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株主へのレターから読み取るアマゾンの3つのフォーカス

アメリカの会社は12月決算の会社が多く、株主総会が3月頃に開かれます。アマゾンは「利益を出さない」会社として有名で、一見すると株主軽視にも見えますが、株主総会に際して、ジェフ・ベゾスCEOから、非常にしっかりしたレターを株主に宛てて出しています。

今日はこのレターの内容を詳しく見ながら、アマゾンの3つのフォーカス(重点)エリアを詳しく見てみたいと思います。

今日は図表はいつもに比べて少な目ですが、非常に示唆に富むレターなので、英語に翻訳も付けてお届けします。


アマゾンは史上最速で売上10兆円へに到達した会社

レターの冒頭で、

This year, Amazon became the fastest company ever to reach $100 billion in annual sales. Also this year, Amazon Web Services is reaching $10 billion in annual sales … doing so at a pace even faster than Amazon achieved that milestone.

今年、アマゾンは史上最速で年商1000億ドル(10兆円)企業になりました。また、今年、アマゾンウェブサービス(AWS)も年商100億ドル(1兆円)を達成しましたが、その速度はアマゾンが前述の偉業を達成したよりも速いものでした。

とあります。AWSがECよりも速いペースで$10b(約1兆円)の売上に達していたとは知りませんでした...

Both were planted as tiny seeds and both have grown organically without significant acquisitions into meaningful and large businesses, quickly. Superficially, the two could hardly be more different. One serves consumers and the other serves enterprises. 

ECもAWSもは小さな事業としてはじまり、大きな企業に買収に依存することなく、オーガニックに急成長しました。一見、この2つの事業は、1つはB2C、もう一つはB2Bなので、全く似ていないように思えます。

.....

there is a connection between these two businesses. Under the surface, the two are not so different after all. They share a distinctive organizational culture that cares deeply about and acts with conviction on a small number of principles. I’m talking about customer obsession rather than competitor obsession, eagerness to invent and pioneer, willingness to fail, the patience to think long-term, and the taking of professional pride in operational excellence. Through that lens, AWS and Amazon retail are very similar indeed.

これらの2つのビジネスには関連性があります。社内では、この2つのビジネスはそれほど違いません。両社は、数少ない重要なビジネスの原理を重視し、それらに対する強い信念を持って行動するという独特の組織文化を共有しています。それは、競合社に対してよりも顧客に対する強迫観念、発明や開拓への情熱、失敗を暇ない態度、長期的な計画を立てる忍耐力、優れた経営に対する専門家としての誇りです。そういった見方をすれば、AWSとECは実際には大変似ているのです。

要は、全く違うECとAWSのビジネスが、実は非常に似てもいる、ということです。

そして、以下のように続きます。

Our teams accomplished a lot in the last year, and I’d like to share a few of the highlights of our efforts to nourish and globalize our three big offerings – Prime, Marketplace and AWS. 

昨年、多くの目標を達成しました。3つの重点フォーカスエリアである - プライム、マーケットプレイス、AWSを成長および国際化させるために実施した活動の要点の幾つかを共有したいと思います。

アマゾンの3つのフォーカスエリアは、プライム、マーケットプレイス、AWSの3つだと。以下では、それぞれ、アマゾンがどのようにこれらのサービスを進化させて来たのか、その背景にある思想を探ってみましょう。


重点その1: プライム

We want Prime to be such a good value, you’d be irresponsible not to be a member.

プライムで提供する価値を上げて、プライム会員にならないことがバカバカしくなるように感じるようにしたいと思っています。

非常にアマゾンらしい「顧客重視」のメッセージだと思います。

We’ve grown Prime two-day delivery selection from 1 million items to over 30 million, added Sunday Delivery, and introduced Free Same-Day Delivery on hundreds of thousands of products for customers in more than 35 cities around the world. We’ve added music, photo storage, the Kindle Owners’ Lending Library, and streaming films and TV.

