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テクノロジーの地政学:Agri・Food Tech(シリコンバレー編):IT産業の大物たちが「農と食」に投資する理由

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「Software is Eating the World」。
この言葉が示すように、近年はソフトウェアの進化が製造業や金融業などさまざまな産業に影響を及ぼしています。そこで、具体的に既存産業をどのように侵食しつつあるのか、最新トレンドとその背景を専門外の方々にも分かりやすく解説する目的で始めたのが、オンライン講座「テクノロジーの地政学」です。
この連載では、全12回の講座内容をダイジェストでご紹介していきます。
講座を運営するのは、米シリコンバレーで約20年間働いている起業家で、現在はコンサルティングや投資業を行っている吉川欣也と、Webコンテンツプラットフォームnoteの連載「決算が読めるようになるノート」で日米のテクノロジー企業の最新ビジネスモデルを解説しているシバタナオキです。我々2名が、特定の技術分野に精通する有識者をゲストとしてお招きし、シリコンバレーと中国の最新事情を交互に伺っていく形式で講座を行っています。
今回ご紹介するのは、第9回の講座「Agri・FoodTech:シリコンバレー」編。ゲストは、ITOCHU International Inc.のシリコンバレーオフィスでベンチャーキャピタル(以下、VC)への投資およびスタートアップへの戦略投資に従事している土川哲平氏です。


【ゲストプロフィール】

土川哲平氏
慶應義塾大学商学部を卒業。米の通信機器メーカーなどを経て、2004年、伊藤忠商事株式会社に入社。2007年〜2009年まで米国ITOCHU Technology Inc.(現ITOCHU Techno-Solutions America)に駐在。以後一貫してVCへの投資およびスタートアップへの戦略投資に関する業務に従事。帰任後の伊藤忠商事株式会社本社勤務に続き、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社への出向を経て、2017年10月より現職。


食料不足や価値観の変化...AgriTechが挑む「大きな課題」

今回の講座では、AgriTech(アグリテック=農業×テクノロジー)とFoodTech(フードテック=食×テクノロジー)の2分野を掘り下げていくということで、まずはAgriTechの全体動向から紹介していきます。

アメリカではAgTech(アグテック)と呼ばれているこの領域。土川氏は、進化の方向性として主に3つの切り口があると説明してくれました。

土川:AgriTechについて、米の調査会社CB Insightsが挙げているキーワードには

(1)Understand Inputs
(2)Boost Efficiency
(3)Manage Operations

の3つがあります。(1)は、とにかくデータを正確に把握すること。(2)は、各種センサーから取得したデータを分析しながら生産効率を上げるということ。最後の(3)はソフトウェアの力でオペレーションを上手に回しましょうということです。

通信やIT技術の革新は、農業に限らずさまざまな生産現場で「見える化」「効率化」「自動化」を進めてきました。AgriTechも、この3つの文脈で進化してきたと言えるでしょう。

歴史的な部分を詳しく振り返ると、実は2006年〜2008年ごろの動きが、この業界に大きなインパクトを残していると思っています。

まず、2007年くらいを境に原油資源価格が高騰化し、エタノールなどのバイオ燃料が石油燃料の代替として注目されるようになります。そのため、トウモロコシや大豆といった原料となる植物の価格が一気に上がったんですね。これと時を合わせるように、2008年には後に米大統領となるバラク・オバマが大統領選の中で景気対策の一環として代替エネルギーへの投資を公約に打ち出し、その後のグリーン・ニューディール政策につながります。その流れで、「資源の問題」と「食料生産」が今まで以上に密接に絡むようになりました。

さらにこの頃、テクノロジー面の進化に大きく影響を与える出来事が続きます。2006年には米AmazonがAWS(Amazon Web Services)としてクラウドコンピューティングサービスを開始し、クラウド環境で膨大なデータを管理・分析するための礎が築かれました。その翌年の2007年にはiPhoneが誕生し、同時期に通信規格も3Gにアップグレードされます。

