リンクトイン2.6兆円の巨大買収の舞台裏詳細(計5社と交渉していた模様)

リンクトインがマイクロソフトに2.6兆円で買収されるというニュースがありましたが、その舞台裏の交渉の様子が公開されました。

米国証券取引委員会(SCE)が先週金曜日に公開した文書に詳しくでています。なぜこんな詳細を公開しているのか、という点ですが、リンクトインは公開企業で、Dual Class Stockを採用しており、創業者・取締役会長のReid Hoffman氏が過半数以上の議決権を有しています。つまり、Reid Hoffman氏は他の株主が反対しようとも彼が売りたいと思えば、M&Aを決めることが出来てしまったわけです。とはいえ、あまりにも彼「だけ」が美味しいディールにすると、他の株主から訴訟されかねません。従って、売却にいたる経緯をしっかり公開し、利益相反等がなかったことをしっかり他の株主にも説明するための文書と思われます。

リンクトイン創業者・取締役会長のReid Hoffman氏

上記のSECの文書には、「Party A(A社)」という表現で、実際にM&Aの交渉をした会社が複数、匿名で記載されていますが、実際にどの会社なのかの予測まで、Recodeに出ています。

【第一章】売却交渉開始のトリガーを引く

リンクトインが2015年の通年決算を発表した直後に、弱気な業績予想を出したためか、株価が1日で40%も暴落しました。

M&Aの交渉は決算発表の12日後の2016年2月16日に始まります。この日に、リンクトインCEOのJeff Weinerが、マイクロソフトCEOのSatya NadellaとMTGを持ち「何か一緒に出来ませんかね」という相談を始めます。M&Aの話も話題に出たようです。

リンクトインのCEOのJeff Weiner氏

マイクロソフトCEOのSatya Nadella氏


【第二章】マイクロソフト以外にも、Salesforce・Googleとも交渉開始

約1ヶ月後の3月10日に、A社(Salesforceとの噂)のCEOとMTGを持ちます。MTGの内容は、M&Aを含めた協業の可能性を模索するため、とのこと。

ちなみに、SalesforceのCEO、Marc Benioff氏は↑の写真の人です。

3月14日には、A社(Salesforce)のCEOより、「この話、もっと進めましょう」との打診アリ。

同じく3月14日に、リンクトイン会長のReid Hoffmanが、B社(Googleとの噂)の上級役員とのMTGを持ちます。同日夕方に、このB社(Google)の上級役員より、買収検討を進めるために、再度MTGを持ちたいとの連絡が来ます。

翌日3月15日、リンクトインCEOのJeff Weinerが、マイクロソフトCEOのSatya Nadellaに電話をかけ、「リンクトインを今すぐ売りたい訳じゃないんだけど、M&Aに興味あります?」と打診。マイクロソフトCEOのSatya Nadellaは、マイクロソフトの取締役会で検討する旨、返答。

更に翌日の3月16日、リンクトインCEOのJeff Weinerは、A社(Salesforce)のCEOと再度会いました。A社(Salesforce)のCEOは、既にリンクトイン買収のために、ファイナンシャル・アドバイザーと契約したことを伝え、買収に非常に前向きであることを伝えます。

同じく3月16日、マイクロソフトCEOのSatya Nadellaが、「マイクロソフトも買収に前向き」と連絡してきます。

3月18日、リンクトインの取締役会が開催されました。CEOからは「マイクロソフト、A社(Salesforce)、B社(Google)の3社がM&Aに関心を示している」という報告がなされました。
また、創業者・取締役会長のReid Hoffman氏は、自身が過半数以上の議決権を有しているが、他の株主にも不利にならないようなディールにしたいとの宣言がなされました。
これを受けて、リンクトインの取締役会は、Transactions Committee(「買収検討委員会」)を設置します。ファイナンシャル・アドバイザーにはQatalyst Partnersを選定します。

3月21日、A社(Salesforce)のCEOから、リンクトインCEOのJeff Weinerは、買収を詳細に検討するためのMTGを持ちたいとのメールが来ます。