現時点では、プライム対象商品が(アメリカで)3000万商品を超え、世界中で35の都市で利用可能で、音楽・写真ストレージ・電子書籍レンタル・動画配信も提供されています。

Prime has become an all-you-can-eat, physical-digital hybrid that members love. Membership grew 51% last year – including 47% growth in the U.S. and even faster internationally – and there are now tens of millions of members worldwide. There’s a good chance you’re already one of them, but if you’re not – please be responsible – join Prime.

プライムは、会員に愛される「食べ放題」のような物理的なサービスとデジタルサービスを融合したハイブリッドサービスになりました。昨年、会員数は51%増加し - その内米国内の会員数は47%成長し、海外ではもっと速く成長しています - 現在世界中の会員数は数1000万人になりました。株主であるあなたが既にプライム会員である可能性は高いと思いますが、まだ会員でなければ 今すぐに、プライム会員になってください。

上述したように「プライム会員にならないことがバカバカしくなる」という洗脳に近いかたちで、まだプライム会員でない株主は必ずプライム会員になるようにという「宣伝」まで入っていました。

アマゾンから見ると、プライム会員になったユーザーは、一般ユーザーよりも、よりたくさん購入してくれるお客さんになる、ということがデータで分かっているようです。

こちらのデータでは、過去90日間に、プライム会員の39%が$200(2万円)以上の買い物をしたのに対し、一般会員の26%は$25(2500円)以下だったというデータもあります。


重点その2: マーケットプレイス

2つ目の重点項目として上げられているのが「マーケットプレイス」です。アマゾンというと「直販EC」のイメージがありますが、特にアメリカでは、かなり商品がサードパーティの店舗によって出品されています。

このマーケットプレイスに関して、レターでの記述を詳しく見てみます。

We took two big swings and missed – with Auctions and zShops – before we launched Marketplace over 15 years ago. We learned from our failures and stayed stubborn on the vision, and today close to 50% of units sold on Amazon are sold by third-party sellers. Marketplace is great for customers because it adds unique selection, and it’s great for sellers – there are over 70,000 entrepreneurs with sales of more than $100,000 a year selling on Amazon, and they’ve created over 600,000 new jobs. With FBA, that flywheel spins faster because sellers’ inventory becomes Prime-eligible – Prime becomes more valuable for members, and sellers sell more.

15年前にMarketplaceを始める前に、2回大きな挑戦をして2回とも失敗しました - AuctionsとzShopsです。ビジョンを変えること無く、失敗から学んだことを活かすことができ、現在、アマゾンで販売している商品の50%近くがサードパーティ出品者によるものです。マーケットプレイスはユニークな商品が追加されるので顧客の選択肢が広がり、売り主にとっても良いサービスで - アマゾンで年間$100k(1000万円)以上の売上がある出品者たちが70,000社以上いて、彼らは60万人以上の雇用を生み出しています。FBA (Fullfilment by Amazon)を使えば、出品者の在庫商品はプライム対応での販売が可能になるため - 商品が速く売れるようになり、会員にとってプライムの価値がもっと高まり、出品者はもっと多くの商品を売れるようになります。

大事だなぁと思うところを太字にしました。アマゾンと言えば、最初は「直販EC」として始まりました。マーケットプレイス型のECのサービスが現在ほどの規模になるまでには2つの大きな失敗をしている、とのことです。(知りませんでした。)そして、年間1000万円以上の出品者が7万社以上、というのは小さくない数字ですね。

そして、何よりも強烈なのが、サードパーティ出品者であっても、商品をアマゾンの倉庫にあずけて、在庫管理・配送を委託することで、サードパーティの商品もがアマゾンプライム対応商品に出来る、という点です。この在庫管理・配送を委託するサービスは「Fullfilment by Amazon(FBA)」と呼ばれます。

なぜこれが強力か、というと、ユーザー(特に、一回でもプライムの高速配送を経験してしまったユーザー)は、プライム以外の商品を買いたがらないからです。

プライムに加入した人のうち、78%の人が「プライムに加入したのは、高速配送が無料になるから」と回答しています。一旦経験すると、逆戻りできないユーザー体験なのだと思います。

さらに続きます。

This year, we created a new program called Seller Fulfilled Prime. We invited sellers who are able to meet a high bar for shipping speed and consistency in service to be part of the Prime program and ship their own orders at Prime speed directly.

