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スタートアップの採用での典型的な失敗事例と対策を教えてもらったよ!!

柴田: 今回の「しば談」は、株式会社プロコミット・代表取締役社長のの清水隆史さんにお越しいただきました。まずは最初に自己紹介をお願いします。

清水隆史さん(以下、敬称略): プロコミットはベンチャー、成長企業の採用支援を一貫してやっている人材紹介会社です。成長企業の定義は、いわゆるスタートアップ、シリーズAぐらいから、大きい所でいきますと、例えばDeNAやJINS、ユニクロといったメガベンチャーまで、IPO後の会社も含めてやっています。一貫して成長を続けている会社をターゲットにして、採用支援をやっています。業界のフォーカスは特にありませんが、結果的にやはりインターネットを中心としたIT系が顧客リストに多くいる会社です。


ベンチャーの生態系で最も大きな「人材」という課題を解決すべく起業

柴田: もともとはどういうキャリアでいらっしゃったのですか?

清水: 私はもともと大学を出てすぐに非ネット系のベンチャー企業に入りました。当時はあまりベンチャーが流行っていなくて、広告系の会社にアルバイトを受けに行って、そのまま正社員になってしまったという非常に危険なスタートです(笑)。ただ、そこが人も事業もとにかく素晴らしい会社で、4年半いた間にIPOまで行きました。私が25歳のときに、経営企画室長兼IPO準備室長という役割を得まして、IPOをど真ん中で経験させてもらいました。

柴田: 25歳で「IPO準備室長」というのはすごいですね。

清水: ですよね(笑)。ただ、僕がすごいというよりも、「ベンチャーってすごい」という話だと思っています。何も知らない25歳の営業マンに、上場準備の責任者をやらせてしまうわけですから。それで2年くらいIPO準備をして、監査法人や証券会社、機関投資家、市場の人たちとやりながら、IPOを達成したという原体験を積んだのが、最初のキャリアです。そこでベンチャーの面白さというか、ダイナミックさを肌で感じたので、「日本におけるベンチャーの位置付けや意味合いがもっと上がって、もっとメインストリームになればいい」と思いました。そこで、一社のベンチャーの中でやるよりも、もっと「インフラ側」に回ってベンチャー界に貢献したいと思ったのです。その頃、創業1年後のドリームインキュベータ(以下、DI)と出会いまして。今では東証一部上場ですけれども、当時はまだ未上場でした。そこに入社して、ベンチャーインキュベーションと、大企業向けの戦略コンサルティングのプロジェクトをやってきたということが、二つ目のキャリアです。

柴田: DIの後に自ら起業されているということですが、なぜ起業されようと思ったのですか。もともと、上場準備室長と経営企画室長から、ドリームインキュベータという、何となく非常にロジカルなキャリアパスだと思いますが、そこから独立されて、また人材にフォーカスされるというところのあたりを少しお話いただけませんか?

清水: ベンチャーと付き合っていると、良いベンチャーはお金に困っていない、もう少し正確に言うと、「お金の出し手に困っていない」感じることが多くあります。投資の話になると、「それなら列の後ろに並んでください」という感じで。ただ、どんなベンチャーも、人の問題には100パーセント悩んでいます。「人の問題が解決できるならば、列の一番前に来てほしい」というニーズが、明確にありました。ですから、一番困っているニーズといいますか、そこが解決できれば、もっとベンチャーは先にいけるというところを事業にしようと考えました。ベンチャーはお金の問題ももちろんありますが、多くのベンチャーにとってより切実なのは人の課題だという話がまず企業ニーズサイドだということです。あとは、もっと単純に、僕自身がずっとベンチャー側で仕事をしてきて、やはりものすごくダイナミックで面白いと感じてきました。「素手で仕事が出来る人は、もっともっとベンチャー側に集まればいいのに」と思っていたので、そこの間に立つということは、意味がある仕事だと思ったのです。


ベンチャー人材の厚みが増したのはDeNAやGREEのおかげ

柴田: ご自身で起業されたのは、2005年ですよね。

清水: そうですね。ベンチャーという言葉自体に、株価のようなものが付いている感じで、結構ボラティリティが高い気がします。「ベンチャーって、不安定でうさんくさいよね」という時期もあれば、「スタートアップってチャレンジングでカッコいいよね」という時期もあればという感じで、アップダウンがあります。ここ数年はスタートアップという言葉が定着して、ポジションも高止まりしている印象ですね。今後は予断を許さないですが。

