Q. Kaizen Platform vs サンアスタリスク、明暗を分けたリードジェネ戦略とは?
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A. Kaizen Platformでは、比較的低単価の「KaizenVideo」をフックにした新規顧客獲得を進めており、顧客数はYoY+60%と大幅に成長しました。加えて「KaizenVideo」で獲得した既存顧客に対して、よりARPUの高いソリューションを提供することで更なる成長を進めています。
この記事はゆべしさんとの共同制作です。
新型コロナウイルスの影響により、大企業を中心としたDX(デジタルトランスフォーメーション)ニーズが高まっています。2020年12月18日の電通デジタルの調査では、2020年度中に日本企業の74%がDXに着手し、前年から+4%の拡大となったとされています。
加えて、DXに着手している企業のうち、約半数が新型コロナウイルスの影響でDX推進が加速したと回答しています。
引用:日本企業の DX はコロナ禍で加速するも 推進の障壁は DX 人材の育成 -日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査 2020 年版を発表
この記事では、拡大しているDX市場を牽引する企業のうち、2020年に上場した「Kaizen Platform」と「サンアスタリスク」の2社を比較していきます。
両社の売上成長率を比較すると、そこには大きな差がありますが、その明暗を分けた大きな要因は、両社のリードジェネレーション(見込み顧客の獲得)戦略の違いにありました。
では、どちらの企業のどのような戦略が功を奏したのか、具体的に見ていきましょう。
コロナ禍で加速するDXのトレンド
Kaizen Platform 2020年12⽉期通期決算説明資料
前述したとおり、新型コロナウイルスの感染拡大により、大企業を中心にDXニーズが加速しています。
Kaizen Platformの決算資料によると、DX市場のTAM(獲得可能な市場規模)は2019年が7,912億円に対して、2030年には3兆425億円と急速に成長することが見込まれています。
Kaizen Platformの事業内容
それでは、両社の比較に移る前に、簡単に両社の事業内容をおさらいしていきましょう。
Kaizen Platformは、企業のDX推進を支援するプラットフォームとサービスを提供している会社です。具体的には、1.UX(ユーザーエクスペリエンス)ソリューション、2.動画ソリューション、3.DXソリューションの3つのソリューションサービスを展開しています。
このうち、UXソリューションおよびDXソリューションを「サイトソリューション事業」、動画ソリューションを「KaizenVideo事業」と位置づけています。
Kaizen Platformは上図の通り、サービスをグロースさせたい顧客と、グロースハッカーをマッチングさせるプラットフォームを運営しています。顧客はKaizen Platformを介して、Webサイトのデザイン案や動画広告のクリエイティブ案の発注・納品を受けています。
お金の流れとしては、顧客がKaizen Platformにサービス利用料を支払い、その一部をKaizen Platformがグロースハッカーに報酬として支払っています。そのため、Kaizen Platformの売上は、プラットフォームの流通総額に対する手数料となります。
Kaizen Platformの強みは、DX推進に必要なソフトウェアや人材の提供にあります。顧客はKaizen Platformを利用することで、DX推進に必要なソフトウェアや人材をアウトソースすることができるメリットがあります。
また、 顧客はWebサイトにタグを埋め込むだけで、既存のシステムに影響を与えること無く、サイト分析、UI改善ができるため、スピーディーにDXに取り組むことができることも大きなメリットです。
サンアスタリスクの事業内容
サンアスタリスクもまた、顧客のDXや新規事業開発の支援を行っている会社です。
具体的には、顧客の事業創出からサービス成長に対して、企画・開発面で支援する「クリエイティブ&エンジニアリング」と、人材の紹介面で支援する「タレントプラットフォーム」の2つの事業を展開しています。
また、サンアスタリスクのビジネスモデルはKaizen Platformのようなマッチングプラットフォームとは異なり、売上の約80%を占めるクリエイティブ&エンジニアリング事業は、顧客との直接取引で企画・開発の支援を行っています。
同社の最大の特徴は、ベトナムを中心とした海外拠点に1,000人を超えるエンジニアを抱えていることです。日本国内である程度上段の設計などを行い、海外のエンジニアチームと連携をして開発を進めることで、独自のポジショニングを築いています。
両社の業績を比較
次に両社の業績を比較します。上図は2020年10-12月の3ヶ月間の財務状況を抜粋しました。
Kaizen Platformの売上は4.93億円、営業利益は0.22億円、サンアスタリスクの売上は13.98億円、営業利益は1.92億円と、売上および営業利益の規模ではサンアスタリスクが大きくリードしています。
しかしながら、売上の前年同期比ではKaizen Platformが+51.9%、サンアスタリスクが+18.47%と、Kaizen Platformが大きく成長しています。
売上成長率に大きな差が生まれた要因はどこにあるのでしょうか。
両社に共通する2つの重要KPIとは?