今年は、Seller Fullfilled Primeという新しいプログラムを作りました。プライム並に速い配送サービスをコンスタントに提供できる出品者に限り、「Amazonプライム」対象商品とすることにしました。

要は、アマゾンの倉庫に商品を預けなくても、プライム並のサービスが自社で出来るなら「プライム対応商品」にしてあげます、ということです。

以上は物流の話ですが、物流以外に、金融サービスにも参入しました。

We also created the Amazon Lending program to help sellers grow. Since the program launched, we’ve provided aggregate funding of over $1.5 billion to micro, small and medium businesses across the U.S., U.K. and Japan through short-term loans, with a total outstanding loan balance of about $400 million.

出店者の成長を助けるために、アマゾンレンディングプログラムも作りました。このプログラムを開始して以来、合計15億ドル(1500億円)の資金を、米国、英国、日本の中小企業に提供し、融資残高は4億ドル(400億円)にもなりました。


重点その3: AWS(クラウドビジネス)

そして、3つの重点エリアの最後がAWSです。

Many characterized AWS as a bold – and unusual – bet when we started. “What does this have to do with selling books?” We could have stuck to the knitting. I’m glad we didn’t. Or did we? Maybe the knitting has as much to do with our approach as the arena. AWS is customer obsessed, inventive and experimental, long-term oriented, and cares deeply about operational excellence.

AWSを始めた当初、大胆で普通じゃない賭けをしていると言われました。「書籍の販売とどんな関係があるのですか?」と言いたかったのでしょう。当時の主な事業だった「書籍販売」にこだわり続けることもできましたが、そうしなくて良かったと思っています。でも書籍販売からAWSのビジネスに活かしていることはたくさんあります: 顧客志向、試行錯誤を繰り返す、ロングタームで考える、そしてオペレーションを重視する。

最初は、AWSを始めた頃に「本を売るのとクラウド事業は関係ないだろう」と批判されたことを棚に上げて、「背景にある会社の性質は同じなんだ」と説明しています。

Many companies describe themselves as customer-focused, but few walk the walk. Most big technology companies are competitor focused. They see what others are doing, and then work to fast follow. In contrast, 90 to 95% of what we build in AWS is driven by what customers tell us they want. 

多くの企業が顧客中心であると言っていますが、有言実行している企業は少ないのです。大抵の大きな技術系企業は、競合社中心に経営しています。他社がしていることを確認してから、急いで追いつこうとします。それに反して、AWSで構築している90から95%のサービスは、顧客からの要望を受けて構築されています。

続いて、アマゾンは競合なんかは気にせずに、顧客の方を向いて、顧客の声を聞いてきている、という話です。

Our approach to pricing is also driven by our customer-centric culture – we’ve dropped prices 51 times, in many cases before there was any competitive pressure to do so.

価格に対するアマゾンのアプローチも顧客中心文化によるもので - これまで51回も価格を値下げしました。多くの場合、競合からのプレッシャーがなくても値下げしました。

確かに、AWS=値下げの印象が強いですが、これも「顧客第一主義」があるから出来ることだ、という話です。


Invention Machine(発明し続ける会社)

レターの最後に「Invention Machine(発明し続ける会社)」という項目があって、ジェフ・ベゾスCEOがアマゾンという会社をどんな会社にしていきたいか、ということを詳しく書いています。

これが非常に興味深かったので、少し翻訳を付けながら見ていきましょう。

We want to be a large company that’s also an invention machine. We want to combine the extraordinary customer-serving capabilities that are enabled by size with the speed of movement, nimbleness, and risk-acceptance mentality normally associated with entrepreneurial start-ups.

