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Amazonのホールフーズ買収の狙いは464箇所もの一等地にある冷蔵庫付き「物流センター」

朝から凄いニュースが飛び込んで来ました。日経新聞から引用します。

米アマゾン・ドット・コムは16日、米高級スーパー、ホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5000億円)で買収すると発表した。

買収金額が非常に大きい上に、ネット企業ではなく、リアルの食料品スーパーが買収対象ということもあり、業界あげての大騒ぎになっています。

今回の$13.7Bという買収金額はアマゾンの歴代の買収と比べても非常に大きなものです。

今回の買収以前の最大の買収額はザッポスを買収した$1.2B(1200億円)でした。また2017年3月時点での amazon の現金相当の資産が$21.5Bとなっているので、実に所有する現金の半分以上を今回の買収で放出することにもなります。


念のために書いておくと、今回の買収は、買収対象であるホールフーズが上場企業であるため、厳密にはホールフーズ社の株主の承認を経て、米国の規制当局の承認を得るまでは確定しません。

また、アマゾンの提案している買収金額は、発表前日の株価に対して27パーセントのプレミアムがついていますが、可能性としてはこれよりも高い株価で買収を提案してくる会社があるかもしれません 。ただ現実的に考えると、Amazon以上にシナジーが見込める買い手はおそらくいないと考えられるため、そして、財務体質的にもAmazon よりも高い値段でビットができる企業はおそらくほぼいないと考えられますので、かなり高い確率でAmazonが買収することになるのではないでしょうか。

それでは以下で詳しく今回の買収の背景と狙いを考察してみたいと思います。


高級食料品スーパー「ホールフーズ」とは?

ホールフーズとはアメリカにある食料品スーパーのチェーンで主にオーガニック素材など高級食材を扱っている店舗を全米で464店舗有しています。日本で言うところの「成城石井」のようなイメージを持っていただくと良いのではないかと思います。

直近の2017年1月から3月の決算を簡単に見てみたいと思います。

四半期当たりのグロス売上$3.7B(3700億円)、ネット売上=粗利が$1.2B(1200億円)、EBITDAが$316m(316億円)、 営業活動からのキャッシュフローが$340m(340億円)という決算になっています。

一方で2012年からの売上の推移を見ると、近年明らかに伸び悩んでいることがよくわかると思います。

つまり、オーガニック食材を中心とした高級スーパーとしてのブランドは非常に強いと言われながらも、一方で成長が止まってきてしまっている、というのがホールフーズの現状だと言えるでしょう。

今回の買収を語る上で花咲くことができないのは、アクティビストの存在です。Jana Partners LLCと呼ばれる株主がマーケットでホールフーズの株を買い占めてホールフーズの経営陣に対して経営改善を要求してきたことは有名な話です。

今回のアマゾンの買収は、実は昨年にも一度噂が出たことがありましたがその際は破断になってしまっていました。ところが今回こうした「物言う株主」の存在もあり、買収が成立したというわけです。

このアクティビストは今回の一連のホールフーズのへの投資で$400m(400億円)稼ぐことになると言われています。


EC業界共通の悩み = 購買頻度

さて今度は買収する側であるアマゾンの立場から少し詳しく見てみましょう。

アマゾンのEC事業はこれまでも順調に成長しておりアメリカの中心プレイヤーであることは間違いありません。一方で、更なる成長を求めようとすると、ユーザーとの接触頻度を上げて購買頻度を上げていく必要がありました。

アマゾンの過去の購買頻度を上げるための施策は、日用品ECに投資する事でした。日用品EC への投資というのは、例えばシャンプー・水・子供用おむつ・トイレットペーパー、といった定番商品を何度もリピートして買ってもらうことで、ユーザーとの接触頻度が上がり、結果として取扱高(売上)が増えていくという戦略です。

ところが昨年、驚くべきことにAmazonは日用品 ECの直販ビジネスから撤退することを表明しました。詳しくは下記をご覧ください。


いくら接触頻度が上がるからといって、物流倉庫から重たくて大きいオムツやトイレットペーパーといったものを、何度も配送するコストがカバーできなかったというのは想像に難くありません。 


最も購買頻度が高い買物 = 食料品

皆さんが買い物をする中で最も購買頻度が高いジャンルは何でしょうか?