柴田: 当時と比べて、2005年はまだそれほどベンチャーやスタートアップはなかったと思います。あるいは数が限られていたと思いますが、今は結構増えています。やはり全然違う雰囲気が見えますか。

清水: 確かに随分変わってきました。当時苦労していたのは、「エスタブリッシュな優良大企業から、いかにベンチャーに優秀な人を連れてくるか」ということでした。大企業に張り付いて剥がれない人をいかに剥がすかということを考えていて。「あなたのように力があるなら、素手で自ら事業を創る側に回りませんか」ということをずっとやってきました。ところが最近いいなと思っていることは、大企業の優秀な人材が、以前に比べてベンチャーに行く流れができ始めたことと、一度メガベンチャーで経験を積んで、再度スタートアップ界に来た「2周目人材」が活躍していることです。それは2010年前後にDeNAやGREEが果たした役割が非常に大きいと思っています。事業内容には賛否両論がありましたが、明らかに日本のビジネス史においては一つのターニングポイントになったと思います。オールドエコノミーからガサッと優秀な人をネット・IT・デジタル・オンラインのほうに持ってきたことには、すごく意味があると思います。

柴田: もともといわゆる日本の大企業にいた人たちが、DeNAに一回行って、その人たちがまたもう一回、もう少し若い会社に流れてきているということですね。それはすごく大きい。僕は全然そのようなことは知らなかったので、面白いです。

清水: 歴史として、あの時期は一つ意味があったと思います。そうでなければ、やはりトヨタや銀行の人がそういうベンチャーに転職するということはなかなか起こらないですから。

柴田: いきなりは行かないですよね。そういうツー・ステップ・アプローチになっているということですね。

清水: そうです。ちゃんと一部上場企業ですし、いい人材には大企業に負けない水準の給与を払っていますので。そういう意味では、少なくない人数が、大きくインターネットの世界、ベンチャーの世界に入ったということは、やはり意味があるという感じです。

柴田: 当時、DeNAやGREEの採用が全盛のときに、大企業から転職してくると、給料は同じくらいだったのですか。

清水: 増えるケースも結構ありました。特に、メーカーやSIerから来たエンジニアなどは増えるケースが多かったです。当時はネット系のエンジニア自体がもっと少なかったですから。プロファームの場合は、そこは少し難しくて、例えば戦略コンサルや外資系投資銀行出身者はさすがに給与が下がる人たちもいました。

柴田: DeNAやGREEは偉いですね(笑)。

清水: はい、偉いと思います。

柴田: 逆に、そういう人たちが、今度、GREEやDeNAのような会社から、もっと若いスタートアップに行こうと思うと、やはり少しダウンになる感じですか。

清水: そこは、やはり少しダウンになるケースはありますね。

柴田: それはでもシリコンバレーでも普通に起こることです。大きい会社、例えばGoogleのような会社にいると、報酬のほぼ全てが給料+ボーナス、要は「現金」なわけです。それが、「現金」+ストックオプションになるわけです。現金の部分が減るということは、極めてロジカルな話です。もちろんケース・バイ・ケースはあると思いますが、大体、多分2割減・3割減くらいになって、その代わりにストックオプションが乗るという感じかと思います。もちろん、その人の人生におけるリスクプロファイルがあって、子どもがたくさんいる人は現金が要るし、独身だったらもっと現金を減らしてオプションが欲しいという人もいるし、いろいろだと思います。


求められる人材は、ネット業界経験のある「2周目人材」

清水: 最近は、採用の要求水準がどんどん高くなっているというか、以前は「ネット業界の経験が薄くても仕方がない。そんな人、なかなかいないから」という話だったのですが、業界経験がある人材が社外にもいることが分かっているので、より要求が高くなっています。限られた「2周目人材」を、ものすごく獲り合っているということはあります。

柴田: なるほど。逆に会社側が競争しているということですね。御社の場合、実際に採用のお手伝いをするときの人材は、エンジニア・非エンジニアといいますか、エンジニア系とビジネス系でいききますと、どういう感じですか。

清水: 実際に分けると、7対3くらいで、ビジネス系が多いです。ビジネス系は、それこそセールス&マーケティング系と、あとはいわゆる経営管理系です。CFOとか、マーケターやセールス、ビジネスデベロップメント、そういう感じです。エンジニアの紹介事例も多くありますが、みんなが血眼になって探しているので、なかなか大変ですね。

