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民主主義を「ハック」したトランプ大統領候補が逆にハックされている件

(表紙画像: http://www.forbes.com/sites/willburns/2016/05/06/new-hillary-ad-decimates-trump-or-does-it/#4f620c6e68b1)

アメリカの大統領選挙がいよいよ佳境です。

左が民主党のヒラリー・クリントン候補、右が共和党のドナルド・トランプ候補です。

今回の大統領選挙は「史上最低」と呼ばれるほど、しょっぱい選挙になっていると言われており、どちらをより選びたくないかという「ババ引き」のような選挙とも言われています。

実際に大統領候補の討論会というのが3回ありました。アメリカの大統領選挙の討論会は、テレビで生放送され、視聴率も凄まじく高いのですが、そこでの討論の内容も、「将来この国をどうしたいか」という内容を期待したいところですが、

トランプ: 「お前のかーちゃんデベソ!」(国務長官時代のメール問題どうなってんの?)
ヒラリー:「あんたのかーちゃんの方がデベソよ!」(これまで税金ちゃんと払ってたの?)

と子供の喧嘩のような言い合いばかりが起こっており、一人の親としてあまり子供に見せたい内容ではない、というのが正直なところです。

今回の大統領選挙がこんなにも「泥仕合」になってしまったのは、トランプ候補の選挙の戦い方による部分が大きいと思っています。

多くのアメリカ人が「トランプは大統領の資質がそもそもないレベル」と断言する中、彼がここまで躍進できてしているには理由がある気がします。

そして、その「理由」はイギリスのEU脱退や、二重国籍問題を抱える人物が最大野党の党首就任とも非常に共通する部分が多いと思っており、まさに現代の民主主義をハックするとしたらこれしかない!とも思える方法だったので、少し個人的な考えを書いてみたいと思います。

別の言い方をすれば、トランプ候補がアメリカ大統領に相応しいかどうかは置いておいて、彼は「類まれなるハッカーの資質」を持っていると思います。今ある仕組みを正確に理解して、その穴をついて自分がのし上がる、という点において。


トランプはこうして民主主義をハックした!

トランプ候補は、

「ISISによるテロの脅威を防ぐため、イスラム系はアメリカに入国できないようにする」
「アメリカの経済が弱体化しすぎている。日本車への関税を2.5% => 38%へ」
「不法移民があまりにも多いので、メキシコとの国境に壁を作る」
「日本は国防費を全く負担していないので、日本にもっと国防費を負担させる」
「自分が大統領になったら、ヒラリーのメール問題を追求して牢屋に入れてやる!」

などなど、凄まじく過激な発言を繰り返しています。

普通に常識がある人であれば、彼が言っていることは、とんでもなく非常識なことだという話になるのですが、それでも約半数のアメリカ人は彼の方がヒラリー候補よりも大統領に相応しいと思っている、というのもまた事実です。

それはなぜなのでしょうか?

(あくまで私見ですが)それは、彼の指摘する「問題」はどれも正しいからです。別の言い方をすれば、「課題設定」が上手だということです。

彼の提案する「解決方法」には賛否両論ありますが、彼が「問題」だと指摘している点はどれも正しく、皆が納得できる「問題」を指摘しています。

例えば、こういうことです。

「ISISによるテロは脅威である」
「アメリカの経済は本来あるべきレベルで成長できていない」
「不法移民によって、アメリカ人の安全だけでなく就業機会も奪われている」
「アメリカの国防費は大きすぎ、財政赤字が続く中これ以上増やせない」
「国務長官(外務大臣)が公務でのやり取りを個人メールで行なうのは危険」

これらは全て彼が指摘している「問題」ですが、これらが問題でない、と言うアメリカ人はかなりマイノリティだと思います。

繰り返しますが、彼の提案する「解決策」には賛否両論あるかと思いますが、彼のこれらの「課題設定」はぐうの音も出ないほど正しいのです。


第一のハックが「正しすぎる課題設定」だとして、彼の第二のハックは「過激すぎる解決策」です。

タブーとも思われる領域にまで踏み込んで、ニュースに載りやすい、非常に短いキャッチフレーズで過激な解決策を述べます。

移民の国アメリカで、特定の宗教・民族を国から「追放」すると言うことがどれだけ政治的にNGなのか、ということは気にしません。笑

日本や中国からの輸入に対しての関税を上げることが、必ずしもアメリカの景気向上につながるとは限りません。笑

メキシコとの国境に壁を作るのに、一体いくらかかるのか、ということも計算もしません。笑

協力関係にある国家に、アメリカの国防費を負担しろ、ということがどれだけ大きな外交問題に発展するかどうかは言いません。笑

大統領候補(それも元ファーストレディ)を「牢屋にぶちこむ」と言う資格が自分にあるかどうかは考えません。笑

とにかく、ニュースで取り上げられやすい過激なことを言いまくります。


その結果、共和党の予備選挙で、他の候補がトランプのこれらの過激な発言を否定しようとすればするほど、トランプ候補が目立つ、という悪循環を産みました。

相手がトランプを叩けば叩くほど、トランプが目立ってしまう、という話です。

インターネットが普及して、多くの情報が瞬時に伝達できるようになったとは言え、人間の情報処理能力はそこまで上がっていないので、毎日ニュースで浴び続けると、それらが何となく正しそうな気になってしまう人が多数出て来るというのは、イギリスのEU脱退でもおなじみの現象です。