こうして通信や技術面の土台も整ってきたことで、広大な農地に各種センサー類を設置してリアルタイムにデータを収集するような「見える化」も、比較的低コストで出来るようになりました。

また、スマートフォンが普及していく流れの中で、SNSのようなサービスも一気に広まり、情報の非対称性を解消するという観点から、Webやネットワーク技術も大きく進化していきました。これが農業の現場にも持ち込まれるようになっているわけです。

シバタ:農業とテクノロジーの融合は以前から進んでいたということですが、なぜ今になってAgriTechがこれほどの脚光を浴びるようになったのでしょう?

吉川:理由の一つに、食料生産力の向上がいよいよ必要不可欠になってきたというのがあります。世界的に人口が増えている中、安定したビジネスとして農業を運営する必要性が高まっているというか。

最近は、日本でも気候変動が問題になり始めていますよね? また、台風が今までにない動き方をしたり、ゲリラ豪雨が頻繁に降るなど、気象災害も増えています。アメリカでも、ハリケーンが未曾有の被害をもたらしたり、シリコンバレーのある米カルフォルニア州では山火事が頻発するようになっています。

農業を営む人たちにとって、こうした状況の中でもちゃんと作物を育て、ビジネスとして収益を出していけるかどうかは死活問題です。そこで、IoT(モノのインターネット)や人工知能(以下、AI)、ロボティクスのような先端テクノロジーを駆使しながら新しい農業をやっていこうという人たちが増えているのです。

もう一つ見逃せないのは、若い世代の価値観が変わってきたこと。ライフスタイルが多様化したことで、肉を食べないベジタリアンやヴィーガンも増えています。その理由は、環境への配慮であったり、宗教に則した考え方、もしくはファッション的な感覚もあるでしょう。ただ、理由はともあれこの10年くらいで「食」に対する意識が大きく変わっているのは間違いありません。

そこにシリコンバレーの会社が目を付け始め、AgriTech関連のスタートアップに注目するVCも増え、一気にマーケットが盛り上がってきたのだと見ています。

シバタ:では次に、そのVCによるスタートアップへの投資額を紹介しましょう。CB Insightsが調べたAgriTech関連企業への投資データを見ると、2012年は投資総額で$74 Million(約74億円)、投資件数で12件でした。それが2017年になると、投資総額が$437 Million(約437億円)、投資件数が62件と大きく伸びています。

これに合わせて、農業ビジネスを手掛ける大企業が農機・農業管理・アナリティクス関連のスタートアップを買収する動きも活発になっていますね。土川さんと吉川さんが過去に注目した案件はどれですか?

土川:2013年、米の化学メーカーMomsanto(モンサント。2018年6月に独の総合化学企業Bayerに買収された)が、ビッグデータによる気候予測のスタートアップである米The Climate Corporation(クライメート・コーポレーション)を買収したのが一つの転機になったと思います。

(The Climate CorporationのWebサイト)

日本円にして1000億円を超える額での買収でしたが、これが契機となって、VCの間で「AgriTech関連のスタートアップでもイグジットを実現できるんだ」という空気感が生まれたように感じています。

吉川:確かにあの買収劇が、2017年にAIを使った農業用ロボットを開発する米Blue River Technology(ブルーリバー・テクノロジー)を農業機械メーカー大手の米Deere & Company(ディア・アンド・カンパニー)が買収したり、ファームマネジメントソフトウェアプラットフォームを運営する米Granular(グラニュラー)を化学大手の米Du Pont(デュポン)が買収していく流れを生んだと言えるでしょうね。


話題の「人工肉バーガー」から見るFoodTechの動向

次は、FoodTech(フードテック=食×テクノロジー)の動向を見ていきましょう。

この分野では、バイオテクノロジーやロボティクスなどが注目を集めることが多いのですが、今回はシリコンバレーで特に話題に上ることが増えているAlternative proteins(オルタナティブ・プロテイン)やClean meat(クリーン・ミート)について詳しく紹介していきます。