売上=顧客数×ARPU(顧客単価)
Kaizen Platformの売上成長率が高い理由を考察する前に、まずは重要KPIを整理します。両社の重要KPIは、売上を構成する「顧客数」と「ARPU(顧客単価)」の2つです。特にサンアスタリスクは、「顧客数」に対して、3ヶ月以上継続する準委任契約の顧客をストック型顧客として分類し、重要視しています。
Kaizen Platformは、前述したとおり、プラットフォームを運営していることから、顧客数とARPUで算出されたグロス売上高(総取扱高)に対して、テイクレート(手数料率)を乗じた収益が売上となります。
ここまでは、Kaizen Platformとサンアスタリスクの事業内容、そして両社の重要KPIについて整理してきました。
記事の後半では、Kaizen Platformの売上成長率が急成長している理由について、冒頭で申し上げたように、「リードジェネ戦略」を中心に具体的に考察していきます。
Kaizen Platformの重要KPI実績
まずはKaizen PlatformのKPIから見ていきましょう。
コロナ禍においても、顧客数はソリューション事業・KaizenVideo事業共に大きく伸長しています。特にKaizenVideo事業の顧客数は331社と、YoY+60%で大きく成長しています。
ARPUは、旅行・エアライン・エンタメ系の大口顧客のコロナ影響に伴いソリューション事業は微減、KaizenVideo事業はほぼ横ばいで推移しています。
そのため、前述したとおりKaizen Platformの売上が前年同期比+51.9%と大きく成長した背景には、顧客数の増加が大きく寄与していることが分かります。
Kaizen Platformの重要KPI向上戦略
Kaizen Platformでは、低単価で顧客にとって契約のハードルが低いKaizenVideo事業で新規顧客を獲得し、次に単価の高いUX・DXソリューションへ展開していくことで、顧客獲得と顧客単価の双方を伸ばしていく戦略を打ち出しています。
具体的には、KaizenVideo事業で制作した動画を活用して、Webサイトや広告、営業に活用する等の新しい提案をUX・DXソリューションで実施できることから、各ソリューションのシナジー創出が期待でき、既存顧客に対してアップセルやクロスセルを行うことができます。
上図は2020年の取引ポートフォリオで、縦軸にARPU、横軸に顧客の利用ソリューション数に応じた取引社数を表しています。
顧客の利用するソリューション数が増えることで、193万円→1,507万円→6,980万円と指数関数的にARPUが伸びています。クロスセルを積極的に進める戦略は、単に売上が積みあがるだけではなく、ARPUの伸び率が飛躍的に上がるという結果をもたらしている事が分かります。
サンアスタリスクの重要KPI実績
続いて、サンアスタリスクの重要KPIを見ていきます。上図左はストック型顧客数の推移を企業規模ごとに分類したものであり、約75%をSMB(中小企業)が占めています。
全体のストック型顧客数の推移は2020年12月期で85社(YoY+18%)と増加していますが、Kaizen PlatformのYoY+60%と比較すると成長は緩やかです。
次に上図右のARPUは、エンタープライズ顧客およびSMB顧客も順調に増加しており、全顧客平均のARPUは2020年12月期で389万円(YoY+26%)です。
サンアスタリスクの重要KPI向上戦略
まず、ストック型顧客の獲得施策は、見込み顧客を獲得するためのリードジェネレーション、獲得した見込み顧客の購入意欲を高め、将来的な受注につなげていくリードナーチャリングです。
具体的には、既存顧客からの流入やアライアンス等の強化を行うことで、見込み顧客の流入増加を図り、コミュニティの形成やビジネスインキュベーション体制(新たにビジネスを始める人に対して不足する資源を提供し、その成長を促進する体制)を整えることで将来的な受注につなげていきます。
次に、顧客単価向上施策として、エンタープライズ顧客の比率増による平均単価の増加を図っています。2020年12月期のエンタープライズ顧客のARPUは6.68億円に対して、SMBは2.98億円と、約2.3倍の差があることから、エンタープライズ顧客の比率を高めることで全体のARPUを向上させる戦略です。
サンアスタリスクはストック型顧客の獲得施策の一環として、デロイトトーマツベンチャーサポートと新規事業開発支援領域での協業を開始しました。
デロイトトーマツベンチャーサポートが運営する「Startup Compass」において、サンアスタリスクが顧客の事業創出における仮説検証を支援し、新規事業開発の実現可能性を高めていきます。
この提携により、デロイトトーマツベンチャーサポートが抱えるスタートアップに対する支援を加速させることで、新規顧客獲得を進めているようです。
次に、エンタープライズ顧客の獲得戦略として、マイクロソフト等のこれまでに業務提携した企業とともに、顧客のDX推進、新規事業の開発支援を推進していきます。
マイクロソフトをはじめとしたアライアンス提携を行う企業は、顧客として大企業を多く抱えていることから、こうした企業との提携を行うことで効率的にエンタープライズ顧客を獲得し、全体のARPU向上を進めています。
まとめ
ここまで、記事の前半ではDX市場やKaizen Platformとサンアスタリスクの事業内容や財務状況、重要KPIを比較していきました。記事の後半では、両社の重要KPIの実績と今後の成長戦略を確認しながら、Kaizen Platformの売上が急成長した理由について考察しました。
2020年12月期でKaizen Platformの売上がYoY+51.9%と大きく成長した背景には、比較的低単価なソリューションであるKaizenVideo事業を中心とした新規顧客獲得戦略の大幅強化にあることが分かりました。
加えて、Kaizen PlatformはKaizenVideo事業で獲得した顧客に対して、他のソリューションを提供するクロスセル戦略を進めており、クロスセルが成功することでARPUが指数関数的に増加することから、今後更なる売上成長が期待できます。
一方のサンアスタリスクは顧客数獲得やARPU向上の施策として、デロイトトーマツベンチャーサポートやマイクロソフト等の企業とアライアンス提携を行うことで、効率的に重要KPIを高める施策を展開しています。
この四半期について言えば、低価格なサービスで見込み顧客を取込みクロスセルで指数関数的に売上を成長させる戦略を取ったKaizen Platformが、大企業向けサービスに力を入れたサンアスタリスクよりも、売上の伸びが大きかったという結果になったと言えると思います。
2社のこの戦略の違いは対照的で、次の四半期でどのような変化を見せるのか、気になるところです。
新型コロナウイルスの影響により、大きく拡大するDX市場を牽引する両社の展開に、今後も注目していきたいと思います。
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