3月22日、リンクトインCEOのJeff Weinerは、A社(Salesforce)のCEOに「MTGしましょう」と返事をし、B社(Google)とマイクロソフトCEOにも「MTGしません?」とメールします。

同日、ファイナンシャル・アドバイザーのQatalyst Partnersより、「C社にも話してみてはいかが?」と打診されたので、Transactions Committee(「買収検討委員会」)にて、C社とも話をすることを承認。夕方、マイクロソフトCEOとのMTG。

3月25日、リンクトインCEOのJeff Weinerが、C社のCEOとMTG。

同日、リンクトイン会長のReid HoffmanとCEOのJeff Weinerは、A社(Salesforce)のCEOとMTGを行い、A社(Salesforce)のCEOからは「買収することになっても、Jeff Weinerには続投して欲しい。会長のReid HoffmanにはA社(Salesforce)の取締役になってもらうことも検討してほしい」と打診あり。

3月29日、ファイナンシャル・アドバイザーのQatalyst PartnersがC社の上級役員、事業開発担当者とMTG。

同日、リンクトイン会長のReid HoffmanとCEOのJeff Weinerは、B社(Google)の上級役員とMTG。

3月31日、リンクトイン会長のReid HoffmanとCFOが、マイクロソフトCEOのSatya Nadellaや他の役員とMTGをして、買収後のお互いのメリットを議論。

4月1日、Transactions Committee(「買収検討委員会」)にて、リンクトイン会長のReid Hoffmanが「D社(Facebook)がもしかしたら興味持つかもしれないから、D社(Facebook)のCEOとMTGセットしといたから。」と報告し、D社とも交渉することを同委員会が承認。

4月2日、C社の事業開発担当者が、ファイナンシャル・アドバイザーのQatalyst Partnersに「事業提携は興味あるけど、買収はちょっと今回は無理だわ」と連絡。

4月4日、B社(Google)の上級役員が、リンクトインCEOのJeff Weinerへ「うち(B社=Google)も買収興味あります。事業開発チームから、Qatalyst Partnersへ連絡させます」と連絡あり。

4月7日、リンクトイン会長のReid Hoffmanは、D社(Facebook)のCEOとMTG。このMTGで「リンクトインは今、複数の買収オファーを貰ってるんですわー」と伝えるものの、D社(Facebook)のCEOはM&Aには関心を示さず。

4月18日、Transactions Committee(「買収検討委員会」)開催。C社は現時点ではM&Aに関心がないことを報告。追加で、ファイナンシャル・アドバイザーを1社追加することを承認。

4月20日、リンクトイン会長のReid Hoffmanが、B社(Google)から連絡が来て、再度、買収後の双方のメリットを議論。その後、5月3日、B社(Google)は「今回は無理っす」と脱落。


【第三章】買収オファーがレターで届く、大ボスBill Gates氏も登場

4月25日、A社のCEOより「買収のオファーレター準備してまっせ」と連絡あり。同日、「1株$160-$165で買収する気ありまっせ。最大で50%まで現金で払います。残りは株式交換にて」とのレターが届きます。

5月4日、マイクロソフトより「1株$160で買収したいっす。株式交換も可能っす。ここから先は独占交渉にしたいっす。」とのレターが届く。

5月6日、Transactions Committee(「買収検討委員会」)にて、「リンクトインとしては、1株$200払ってくれるなら、独占交渉しても良し」と決定。この旨、マイクロソフトとA社に連絡するも、両社ともこの値段をコミットしてまで、独占交渉をしたい、とはならなかった。

5月9日、リンクトイン会長のReid HoffmanとBill Gates氏がMTG。


【第四章】買収金額が釣り上がり始め、独占交渉の相手が遂に決まる!