シバタ:まずは、オルタナティブ・プロテイン、クリーン・ミートとは何なのか? というところから解説をお願いします。

吉川:要は、プロテイン=タンパク質の代替になるような食材を作ろうとしているんです。以前から植物由来のタンパク質の製造はビジネスとして存在していましたが、こういったネーミングであったり、普及のさせ方が、シリコンバレーらしいというか。

例えば、最近の子どもたちは、SNSや動画メディアを通じてものすごい量の情報を得ていますよね? うちの子どもたちもYouTubeをよく観るのですが、そこで動物を工業的に飼育して食肉を大量生産するような映像を観て、衝撃を受けるわけです。

で、あんな残酷なやり方で育てられた動物を食べ続けるなんて惨すぎる! と宣伝しつつ、テクノロジーを使って倫理的にも「クリーンな肉」を作るから食べてみてねと一般人に薦めているんですね。

やり方自体は、ひと昔前にプラカードを持って「毛皮反対」を訴えていたような業界団体と何ら変わりません。でも、SNSがある今は拡散力が違う。世界的に見れば食料不足の問題もあるので、これだけがオルタナティブ・プロテインやクリーン・ミートの普及を促しているわけではありませんが、シリコンバレー的なやり方が新しいタンパク源への注目度を高めているという側面は少なからずあると思います。

現状は、生産コストが非常に高いという点が課題です。これが100グラムあたり100円以下まで落ちていったら、ビジネスとしても普及期に入っていくかもしれません。

シバタ:オルタナティブ・プロテインの中でも、Animal-free Meatと呼ばれるジャンルには、大きく「植物性由来たんぱく質」と「培養肉」がありますね。植物性由来たんぱく質はプラントで作っているもの、培養肉はラボ(研究所)で作っているもの。

前者だと、米Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)の主力商品であるImpossible Meatを使った「インポッシブルバーガー」や、米Beyond Meat(ビヨンド・ミート)の「ビヨンドバーガー」が有名になりつつあります。

(アメリカで知名度を上げつつあるインポッシブルバーガー)

土川:「インポッシブルバーガー」は、アメリカだと知名度のあるハンバーガー・チェーンやレストランでも採用されていますしね。うまくタイアップしながら市場に入り込んできているという印象があります。ハンバーガー・ショップで出すくらいなので、基本的には「肉好き」な人たちも食べるわけで、ベジタリアンやヴィーガンの方々以外にもアピールできる。

この領域では、大豆由来のAnimal-free Meatも含めれば、1990年代からいろんな会社が製造に取り組んできたと思うんですね。ただ、ほとんどがベジタリアン向けだったので、マーケットが小さかった。ところが2010年代になると、世界的な人口増加による食料問題が注目され、ビル・ゲイツのようなIT業界の大物たちもこの領域を取り上げるようになったことをきっかけに、シリコンバレーの大手VCも注目するようになりました。

食料問題の解消を目指すとなると、ベジタリアンやヴィーガン以外の幅広い層にもアプローチをしなければなりません。だから、人工肉関連のスタートアップのほとんどが、肉好きな人にもちゃんと食べてもらえるものを作るというのをゴールにしているのです。今後も品質改良は進んでいくでしょう。

シバタ:しかも最近は、プロテインだけでなくさまざまな種類の代替食品系スタートアップが出てきています。ミルクやチーズ、卵、動物を使っていないグルテン。中には虫を使って代替食品を作っているスタートアップもあります。

当然、こうした動きの背景にはVCによる投資があると思うのですが、なぜ今、FoodTechへの投資が盛り上がっているのでしょう?