アマゾンは、大企業でありながらも、Invention Machine(発明し続ける会社)であり続けたいと思っています。規模が大きいからこそできる高品質な顧客サービスと、スタートアップのような動きの速さ、敏捷性、リスクを厭わない起業家精神の両方を共存させたいと思っています。

「大きくても機動性がある」会社にしたい、ということですね。確かにそれは理想的に聞こえます。

Can we do it? I’m optimistic. We have a good start on it, and I think our culture puts us in a position to achieve the goal. But I don’t think it’ll be easy. There are some subtle traps that even high-performing large organizations can fall into as a matter of course, and we’ll have to learn as an institution how to guard against them. One common pitfall for large organizations – one that hurts speed and inventiveness – is “one-size-fits-all” decision making.

アマゾンにそんなことができるでしょうか? 私はできると思います。良いスタートを切っています。その目標を可能にする企業文化があると思います。簡単ではないことは分かっています。実際に、業績の良い大企業でさえも引っかかってしまう巧みな罠が仕掛けれらているので、その罠にかからないようにする方法を、企業として学ばなければなりません。大企業にとっての一つの共通する落とし穴は - スピードを遅くし、新しいことを始めにくくする落とし穴ですが - 「汎用型」の意思決定です。

この最後の部分で「汎用型」“one-size-fits-all”の意思決定が良くない、と言っています。詳しくは続きます。

Some decisions are consequential and irreversible or nearly irreversible – one-way doors – and these decisions must be made methodically, carefully, slowly, with great deliberation and consultation. If you walk through and don’t like what you see on the other side, you can’t get back to where you were before. We can call these Type 1 decisions. But most decisions aren’t like that – they are changeable, reversible – they’re two-way doors. If you’ve made a suboptimal Type 2 decision, you don’t have to live with the consequences for that long. You can reopen the door and go back through. Type 2 decisions can and should be made quickly by high judgment individuals or small groups.

意思決定の中には、偶発的で元に戻せない、または、ほぼ元に戻せないものもあります。一方通行のドアのようなものです。そのため、これらの意思決定は熟考して、慎重に、時間をかけて、周囲の忠告を考慮した上で、強い意志を持って下さなければなりません。やってみてその結果に納得できなくても、後戻りすることはできません。これらをタイプ1の決断と呼びます。しかし、大抵の決断はそうではありません。後から変更可能で、元に戻せるもので、二方向のドアがついています。最適とは言えないタイプ2の決断を下しても、その結果にいつまでも悩まされなくても済みます。ドアをまた開けて、前の場所に戻ることができるのです。タイプ2の決断は、決断力に優れた個人または小グループによって素早く下すことができ、そうするべきです。

意思決定には2種類あって、絶対に後戻りができないものと、そうでもないものがあり、後者に関しては、現場に権限委任して、スピード感を持って決めて(失敗したらまたやり直せば)良いということです。

As organizations get larger, there seems to be a tendency to use the heavy-weight Type 1 decision-making process on most decisions, including many Type 2 decisions. The end result of this is slowness, unthoughtful risk aversion, failure to experiment sufficiently, and consequently diminished invention. We’ll have to figure out how to fight that tendency.

組織が大きくなると、多くのタイプ2の決断事項も含めて、大抵の決断に厳しいタイプ1の意思決定過程を選ぶ傾向にあるようです。それによって最終的には、進行が遅くなり、思慮に欠けたリスク回避をし、十分実験できずに、発明ができなくなります。これまではそういったことが起こらないように注意して来ましたが、今後も同じように注意していきたいと思っています。

本当に後戻りができない意思決定というのは、数としてはさほど多くないのだけど、会社が大きくなると、些細な(というと失礼かもしれませんが)意思決定でさえも、二度と後戻りができない意思決定と同じように、慎重に議論されるようになり、それこそが「大企業病」のもとなので、それを避けて行きたいということです。


以上、いかがでしたでしょうか?巨大でありながら、新しい発明をし続ける会社でありたい、というジェフ・ベゾスCEOのメッセージが非常に良く伝わるレターだと思いました。


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