繰り返しますが、トランプ候補のハックとは、

「正しすぎる課題設定」
「過激すぎる解決策」

にあったと思っています。これをやり続けたことで、「誰よりもマスメディアで目立つ」ということに成功し、競争相手がどれだけ彼を叩こうとも、叩けば叩くほど自分が利するという状況を作り出したと言えるでしょう。


トランプはこうして逆ハックされている!

こうした一気に共和党候補まで上り詰めたトランプ候補ですが、ここまで来ると当然ながら、相手からの攻撃にもあいます。

一番問題になりそうだったのは、トランプ候補の納税履歴です。通常、大統領選挙候補者は、過去の確定申告の履歴を公開しますが、彼はずっと拒否してきました。

あまりにもずっと拒否し続けるので、遂にNew York Timesが彼の1995年の確定申告をリークしました。

トランプ候補は、1995年に$916m(916億円)もの巨額の損失を出しており、その損失を繰り延べることで、当時から今に至るまで、税金を1円も払っていないというリークです。

実際、この問題によるダメージはそこまでなかったように見えます。

ビジネスをしたことがある人であれば、利益を過去の損失で相殺し税金を払わずに済む、というのは当たり前だということが直感的に分かっているからでしょう。この「20年以上税金を払っていない」ということが何かズルをしたり、違法なことをしたわけではないのです。

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「納税問題」も大スキャンダルにならず、最後まで「泥仕合」が続くのか、と思われましたが、先週、より大きな問題が出ました。

トランプ候補の過去の「女性蔑視」問題です。

過去のTV出演の際のオフレコのテープがリークされ、そこであからさまに問題がある「女性蔑視」発言を繰り返していることが判明しました。

(内容はあまりにも醜いのでここでは書きません。)

そして、彼自身もそれを否定するどころか、

「オレくらいになるとモテモテだから、何でもできる」

というような発言を繰り返しました。そこまではいつものトランプ候補なのですが、更に大きい問題が起こりました。

複数(5人以上)の女性が「過去にトランプ候補にXXされた」と言って名乗り出始めたのです。(XXはキスだけでなく、レイプされたと主張する女性も)

トランプ候補は、それらの女性との関係を「全て作り話で嘘。証拠もある」と否定しています。

実際のところ、これらの女性が本当に彼からの性的被害にあったのかどうか分かりません。ただ、一つだけ言えるとすれば、

・恐らくこれらの(自称)女性被害者はこれからも多数出てくるであろう
・(裁判等で)事実確認をする前に選挙が終わってしまう

という点です。

彼くらい有名になると、もしかすると全く見ず知らずのキチガイが「私はあの人にレイプされました」と言われている可能性も否定出来ません。(日本でも有名芸能人が「私は以前キムタクの彼女でした」と言いがかりを付けられるという話を聞いたことがあります。)

彼くらいのビッグマウスで有名な人が「オレはモテモテだった」と自分で言う分にはダメージはなかったかもしれませんが、「レイプされた」という女性が複数出てくる、そしてそれを確認する時間もなく選挙になるとすると、政治家としては致命傷でしょう。


まとめ

あまりにも見事なハックだったので、おさらいです。トランプによる「民主主義ハック」とは、

「正しすぎる課題設定」
「過激すぎる解決策」

を繰り返すことで、相手陣営の攻撃をもPRの波に変えていくというものでした。

他方、これらのハックによって、有名になりすぎたがために、「逆ハック」を許すことにもなりました。その「逆ハック」とは

「有名になりすぎた自分への、不特定多数の一般人からの(モラル的に問題が大きい内容での)訴訟の連続」

です。

このまま行けば、壮大で見事だったトランプによる「民主主義ハック」は「逆ハック」されて、彼が大統領にはならずに終焉を迎えそうではありますが、まだ数週間は残っているので、最後にまたどんでん返しがあるかもしれません。

ちなみに、New York Timesの予想では、10月24日時点で、トランプ候補が勝つ確率は8%と非常に低くなっています。

とはいえ、特にホワイトカラーの間では、「トランプ支持」を公に言うことは、「Politically Incorrecet」とみなされる場合も多いらしく、トランプ支持を表立っては表明しない「隠れトランプ(共和党)支持」という人も多数いると言われており、これらの世論調査の結果が必ずしも結果に直結しないかもしれないとも言われています。

さて、どうなる大統領選挙!?


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