土川:一つは、食料問題のような世界的な課題の解決に取り組むことで、巨大な新市場が生まれる可能性があるからだと思います。それをシリコンバレー流で作っていけるのではないか、という点に期待するVCが増えているのではないかと。

加えて、吉川さんがおっしゃっていたように消費者のライフスタイルが変化しつつある中で、「食」に対する考え方も少しずつ変わっているのも大きいでしょう。そこにテクノロジーの進化が追いついてきた。

全体感として捉えると、食料の生産〜流通〜消費というプロセスの中で、「生産」と「消費」は時代が変わっても普遍の部分です。一方、いろいろな意味で影響を受けやすいのが、真ん中にある「加工」を含めた「流通」の部分。この真ん中の領域に対して、テクノロジーを使って従来とは違ったアプローチがなされるようになったというのが今なのだと思います。

吉川:補足すると、特にシリコンバレーの企業は、生産〜流通〜消費というサプライチェーンの中で、きっちりブランドを構築していくのが上手ですよね。

スマートフォンの世界を例に見ても、部品の加工や仲卸しをしている企業は世界中にたくさんあります。が、ブランドとして世界に知られているのは、iPhoneを提供している米Appleなど限られたメーカーです。これと似たようなことを「インポッシブルバーガー」や「ビヨンドバーガー」もやろうとしていて、今後これらの商品を提供する外食産業そのものを変えていく可能性があります。


孫正義やジェフ・ベゾスも注目。AgriTechの最先端事例

ここからは、シリコンバレーや北米におけるAgriTech・FoodTechの最先端スタートアップを紹介していきます。

この分野を分類すると、AgriTechには大きく【ソフトウェア】(アナリティクスなど)と【ハードウェア】(農機 / ロボット / ドローンなど)の2つがあります。ここに【FoodTech】を加えた3分野の中で、我々が注目する企業をいくつかピックアップしてみました。


AgriTechソフトウェア: Plenty(プレンティ)

ビッグデータと機械学習を駆使して従来より効率的な水耕栽培を行う「インドア農業」で知られるシリコンバレーのスタートアップで、2017年に孫正義氏のソフトバンク・ビジョン・ファンドやAmazon創業者のJeff Bezosといった投資家から$200 Million(約200億円)を調達して話題となりました。

同社の「インドア農業」は、センサーやLEDを使いつつ、データ解析に基づいた最適な農法を採用。農薬や遺伝子組み換え作物を使わず、水の使用量も極限まで削減しています。

インドア農業は、過去に「コスト面の高さが割に合わない」と下火になった時期がありましたが、ここ数年でコストが落ちてきたため再び脚光を集めるようになりました。同社の場合、従来の農法に比べて350倍の効率で生産しているそうで、今後のインドア農業を引っ張っていく存在と見られています(吉川)。

(PlentyのWebサイト)


AgriTechソフトウェア:Farmers Business Network(ファーマーズ・ビジネス・ネットワーク)

社名の通り、農家同士のネットワークを構築することでデータドリブン経営を促進するシリコンバレーのスタートアップで、2015年にはGoogle Venturesなど複数のVCから総額$28 Million(約28億円)の資金調達に成功しています。

加盟農家の精密農業を促すために、農業データを収集・データベース化・分析するサービスを提供しており、さらに種や肥料などの仕入れ元となって購買力の強化までサポートしています。

Farmers Business Networkの共同創業者の1人は、穀物商社として知られる米Cargill(カーギル)のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)出身で、リーマン・ショックが起こった2008年にシリコンバレーのVCに転身、2014年にこの会社を設立しています。こうした経歴を見ると、農業に対する世間の関心が高まり始めた時期にVC業界に入ってテクノロジーを学び、その後も非常に良いタイミングで起業していると感じます。農業ビジネスへの確かな問題認識を持った人物が、適したステップを踏んでうまく事業を大きくしている印象です(土川氏)。


AgriTechハードウェア:Agri-Protein Technologies(アグリプロテイン・テクノロジーズ)

これはシリコンバレーではなく南アフリカに拠点を置く会社なのですが、ハエを介して廃棄処分食品を家畜用飼料に変える技術を開発し、2013年に国連アフリカ経済委員会とアフリカ・イノベーション基金が革新的発明に対して贈る「イノベーション・プライズ・フォー・アフリカ」を受賞しました。世界45カ国、900以上におよぶ応募者の中から勝ち取ったということで、世界的に注目を集めています。