アマゾンの最初のビジネスである書籍、電化製品、トイレットペーパーなどの日用品と比べても圧倒的に購買頻度が高いのは、食料品であるという人は多数いると思います。

ところが、食料品はこれまでECと非常に相性が悪いと言われてきました。理由は簡単で、食料品は鮮度が重要であるため、長い時間物流センターに在庫を保存したり、数日かけて配送するといったことが不可能だからです。

そこで近年登場したのがインスタカートなどの食料品デリバリーのサービスです。Amazon もアマゾン・フレッシュ、アマゾン・プライム・ナウといったサービスを提供していますが、これらのサービスはユーザーがオンラインで食料品などを注文すると、第三者がスーパーに行って代わりに買い物をして、家まで届けてくれるというシンプルなサービスです。

これらのサービスは非常に便利で、我が家でも相当頻繁に利用していますが、最大の難点は代わりに買い物に行ってくれる第三者が注文した商品を見つけられなかったり、あるいはお店でその商品が在庫切れになっていたりというケースが、無視できない頻度で発生することです。

従って Amazon から見ると、日用品ECでは、物流配送コストをカバーできず、デリバリーサービスでは十分な顧客体験を提供することができないということが、十分理解できているいたと考えられます。

つまり、購買頻度をあげるために、日用品ECや食料品を扱いたいのはやまやまだが、書籍や電化製品といった長期間、物流倉庫で保存でき、かつ、配送料を負担してもマージンが十分取れる商品以外を、Eコマースで提供しようとすると、この「ラストワンマイル問題」が非常に大きくのしかかってくるわけです。


購買頻度をあげるためのAmazonの答え

今回のホールフーズの買収はこの「ラストワンマイル問題」に対するアマゾンの答えだとも言えるでしょう。

Amazonの答えとは、

・最も購買頻度の高い食料品を扱う
・顧客のすぐ近くに物流センターを構える

です。

ホールフーズを食料品スーパーとしてではなく、「一等地にある冷蔵庫付き物流センター」だと思ってみてください。

ホールフーズはこの地図にあるように人口が多い地域を中心に多くの店舗を有しています。

少し見にくいですが、Amazonの物流センターと重ね合わせてくるとアマゾンの物流センターは近くにない場所であってもホールフーズの店舗は多数存在することになります。

ホールフーズの店舗は、(スーパーなので)当たり前ですが、顧客が買い物に来れる便利な場所にあります。そして、実際に行ったことがある方はわかると思いますが、非常に巨大な店舗が多く、生鮮食品を扱うための設備とオペレーションが既にあるわけです。

これこそが、まさにAmazonが購買頻度を上げるために最も必要だった資産であり、これらをゼロから自分たちで作り上げるよりも、買収してしまった方が時間を稼げるという判断を出したのだと思います。

例えば、近い将来、こんなことが起こることが十分考えられるでしょう。

・Amazonで注文した商品を近くのホールフーズで買物する際にピックアップする
・食料品をオンラインで注文して、会社帰りにピックアップする
・ホールフーズの食料品をデリバリー注文すると、アマゾンで注文した商品も一緒に届く
・「1時間以内にお届け」の対象商品が増える

そう遠くない将来には、こんなことも出来るようになるかもしれません。

・ホールフーズが無人店舗に(近く)なる
・ホールフーズからドローンで配達がされる
・ホールフーズから無人トラックで宅配がなされる


なぜ(他の小売ではなく)ホールフーズを買収したのか?

最後に、本日の買収発表を受けてからホールフーズとアマゾンの株価は、大きく上昇していますが、他の小売やスーパーの株価は大きく暴落しました。

なぜ他の小売ではなく、ホールフーズを買収したのかという点には、いろいろな考え方があると思いますが、

・ホールフーズブランドは弱っているとはいえ未だに高級ブランドとして確立されている
・ホールフーズの粗利益率は他の小売に比べて十分高く、赤字体質になりにくい
・時価総額$13B(1.3兆円)と比較的手が届きやすかった
・ホールフーズのユーザー層は比較的、高収入・高学歴・新しいもの好きで、Amazonプライムのユーザーと重なりが大きい

などが考えられると思います。

今後もアマゾンがどのように小売業界を変えていくのか注目していきたいと思います。


表紙画像: http://thelibertarianrepublic.com/amazon-grocery-stores/


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