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コインチェック米NASDAQ上場へ。マネックス買収から企業価値は何倍になった?

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ヒント:2018年にマネックスがコインチェックを買収した際の価格は74億円(アーンアウトを含む)。現在は大きく成長し、●●倍の時価総額に成長。
その背景にはマネックスの3つの戦略がありました。

この記事はhikoさん(企画・リサーチ担当)とMihoさん(ライティング担当)との共同制作です。

暗号資産取引サービスを手がけるコインチェック株式会社がNASDAQ市場へ上場するという計画が2022年3月22日に発表されました。通常の新規上場(IPO)ではなく、アメリカで昨年から急増しているSPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)上場です。

これが実現すれば、日本の暗号資産取引所として国内外を含めて初の上場となります。それ自体も注目ですが、もう1つ注目すべきはその評価額でしょう。2018年にマネックスが買収した際の金額は36億円(アーンアウトを含めると74億円)でしたが、どこまで伸びているのでしょうか?

この記事の前半では、コインチェックのこれまでの歴史、SPAC上場の仕組みについて説明し、記事の後半では、コインチェックの上場スキームや評価額などを詳しく解説したいと思います。

この記事では、1ドル=100円($1 = 100円)として、日本円も併せて記載しています。


コインチェックの事業と市場環境

まずはコインチェックの運営する事業概要についてです。コインチェックは国内最大規模の暗号資産取引サービス「Coincheck」、NFTのマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」、暗号資産を用いた資金調達プラットフォーム「Coincheck IEO」を運営しています。

暗号資産、NFTという言葉を聞くことが増えていると思います。これらの市場は法定通貨のような安定はなく、短期間で見ると価格が乱高下していますが、数年単位で見ると物凄い勢いで伸びています。

また海外では暗号資産を投資対象とする機関投資家が増えており、ファンドを組成して投資をするという動きも活発です。それもあって一部の暗号資産は大きな時価総額に成長しています。

NFT市場も活発で、ブロックチェーンデータ会社のChainalysis社のレポートによると、2021年の取引総額は約4.7兆円に達したといわれています。デジタルアートやエンタメの世界で普及しており、大企業や著名なアーティストの参入も増えてきている領域です。


コインチェックの歴史

コインチェック(旧称:レジュプレス)は2012年8月に設立されました。当初は実名制ユーザー投稿型サービス「STORYS.JP」という全く別のサービスを運営していましたが、2014年8月に暗号資産取引サービス「Coincheck」の提供を開始しています。

まだ暗号資産市場は黎明期であったと言えますが、約1年後の2015年7月には月間取引額が3億5,000万円を突破をしています。その後、市場の立ち上がりとともに急成長していましたが、2018年1月にニュースでも大きく取り上げられた暗号通貨流出事件​​が発生しました。

コインチェックが保有していた5億2,300万ネム(NEM:当時のレート換算で約580億円)が外部に不正送金され、取引停止に至りました。その後、金融庁の立ち入り調査や、財務省関東財務局から業務改善命令が出される事態となり、市場全体が暗号資産の取り扱いについての向き合い方を考えさせられることになりました。

事件発覚の3ヶ月後、2018年4月にコインチェックがマネックスグループの完全子会社となることが発表されました。買収総額は36億円で、買収後は新たな経営体制への移行もなされました。

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こちらのスライドは、マネックスグループの2022年3Q(2021年4月-12月)の決算資料です。買収当時はさまざまな声がありましたが、直近の決算では、収益255億円(YoY+286.3%)と大きく成長し、マネックスグループの収益の39%を占める主要事業となっています。

ちなみに主要3セグメントに占める割合のため、厳密には他セグメント(投資、アジア・パシフィック)を含めるとその割合は少し下がります。

買収後はマネックスグループの元で内部管理態勢及びセキュリティ強化、暗号資産交換業者登録、固定費の大幅削減等の内部要因に加えて、市場の急拡大という外部要因によって、コインチェックの業績は急成長しています。

また2021年3月には「Coincheck NFT(β版)」、2021年7月には「Coincheck IEO」がリリースされ、暗号資産取引を軸に新たな成長分野でのサービスも発表しています。

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そして、今回のNASDAQへの上場計画が2022年3月22日に発表されました。ストラクチャーや評価額についてはこのあと詳しく説明したいと思います。

なお2022年1月に公表されたマネックスグループの決算説明資料ではマルチプル法で評価額は約3,400億円と算出されており、現在SPAC上場で想定されている評価額とはやや差分があります。

マルチプル法とは類似企業比較法とも言われ、同様の事業を運営している上場企業をベンチマークとして、売上高や利益などの財務指標から評価倍率を求めて時価総額を算出する方法です。ここではPSR(Price to Sales Ratio:株価売上高倍率)、PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)が用いられています。

買収時は疑問の声もありましたが、2年間で管理やセキュリティ強化といった守りの部分と、新たな投資も含めた成長を両立して行ったマネックスグループのPMI(Post Merger Integration)能力の高さが伺えます。


SPAC上場とは何か

コインチェックがNASDAQへの上場に採用したSPACは、もはや珍しいものではなく、アメリカでは2021年の新規上場社数のうち約60%にあたる613社がSPAC上場を選択しています。

SPACとは、特別買収目的会社の名前の通り、自社で事業を営まずに事業会社の買収を目的とした会社です。事業会社が通常の新規上場ではなくSPACを選ぶ理由としては、より短期間かつ低コストで上場し、資金を調達できることが大きいといえます。

新規上場は証券取引委員会による非常に厳しい審査が長期間行われますが、SPAC上場は、SPACの運営会社(スポンサー)による検討・交渉が成立すれば上場できるため、期間とコストの短縮が可能です。

プロセスの流れとしては、まずSPACの運営会社(スポンサー)が出資をしてSPACを設立します。次にSPACを上場させ、投資家に株式とワラント(新株予約権)を割り当てます。ちなみに上場時点では一般的に買収対象の会社が決まっていないことが多く、SPACの株式を取得する株主はスポンサーやその経営陣の経歴などを信頼して投資を行うことになります。

次にSPACの買収可能期間内に事業会社の買収を行います。買収可能期間は2年以内と設定されることが多く、この期間内に買収ができなかった場合、スポンサーは調達した資金を投資家に償還しなくてはなりません。

無事に買収が成立した場合はSPACと事業会社が合併し、買収された事業会社が存続会社となり、上場会社となります。スポンサーとSPACに出資した投資家は事業会社の株主となります。

ちなみに、日本においては上場会社が実質的存続性を喪失する不適当合併等が上場廃止審査の対象となっているため、SPAC上場は現状認められていません。


ここまで、コインチェックのこれまでの歴史、SPAC上場の仕組みについて説明しました。

記事の後半では、コインチェックのSPAC上場スキーム、4年間で大きく成長した背景を詳しく説明しています。

この記事は、ブロックチェーン・暗号資産に関心のある方、SPACに関心のある方、コインチェックに関心のある方に最適な内容になっています。

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・Q:国内No.1の暗号資産取引サービスを手がけるコインチェックが米NASDAQ上場へ。マネックス買収時から企業価値は何倍になった?の答え
・今回の合併スキームとコインチェックの評価額の算出方法
・暗号資産の市場規模
・コインチェックの市場での立ち位置
・今後の成長性 暗号資産を軸に事業を多角化
・マネックスはいかにして、コインチェックの企業価値を上げたのか
・まとめ

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