同社の技術を具体的に説明すると、特殊な方法で飼育したハエによって、廃棄された食品や廃棄物に含まれる血液、内臓、肥やしなどを家畜用飼料に変換するというもの。自然界での事象を再現し、産廃を再利用可能なタンパク質にリサイクルしています。

今回の講座で何度か出てきた食料問題を考えると、家畜を飼育する際の飼料価格も当然高騰化していくと予想されます。この問題に対応していくテクノロジーが必要ということで、(アプローチは違うとしても)類似のスタートアップに注目が集まると見ています。

近年は資金調達に積極的で、一般家庭の裏庭でハエを使った飼料リサイクルができるような小型リサイクルキットも$140(約1万4000円)で売り出しています(吉川)。

(Agri-Protein Technologiesが販売中の小型リサイクルキット)


FoodTech:Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)

先にも紹介した同社は、植物から食肉を製造するスタートアップとして非常に高い期待を集めています。2011年に米スタンフォード大学の生化学教授で元・小児科医のPatrick O'Reilly Brown博士により設立され、前段で触れた「インポッシブルバーガー」は2018年までに1,000軒を超える全米の飲食チェーンで発売されています。

資金調達の総額は、これまた2018年時点で$506.2 Million(約506億2000万円)。この調達額の多くが研究開発に回っているという認識ですが、前述したマーケティング面の優秀さなどを考慮すると、シリコンバレー流で商品を開発・改良し続けるための人材採用にも多額のコストを割いていると思われます。

今後は日本を含めた海外展開をどうやるのか? にも注目です。カリフォルニアは全米でも比較的エコ志向や健康志向が強いと言われているように少し特殊な市場です。さらに日本とも消費者のニーズが異なるので、ネーミングやUXを含めたマーケティング戦略に工夫が必要でしょう。

もう一つ、世界展開≒大量生産をする時に、品質はもちろん、一般の消費者が求めるコストに見合うのか見合わないのか。今はまだ特殊な市場で多少のプレミアムを払ってくれる消費者向けを相手にギリギリのところでやっているはずですから、今後の拡大戦略をどうやっていくのか見ものです(土川氏)。


FoodTech:Aspire Food Group(アスパイア・フード・グループ)

2012年に米テキサス州で設立されたスタートアップで、オルタナティブ・プロテインとしてコオロギを原料とした食品を製造しています。

「コオロギ・スナック」という一風変わった商品を提供している点でも注目ですが、この会社にはコンピュータネットワーク機器最大手の米CiscoでCEOを務めていたJohn Chambersが投資しており、IT業界の大御所が出資するFoodTechスタートアップとして脚光を集めました。2018年3月には、同業のプロテインバーメーカーの「Exo」を買収しており、さらなる成長が見込まれます(吉川)。


シェフロボットや劣化抑制剤が食ビジネスを変える?: YO-KAI EXPRESS(ヨーカイ・エクスプレス)

FoodTech関連スタートアップの中で個人的に大きな期待を掛けているのが「シェフロボット」で、YO-KAI EXPRESSは2016年に設立された「ラーメン自動販売機」を開発する会社です。

台湾出身のAndy LinがCEOを務めるこの会社は、本格的なラーメンを冷凍保存し、自販機で加熱して提供するという事業を展開しています。今は米Teslaの工場やスタンフォード大学に導入してもらうべく、協議を進めているそうです。

美味しいラーメンが食べられる日本だと、自販機でラーメンを提供することに疑問を持つ方もいるかもしれませんし、カップラーメンの自販機と何が違うのか? と感じる方もいるでしょう。しかし、例えばアメリカの田舎にある工場や病院、エアポートなどでは、夜間に飲食できるお店自体がなかったりします。そこで、こうした「シェフロボット」が24時間体制で料理を振る舞うことが、課題解決につながるわけです。