柴田: 先ほど、ステージ的にはAラウンドの後くらいから公開企業までという話があったと思いますが、逆に御社にお世話になるような会社さんは、やはり資金調達が1回終わって、これから採用を攻めるというタイミングということですか。そういうパターンが多いですか。

清水: そういうパターンが多いです。最初は前職の知人や友達に声を掛けて、何とかプロトタイプをつくって、βなものを出して、という段階まではある程度自力でやっているところがほとんどですね。その後、資金調達をして陣容を拡大するという話も当然あるので、そこから依頼が来るというケースが多いです。例外的に、シリアルアントレプレナーのような人も割と出てきているので、そういう人たちは、いい人が集まれば事業は立ち上がる、という考えで最初から採りにきますね。

柴田: すごいですね。でもお客さんはどういう感じで来るのですか。飛び込みで来るのですか。それとも誰かの紹介で来るのですか。

清水: 最近は、紹介で来ることがほとんどです。昔は自分たちで開拓していたのですが、最近はスタートアップ同士の横のつながりもあって、必ず「採用、どうしているの?」というような話になって、その会話の中で社名を出してもらっているようです。

柴田: VCから採用を依頼されることもありますか。

清水: あります。「投資先で幹部を探している」というケースはよくありますね。


スタートアップへの転職に際して「嫁ブロック」は本当にあるのか?

柴田:日本の友達に教えてもらったのですが、スタートアップに転職しようとすると「嫁ブロック」をされるという話をよく聞きました。「嫁ブロック」って実際にあるんですか?

清水: 確かにありますね。奥さんだけでなく、義理のお父さんですね、ややこしいのは(笑)。往々にして、大手メーカーや銀行勤務のお義父さんが。それがシリーズAやシードラウンドのまだ不安定なスタートアップなら理解できますが、極端な話、数年前のユニクロなんかでも、「不安定だからやめておいたほうがいいのではないか」と電機メーカーのお義父さんに止められた人がいるくらいです。「どちらの時価総額が高いと思っているのですか」というような話です。


IPOしても中途採用は楽にならない...

柴田: この「嫁ブロック」の根本にある採用する側とされる側の温度差はどこからくるんでしょうか?

清水: IPOをしたら採用はうまくいくようになるという、幻想を抱いている人たちは結構多いです。IPOをすれば知名度も上がるし、採用は楽になるのではないか、と。

柴田: 皆が言いますよね。なぜIPOをしたいのですかと言うと、やはり採用に知名度が効くのでと言います。そのようなことがあるのかと思いますが。

清水: そう思いますよね。新卒採用では効きます。新卒は、親が反対しますから。「上場企業だから」といえば、親も最低限安心はします。ただ、中途採用にはIPOによる知名度向上だけではうまくいかないケースが多いです。

柴田: それは面白いです。初めて聞きました。

清水: 「IPOしたのに、これほど採用が楽にならないとは思わなかった」という嘆きは、中途採用市場においてよく聞きます。「上場企業だから、転職先としていいかも」と思うような人は、結局はベンチャーにフィットしないタイプの人たちであることが多いです。成長ステージが後になってくればくるほど、リスクを必要以上に気にする人たちが寄ってくるようになって、いかにその中から「面白くない人」「フレキシブルでない人」をはじいていって、本当に一緒につくっていける人を選ぶかというような難しさが出てきます。結局は、欲しい人がなかなか採れない。IPO前のように。そこは一筋縄ではいかないという感じがします。


スタートアップが注意すべき「役職インフレ」

清水: もう一つ、私たちに相談があるケースは、例えば、CxOのリプレースといった話ですね。表に出して募集できないんですから。「CTO候補募集」とかいって公募すると、現CTOが「おいおい、俺がいるじゃないか」というような話になってしまいます。ベンチャーでは「役職インフレ」を見ることが多いですが、これは非常に危険だと思います。

柴田: 「役職インフレ」というものをもう少し説明していただけませんか?

