまう可能性ってあるじゃないですか。福岡にいる、僕もそうです。しかし、柴田さんがシリコンバレーにいたとしても、スマホのfacebook上に、たくさん柴田さんの投稿が流れてくるので、柴田さんが、今、何をやっていて、何に関心があるのかをずっとウォッチしているんですよ。それって、パソコンを立ち上げて、Facebookをみるのとは違ってて、共時性がかなり高いと感じるんです。モバイルでリアルタイムに意識がつながっているわけじゃないですか。柴田さんと、今日、一年ぶり位に会ったといっても、全然久しぶりという感じはしないですよね。

柴田: まあそうですよね。

井上: なんか相談があれば、時差だけ多少気にして、スマホのSkypeとかメッセンジャーで話せばいいだけです。そうなってくると、福岡-東京間も、福岡-シリコンバレー間もあんまり距離変わらないです。

柴田: 確かにそうですね。

井上: 10年前に起業していると、今のように、福岡-東京間のファイナンスとか、マーケティング、ビジネススキームとかを組む時の効率がものすごく悪かったと思うんですけど、それが、スマートフォンが、仕事の進め方にもたらした革新性によって、福岡-東京間の距離的なコミュニケーションロスを埋めてくれてます。これは、福岡-世界都市間でも一緒です。福岡に戻ったら、もっと都落ちみたいになるかなーと心配してましたが、月1、2回、東京に来ていれば、意外と覚えていて貰えます。だから、あんまり「久しぶりー。どうしてた?」とか言われることがないです。逆に、「いつもFacebookで、おっしょーい!を見てます」みたいな。

柴田: いいですね。

井上: 逆に東京にいないから、飲みにも誘われないじゃないですか。東京出張の時は、スケジュールが埋まっててアポの調整が大変なんですけど、福岡にいる時は、割とスケジュールに空きがあったりしているので、社内のことに集中しやすいです。最近は、会社で、夜な夜な鍋をやっています。誘われると、ついつい外に出てしまいがちではありますので、アポが入りづらい福岡にいることで、社内と社外のバランスを取るにはちょうど良さそうです。じっくりこもって、良いモノづくりをしている地方企業が多いのは納得します。

柴田: メリハリがつくってことですよね。 東京に来たときは、外にいざるを得ないということですよね。 福岡にいるときは、社内のことをやって、東京に来たときは、外にいざるを得ないということですよね。僕もそんな感じなんですけど。

井上: あともう一つ、地方スタートアップの特徴として感じていることがあります。柴田さんとは、大学時代、同じ研究室で、肩を並べて、卒論を書きましたが、卒論で求められてたのって、「新規性」と「独自性」だったじゃないですか。事業展開でも大事なのは、「新規性」と「独自性」ですよね。「新規性」を追求するためには、最先端の情報が集まる東京にいた方がよいと思うんですよ。今、ゲーム業界で注目されているのは、VRとか、ARですよね。最先端のなかで、おれは、VRで先頭走りたいんだ的な人は、東京にいた方が良いです。一方で、もう一つは「独自性」。福岡にいると、インターネットで情報が集まるとはいえ、本当の大事な情報は人づてのことが多いので、ワンテンポ遅れがちで、先頭は走りづらいです。そうじゃなくて、「俺たちは、あくまで「独自性」を追求する。ここに踏みとどまって、ここをもっと深掘りしていくんだ」というのは、地方のスタートアップに向いていると思っています。

柴田: なるほど。

井上:福岡にいると、良い意味でも悪い意味でも、東京の競合が何をしているとかが、直接的には関係ないし、気になりづらい。市場では競う合っているとはいえ、前提の条件が違っていて、元々違う生き物なんだもんって感じですね。 成熟している市場や業界でも、踏み止まって深掘りしていった先に、新しさがあったりするじゃないですか。そこら辺を追求するのには、地方都市は向いてるんですよ。 

柴田: なるほど。僕も最近、思うんですよ。皆、急ぎ過ぎだろうと。急ぎすぎた結果、買収されたり、倒産したりして、周りを見ると強い競合がいない市場ってすごくたくさんありますよね。

井上: そう、皆、先頭を走りたくて、次にいくんですよ。それはそれで必要だし、重要だから走ってもらいたい。ただ、皆が先頭を走ればよいというものでもないと考えます。ここに踏み止まって、深掘りして、そこから新しいものを見つける企業がいてもよいじゃないかって考えます。 例えば、福岡のゲーム会社で、妖怪ウォッチを生み出して大成功した『レベルファイブ』があります。彼らは、新しいことをやったのか。新しいことをやったというよりは、「妖怪ウォッチのようなコンテンツやビジネススキームがあると、みんな楽しめて、経済も回るし、ハッピーだよね」っていうことを、きちんと深掘りして突き詰めたから成功したんだと考えます。

柴田: でもそれは大事ですよね。ビジネスにおいて。

井上: 福岡は、ラーメンとか、通販とか強いんです。ラーメンの味も新しくなっていくし、通販も新商品を出していくんだけど、いずれもビジネスモデルは特に新しくはないっていう。 でも、一見、成熟したものを突き詰めた先に新しいものがでてくる。これこそ「独自性」ではないかと。そして、「独自性」の強い企業こそ、地方型スタートアップが目指す姿ではないかと勝手に考えています(笑)

柴田: 「新規性」と「独自性」、いい言葉ですね。

井上: あるカンファレンスで「お前らも東京にでてこい」って助言されたんですけど、「絶対でていかねぇ」と心に誓い、その場でも「本社、開発拠点は福岡に拘る」と宣言しました。僕らが出ていかなくても、東京でスタートアップをやってる人達はたくさんいます。それは、その人たちが果たしてくれる役割だと思うからです。僕らは福岡でやることがあるし、それが存在意義だと考えています。役割分担は大事です。

柴田: そうですよね。僕もシリコンバレーに行った動機の一つが、あんまり僕の世代でやってる人がいなかったので、最初に一人になると、いろいろ楽しいじゃないですか。分からないことだらけで。いろいろ大変だったけど。

井上: 福岡の友人のスタートアップもみんななんかこう、「新規性」というよりは、「独自性」を追及している人が多いんです。そういう「独自性」のある仲間たちで、これからも福岡を盛り上げて行きます!おっしょーーーい!

社員の中には、大衆演劇の花形座長もいて、映像IP事業に展開中です!企業ドラマを作りたい経営者の方、是非、井上までお声がけを

柴田: 今日はお忙しい中、ありがとうございました。


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