FDA(アメリカ食品医薬品局)の規格をクリアする料理を振る舞う体制を築くことができれば、後はシェフロボットがオーダーが来た分だけ調理して提供すればいい。そう考えれば、ロボットによる「24時間レストラン」は今後の飲食産業を変える可能性を秘めていると思っています(吉川)。


シェフロボットや劣化抑制剤が食ビジネスを変える?:Cafe X(カフェ・エックス)

これもシェフロボットの一つで、独の有名なキッチン製品メーカーWMF製のエスプレッソマシン2台と、ロボットアーム1台を駆使して自動でコーヒーを提供してくれます。共同創業者が中国系ということもあってか、最初に中国・香港で最新技術が集まる「サイエンスパーク」の中にオープンし、2017年1月にサンフランシスコのショッピングセンター「メトレオン」にもオープンしました。現在は3店舗を展開中です。

(サンフランシスコのOne Bush Plazaにある、Cafe X3つ目の店舗)

利用者はスマートフォンの専用アプリであらかじめ飲みたいコーヒーをオーダーしておくと、ロボットがコーヒーを作って提供してくれます(もちろん、装置の前に取り付けてあるタブレットの画面から直接注文することもできます)。単なる「自動のコーヒーショップ」という側面だけでなく、オーダーの仕方、ピックアップのやり方を変えるかもしれないという点でも、今後に注目しています(吉川)。


シェフロボットや劣化抑制剤が食ビジネスを変える?:Blue Apron(ブルーエプロン)

2012年に創業した「ミールキットサービス」の先駆け的存在で、2017年6月に米株式市場に新規株式公開(IPO)。その後、株価下落や従業員の解雇、システムトラブルなどもありましたが、FoodTech関連のスタートアップの中では代表的な企業に成長しています。

サービス内容は、家族構成について「2名」「4名」など人数を選び、1週間に何度料理をするかを選択すると、その分のミールキット(料理用の食材をまとめて加工・梱包してあるキット)が届くというもの。1回の食事で、1人あたりのコストはだいたい$10(約1000円)くらいからとなっています。

(Blue ApronのWebサイト)

アメリカでは、例えば、共働きで家政婦を雇っていないような家庭では毎日のように冷凍食品を温めて食べているというステレオタイプがあるくらい、料理の優先順位が低くなっているケースもあるとよく聞きます。それでこうしたミールキットサービスが人気を博しているわけですが、今後ブルーエプロンのような企業が有機野菜を栽培するファームや有名なワイナリーと契約するといった進化を遂げれば、単なるフードデリバリーとは一線を画したビジネスになっていくかもしれません。

資源の節約という観点からも、料理に必要な分量の食材が、ある程度加工された状態で届くというのは非常に効率的。さまざまな進化形が考えられるサービス領域です(シバタ)。


シェフロボットや劣化抑制剤が食ビジネスを変える?:Apeel Sciences(アピール・サイエンス)

カリフォルニア州サンタバーバラに拠点を置くこの会社は、青果物の「劣化抑制剤」を開発しているスタートアップです。植物由来で液体状の劣化抑制剤を外皮に直接吹き付けることにより、乾燥・酸化・腐敗のスピードを遅らせ、(青果の種類にもよりますが)常温保存で食べられる期間を通常の何倍にも延ばすことができます。

青果物を大量に使う業務用を考えると、流通〜消費の間に無駄にしてしまう青果物の量は半端ない量になります。それをテクノロジーを使って解消することが、コスト削減はもちろん、食料問題の解消にもつながる。そのため、あのビル・ゲイツも出資しています。食品流通の構造を変え得るようなテクノロジーに進化して、さまざまな産業に大きなインパクトをもたらすことが期待されているという点では、前段で取り上げられたインドア農業の「Plenty」も同様の可能性があると捉えています(土川氏)。


今後もオンライン講座「テクノロジーの地政学」のサマリを配信していく予定なので、ご希望の方は「テクノロジーの地政学」マガジンをフォローしてください。

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