清水: 創業まもない段階で、「ままごと」が始まってしまうケースです。「わたしCEO、あなたCFO、きみCTO」と、まず集まってきた人に肩書を配ってしまうパターンです。最初は、「おお、俺はCTOか」といった感じでワイワイ始まるのですが、プロダクトやビジネスがうまくいきはじめると、「世の中にはもっとCTOにふさわしい人がいるじゃないか」という話になってきます。また、調達のラウンドが進んでVCとの付き合いが深くなると、「彼はあまりファイナンスを分かっていませんね。IPOまでは難しいんじゃないでしょうか。」というような話が、CEOになされます。「でも彼はずっとやってきたCFOだし、、」というような話でつまずいて、そんなに早く肩書をバンバン配るんじゃなかった、というような話が、やはりあります。

柴田: それは多分うまくいった場合に問題になりますよね。どういう風に対処するのですか。

清水: これが結構こじらせているケースもあって、仕方ないので、「本当はあなたのほうが現CFOより実力は上なのですが、まずは管理本部長ということで入社してもらいまして、、」といった話になります。でも実際に働き始めたら、どちらのほうが上かは分かってきます。そこをきちんと代えられるCEOと、そうではないCEOがやはりいます。

柴田: でも、降格人事はやりにくいですよね。

清水: やりにくいですね。

柴田: 別に元CFOの人が失敗した訳ではないですよね。単に器が少し違っただけですから。あるいは経験が少し違った、年齢が若かった等そういうことですよね。

清水: そうなんです。ですから、まさに柴田さんの話は非常に本質的です。「僕以外がCEOをやったほうがよければ、それでいいよね。東大出て楽天執行役員という僕のバックグラウンドは日本では強いけれども、シリコンバレーで”ラクテン”とか、”トーキョーユニバーシティ”といっても伝わらないよね。」といって。

柴田: なるほど。では、あまり最初からはCxOにしないほうがいいという感じですか。

清水: 最初からIPO後の成長を見据えた陣容で始める、ドリームチームなら話は別ですが、それ以外は少なくとも慎重にやった方がいいとは思います。とはいえ実際の創業時には、「CFOやCTOといった役職も約束しない信頼関係じゃ、創業メンバーを集められないよ」、ということもあるでしょう。その場合でも、「CxOはフェイズによって求められるものが変わっていくので、高いレベルで成長していこう。もしそのときに、会社全体のことを考えてよりふさわしいCxOがいる場合には、変わってもらうことがあるかもしれない。そこは、理解してほしい」と予め伝えておくのが良いと思います。「自分たちがついて行けないくらい、いい会社にしよう」と。あと、本当にいい創業メンバーは、自分で降りることもあります。降りるというのは、降格人事を受け入れるというよりも、「CFOということでいうと彼のほうが確かに適任だよね」といった感じです。「これからのフェイズでいくと、より資本市場との対話が必要になるので、それなら、僕よりもうまくできる人がいることは当然だよね。もしそのCFOに当たる人が出てくるならば、僕はこちらをやりますよ」というような人です。CFOは、早いフェイズでは、ファイナンス(F)というよりアカウンティング(A)がメインの業務になることが多いですからね。そういったアカウンティングバックグラウンドの人が、資本市場との対峙経験が薄いということは、やむを得ないことかと思います。

柴田: 例えば、「今まではCFOをやっていたけど、CFOにより適任な人が見つかったので僕は人事をやります」というようなことですか。

清水: 今回はたまたまCFOの例を挙げましたが、それ以外にも、事業開発系のほうが僕は力を発揮できるので、といって事業系に移る場合などもあり得ます。CTOなんかも、人によっては、プロダクトに集中してガッツリやるというほうがずっと面白いので、CTOでない方がいいです、「プロダクトマネジャー」という方がしっくりきます、みたいな。うまく降りられた人のチームは、うまく回ります。この辺りは経営メンバー間で問題になる前に話しておいた方がよいように思います。

柴田:「役職インフレ」は注意ということですね。


採用直後にトラブる最大の原因は、会社側が「盛りすぎる」(自社を良く見せようとしすぎる)パターン

清水: 他にもベンチャーの場合、採用で失敗する特定のパターンがいくつかあります。

柴田: それは聞きたいです。「清水さん、採用に失敗してしまったので何とかしたいです」と言って助けを求めてくるんでしょうか。

清水: はい。われわれの立ち位置は独特なので、企業側から「採用があまりうまくいかなくて..」と相談を受けるケースもありますし、一方で候補者から、「A社にいるのですが、実は内情がひどくて..辞めようと思っているんです」というような話も集まってきてしまいます。辞める人の話なので、すべてを真に受けるわけにはいきません。結局その人が辞めたあと、憎たらしいくらいに会社がグングン伸びるケースもよくありますから(笑)。ただ、中には辞める人の話を無視できないケースもあります。「なぜこういうことが起きてくるのだろう?」と考えると、重要なこととしてひとつあるのは、「話の盛り方」だと思っています。いいんです、仕方がないんです、スタートアップの人たちは、話を盛ります(笑)。しかも、盛っているつもりもなく、確信しているからこそ人を惹きつけられるという。採用市場でもサバイブして、人の獲り合いに勝たなければいけませんから。ただ、話の盛りどころが悪くて問題になるケースが多いです。