5月9日、A社より「買収金額を1株$171まで上げます。半分は現金で、半分は株式交換にて」とのレターが届く。

5月11日、マイクロソフトより「買収金額を1株$172まで上げます。マイクロソフトとしては全額現金払いが良いけど、リンクトインが希望するなら一部を株式交換でも可能。そろそろ独占交渉にさせてくれません?」とのレター届く。

5月12日、Transactions Committee(「買収検討委員会」)にて、「5月13日のリンクトインの取締役会前までに、マイクロソフトとA社(Salesforce)の両社に最終提示価格を出してもらおう」と決定し、両社へその旨通知。この委員会にて、リンクトイン会長のReid Hoffmanは「マイクロソフトに電話して1株$185まで上げられるなら、リンクトインは僕が説得するよ、と言いたい」と発言。

5月13日、マイクロソフトより「買収金額を1株$182まで上げます。株式交換も可能っす」A社(Salesforce)からは「買収金額を1株$182まで上げます。1株$85分までは現金で、残りは株式交換にて」との連絡が来る。両社とも独占交渉を希望。

同日、リンクトインの取締役会開催。取締役会は、マイクロソフトとの独占交渉を承認。

5月14日、リンクトインは、マイクロソフトとの独占交渉契約(期限は6月12日まで)に署名。


【第五章】更に波乱が続く...

5月20日、マイクロソフトと独占交渉を決めた後に、A社(Salesforce)より「うちの提案は1株$85の現金+株式交換(株式数固定)だったんだけど、うちの株価が上がったので、今だと1株$188で買うことになりまっせ」と連絡が来る。

6月5日、A社(Salesforce)より「更にうちの株価が上がってしまってねー、今なら1株$200で買うことになりまっせ」とレターが届く。

確かに、当初の提案の5月13日から見ると、Salesforceの株価が上がっていることが良く分かります。

6月6日、Transactions Committee(「買収検討委員会」)にて、「A社(Salesforce)の株価が上がっているので、マイクロソフトには『当初話をしていた1株$182じゃ無理っすわ。1株$200にしてよ。』と通達すべき」と決定。

6月7日、リンクトイン会長のReid Hoffmanが、マイクロソフトCEOのSatya Nadellaに「別の会社から株式交換で提案があって、そちらの株価があがっているので、1株$182は無理っすわ。1株$200にして。$200にしてくれるなら、全額現金払いでもいいっすよ。」と通達。

6月10日、マイクロソフトからは「1株$190まで上げます」と連絡あり。

同日、Transactions Committee(「買収検討委員会」)にて、「1株$196、全額キャッシュで妥協するよとマイクロソフトを説得すべし」と決定。マイクロソフトへ通達。

6月11日、マイクロソフトの取締役会にて「1株$196、全額キャッシュでのリンクトイン買収」が承認される。

同日、リンクトインの取締役会にて、同買収が承認される。


振り返ってみると...

2.6兆円のM&Aが、最初にディールを開始してから、4ヶ月(実質3ヶ月)でクローズしてしまっているスピード感に驚きです。

また、底値での株価が約$100だったので、約$200で売却できたという点では、売り手が強かった印象です。リンクトインと同じスケールの類似ビジネスはないため、マイクロソフト、Salesforceがオークションでビッドを釣り上げたのが印象的でした。

また、マイクロソフトに与えられた独占交渉期間は6月12日までで、その前日に買収ディールがクローズしたというのも、ギリギリまで交渉が続いていたことを示唆しています。もし、この独占交渉期限を過ぎていたら、当然Salesforceが有利になる状況でしたから、マイクロソフト・リンクトイン共に、この日までにクローズしたかったのでしょう。

今回開示された内容では、計5社と買収の話をして、2社(マイクロソフト、Salesforce)が本格的にLetter of Intent(買収する意思がある旨のレター)を出していることになります。そして、独占交渉が始まった後も、Salesforceからの提案の一部が株式交換であったために、買収金額が(Salesforceの株価に連動して)釣り上がる形になり、リンクトインとしては良い方向に話が進んだ(他方、マイクロソフトとしては値段が上がってしまった)というのが非常に特徴的で、独占交渉開始後であっても価格が変動しうるというのがM&Aの面白いところですね。


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