2016年版・SaaSのM&A金額は何で決まるのか?
マイクロソフトがLinkedInを$26.2B(約2.6兆円)という巨額で買収するというニュースが出ました。ちなみに、LinkedInはデュアルクラスの株式構成となっているため、創業者であるReid Hoffman会長が議決権の過半数以上を有しているとのことで、要は彼一人で決められたということでした。
狙いはマイクロソフトの法人向けビジネスの強化、中でもCRM(顧客管理システム)の強化であることは間違いありません。これでCRM市場は、Salesforce + RelateIQ と Microsoft Dynamics + LinkedInの2大巨塔による一騎打ちになりつつあります。
$26.2B(約2.6兆円)という買収額は高いか、安いか?
CRMは非常に巨大なマーケットであるため、マイクロソフトとしては何が何でも取りたかった、というのが正直なところでしょう。実際、この買収額は、市場での取引額に50%のプレミアムが乗っています。
LinkedInは2015年通年の決算発表直後に株価が40%も落ち込むということが起こりました。株価が落ちた理由は、当時発表された業績予想がアナリストの予想を大きく下回るためだったと言われています。
今回の発表を受け、株価が元の水準まで戻っていますが、マイクロソフトから見れば、元の値段そのままで買収できた、という点ではそこまで高づかみではない、とも言えるでしょうし、LinkedInの株主から見れば大きな損を出さずに済んだと思える人も多いはずで、良いディールだったのではないかと思います。
ちなみに、これは個人的な意見ですが、通常時に取引される際の株価と、M&A時の株価というのは、同じものを対象としながらも、全く違う理由で値段が決まります。
通常時に取引される上場企業の株価というのは、代替物が存在します。例えば、LinkedInの株式よりもTwitterの株式の方が将来上がりそうだと思えば、投資家はTwitterの株を買えば良い訳です。
他方、M&A時の買い手にとっては、対象企業というのは「一品物の壺」のようなものであり、代替物が(通常)ありません。LinkedInと同じビジネスというのは存在しませんので、欲しいと思ったら、他にも買いたい人よりも高い値段で買わざるを得ません。
これらの差が「プレミアム」として現れる、というのがM&Aの興味深いところです。
M&Aによるシナジー
今回は非常に大型のM&Aであることもあり、マイクロソフトがM&Aを説明する資料を公開しています。
まず今回のM&Aで目指すべきものは、
世界最大のプロフェッショナル用クラウド(マイクロソフト)
と
世界最大のプロフェッショナル用ネットワーク(LinkedIn)
が一緒になることだ、という話です。
まず今回の買収でTAM(Total Addressable Market、リーチ出来る市場規模)が1.5倍になりますという説明です。
続いて、マイクロソフト、LinkedInそれぞれのユーザー数等の規模の説明です。
さて、前置きが長くなりましたが、本題に入りましょう。「SaaSのM&A金額は何で決まるのか?」という話です。
こういったM&Aの金額を見る際、売上の何倍(「売上マルチプル」と呼びます)、利益の何倍、という見方を良くします。今回は、売上マルチプルの数字を具体的に見ると同時に、M&Aの金額に影響する他の指標はどういったものがあるのか、というのを見ていきたいと思います。
これらの数字はM&Aされるスタートアップ側の人はもちろん知っておくべき数字だと思いますし、「買う側」の大企業の人も高値づかみしすぎないように熟知していくべき数字だと思います。
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