柴田: 例えば、どのようなところですか。

清水: 「今を盛るか」、「将来を盛るか」の違いが結構多いです。将来を盛る分には、いいと思うんです。要するに、「こうなりたい」という話が大きいというビッグマウスは大アリじゃないでしょうか。問題は、人を採りたいがゆえに、「今を盛ってしまう」ケースです。時間軸で手前を盛ってしまうと、入社してすぐに、話が違うじゃないかという話になります。

柴田: 例えばどういう盛り方をしますか。

清水: 例えば、スタートアップの割に働き方がマイルドだとか、人材が揃っているといったような話や、プロダクトがこんなところまで仕上がっているとか。よくあるのは、「既存のプロダクトはこれだけれども、もう新規事業の話があって、あなたにはそれをやってもらいたい」といって採ったにもかかわらず、実際は既存事業のメンテで手一杯といったケースですね。これ自体はまあ割とよくあるケースですが、ちゃんと事前に期待値調整をしておくのとおかないのとでは、全く違います。あまり神経質で潔癖症な人はベンチャーに合わないので、そういう人は避けなければいけないのですが、あまりに盛り方を間違うと、まともな人まで逃げてしまうことがあります。先の話として盛っている分にはいいのですが、盛りどころの時間軸は気を付けたほうがいいということは。

柴田: それはすごく面白いです。絶対に清水さんでなければ分からない話です。


面接では、自社の具体的な課題について議論すべし

柴田: 僕が採用面接をする場合は、例えば、プロダクト系の人を採用する場合、「うちのプロダクトをもし改善できるとしたら、どうやって何をどういう順番で改善しますか?」ということ具体的に、聞いてしまいます。

清水:僕もそれがいいと思っていて、大賛成です。何かといいますと、「これまで、何をどうやってやってきましたか」という話を聞きますと、キャンディデートがこれまた、盛ってきます。ではどうしたらいいのかといったときに、やはり僕がもう本当にお勧めしていることは、「自社の課題をそのままテーブルに乗せて、ディスカッションを始めてしまうということ」が、私は一番いいと思っています。特に幹部候補は。

柴田: この「超具体的な課題に対しての議論」をやると何が分かるかといいますと、いろいろなことが分かります。その人の強みがどこにあるのかが、大体分かります。UX的、UI的なソリューションが得意な人なのか、もう少しエンジニアリングのところで何か、例えばサーバのレスポンスを速くするというようなことを言ってくる人もいます。それはそれでいい話です。あとはビジネス系の場合は、例えばうちはセルフサービスで売ることが結構好きで、営業マンで売るのがイヤなのですが、例えば、「売上を上げるには、営業チームを作って...」みたいな提案をしてくる人は、その人の案が正しいかどうかは別にして、合わないかもなぁということが分かります。やはりお互い人間なので、相性はありますからね。

清水: そのやり方がすごくいいのは、今のような柴田さんのポイントもそうですし、「中に入って少し具体的なことを見てみないと分かりませんねぇ」というふうに、ごまかしてしまう人も結構多いからです。そういう人は、入社した後もイニシアティブを持って仕事ができない可能性が高いです。ベンチャーはやはり、「限られた情報でその問題を解決しにいくスタンス」が不可欠なので、「入社してみないとその辺は難しいですねぇ」と答えるタイプは、入社後も「なかなか難しいですねぇ」で終わるケースが多い。ベンチャーにはあまりフィットしない可能性が高いです。あと一つあるタイプは、きちんとディスカッションもできるしポイントも合っている。すごく良さそうだけれども、「この人が言っていることを、どうしても俺は聞けなさそうだな」ということが、やはりあります。いわゆる、相性というやつです。よほどの人格者ならば、多分受け止められると思いますが、ベンチャーはそんなに人格者ばかりではないですから(笑)、どうしてもこの人の話はちゃんと聞けなそうだと思ったら、そこはいったん、立ち止まった方がいいです。そのうえで、「どんなキャラクターか、俺との相性がどうかは関係ない。会社にとって良い人材なら、俺は一緒にやっていくんだ」という覚悟を決めてから、採用した方がいいですね。

柴田: やはりということはあると思います。ですので、プロダクトでやるということは結構お勧めです。あとは、あまりないですが、前に1回あったことが、面接を受けに来ているのにプロダクトを触っていない。これはアウトですね。

清水: なるほど。それはアウトですね。

柴田: 実際、面接のときに言ったことを、入社後に必ずやれと言われるかというと、そうでもなくて、できるかというと、そうでもない場合もあります。でも面接でどういう話をしたかは覚えているので、それに近い仕事が出てきたら、やはりその人に頼もうと思います。そういえば、あなたはあのときこういうことを言っていましたよねと。入ったときはすぐにはできなかったけれども、今はやりたいから、やりませんかという話は出てくると思います。

清水:プロダクトに関わらない部門でも、例えば経理でもこの面接方法は可能です。「ウチは月次決算が締まるのが遅いんですよ。IPOに向けて決算を早期化するように指摘をされるのですが、うちにはこういうふうな特性があるので、なかなか苦戦しているんですよね。どう考えますか」といったように、何の仕事でもできる面接方法だと思います。そうなると、経歴のように、究極はごまかせてしまう話を聞くよりも、その場でどう問題を解決しようとするかということが一番分かるので、それはすごくいいと思います。そういうことをやらずに採って、相性が合わないというのは、お互い不幸ですから。


モテてから、選べ!

柴田: 他に、何か採用時に気を付けるべきことはありますか 。

清水: ずばり、「モテてから、選べ」ということですかね。これは非常に重要です。ベンチャーの人と採用の話をすると、「どんな人材が欲しいか」に90%の話が集中します。しかしながら、現在は売り手市場です。求人過多で、人材不足です。こういう市場環境下では、どんな人が欲しいかの前に、「他と違うこんな魅力があるから、ウチでやれば絶対に面白いって!」という話が来たほうがいい。採用にあたって慎重に選ぶのは当然で、とことんこだわっていいと思います。但し、先にモテておくことが必須です。順番が大切なのです。「見極める技術」を発揮する前に、「モテる技術」を発揮しないことには、何も始まらない、というのが今の採用だと思います。それを踏まえて、「モテてから、選べ」ですね。

柴田: どうすればモテますか。

清水: まず、「採用市場向けの魅力的なエレベータピッチ」を用意した方がいいです。ある程度有名なスタートアップだったとしても。もちろん、候補者は事前にあなたの会社を調べては来るでしょう。それでも、「何の事業をやっているのか、なぜそんなことを始めたのか、このあとどんな世の中にしたいのか、私はどんな人なのか」を、採用に関わる人が熱く、しかも端的に語れたほうがいい。多くのベンチャーは、自社について説明不足です。グーグルやマッキンゼーならいざ知らず。あれほど投資家向けのピッチを丁寧に練るのであれば、同じくらいの情熱と時間を、採用の候補者に向けることにも価値があるはずです。

清水: それが「採用ブランド」にまで至るとさらに強いです。これはもう少し後のフェイズの話かもしれませんが。ミスミという会社がありますが、売上高約500億円だった創業40年の企業が、プロ経営者に変わって6年くらいで、売上高約1200億円まで伸びたのです。「V字回復の経営」などの著書で有名な三枝匡さんという社長がキーマンなのですが、優れた戦略と実行力はもちろんのこと、とにかく採用市場で強固なブランドを作り上げて、優秀な人材を集めたのです。事業内容は機械工業部品ですよ。非常に、地味です。それでもあれだけたくさんの優秀な人材が集まって事業を伸ばしたのは、「ミスミは経営人材育成企業である」という採用ブランドを築き上げ、ビジネスとして、成長機会として、これほど面白いところはないと強く伝えられたからだと思うのです。もちろん切り口は会社それぞれですが、ベンチャーは事業の醍醐味も存分に伝えられるはずですし、「あの会社は面白い、働く場として」というブランドを築くことは一朝一夕では難しいですが、大切だと思います。

柴田: 今日は、お忙しい中、ありがとうございました。


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